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第二十八話 獅子と蟻

第二十八話 獅子と蟻




 ダンジョンに踏み込めば、硬い地面の感触が足に伝わってくる。


 視線を巡らせれば、そこは薄茶色の土や岩で出来た洞窟だった。壁や天井の凹凸は激しく、それとは反対に地面だけは平らにならされている。


 地下なのだろうか。空気はじっとりと湿気ており、肌に纏わりつく様だ。


 このダンジョンも、自衛隊が用意してくれる明かりはない。だがそれはここのモンスターが知恵を巡らせて破壊しているからではないと、知っている。


 エリナさんに声をかけ、『白蓮』を起動。ゴツゴツとした岩の身体を得た『ホムンクルスもどき』の頭に、軽く触れる。


 前回、トレントのダンジョンでは1、2発攻撃を耐えるのが精一杯だった。はたして、今回のダンジョンでも壁役として機能してくれるといいのだけれど……。


 そう少しだけ不安を抱きつつ、白蓮にモンスターの情報を伝えた後、イヤリングでアイラさんに呼びかける。


「準備、完了しました。行けます」


『よろしい。では前進だ。まずはいつも通り、自衛隊のペイントを見つけてくれたまえ』


「了解」


「よっしゃー!行くどー!!」


 エリナさんの声が、洞窟内に反響する。


 思わずジト目を向ければ、自称忍者は『テヘペロ』で返してきた。実際可愛いのが腹立つ。それはそれとして、ここのモンスターを考えるといつも以上に『大声』は注意しないといけない。


 ……でも、まあ。レベル上げを考えるのならモンスターとの遭遇が多少増えても問題ないか。塩を持ち去るのは、絶対にNGだけど。


 そう思いながら剣を抜き、前にでた時だった。


「じゃあ、いつも通りに」


「あ、待って京ちゃん」


「はい?」


「何か向かって来てる」


 真剣な表情のエリナさんに、こちらも彼女が視線を向ける方向に剣を構えた。


 ランタンとペンライトで光源は十分。この洞窟も、トラックが通れる程に広い。片手半剣を振り回した所で、よほどのヘマをしなければ切っ先がどこかに引っかかる事はないだろう。


