第二章 設定 + おまけ
第二章 設定 + おまけ
●キャラクター
『矢川京太』
LV:20 種族:人間・覚醒者
筋力:49 (成長性:A)
耐久:49 (成長性:A)
敏捷:52 (成長性:A)
魔力:52 (成長性:A)
スキル
『精霊眼』
『魔力変換・風』
『概念干渉』
固有スキル
『賢者の心核』
備考
今作の主人公。地方産まれ地方育ち、どこにでもある家庭で育った少年。年齢は現在15歳。
タイトルに偽りなしとばかりのコミュ障。特別な過去とかは特にない、ただ単にそういう気質。
強いて言うのなら『精霊眼』で他人の表情の機微を読み取り過ぎてしまうが、素のコミュ力が低いのが最大の原因。
色々と普通の少年だが、覚醒者としての才能だけは非凡。アイラ曰く『SSR』との事。
レベルも『20』台に入った事で、冒険者の中ではトップ層の末端に足を踏み入れた。
最近の悩みは学校で孤立している事。昼休みは人気のない場所を探して1人で弁当を食べている。
『林崎エリナ』
LV:15 種族:人間・覚醒者
筋力:32 (成長性:C)
耐久:32 (成長性:C)
敏捷:44 (成長性:A)
魔力:38 (成長性:B)
スキル
『透明化』
『五感強化』
『空間魔法』
備考
今作のヒロイン?恐らくヒロインな自称忍者。京太とは同級生の、英国とのクオーター美少女。
ダンジョン探索や戦闘ではサポートメインの動きが多いが、忍者刀を使った接近戦も出来るオールラウンダー。
常に明るくハイテンションだが、意外と周囲をよく観察している。そのうえで空気が読めない発言もしばしば。
それでも主人公一行では一番コミュ力が高い。また、中学の頃から常に学年5位以内の成績をキープしていた優等生でもある。
京太曰く、『黙っていれば才色兼備の完璧超人』。
彼女の発案により、パーティー名は『インビジブルニンジャーズ』となった。謎の秘密結社という妄言を添えて発せられたこの名前が、とある者達に注目されている事をまだ本人達は知らない。
有栖川アイラ、三好ミーアとは従姉妹関係。両親の都合により、現在はアイラと共に祖母の家で暮らしている。
『有栖川アイラ』
LV:1 種族:ハーフエルフ・覚醒者
筋力:11 (成長性:E)
耐久:8 (成長性:E)
敏捷:11 (成長性:E)
魔力:20 (成長性:B)
スキル
『念話』
『鑑定』
備考
今作のもう1人のヒロイン……の、はず。21歳の大学生。祖母の研究室に所属しており、京太やエリナの『依頼主への窓口』とも言える存在。
極度の内弁慶かつ見栄っ張りで、『身内』と判断した者か『マウントを取れる相手』以外には無言無表情になり最低限しか会話しない。
反面、仲間内だとかなりの饒舌。エリナに負けず劣らずのハイテンションで喋り、京太相手に1時間近くの長電話をする事も珍しくはないほど。
そんな彼女だが、少々複雑な家庭環境をしており、母親が不倫した結果できた子供である。
祖母に引き取られて育てられ、実の両親は心中。遺書にて『貴女も死にましょう』と母親に誘われていた。
中学、高校と女子高で過ごすも、周囲の話題になじめず、そのうえ家庭環境を理由に敬遠されていた。
そして、大学に関してはもっと上の大学を狙えた所『ババ様やエリナ君と離れたくない』と現在の大学を選択。
しかし、祖母が大学教授という事もあって周囲からは『えこひいきされているのでは』と見られ学内に馴染めていない。
趣味は『飲酒』と『オンラインゲーム』。特にエリナや京太と遊ぶゲームが好き。それはそれとして格ゲーをやれば復帰狩りも屈伸煽りもしまくる。
種違いの妹であるミーアと仲良くしたかったが、見栄とテンパリでこれまで上手く接する事が出来なかった。
今章にて、京太とエリナの橋渡しにより普通の姉妹に戻れた……かもしれない。
『三好ミーア』
LV:22 種族:エルフ・覚醒者
