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第五十四話 因縁の敵

第五十四話 因縁の敵





『ざびじい゛』


 夕方。『白蓮』を大山さんの所に置いて帰ってきて、すぐの頃。


 何やらアイラさんから念話がかかってきたので、出てみたら開口一番にコレである。


「……どうしたんですか」


『酷いじゃないか京ちゃん君。君もエリナ君も、2人して最近はアーちゃんだのシーちゃんだの。私と学校の友達、どちらが大事なんだい!?』


「なんですかその面倒くさい彼女みたいな台詞」


『実はちょっと言ってみたかった』


「そっすか。じゃ」


『まあまあまあ!』


 イヤリングを外そうとした所で、アイラさんが言葉を続ける。


『実際、私とお喋りする時間が減っていないかい?京ちゃん君もエリナ君も、私という存在を忘れてはいないかい?』


「忘れてはいませんよ。というか、この前だってダンジョン探索の時にナビしてもらっていましたし」


『ちー、ちー、ちー!』


「すみません今指を横に動かすやつやろうとしました?」


 だとしたら下手すぎない?舌の筋肉なくなったん?


『やれやれ。君は本当に残念な奴だ。今世紀の残念な生物ナンバーワン決定戦全国大会出場レベルだよ』


「あってたまるかそんな大会」


『いいかね。よぉく聞くんだ』


 ふと、念話越しにアイラさんがドヤ顔をしている気がした。



『私はぁ!年下にマウントを取りながら酒飲んでゲームをしたいんだよ!!』


「おめでとうございます。全国大会優勝は貴女です」



 カスみてぇな理由だった。


「まあいいですよ。じゃあ今夜、何かオンラインゲームしましょう」


『ありがとう京ちゃん君……エリナ君と違って、君は優しいね……!』


「……?エリナさんは断ったんですか?」


 珍しい。あの人なら二つ返事で受けそうなものだが。


『いや。今シーちゃんとやらと電話中だから、まだ話しかけられていないだけだ。女子高生の会話に混ざってみろ。私は次の瞬間灰になるぞ』


「残念な生き物……」


 なんで物理的にだけじゃなくメンタルまで紙装甲なんだ、この人。



*    *     *



 翌日。


「パイセンがぁ!最近寂しいと聞きましてぇ!やって来ました『覚醒者訓練場』!」


「どうして……?」


 ジャージ姿な美女2人。だがその表情は対照的である。


 片や元気溌剌。片や『砂漠でオアシスを見つけたと思ったら幻覚だった人』みたいな顔。


「おかしい。私はエリナ君から『美味しい紅茶を飲みに行こう』と言われて来たのに……」


「予防接種に連れてこられた幼児みたいな騙され方ですね」


「運動をした後の方がお茶会も美味しいよ、パイセン!!」


 腰に手を当てながら、ドヤ顔で告げるエリナさん。


 お手本の様なスポーツ大好き人間の台詞だ。自分達の様なインドア派な人間には理解できん。


「それに、この前私達の修行に参加するってパイセン言ってたじゃないっすか」


「いや、それは画面越しにだね。こう、知的でクールな感じに助言する立場でいたいのだよ、私は」


「昨日の夜酒飲んでゲラ笑いしながら、格ゲーで人を空中コンボでハメてましたよね?クールとかもう無理ですよ、絶対」


「ギャップ萌え、だね!」


「そういう所だけ頑丈だな。心が」


「え、なにそれ聞いてない。私をハブにしたのか!?パイセン!京ちゃん!」


「ふん!エリナ君がシーちゃんとやらにうつつを抜かすのが悪いんだからね!勘違いしないでよね!」


「めんどっ」


「そんなパイセン、もしかして……シーちゃんと仲良くなりたかったんすか!?」


「違う、そうじゃない」


「任せてくださいパイセン!今度アーちゃんとシーちゃん家に呼ぶっすから!一緒に遊びましょう!!」


「凄い。人ってこんな絶望した顔できるんだ」


 まあ死んだ目をして絶望するアイラさんは放置で良いとして、リュックから100均でまとめ買いしたフリスビーを取り出していく。


「エリナさん、最初は僕の特訓に付き合ってもらう……で、いいの?」


「応っ!まずは京ちゃんの風遁の練度を上げるんだよね!!」


「風遁じゃないが」


「なん……だと……!?」


「取りあえず、エリナさんはこれお願い」


「任された!!」


 フリスビーを渡した所で、アイラさんがいつの間に持ち込んだのかシートを隅の方に敷く。


 あんた他に利用者がいないからって自由過ぎんだろ。


「じゃ、私はここでアドバイザーとなろう。頑張ってくれたまえ」


「何いってんすかパイセン」


「ひょ?」


「パイセンはそこのエアロバイクで体力づくりっす!!」


「な、なんだってー!?」


「そこまで驚く?」


「エリナ君……私に死ねと、そう言いたいのか!?」


「どう解釈したらそうなるんですか?」


「パイセン……死の淵でこそ、成長は見込めるんす!」


「マジなの?」


「今日は軽い負荷に設定して10……いや5分ぐらいやってみて、様子を見ましょう!!」


「めっちゃ軽い」


「これは……死ぬな……!」


「逆によくこれまで生きてこられましたね」


「我が前に立ち塞がるか……エアロバイク!シャァッー!!」


 貧弱残念女子大生が少し古めのエアロバイクを前にして謎の威嚇をしているのを横目に、床を爪先で蹴って体育館シューズの具合を確かめる。


 そして、天井を見上げた。


 訓練場として貸し出されているこの体育館は、町の人口に反してやたらでかい。噂に聞く箱物事業の一環なのか、それとも自分が知らないだけでこの広さが必要なスポーツを建設時に想定していたのか。


