第四十七話 風変わりなダンジョン
第四十七話 風変わりなダンジョン
毒島さん達のレベル上げが完了した日の夜。
『いやぁ。まさかこんなに早くレベル上げが終わるとはねぇ』
今日も今日とて3人でゲームをしながら、念話で適当にだべっていた。
ちなみにゲームは『松尾海戦☆イカタコ乱舞』である。なんかまたアイラさんが『ウニタンク』出して敵に蜂の巣にされていた。
「アイラさん的にも早かったんですね」
『誰が見てもそう思うだろうさ。冒険者が増加して色んなクランが新規を囲い込んでレベル上げを手伝っているだろうが、今回の様なハイペースは普通ないぞ?』
「そうなんですか……」
『うおおおお!突撃じゃああああああ!あっ』
画面ではエリナさんが自分から穴に落ちていく中、少しだけ不思議に思う。
今回やったレベル上げの方法は非常にシンプルだ。他の人も思いついて然るべきだろうに、何故そんな異端みたいに?
『その反応、さてはいまいちピンと来ていないね?』
「ええ、まあ」
正面からの撃ちあいで敵と相打ちになり、リスポーン地点を選びながら答える。
『単純な話さ。君がやった様な事が出来る高レベ冒険者は、普通そこまで新人に配慮しない……というか、クラン内でもわりと好き勝手やっているそうだよ』
「へぇ、そうなんですか?」
『ああ。冒険者、というか覚醒者は才能の世界だからね。それこそ、私と君が同レベルでも100回殴り合いをしたら100回京ちゃん君が勝つだろう?強者は、自然と傲慢になるものさ』
「……貴女の場合、相手が覚醒者じゃなくっても大抵の相手には負ける気がするのですが」
『うっさいばーかばーか』
「罵倒が小学生みたいになってる」
小学生に取っ組み合いの喧嘩で負けたからって、語彙力まで悲惨な事に。
『誰だぁ!私をバカって言った奴はぁ!バカって言った方がバカなんだぞう!バーカ!!』
「誰もエリナさんには言っていないから安心して」
『なら仲間はずれか!?寂しい……もっとかまって?』
「情緒不安定か」
『おいおい止めてやれエリナ君!リアルに教室で仲間外れ状態の京ちゃん君が泣いてしまうぞ!』
「わー、手が滑ったー」
『ぬおおおおお!?君ぃ、今私のキャラをわざと穴に押しただろ!?』
「はい」
『はい!?』
『誅殺……やはり忍者!?』
「違う」
『はい!?』
「はいじゃない」
『じゃあろ』
「ローでもない」
『くぅん』
肯定を強要してくんじゃねえ。僕はまだ、パーティー名が『インビジブルニンジャーズ』な事に納得していないからな……!
どうにかして変えなければならない。そんな名前からしてトンチキな集団の一員と思われるのは嫌だ……!
『話を戻すが、覚醒者はわりと我が儘だったり傲慢な人が多いよ。というか、そういう人が増えていると言うべきかな?自分は強い。自分は特別だ。そういった感情が、彼らの行動を助長させているのだろうね』
「んな、殴り合いが強いからって原始人じゃあるまいに……」
まあ覚醒者になって全能感を得るのはわかるし、自分も『覚醒の日』から暫くはテンション爆上がりだったが。『僕は選ばれし者だ……!』って感じで。
でも結構な割合で日本に覚醒者がいると知り、すぐに『選ばれし者、多いなぁ……!』ってわりと萎えたものである。
『さて……。案外、本当にそんな世の中になるかもしれないぞ?』
「はあ?第三次世界大戦でも起きると?核戦争とか勘弁なのですが」
否定しきれないのが、嫌な話である。
ダンジョン需要で新たな市場が開拓されだしたが、それでも世界中不景気なのは変わらない。
もっと、ダンジョンがじゃんじゃか金と物を吐き出してくれれば良いのだけれど。
『戦争の事は私もわからんが、ダンジョンの方が今は心配だね』
「……抑え切れなくなると?」
『そうならないと、願っているよ』
「………」
カチャカチャとコントローラーを操作する。
「取りあえず牛糞ミサイル乱れ撃ちしますね」
『おう、やったれ京ちゃん!』
『下からくるぞ、気を付けろ!』
「上からだしフレンドリーファイアはねぇですよ。残念な事に」
『ねえ今なんで残念がったのかな?』
『暗殺……やはり、忍者か!!』
この後普通にぼろ負けした。いつもの事である。
* * *
2日後。ぼっちオブぼっちな学校を終え、今日もまたダンジョンストアに。毒島さん達の依頼は終わったので、今回はエリナさんと2人きりである。
いやぁ、ね。度胸試しの件は流石に2日連続ではなかったけれど、明らかに教室の空気変わったよねって。
これまでアンタッチャブルな存在だったのが、『意外と大した事ない』って思われ始めているのを肌で感じる。
正直その通りなのだが。我ただのコミュ障ぞ?別に人を襲う気とかないし、誰かと喧嘩する気もあんまりない。
体育教師が危惧する通り、確かに人を簡単に殺せるパワーはある。だが事故や事件さえ起きなければ、僕達覚醒者は普通の人となんら変わらないのだ。
というか本気で非覚醒の人殴ったら死んじゃうし……殺人犯になるのはごめんである。人に殴りかかられたら、走って逃げてお巡りさんに助けを求めるのが常識だ。