筋力:38 (成長性:D)
耐久:38 (成長性:D)
敏捷:52 (成長性:A)
魔力:55 (成長性:A)
スキル
『土木魔法』
魔力を消費する事で土や植物を操作できる。また、消費量を増やす事で新たに土や石を生み出す事も可能。
生み出した土や石はその場に残るが、内包する栄養が少ないので肥料などには使えない。また、植物の生育促進や一時的な改造も可能だが、すぐに枯れる上に種が残らない。
しかし、工事業者関連での注目が高く、錬金術以上に作業用・戦闘用ゴーレムの作成には向いたスキル。
『水氷魔法』
魔力を消費する事で水や氷を操る事が出来る。消費量を増やす事で水や氷を生み出す事が可能。
生み出した水や氷は飲み水として問題なく使用可能であり、様々な分野で大きな注目を受けているスキル。
『魔力節制』
魔力の制御力を高め、魔法の発動に必要な魔力消費を抑えるスキル。
副次効果として詠唱の省略や魔法の連射が可能。
備考
今作のヒロインかもしれない人物。自称秀才。
アイラの種違いの妹であり、彼女が『天才』と判断した相手に強いコンプレックスを持つ。
その理由は母親にある様だが、詳細は不明。エリナ曰く『先輩は自分がパイセンに劣っているから捨てられたと思っている』との事。
不倫が発覚するまで、彼女らの母親は理想的な母であった事もあり嫌いになり切れていない。
父親の方で引き取られるも、彼が再婚し子供も出来た事で家を出て寮生活をする様になった。
家族仲は良好……というより、『お互いに気を遣っている』状態。家にいても、家族そろってあまり気が休まらない。
そういった理由もあり、ミーアは現在1人暮らしをしている。父親とは一応連絡を取り合っているが、その内容も事務的な模様。
様々な事情を抱えているが、外面はすこぶる良い。大学内にも友人は多く、基本的に人当たりの良い笑顔を浮かべている。ただ、親友や恋人と呼べる存在がいた事はない。
姉やエリナを『ある種の天才』と認めると共にライバル視しており、凌駕する為日夜努力している。
覚醒し力を得た事で『自分も天才になれる』と判断。レベル上げを積極的に行って自信を取り戻しかけていた所に、京太と遭遇。自分はこの分野でも天才になれないのだと、ほぞを噛む。
しかし、京太が戦闘中に叫び怯える様子を見て何か心境の変化があったらしい。
現在、京太とエリナの仲介によりアイラとは仲直り出来た……の、かもしれない。
趣味は『少女漫画』と『恋愛小説』。及びそれに関する『アニメやドラマの鑑賞』。
どことは言わないけど『H』……か、『I』の可能性も。
『山下パーティー』
平均LV:12 種族:猫獣人2人と人間の覚醒者が2人
備考
山下博と山下明美の猫獣人兄妹。この2人の幼馴染である省吾。そして明美の友人である喜利子の4人組。
かつてコボルトロードから京太達に助けられた事があり、その経験から『ギルドの設立』を考え実行した。
現在、ギルド『ウォーカーズ』は30人を超える大所帯かつ、色んな意味で有名な『錬金同好会』とも同盟関係にある。正に飛ぶ鳥を落とす勢いで成長する新興ギルド。
京太ら『インビジブルニンジャーズ』や変態の巣窟『錬金同好会』だけでなく、『謎の女子高生3人組』とも面識がある。
拠点として貸しビルを探しに神奈川県に行ったところ、またダンジョンの氾濫に巻き込まれ九死に一生を得た。更に、今回も『野良の強い覚醒者』と縁が新たにできたらしい。
そんないつの間にか色んな物事の中心にいた彼らに、ダンジョン庁の部長から電話があり……。
『ダンジョン庁』
備考
覚醒者、冒険者、ダンジョン、モンスターに関する事柄を担当する庁。人手、予算、時間がない事で他省庁からは有名。
各省庁からの鼻つまみ者や変人が集まったが、代わりに能力は高め。その上、自分達の仕事に強いプライドを持っている分士気も高い。やりがい搾取とも言う。
