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5 謎の動物

倒れてから二日が経った。

今は、とても元気だというのに、ルーカスやジュリアン、ライリーが過保護すぎて、三日間は休めと言われた。

一日、ベッドの上で過ごすとか退屈すぎて死んでしまいそう……。

本を読んでも、子ども用の本なのか簡単すぎて読んだ気がしない。


それに、手伝いが終わったら必ずのように私の部屋に来るライリーとジュリアンは、騒がしすぎて耳が壊れそうです。

肝心のルーカスは、薬を飲ませたあと、一分間だけ両肘を自分の太ももに置き、両手を顎に置いて見つめ続けるという謎の行動をする。

おそらく、監視をしているから逃げても無駄だという警告でしょう。


それにしても、この孤児院は結構なお金が使われていると思うほどに綺麗で、高そうな物ばかりが置かれていた。

貴族たちが哀れだと思ってくれたのだとしたら、納得がいくけど、孤児院なのにこれほど豪勢でいいのだろうか。

やっぱり、この孤児院は怪しい。


そんなことを考えている余裕があるほど、暇すぎる。

移動したいけれど、体が重くて足を動かす気力もない。

そういえば、この世界に来てから二ヶ月くらい経ったけれど、小説とかでは「適当にやったら偶然魔法が使えちゃった」とかいう展開になるのなら、私でもできるのではないでしょうか。

よし、試してみよう。


試すのはいいけれど、どうやったらいいの?




●●●




「……誰?」


今、私の目の前には羽の生えたトカゲのような、ドラゴンにしか見えない動物が私の膝の上に乗っている。

鱗と羽が灰色で、瞳は赤い色をしていた。


私を見て、瞳を輝かせて、嬉しそうに飛び回っている。

どうしよう、可愛すぎて鼻血出そう。


「あなた、どこから来たのです?」

『キュイ!』


うん、尋ねても言葉が話せないことは分かってた。

それにしても、このドラゴンのおチビちゃんをどうしたらいいの? ルーカスたちに見られたりでもしたら、魔物だと思って殺しにかかるかもしれない。

でも、このおチビちゃんのおかげで孤児院から追い出されるのなら、これは好機なのでは?


私は思わず、笑みがこぼれる。

それと同時に、扉が勢いよく開けられ、そこにはジュリアンが切ったであろうリンゴが丁寧にお皿に置かれていた。


「ライラ! リンゴを切ったから食べよ……え?」


さあ、魔物だと思って殺しにかかるのか、それとも可愛すぎて鼻血が出てしまうのか、どっちなの? ジュリアン。


落ちかけたリンゴが乗った皿を慌てて受け止め、ジュリアンは慌てて扉を閉めた。

そして、息を吸った後、おチビちゃんを凝視して瞳を輝かせた。

うん、彼なら殺すはずもない。


「か、可愛いすぎ! ライラ、この動物はなんなの!?」

「……さあ? 勝手に入ってきました」

「そこの君……リンゴ食べる?」


ジュリアンがおそるおそるリンゴを差し出すと、おチビちゃんは嬉しそうに器用に手で食べ始めた。

可愛いんですが。

まあ、勝手に入ってきたというのは嘘で、試しに魔法が使えるのかを試していたら、いきなり現れたのです。

それは本当にいきなりで、何が起こったのか未だに理解できていない。


「うわあ……可愛すぎる。可愛いものが孤児院に二つもあったら……僕無理だよ……」


なにやら、ジュリアンがぶつぶつと何かを言っているようだが、私はこっそりとジュリアンが持つお皿からリンゴを一つ手に取って食べる。

おチビちゃんは、空を飛びながらリンゴを何個か持って私の膝の上で丁寧に食べ始めた。

はあ、可愛い。


すると、一人でぶつぶつと言っていたジュリアンが「ライラ!」と声を上げ、目を輝かせて私を見た。


「な、なんですか?」

「これ、僕たちだけの秘密にしよう!」

「え?」

「だ、だって。こんなの皆に見られたら、泣いて怖がってしまうかもしれないだろ? それに、ルーカスおじさんとライリーに見られたりでもしたら、危ないでしょ?」


確かにあの二人に見られたら、このおチビちゃんがどうなるか分からない。

けれど、このおチビちゃんを使えば私はこの孤児院から抜け出せる……。

でも、このジュリアンの嬉しそうな目は胸が痛くなる。

どうしたらいいの。


「それに……ライラがこっそり飼ってるって思われて追い出されちゃうかもしれないだろ……」


それが目的なんですけどね。

仕方がない、ジュリアンが可哀想に思えてきたからあの作戦はやめておこう。


「……分かりました。二人だけの秘密ということで」

「……! うん! 秘密だ」


そうして、このおチビちゃんは二人だけの秘密となった。

そして、名前を付けることになった。


「うーん、キュイだとありがちな名前だよね」

「空耳としてキュウリと勘違いする人もいそうです」

「いや、そんなことある……?」

「ライリーとか」

「うわ……絶対ありそう」


すると、またもや扉が盛大に開かれた。


「聞き捨てならないな? ジュリアン」


そこには、仁王立ちをしたライリーがおチビちゃんをちらりと見ては、ジュリアンを睨みつけた。

一応、私も馬鹿にしたのですがね。


「な、なんで勝手に入ってくるんだよ!」


残念ですね、ジュリアン。

私たちだけの秘密にはならなくなってしまったということです。


「なんでとはなんだ! 私が愛しのライラの部屋に入ろうが勝手だろう?」

「ほんと、最悪……」


ジュリアンは本当に残念そうに俯いていた。

すると、おチビちゃんはライリーの顔に向かって突撃した。

そしてライリーの顔に引っ付いた。


「んぐっ!」

「よくやった! そのまま引っ付いておいて!」


いや、本当にライリーが窒息して死んでしまいますよ、ジュリアン。

ライリーは、おチビちゃんを掴んで無理やり引き離した。


「ぷはっ! 全く、なんなんだ、この小動物は!」

「僕たちの家族だけど?」


そう言いながら、ジュリアンは私を見る。

いや、こっちを見ないでもらえます? そもそも、いつの間に家族になったのよ。


「か、家族だと!? だったら私も家族にさせろ!」

「はあ? ライリーはいらないんだけど!」

「いらないとはなんだ! いらないとは! そもそも、孤児院にいる時点で皆家族だぞ。だから、チビも孤児院の家族だ」


もうなんだっていいよ。

そもそも、どうしてライリーはこんな平然としているの? でも、ライリーは雷すら怖がらず、むしろ面白がってるから不思議ではないか。


「それで、名前はどうするのですか?」

「あっそうだった。ライリー、僕たちの間に入ったのなら責任持って名前考えてよね」

「ふむ、そうだな。なら、『ラジュリー』はどうだ?」

「ラジュリー? 意味はなんなの?」

「意味は特にないが、私たちの名前から取ったのだ。ライラの『ラ』とジュリアンの『ジュ』。そして、私の『リー』からな」


もし、おチビちゃんがオスでもメスであったとしてもどちらにも違和感なさそうな名前です。

おチビちゃんも喜んでいるのか、嬉しそうに飛び回っているし。

それに、あのジュリアンですら文句を言わないのだからおチビちゃんの名前はこれで決定ということでしょう。



とりあえず、名前は『ラジュリー』となりました。

逃げ出すこともできず、暇な日常が嫌なくらい騒がしくなりそうな予感がした。

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