しかし、この流れを利用してクラスに溶け込む事が出来たら……と、頭では考えても自分から話しかけに行けないのは我ながら情けない話である。
本当になぁ。どうすっかなぁ。
今日も体育祭に向けて放課後に練習とかあって、もう大詰め段階なのだが……そういうイベントも、自分達は参加できないわけで。
そりゃあ、孤立するよねって。
「どったの京ちゃん。遠い目して」
「いや、なんでもない」
頭を小さく振り、思考を切り替える。
今からダンジョンに入るのだ。それに関係する事以外は、邪魔なだけである。
『2人とも、準備はいいかね』
「おっす!」
「大丈夫です」
『では、本日はいつも通りのダンジョン探索とは別に試す事が2つある。1つは、エリナ君の『大車輪丸』についてだ』
「私の必殺技が、あの威力を常に出せるのか確かめるんだね!」
『うむ。謎の挙動をする武器は怖いからね。そして、もう1つは『白蓮』の性能実験だ。専用ボディが出来上がった今、どの程度動けるのか確認したいからね』
「はい」
白蓮の専用ボディ。それが、昨夜遂に完成したのである。
ただし、装備はまだない。一応『木蓮』にサービスでつけた盾と鉄槌と同じ物を持たせているが、まともに戦わせるのは大山さんから物が届いた後の予定だ。
今日は、ダンジョン内でちゃんと動くか歩かせるだけである。
ゲート室へと入り、白い扉の前で『魔装』を展開。エリナさんから、バスに乗る前に預けた鞄を取り出してもらう。
中に入っていた分解済みの白蓮を組み立て直し、起動の為の魔力を注ぎ込んだ。
───ブゥン……!
そんな音を響かせて、眼球の役割を持つガラスパーツが発光。ゴーレムが立ち上がった。
「おおー!」
エリナさんが、感嘆の声をあげる。
立ち上がった白蓮の身長は180センチほど。全体的にデッサン人形の様な姿だが、各所が鋭角になり少しだけ人狼めいている。
また、頭部は覆面をつけている様なデザインになっており、まるでロボットアニメに出てきそうな顔立ちだった。
「京ちゃん!これすっごく忍者だよ!色も黒いし絶対に忍者だよ!」
「いや忍者ちゃうし。騎士だし」
『偶に京ちゃん君もそういう拘り見せるよね……』
……実は、『騎士とか格好いいよなー』とそういうデザインが好きだったりする。次点で『武装メイド』なジャンル。
自分の『魔装』も、マントとかつけたら騎士っぽくなるだろうか?いや、どっかに引っ掛けそうな気もするけど。
何はともあれ、荷物を白蓮に背負わせ、各種チェックを終え準備は整った。
「では、行きます」
エリナさんと白蓮が自分の肩を掴んだのを確認し、ゲートへと踏み込んだ。
もはや、慣れる事はないのだろう足元が突然消えた様な感覚。そして、すぐに踏み固められた土の感触が足裏に伝わってくる。
自衛隊の照明は、このダンジョンでも設置されていない。LEDランタンと白蓮に取り付けられたペンライトが、周囲を照らす。
ここは、今まで来たダンジョンとは一風変わった雰囲気をしていた。
土の地面と、そこに建ち並ぶ古い『日本家屋』。
木製の戸は閉じられ、黄ばんだ障子には所々穴が開いていた。板に石を乗せただけの屋根が多く、時折瓦が敷かれた家もある。
江戸時代初期の様な風景。時代劇でしか見ない様な内部は、これまで西洋風だった他のダンジョンとはかなり異質に思えた。
こういった日本風のダンジョンは、あまり多くないが複数存在する。たしか、他にも中華風やペルシャ風、エジプトのピラミッド内部みたいな場所もあるとか。
なんとも、迷宮とは不思議な物である。
「石置屋根だよ京ちゃん!テンション上がるね!」
「え?いや別に」
「レアなのに!?」
レアなのか……。
なんかこちらのリアクションに驚愕しているエリナさんを放っておいて、視線を周囲に巡らせた。
このダンジョンは、『Dランク』の中でも比較的危険度が高いと言われている。油断は出来ない。
だが、だからこそ『テスト』にちょうどいい。もうじき、『Cランク』に上がる予定なのだから。
道の幅は二車線道路より少し狭い程度。上を見上げれば、僅かに岩肌が見える。この城下町みたいな建物は、巨大な洞窟の中にあるのだ。
ストアのHPには『まるで町を丸ごと石のドームで覆ったみたい』と書いてあったが、自分としては酸素があって剣を振るうのに障害が少ないのならそれで良い。
……ちょっとだけ、『そもそもなんでダンジョンって人が活動しやすい酸素濃度が保たれているのか』は不思議だけど。
余分な思考を振り払う。そういうのはアイラさんみたいな、学者さんや学者志望の学生さんらに任せれば良い。
「前進します」
『うむ。気を付けてくれたまえ」
「うう……忍者的にここは聖地みたいな雰囲気なのに」
「はいはい」
剣を抜き、警戒しながら歩き出す。
エリナさんも口ではふざけた事をぬかしているが、視線の動きや『足運び』は平常運転に戻っていた。
まずは出口付近にマーキングをする。『大車輪丸』の実験は、その後だ。
いつもよりどこか不気味なダンジョンの中を、進んで行く。
ここを流れる空気は、他の迷宮よりも少しだけ冷えて感じた。
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