最近、忙しさのあまり風呂に入る時間もなく物理的に他の省庁から鼻つまみされている可能性が出てきた。そういう点は防衛省と仲良し。
今章にて『塩を一定以上の距離と時間持ち出す事でダンジョンを複数氾濫させられる』事が判明し、デスマーチが延長された。現在各省庁や部署と連絡連携をとり、対策中。
そんな中、状況の打開。そして秘密結社『インビジブルニンジャーズ』、技術と変態の巣窟『錬金同好会』との繫がりがある『ウォーカーズ』への接触を部長が試みている。
なお、『インビジブルニンジャーズ』に関しては本気で『秘密結社かもしれない』と疑っている。恐らく職員は全員寝不足かつビタミン不足。
『謎の女子高生3人組』
平均LV:不明。しかし全員『LV:20』以上。
種族:不明。1人はエルフ耳。
備考
ドラゴンの出現、千葉県・神奈川県での氾濫に遭遇した少女達。その詳細は未だ不明。
しかし、『大剣使いの少女』に関してはマラソン大会にて姿が判明した。長い髪をツーサイドアップにした、トランジスタグラマーな美少女らしい。
彼女らは行く先々でトラブルに巻き込まれては、人々を守る為に命懸けで戦っている。
特に『大剣使いの少女』はお人好しと呼べる程の善人で、困っている人は捨て置けない性質。友情と義に厚い人柄である。
『ババ様』
LV:不明。しかし、教授としての仕事と家の事でレベル上げはそれ程出来ていない。
種族:エルフ
備考
エリナ達の祖母にして、大学教授。イギリスで生まれ育つも、家の都合で日本に移住した。
京太達のスポンサーであり、アイラを通してダンジョンの調査協力を依頼している人物。
娘から孫を取り上げてでも守るなどの情を見せつつ、それはそれとして休肝日を作らせるためにアイラから酒を取り上げるなど優しい厳しさも持つ。
エリナ曰く、『怒らせると凄く怖いけど、お婆ちゃまが怒る時は大抵相手が悪い時』との事。
普段は気丈に振る舞っているらしいが、娘が孫宛てに『一緒に死のう』と遺書にしたためていた時は卒倒しかけた。
覚醒者としての能力は、アイラ曰く『京太に迫る』との事。恐らく『SSR』級。
●登場モンスター
※『Eランクモンスター』
『サハギン』
半魚人の姿をしたモンスター。主に海水の近くにいる。
このランクにしては比較的知能が高く、待ち伏せなどもよく行っているので注意が必要。また、水中戦をするとなると危険度が一気に跳ね上がる。
※『Dランクモンスター』
『インプ』
見た目はゴブリンに似ているが、肌が灰色で角と蝙蝠の様な羽が生えている。
空を飛べる上に魔法を使い、知能もゴブリン並みに高い。
『トレント』
木で出来た巨人と言うべき姿の怪物。レッサートレントの成体と言われているが、実際の所は不明。
動きは遅いが巨体を活かしたパワーとタフネス。そして魔法は脅威。
『ミルメコレオ』
ライオンとアリが融合した様な怪物。このランクにしては知能が低いのだが、代わりにかなり狂暴。
ダンジョン内ならモンスターは食事など必要ないはずなのに、常に飢えている。アリの尻から強力な酸を飛ばす。
『コカトリス』
巨大鶏の尾が蛇になった様な怪物。鶏の口からは麻痺毒を含んだガスを吐き出し、尻尾の蛇は石化の呪詛が籠められた牙で噛んでくる。
また、蛇頭の方はピット器官を持っており視界が悪くとも敵を察知可能。
※『Cランクモンスター』
このランクが一般公開されているダンジョンの最高位。冒険者たちでもこのランクで活動しているのはごく少数。
『ケンタウロス』
人と馬が混ざった見た目をしたモンスター。首から上は『頭髪と髭以外の毛が無い馬の頭』と言うべき容貌をしている。
知能が高く、狂暴。槍と弓矢を使う騎兵の様な戦い方が特徴。
また、このモンスターの雄叫びには相手の精神に作用し『恐慌』状態にする効果がある。
※『ボスモンスター』
『コカドリーユ』
筋力:30
