クリスマス閑話 IFルート
もしもエリナさんと京太の試験日がズレていたら……。
クリスマスプレゼントにはならないと思いますが、そんな『もしも』な世界です。
クリスマス閑話 IFルート
「起きてください、マスター」
「ん……」
淡々とした声と、軽く肩を揺らされる感覚。それに目を開ければ、人形の様に整った顔がすぐ近くにあった。
未だに慣れず、少しびっくりする。だが、おかげでバッチリ目が覚めた。
「おはよう、『白蓮』」
「おはようございます」
そう言って、丁寧にお辞儀をする長い黒髪の少女……白蓮。
正確には、少女ではない。これは『ゴーレム』だ。
艶やかな黒髪も、白磁よりもきめ細かな肌も、整った目鼻立ちも、鈴を転がす様な声も、ボンキュッボンのスタイルも。全て自分が作り出した『物』である。
あえて言うのなら、『フレッシュゴーレムの亜種』……だろうか。材料は人の死体ではなく、通販で買った炭素やらアンモニアやらだけど。
「朝食は既に作ってあります。お着替えが済みましたら、お召し上がりください」
「わかった。ありがとう」
優雅に一礼をする、メイド服姿の白蓮。少し動くだけでエプロンドレスの下で揺れる巨乳に、『昨日発散した』はずの欲望がまた膨らんでくる。
だが、朝からおっぱじめるのもいけない。手早くパジャマから着替えれば、白蓮は脱ぎ捨てた寝巻を手に洗濯機の所へ。自分も洗面所で顔を洗い、トイレを済ませる。
「いただきます」
台所で、朝食を食べながら思う。自分で作ったゴーレムながら、自分より料理が上手いのだから不思議なものだと。
現在、この家を借りて1人で住んでいる。両親が住む実家から、車で20分ほどの距離。
そして、ダンジョンへ車で8分ほどの場所。
ダンジョンに近い土地というのは、誰しも忌避するものだ。もしも氾濫が起きれば真っ先に危ないのだから、当然である。
そういった家を、格安で貸し出す業者や個人もいるのだ。ダンジョン庁がそういった案件を管理し、各地方と交渉。冒険者の住居として、斡旋する取り組みが行われている。
両親は反対したものの、『ダンジョン探索の戦力増強の為、自分用の工房が必要だから』と説得した。
……本音を言うと、1人暮らしに憧れていたというのが1番の理由である。
しかし、まるっきり嘘ではないのだ。この白蓮が証拠である。
『錬金同好会』が解放しているデータや知識と、『魔装』にあった本の内容。そして、1人だけという空間だからこそ解禁した『心核』の力。
これらにより、白蓮のパワー、スピードは自分とそう変わらない程の性能を持っている。
また、文字通り鋼の骨格を採用している為強度も高い。触れる分には、普通の人間と変わらないのに、だ。
『錬金同好会』では未だ『理論上はできるが技術が足りない』とされ、公開こそされど実践はされていない術式。それを、『心核』のブーストで強引に実現したのである。
ただ、同好会にあったデータを使うと美少女型以外作れそうになかったので……せっかくだからと、性癖全開で設計した。
性能は問題ない。自分と共に、ダンジョンで戦える程である。燃費は、やはり悪いが。それでも、もしもの保険に頭数は欲しいのである。
……そう。ソロなのだ、自分は。
冒険者講習の、最後の試験。あの時誰とも組めなかった自分は、試験官と2人で初めてのダンジョンに行った。探索自体は、最初に剣を天井に引っ掛けた以外順調にいったと思う。
そうして無事に『Eランク』スタートしたものの、仲間はいなかった。
……一応、隣のクラスに自分と同じく冒険者がいるらしい。どうも、別の日に試験を受けたとか。
だが女子だし、何より既に別の人と組んでいる様なので誘えない。金髪だし声がでかい美人なのでよく目立つのだが、たびたび校門でバイクに乗った女性に『桃ちゃーん!』と大声で駆け寄るのを目撃している。
ライダースーツを着た、格好いい女性だった。美女と美少女という似合いの組み合わせに、自分が関わる余地などない。