 何にせよ、大きい事は良い事だ。ここでなら、『アレ』の練習が出来る。


 軽く屈伸などを行い、エリナさんを見た。


「よろしくお願いいたします」


「オッケー!じゃんじゃん行くからね!!」


 フリスビー二刀流なんて、変な構え方をしているが、彼女の腕は信用している。


 深呼吸を1回。基礎はもう出来ているが、自分が求めているのはその先。


 ダンジョンでは使う事が少ないだろうし、この先も必要にならないのが一番の技術だが……備えは、安心感をくれる。



 特訓を、開始した。



 ───なお、この後調子こいたアイラさんが、


『これが覚醒者になった私の力……!いける、いけるぞ!』


 などと抜かし勝手に負荷を上げて自滅していたのだが、それはまた別のお話。


 ついでに、運動する巨乳美女2人に自分が悶々としたのも、別の話である。



*     *     *



 そんな事があった、翌日。体育祭まであと1週間もない頃。


 自分達は、とあるダンジョンにやって来ていた。


 初めてくる場所ではある。しかし、()()()()()()()()でもあった。


『2人とも、準備はいいかね』


「はい」


「モチのロンだよ!」


 ゲート室にて、最後の確認を済ませる。


『魔装』、よし。荷物、よし。コンディション、よし。


 エリナさんと頷き合い、肩に手を置いてもらった後白い扉へと踏み込む。


 足元が消えた様な感覚から、石の床の感触に。降り立った場所を、壁に飾られた松明が照らす。


 ダンジョンの内装としてはポピュラーとさえ言える、石造りの床と壁。しかし、松明が飾られているのは珍しいと言える。


 自衛隊の照明は設営しようとしてもモンスターに破壊され、代わりに怪物達がわざわざ松明を管理しているのだとか。


 奴らに暗視の能力がない故だろうが、光源があるのはありがたい。念のため腰のランタンのスイッチは入れておくが。


「エリナさん、警戒をお願い」


「うん。今回は私が索敵するからね!」


 彼女に一声かけた後、リュックからヤカンに似た容器を取り出す。


『白蓮』は現在、大山さんの工房に置きっぱなしだ。何より本体……『ホムンクルスもどき』は専用ボディの方に入っている。


 これは予備機。アイラさんや毒島さん達に渡したのとは別に、作っておいた物だ。


 錬成陣を書いた紙と共に床へ置き、錬成。もはや見慣れた、ずんぐりむっくりのゴーレムボディを形成する。


 ビー玉で作った瞳に今回のダンジョンで出てくるモンスターの写真を見せ、指示を出していると。


「ねえ、京ちゃん」


「はい?」


 振り返れば、エリナさんがゴーレムの頭部を下から覗き込んでいた。


「その子の名前は?びゃっちゃんとは違う子だよね」


「あー……」


 識別名か。たしかに、あった方が良いだろう。


「じゃあ2号で」


(ざつ)いよ京ちゃん!?愛はないの!?」


「壁兼囮役に、愛なんて持っちゃダメでしょ。いざという時に支障が出る」


「でもさー。流石に2号はないよ2号は」


「……なら、『ホワイト』で」


 白蓮の2号だから、一文字とって白。それを単に英語読みしただけ。