耐久:30
敏捷:40
魔力:40
スキル
『猛毒の霧』
魔力を消費して作り出した毒ガス。僅かにでも吸えば非覚醒者なら肺が腐り落ち、覚醒者でもスキルの防御がなければ強い眩暈と吐き気に襲われる。
『石化の呪詛』
牙に籠められた呪詛。覚醒者でも受ければ一撃で致命傷になりかねない魔力が籠められており、非常に危険。
備考
コカトリスと比べて恐竜の様な見た目になっており、鶏頭はなくなり蛇の頭のみになっている。
厚い羽毛は鎧であり、羽は盾にも滑空にも使える。逃げる相手を追うのが得意。
総合的な能力はオークチャンピオンを僅かに超えるのだが、相性が噛み合い過ぎかつトラウマという名の思い出補正で京太からは『チャンピオンより遥かに弱い』と酷評されたモンスター。
『レフコース』
筋力:50
耐久:40
敏捷:60
魔力:50
スキル
『魔力変換・炎』
京太がもつ『魔力変換・風』の炎版。こちらも燃費が悪い代わりに、恩恵は大きい。
また、風よりも応用力が落ちた分攻撃力が上がり、レフコースは魔法の様に炎の槍を放っていた。
『火喰い』
炎を吸収し、傷や魔力を回復するスキル。自分が出した炎も吸収可能であり、先のスキルの燃費の悪さを軽減させている。
ただし、吸収からの変換効率はそこまで良くないので、永久機関とはいかない。
備考
ケンタウロスよりもより馬に近い頭になった個体。全身を白い体毛で覆っており、鬣は炎で構成されている。
他のケンタウロスを指揮する能力があるが、速度差によりこのモンスターが現れる時は基本的に単独。
高速で走り回るうえに、炎を纏わせた投槍を使う事で遠距離戦まで可能。『Cランク』のボスモンスターだけあって、民間の冒険者が相手どれる限界と言っていい。
●ダンジョンの出口
自衛隊と警察が合同で作った、派出所の様な建物がある。
基本的に武装した覚醒者の自衛隊員4人が詰めており、3人は周囲の警戒。1人がゲート前で冒険者の簡単な荷物チェックを行っている。ただし、荷物のチェックはリュックやアイテムボックス内を目視で確認するだけなので、抜け道があると問題視されていた。
事実、ドロップ品の一部は持ち出されネットの闇サイトで違法に取引されている。ただし、日本だけでなく世界中の国家がこういった行為を咎める為、大抵そういったサイトはハッキングされ利用者は逮捕されてきた。
スタンピードが発生した場合は3人がその場に残り、1人がゲートを潜って外に出て状況を各所へ報告する。
今章では、トレインされて逃げてきた冒険者パーティーと、それに続くモンスターへの対処をしている間に『透明化』のスキルを使った犯人が突破してしまった。
本来ゲート前には『消毒』の名目で消毒液が張られており、跳び越える事も出来ない様に天井の高さも計算にいれた遮断機が取り付けられている。
犯人はそれを正面から突破した。遮断機をくぐり、消毒液をバシャバシャとさせながら。
●Q&A
Q.ダンジョン庁で議論されている、『スタンピードしたらそれを合図に網を張る』ってどういう事?
A.『第二章エピローグ下』にも加筆させていただきましたが、流れとしては。
『犯人が塩を確保して持ち歩く』
『その段階で犯人にモンスターが殺到。目撃者はすぐに出口の自衛隊員に報告』
『犯人が目撃者にトレインし出口に来た場合でも、モンスターは大量に追跡してくるはずなので防衛しつつ持ち物チェック。トレインの被害者の可能性があろうと確認を優先』
『出口を強引に突破される可能性を考え、出口の隊員はスタンピードを確認次第先行してゲートを出てストアの避難と隔壁の閉鎖。建物の出入り口を1つに限定』
という感じです。
Q.タイミングシビアじゃない?
A.はい。ただ、『そもそも冒険者を入れない』や『冒険者免許の取得をもっと厳しくする』となると、人手が……。
Q.冒険者が増えているはずなのに、足りないの?
