16 警戒心マックス
「ちょっとライリー! そんなずかずかと行くなよ!」
当主を倒す作戦はあっけなく崩れ、私たちは隠れながら当主を探すことになった。
おチビちゃんはジュリアンの首にかけられたペンダントになり、いざというときにジュリアンとライリーを守る役目を担うことになった。
私? 私は闇魔法があるから、誰かに守ってもらう必要はありません。
とにかく、今は当主を見つけて監視することに集中しないと。
そう思っていた矢先、一人の小さな男の子が指を口にくわえながら、身をかがめる私たちをじっと見つめていた。
こ、これはまずい。
私は咄嗟に人差し指を口に当て、静かにするよう合図を送る。
けれど、男の子は理解していないのか、ただ首を傾げた。
困りましたね。
気が付けば、ジュリアンとライリーは先に進んでしまっていた。
どうしようかと焦る私に、男の子は突然「おウマさん!」と嬉しそうに叫びながら、私の背中に飛び乗ってきた。
「……こ、こら!」
思わず声を上げるが、男の子は無邪気に笑うばかり。
私の様子に気が付いたジュリアンが振り返ろうとしたが、私は急いで首を横に振る。
ジュリアンは少し躊躇ったものの、「ごめん」と口の動きだけで伝え、そのまま進んでいった。
これだと、足手まといになりそうですし、仕方がないからこの子の遊び相手となってあげましょう。
「おや、お嬢ちゃんじゃないか。面倒見がいいのは感心だな」
「……!」
突如、階段の影で隠れるように馬乗りになっている私の背後から聞こえてきた声に、私は驚いて振り返った。
そこには当主と、その隣で口を開けたまま私を見下ろすルーカスの姿があった。
どうして私だけいつもこうなるのですか。
私は男の子を抱きかかえ、慌てて立ち上がる。
それを見た当主は、深く溜息をついた。
「はあ……そんなに俺を警戒しないでくれ。俺はただ、子どもを引き取りに来ただけなんだ」
「だったら、他を当たってください」
「そう言われてもなあ」
今ここで言い争いをして、男の子に聞かれてしまったら、彼の成長に悪影響を及ぼしてしまう。
私は男の子を抱いたまま後ずさろうとした。
そのとき、後ろから勢いよく走ってくる足音が聞こえてくる。
男の子が楽しそうに笑いながら私の服を掴み、後ろを見てと言いたげに引っ張った。
今度は何があるというの。
仕方なく振り向くと、猛スピードで駆けてくるライリーとジュリアンの姿が目に入った。
「ライラ! 大丈夫か!?」
……そんな怖い顔で走られると、男の子が怖がってしまうのだけど、今は助かりました。
ライリーとジュリアンは、私を隠すように当主の前に立つ。
「はあはあ……公爵様。僕たちを引き取るなら、僕たちに勝てたらにしてください」
ん? ジュリアン何を言っているのです。
「ほう?」
「父上、私たちを止めないでください。これは、私たちの人生がかかっているんです!」
いや、あの、戦うのは敵わないってさっき分かったはずですよね? 私がいない間に、何があったのですか? 格好つけなくても大丈夫ですよ。
「二人とも、何を――」
私が言いかけた瞬間、ジュリアンは私の口を塞ぎ、無理やり引きずった。
「んんっ!?」
「ライラ、しばらく部屋にいて。ロシェル、頼んだよ」
「……っ!」
ジュリアンは、私の口を塞いだまま、ペンダントを私の首にかけた。
そして階段を駆け上がると、私を無理やり部屋に押し込んだ。
「……ジュリアン! これはどういうことですか!」
扉を開けようとするが、何かが引っかかっているのか、びくともしない。
全く、今度はなんなのよ。
『ライラ様、怒らないでやってくれ』
ふと見ると、ベッドの上に座るおチビちゃんが、いつの間にか小さなドラゴンの姿となり隣をぽんぽんと叩いている。
仕方なく隣に座ると、おチビちゃんは静かに口を開いた。
『ライラ様とはぐれた後、ジュリアン殿と一緒に策を練ったんだ』
「策を?」
『うん。その策が孤児院の子ども全員とかくれんぼをして、三十分以内に全員を見つけられたら勝ちということにしたんだ』
「……なんですか、それ」
『まあまあ。それで、負けたらあの男は大人しく帰る、ということになった』
……意味が分かりません。
確かに、あの当主に引き取られるのは嫌ですけど。
さすがに、幼稚すぎません? いったい誰が考えたのよ。
「誰の案ですか?」
『……本当は反対したんだが、その……ライリー殿だ』
おチビちゃんは翼を広げたり閉じたりしながら、視線を逸らした。
ライリーなら……おかしくはないか、と一瞬でも思った自分を呪いたい。
でも、孤児院の皆が関わるなら、どうして私だけのけ者にされるのかしら。
私はそんなに足手まといですか?
落ち込んでいると思ったのか、おチビちゃんは小さな手でそっと私の肩に触れた。
『安心してくれ。決してライラ様が邪魔だからというわけではなく、ライラ様の体を案じた結果でこうなったんだ』
「案じる?」
『ほら、ライラ様は最近体調を崩すことが多いだろう?
闇属性の影響もあるが、また倒れたりでもしたら大変だ』
……。
そう、そうね。
私がまた倒れたら、当主に知られてしまうかもしれない。
最悪、闇属性をかくまっていたことが世界に広まれば、孤児院だけでなく、ジュリアンやライリー、ルーカスまで巻き込まれる。
ここは大人しくしておきましょう。
そういえば、一つ気になることがある。
私が体調を崩していた時、おチビちゃんは私の体から何かを吸収して、軽くしてくれていましたよね。
おチビちゃんが魔族であることは知っているけれど、本当に不思議な存在です。
「私の体調を案じてくれるのは嬉しいですけど、おチビちゃん、聞きたいことがあるんですが聞いても?」
『もちろんだ』
「私が体調を崩していた時に、私の体を軽くしてくれましたよね。その時、おチビちゃんの体の中に吸い込まれた光はなんだったんですか?」
『ああ、あれか? ルーカスの魔力を吸い取ったんだ』
「ルーカスの?」
『あいつは光属性だろ? その光がライラ様の体に悪影響を与えていたから、吸い取ってあげたんだ』
「なるほど……」
だから、ルーカスは以前ほど光魔法を使って私を捕まえようとしなくなったのね。
けれど、あのルーカスなら最初から私が闇属性だと知っていたのではないかしら?
だって、あのルーカスですよ。
「なんでもお見通しだぞ」とでも言いたげな、あの微笑みはいつ見ても身震いがする。
『とにかく、かくれんぼが終わるまでライラ様は休んでいてくれ!』
「休みすぎな気がするのだけど」
『まあまあ!』
おチビちゃんは、私を無理やりベッドに寝かせ、布団を被せた。
どうしよう、運動不足になりそう。
私だって、かくれんぼくらいはしたいですけど。
……やったことないですが。
「私も、かくれんぼしちゃいけませんか?」
『だーめ』
魔族は皆、耳元で囁くものなの? ちょっとくすぐったいんですけど。
はあ……かくれんぼに参加できないのなら、おチビちゃんで遊びましょう。
ぬいぐるみみたいにふわふわしていて、抱き心地も最高。
飾っておきたいくらいね。