 例にもれず『ホムンクルスもどき』は白い靄みたいな見た目なので、別に不適格な名づけでもあるまい。外側からだと、フラスコの中身は見えないだろうけど。


「じゃあホーちゃんね!よろしくホーちゃん!」


 元気に挨拶するエリナさんだが、当然ゴーレムは答えない。


 小さく肩をすくめながら、石で出来たゴーレムボディの背に自分のリュックを預ける。続いて、ペンライトと手鏡を取り付けた。


「はいはい。アイラさん、準備が完了しました。探索を開始します」


『うむ。……2人とも、くれぐれも冷静にな。実力的に今更苦戦するダンジョンではないと思うが、精神面は別だろう。心してかかってくれ』


「はい」


「大丈夫だよ、パイセン。心配しないで」


 硬い声が出てしまう自分とは裏腹に、エリナさんの口調は軽い。いつも通りと言える。


 ……被害的には、この人が一番気にしそうな相手なのだが。


 なんにせよ、いつも通りならば文句を言う事もない。剣を抜き、ホワイトと共に前列へ。


「行こう」


「うん!」


 松明の揺れる炎に照らされ、ゆっくりとダンジョンを進んで行く。


 油の臭い、だろうか。そんな臭いが、このダンジョンには充満している。


 トラックが1台通れるほどの通路を歩いていけば、自衛隊のペイントを発見。松明と松明の間に、黄色でアルファベットと数字が書かれている。


 ここのダンジョンは『モンスターが自衛隊の残した物を全て壊してしまう』のだが、このペイントだけは見逃されていた。


「アイラさん。現在『G-26』です。ナビゲートをお願いします」


『わかった。……そうだな。では、そのまま直進して1つめの十字路を右に曲がってくれ。そこから暫くは真っすぐだ』


「了解」


 そうして歩きだして、すぐの事だった。


「京ちゃん、足音がする。数は3」


「っ……」


 エリナさんの警告に足を止め、剣を握る手に力を籠める。


「正面の十字路、左側から来るよ」


 古い砦の様な内部に、自分達以外の足音が聞こえ始めた。


 べたり、べたりという、素足の音。しかしその音は重く、歩いている者の質量を感じさせた。


 武骨な太い指が石壁の角にかけられ、ぬぅ、と。巨体が姿を現す。


 薄っすらと赤く光る瞳。ヒクヒクと動く豚の鼻。灰色の皮膚に、腰布1つの装い。左手には刃こぼれだらけの斧を持っている。



『ブォッ、ブォオオオ!!』



 こちらを認識した怪物───『オーク』が、雄叫びをあげた。





読んでいただきありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。創作の原動力となっていますので、どうか今後ともよろしくお願いいたします。


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か弱くて図太い・・・まるでクロダイの様な多面性のある生態だ。 >なんで物理的にだけじゃなくメンタルまで紙装甲なんだ、この人。 せめて軽量だったなら、ローリング距離が長くなったり引き撃ちができたりと恩…
特訓と見せかけてフリスビー投げてエリナがたゆんするのをみると? 京太君も策士だな…
パイセンのクソ雑魚ナメクジさよ、、、
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