A.はい。増えていると言っても、もとが少なすぎたので……。
Q.そのうち強くなった覚醒者が『これからは俺達の時代だぜヒャッハー!』しない?
A.そのリスクは当然ありますが、前述の通り人手が足りないのでダンジョンを開放する他なく……。
Q.冒険者のモラルって高いの?
A.何だかんだ言って、高い人が多いです。ただ、前科がある人は中々なれません。今章の犯人は、前と言っても補導だけでしたので登録できました。
Q.主人公って今どのぐらいの強さ?戦車倒せる?
A.随伴歩兵なしの戦車相手なら、何とか。ただし、周囲に歩兵がいて機関銃を撃ちまくってくる場合はかなり厳しいです。市街戦ならワンチャン?
ただ、京太の場合『人を本気で攻撃する』という経験がないので戦う前に逃げると思いますが。
Q.謎の女子高生3人組の方が主人公っぽくない?
A.この物語の主役は京太ですが、この世界は彼以外でも回っているので……。
●おまけ
『もしも京太がエリナと出会わず、なおかつ友人達が戻ってきたら』
※TS注意。見なくても本編を読む上で一切関係ありません。
「はぁ……」
4月。暑さのせいか桜が満開だったのもごく短い期間だった、この春。
めでたく高校生になり、冒険者免許も取得できた。スタートダッシュは、良好と言って良い。
学校での生活を除いて。
……認めよう、学校で自分は孤立していると。
だが仕方ないのだ。中学まで一緒だった友人2人は、片や親の都合で海外。片や学力の都合で県外の良い所に進学したのである。
小学校の時に何となく友達になった僕ら3人。そこから人が増える事も減る事もなかった結果、『新しく友達を作る』という経験が圧倒的に足りなかった。
結果、自分が誰にどう声をかければ良いのか迷っている間に教室の情勢は決定づけられたのである。
つまり、ボッチと化した。もう認めるしかない。
ここから、『仲間にいーれって!』と言えるのは小学生の頃の自分にしか……いや、当時の自分でも無理だわ。物心ついた段階で人見知りだったよ畜生。
学校でもボッチなら、ダンジョンでもボッチである。
ゴーレムを1体引きつれ、『Eランクダンジョン』を探索する日々。そろそろランクアップも考えているし、いっそ、ゴーレムも専用ボディを作ってしまうか。
この前、ダンジョンストアで『ダンジョン周りの住宅について』という冊子を貰った。夢の1人暮らしも、可能と言えば可能である。
……ここまでボッチなら、もう『ホムンクルス嫁』でも作ってしまおうか。
人としてヤバい気もするが、どうせ家族以外と話す機会もない。社会性など、最低限で良いだろう。
半分自棄になって、そんな決心をしていると。
────ピンポーン。
「……はーい」
チャイムが鳴り、眺めていた冊子を机に放って玄関に向かう。
ちょうど両親が買い物なので、家には自分しかいない。何かの宅配だろうと、特に考えず扉を開く。
「はい、どちら様で……」
そこまで出てきた言葉が、目の前にいる『少女達』に途切れてしまった。
美しい、人達だった。
片方は、濃い茶髪をボブカットにした少女。クリクリとした大きな灰色の瞳に、白い肌。日本人離れした顔立ちは幼さを残しつつ、確かに『女』を感じさせる。
本来耳がある位置には『犬耳』が垂れており、彼女が獣人である事が察せられた。
だが、何故かメイド服を着ている。綺麗なエプロンドレス姿で、カチューシャまでつけていた。
あと胸がデカい。中学生ぐらいの背丈なのに、胸だけ大人である。
もう片方は、車椅子に乗った青い髪の少女。紫色の瞳は切れ長で、泣き黒子が妙な色気を放っている。
凛とした顔立ちに、白いセーターに包まれた大きな胸。そして、朱色のロングスカートから覗く『尾ビレ』。
こちらも本来耳がある位置には、魚のヒレの様な物が生えている。
まさか……人魚?