「ごちそうさまでした」
「はい。片付けておきます」
「うん、お願い」
淡々と喋る白蓮に洗い物を任せる。
頭部にセットしているのは『ホムンクルスもどき』なのだが、覚えさせた事を決して忘れないし、何より実演や動画で1度見せただけで出来る様になるのだから凄まじいものだ。
家事をしてくれる白蓮をよそに、スマホでダンジョン関連のニュースサイトを閲覧する。主にドロップ品の相場を見るのだが、それ以外にも幾つか気になるニュースがあった。
最近一部ドロップ品の自由販売化が始まり、冒険者の数は増えてきている。だが、死亡のリスクも高いと各種メディアからは不評な様だ。両親から自分も色々言われたので、印象深い。
先月だったか、自分が冒険者になってすぐの頃に4人組の冒険者がボスモンスターに殺されたというニュースがあった。
ちょうどそのダンジョンに行く予定だったので、あれには驚いたものである。
だが、画面越しの『死』というものにどうしても心から共感するのは難しい。『危険だから』と、冒険者をやめる気にはなれなかった。
むしろ、逆。戦力が必要である。自分と家族の身を護るためにも、力が必要なのだ。無論、手に負えないのは自衛隊にお任せする所存である。ドラゴンとか。
そんなわけで、今日もダンジョンに行くとしよう。日曜日なので、学校もない。
「白蓮。ダンジョンに行くから用意を」
「かしこまりました」
家事がひと段落した所で声をかけ、自分も支度を済ませる。
着替えを済ませ玄関に向かえば、すぐに白蓮もやってきた。
全身を覆う、黒い西洋甲冑。玄関に座り、グリーブをつけるのを手伝う。
黒騎士は浪漫があるが、実際の所は鎧の傷や汚れを誤魔化す為に黒く塗っている……なんて、話をどこかで聞いた事があった。
それと同じく、これも自作の粗を誤魔化す為の塗装である。材料もその辺で買ったものだから、強度に自信はない。主に『偽装』の役割で着させている。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
玄関を出て、鍵を閉めて後徒歩でダンジョンストアに向かう。歩くには少し遠いが、車なんて持っていないしゴーレムの運搬はバスだと色々面倒だ。
最初も最初は、白蓮の外装はヤカンのみだったので楽だったが、フラスコを外すと今の外装は崩壊する。作り物とは言え、美少女がドロドロに溶けるのは見たくないので付け替える事は出来ない。
歩く事、20分ほど。ダンジョンストアに到着し、貴重品なんかをロッカーに預ける。
そして冒険者免許を手に、ゲート室前の受付へ。
「矢川京太様と、そのゴーレムですね」
鎧の内側まではチェックされず、受付を通過。前に、鎧を着たまま首と胴体をケーブルだけで繋いだ状態を見せたので、白蓮がゴーレムだと認められているのだ。
……毎回きちんとチェックしないのかと少し心配になるも、都合が良いので自分から言いはしない。
何はともあれ、ゲートを潜り内部へ。
中は石で作られた壁と床の、ファンタジー作品に出てくる様な城か要塞の中じみた場所。
しかし窓の類はなく、壁に取り付けられた松明の明かりが周囲を不気味に照らしていた。
一応腰のランタンもスイッチをONにし、光源を増やしておく。今でも十分見えるが、念には念を入れたい。
「白蓮、周囲の警戒を」
無言で頷く白蓮のリュックから、長さ1メートル程の木の棒と、『コイン』の入った袋を取り出す。
これは少し前に『Fランクダンジョン』で回収した物だ。そこらの店で鉄板買ってくるより、こっちの方が安く済む。
持ち込んだ錬成陣を書いた紙の上にザラザラとコインを乗せ、木の棒も置く。そして、錬成。
即席の簡素な投げ槍を6本用意し、布の筒につめて白蓮に持たせた。
「先行する。モンスターを発見次第、攻撃」
白蓮が頷いたのを確認し、探索を開始。このダンジョンもこれで5回目なので、慣れたものである。