亜人の一種として存在する事は知っていたが、まさか本物を見る事になろうとは……エルフ以上に少ないらしいのに。
「おう、久しぶり」
「元気してたか」
「……へ?」
メイドの子はムスッとした様子で、人魚の子はからかう様にそう言ってくる。
久しぶり?この子達と、自分は会った事があるだろうか。いいや、これほどの美少女と出会って覚えていないはずもない。
だから、これは何かのドッキリか、人違いなのだろう。そう、思うのだが……。
「えっと……もしかして、『晴香』君や『真琴』君の親戚だったり……します?」
何故だろうか。自分の『精霊眼』は、引っ越してしまった友人達と彼女らが似ていると感じさせた。
見た目は、全く血のつながりを感じさせない。2人は平々凡々な容姿だったのを、よく覚えている。
何を言っているのだ、自分は。
慌てて訂正しようとしたのだが、メイドの子が突然腰にしがみついてきた。
え、なに!?というか胸!胸がめっちゃ当たってる!やわらけぇ!
「気づいてくれると信じていたぞ、心の友よー!!」
「マジか。なんでニアピン賞とるんだよ。凄い通り越してキモイわ」
「あ、え……え?」
メイドの子が、こちらの胸板に額をグリグリしてくる。その度に腹に当たった巨乳がムニムニと形を変え、その存在感を強く伝えてきた。
……女性の下着なんてわからない。それでも、この感触。もしや……!!
の、ノーブラ!?
「まあ、それでも混乱するよな。おい、『晴香』。いい加減離れろ。話が進まないだろ」
「うっ……ぐす……!おう!」
涙目でメイドの子が離れ、同時にオッパイ様も遠ざかってしまった。
特に理由はないのだが、若干腰を後ろに下げつつ2人を改めて見つめる。
「あ、あの。……結局、どこのどなたで?」
「俺だよ、俺。俺だって」
「そんなオレオレ詐欺みたいな……」
「久しぶり。友達だよ、お前の」
「だからそんな詐欺……え?」
冷たい汗が、頬を伝う。
いやいや、流石にあり得ない。あり得ないのだが……。
「まさか、真琴……君?」
「イグザクトリー」
ニヤニヤとした笑みで、人魚の子が己を両手で示す。
この中二病が未だ残っている仕草は、確かに自分の記憶にある『彼』に似ていた。
だが、仕草以外の何もかもがちげぇ!?
「ちょ、ドッキリ?」
「は?お前に年齢確認なくエロゲ買える店教えてやったの誰だと思ってんの?」
「小学校の頃オレが漏らしたのを隠してくれたお前が、オレを疑うのか!?」
「……マジか」
どちらも、自分しか知らない友人達の情報。特に晴香君が漏らした事に関しては、流石に本人も誰かに言わないだろう。
だが、それでも受け止めきれない。突然友人達が美少女化してやってきたら、誰だって脳がバグる。
「何なら『診断書』を見せてやろうか?性別が変わったって事で、色々と検査されたからな」
「……出来れば」
「ほらよ」
こちらの反応を楽しむ様に笑いながら、人魚……真琴君(仮)が1枚の紙を差し出してきた。
その内容を熟読し、知識がないなりに本物の診断書か視線を走らせて……。
「本当、なの?」
「俺だって嘘であってほしかったがな」
診断書を受け取り、ヒラヒラとさせる真琴君。
信じがたい事に、本当……なのかもしれない。
「……正直、まだ信じきれてない。でも、君達が晴香君と真琴君である前提で喋る」
というか、そうじゃないと会話すら出来ない。
一瞬なにも知らないふりをして、扉を閉めようかと思った。だが、嘘を言っている様にも見えないのである。
この『精霊眼』が、見逃していなければ、だが。
「なんで、そんな事に……?」
「覚醒したから。としか言えねぇな。俺は種族『人魚』になった影響で。そんで、晴香が」
「……種族、『獣人・幻獣・キキーモラ』」
「……そんなんあんの?」
「ある」
そう言いながら、晴香君(仮)がスマホを突きだしてきた。
確かに、政府の公式ホームページに載っている。……肉体が、強制的に美少女化する事も含めて。
キキーモラ……たしか、海外に伝わる家事妖精。犬頭の怪物である伝説もあれば、美しい少女の伝説もある。どうやら、実際に現れたのは足して美少女成分が強かったパターンの様だ。
これを書いたダンジョン庁が過労で狂っているわけでないのなら、真実と信じるしかない。
思わず、額に手をあてる。
「……マジか。……マジかぁ」
そう言えば、昔ネットで『種族が変わったら性別まで変わった』なんて話を見かけた事がある。
当時はただの与太話として、笑ってスルーしたが……まさか、アレ本当だったの?
「やべぇ、頭がパンクしそう」
「そりゃそうなるよな。でも俺の親より冷静だから許すよ」
「しかし、初見でオレの魂を見抜くとは……やはり心の友!!」
「……晴香君、君そんなキャラだっけ?」
「察してやれ。色々あったんだよ。一応言うけど、俺ら今ちょっと人間不信だからな」
「あ、うん」
……落ち着け。一旦、全て本当の事だと受け入れよう。
その上で考えると、晴香君が情緒不安定に見えるのは当たり前かもしれない。突然性別が変わって、平静でいられる方がおかしい。
というか、この2人と別れたのは卒業式の日なので、マジで『なったばかり』のはずである。
これは、慎重に接した方が良いだろう。
「取りあえず、わかった。受け入れる。まずは、久しぶり。元気……なの?」
「身体はなー。覚醒者は憎らしい事に、風邪も毒も効かないんで」
両掌を上に向け、『けっ』と笑う真琴君。
「ま、こうして無事に再会できたわけだし、本題に移るか」
「え、本題?顔見せだけじゃなく?僕もうお腹いっぱいなんだけど?」
「晴香の乳で勃○してんだろ。乳代って事で話に付き合えよ」
「……ナンノコトデショウ」
「お前……」
そっと目を逸らすが、晴香君が若干引いた顔でこっちを見てくる。
しょうがないんだ……!抱き着かれた時は、まさか性別が変わった友人とは思わなかったから……!
「俺達が会いに来た理由は、たった1つ」
ビシリ、と。真琴君が勢いよく人差し指をたてる。
男だった時とは比べ物にならないぐらい、白くしなやかな指だった。
「チン●を取り戻す為だ!!」
「なんて?」
今、聞き惚れるぐらい綺麗な声でとんでもない発言をされた気がする。
「性別が変わって!失われし俺のアームストロング砲を取り戻すんだよぉ!」
「お、落ち着け。落ち着くんだ」
「そうだ!オレだってまだ未使用だったんだぞ!童貞だったんだ!童貞が処女に変わってんだよちくしょぉ!処女を貰うってそういう事じゃねぇ!童貞を失うってそういう事じゃねぇんだよぉ!」
「お願いだから玄関でそんな事を叫ばないで!?」
見てる!近所の佐藤さんがこっち見てる!
「お前どうせ冒険者になってんだろ?そんで確か強いスキル持っているとか、卒業式の後言っていたよな?」
「オレ達友達だろぉぉ!?ダンジョンで男に戻る方法がないか、一緒に探してくれよぉおおお!!」
「……はぁぁ!?」
ダンジョンに?チ●コを取り戻す為?一緒に行けと?
ダメだ。情報量が多すぎて理解が追い付かない。『心核』の思考加速でも無理である。
「こちとら引越し先で『人魚の肉を食えば不老不死』とか迷信に踊らされたアホどもに殺されかけてんだよ!今さらダンジョンなんざ怖くねぇ!」
「オレだって!海外で『覚醒者って事は金持ち』って思われて銃つきつけられた事があるんだ!命だってかけてやるよ!チン●のために!!」
「だから家の前でそんな事を叫ぶな馬鹿ども!?」
――再会した友人達が、美少女になっていました。
昨日の自分にそう言ったところで、『シャブやってんの?』と心配されるだけだろう。
そんな信じられない出来事なのだが……どうやら、現実らしい。
ご近所さんから向けられる視線に心が痛む中、取りあえず『チン●斉唱』とか抜かして意味不明な歌を歌い出した馬鹿どもの頭にチョップを叩き込むのだった。
……誤解が加速しそうで、やだなぁ!!
読んでいただきありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。励みになっております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。
Q.本編時空でも晴香と真琴は……。
A.シュレーディンガーのTS……という事で。取りあえず、現状タグに『TS』をつける予定はない……はず!