少し行った所で自衛隊のペイントを見つけ、地図を取り出し確認。出口までのルートを確認した後、別方向に向かう。
ドロップ品の販売自由化もあって、今が稼ぎ時だ。お金をためて、両親の護衛用ゴーレムを作らないと。
2人は非覚醒だから、魔力も少ない。スイッチを押したら起動する、簡易ゴーレムを作成しないといけないのだ。
その材料の確保の為にも、金がいる。ダンジョンの品ではなく、店売りの宝石なんかも必要になるのだ。
現状、何かあったら自分が走って向かうしかない。全力で走ればすぐだろうが、数秒が命を左右するかもしれないのだ。
……今年の結婚記念日に、両親はお金の事情で旅行を取りやめたと聞く。
だがもしもあの日出かけていたら───。
「とっ」
『精霊眼』が反応し、飛んできた石を左腕で叩き落とす。
通路の先から、3体の怪物が姿を現した。
『ブォ、ブォ……!』
『ブフゥゥゥ……!』
豚の頭に、でっぷりとした腹。それでいて強靭な四肢。オークである。
あの日両親が出かけていたら、こいつらの氾濫に巻き込まれていたのだ。そう思うと、ゾッとする。
『ブアアアアア!!』
雄叫びをあげて、2体のオークがこちらに走って来る。残り1体は、人の頭ほどもある石を振りかぶっていた。
だが、それが放たれる前に1本の槍がその個体の頭を貫く。白蓮だ。
なまじ美少女の姿にしたせいで、前衛に置きづらくなったゴーレム。だが、こうして援護を任せられるのは大きい。
剣を構えながら踏み込み、オーク達と間合いをつめる。
『ブガァ!』
振り下ろされた2つの斧。それを、両手で握った剣の一閃で跳ね返した。
『ブギャ!?』
驚愕の声をあげる右の個体の腿を切り裂き、返す刀でもう1体の左腕を斬り飛ばす。
右の個体が跪いた直後、その頭蓋に投げ槍が飛来。赤い花を咲かせる。
隻腕となった最後の1体が雄叫びをあげて斧を振るってくるも、籠手で難なく受け止めた。そのまま喉に剣を突き立て、横に引き裂く。
返り血を風で弾きながら、残心。3体とも塩に変わったのを確認して、小さく息を吐いた。
すぐに塩の中からドロップ品を回収。コインが2枚と、豚の頭蓋骨みたいな結晶が1個。
運が良い。この結晶はドロップしにくいのだが、その分高く売れる。
「お疲れ、白蓮」
投げ槍を回収していた白蓮が頷き、その背のリュックにドロップ品をしまった後はまた1人と1体で歩き出す。
そのまま1時間程いつもの様に探索を進め、途中でボスモンスターである『オークチャンピオン』を見かけたので撤退。投げ槍で足止めしている隙に、機動力と体力で振り切った。
後は自衛隊に任せて、ストアを通して公式の販売サイトに今日の収穫を出品する。
今の相場を考えれば、恐らく諸々合わせて『30万』は値がつくはずだ。1時間の稼ぎとしては、十分すぎる。
自衛隊がダンジョンを封鎖したので、今日はもう帰るとしよう。
「行こう、白蓮」
着替えを済ませ、無言で頷く黒騎士姿のゴーレムと共に家路へついた。
ようやく慣れ始めた、冒険者としての生活。
ドロップ品を売れる様になったから、稼げるようになった。白蓮という、美しいゴーレム……同好会風に言うと、『ホムンクルス嫁』もいる。自分のレベルも上がってきて、今は『10』だ。
順調ではあるのだが、1つだけ悩みがある。
「明日は、月曜日か……」
人間の友達が、いない事だ。
そういう点では、つまらない日常である。
……まあ、巨乳美少女とエッチ出来るからいいか!
父さん、母さん。たぶん孫は見せられない事を、どうかお許しください。
今は友達がいなくても、人間の恋人がいなくても、楽しめる事は多いのだ。
なんだかんだ、この日々も悪くないないもんである。
読んでいただきありがとうございます。
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