「数は」


「わかりづらいけど、1体だと思う。正面から来るよ」


「わかった」


 そうして前を睨みつけていれば、カサカサという小さな足音が聞こえてくる。


 同時に、魔力の動きを視認。『精霊眼』が視せた予知も合わせて、飛来する攻撃に風を纏わせた剣をぶつけ迎撃する。


 飛んできたのは、薄黄色の液体。それを風で吹き散らせば、洞窟の床や壁に当たりジュウジュウと、嫌な音を出した。


 アレは酸だ。ストアの情報通り、ここのモンスターは強い酸を使う。


 このランクに来る覚醒者なら直撃しても軽い火傷で済むらしいが、受けようとは思わない。


 そして、自分に攻撃してきた怪物がランタンの明かりの中へと跳びこんできた。


『ガアアアアッ!!』


 響くのは獣の声。テレビで、あるいは檻越しに聞く事はあっても、何の壁もなしに正面から受ける事は日本だとまずないだろう雄叫び。


 百獣の王があげる、本能を刺激するあの咆哮が洞窟の中に轟いた。


 しかし、人工の明かりに照らされたその姿は、王というよりも亡霊じみたものへと変わり果てている。


 王の象徴とも言える鬣はじっとりと垂れ下がり、もはや他の体毛と見分けがつかない。あばら骨が浮き上がる程に痩せこけ、目は白く変色している。


 だが、ここまでならただの老いた獅子に過ぎない。これを怪物足らしめているのは、その下半身だった。


 巨大なアリ。牛ほどの大きさを誇るアリの身体と、獅子の上半身が繋がっている。


 ライオンとアリの融合体。ありえざる異形。飢えた怪物。


『ミルメコレオ』


 獣の雄叫びをあげながら、モンスターがその前脚を振り下ろしてくる。


 単純に体がでかい上に、やせ細っていながらその膂力は実際の獅子を上回るのがミルメコレオだ。


 迫る鋭い爪に対し、左腕の籠手を掲げる。重い衝突音が響き、ズシリとした衝撃がきた。


 しかし、耐えられない程ではない。体格差で押し出されそうな体を風で支えながら、右手の剣で相手の喉を突く。


 鬣を掻き分け、鋭い切っ先が獅子の首を貫いた。肉を穿ち、骨を刀身がかすめた様な感触が柄から伝わってくる。


 明らかな致命傷。だがミルメコレオは止まる事なく左前脚も振り上げ、その爪をこちらの頭蓋目掛けて叩きつけにくる。


「この……!」


 刀身を捻りながら右肘で硬い肉球を受け止め、奴の腹を蹴り飛ばした。浮き上がったあばら骨を、その際にへし折る。


 僅かに浮いたミルメコレオの巨体。その体格に反しカサカサと微かな音を後ろ脚からさせて下がった怪物は、血の泡を口端から垂らしながらアリの下半身をこちらに向けてくる。


 蠍の様な体勢になったミルメコレオだが、臀部から酸を出す前に鼻を棒手裏剣が貫いた。


『ゴバァッ!?』


 空気の抜ける様な悲鳴をあげ、バランスを崩す怪物。その隙に一足で間合いを詰め、脳天目掛けて両手で握った剣を振り下ろした。


 ぐちゃり、と。頭蓋骨を叩き割りその下の脳を破壊する。


 剣を構えなおしながら2歩後退し、残心。頭を失った身体が数秒ほど奇怪に動いた後、怪物の巨体は同質量の塩に変わった。


 小さく息を吐くと同時に、身体に違和感を覚える。この感覚は……。


『おめでとう、京ちゃん君。レベルアップだ』


「おお」


 オークの氾濫で『LV:10』になったが、遂に上がったか。


「おめおめだよ、京ちゃん!!」


「どうも。それにしても、心なしかレベル10から11にかかる経験値?的なものが増えている気が……」


『恐らく、気のせいではないだろうね。君の様に感じる人は多い。加えて言うと、レベル20を超えた時も必要経験値がぐっと増える感覚があるそうだ』


「うへぇ……」


 偶に見かけるラノベみたいに、雑魚敵だけ地道に倒して行けば安全に100レベ……とかならんものかね、本当に。


 ネット上の噂なのでどこまで信じていいかわからないものの、冒険者の『トップ層』と呼ばれる人たちは現在『18~25』だとか。


 そこに追いつくのは、随分と先になりそうである。


『そう気落ちするな京ちゃん君。君のレベルアップペースは十分早い。噂では、ステータスの成長性が高いほどレベルが上がるのも早いと聞くが……どうだね?』


「いや、どうと言われてもわかりませんよ。そんなの」


 そもそも比較対象がエリナさんしかいないし、彼女と自分ではモンスターに与えるダメージ量が違う。得られる経験値が違って当たり前だ。


「でも、自衛隊とかレベルが凄い事になっているんじゃないですか?機関銃とか大砲でたくさんモンスター倒しているらしいですし」


『うーん、どうなのだろうね……?確定情報ではないが、『魔装』や『素手』、『スキル』以外で殺傷したモンスターからは大して経験値を貰えないなんて話も聞いた事がある……』


「あー、そううまい話も無いって事ですか」


 世の中、中々思い通りにはいかならいらしい。


『まあ、あくまで噂だからね。私にも確信はないよ』


「なんにせよ自分のペースが大事だよ京ちゃん!」


「うん。それはわかるんだけど、もうちょっと声のボリュームを……」


「ごめーん……」


「いや、謝るほどでは……」


 眉を八の字にして手を合わせるエリナさんに、首を横に振る。


 このダンジョン、というかミルメコレオは『音と臭い』で人間を見つけ襲うのだとか。


 視力が大きく退化している代わりに、嗅覚と聴覚が鋭いらしい。普通のダンジョンなら問題ない声量も、ここでは奴らを引き寄せてしまう危険がある。


 幸い、自分と奴らの相性は悪くないので多少なら問題ないが。


 そう考えながら、塩の中からドロップ品を拾い上げる。残念な事に、ただのコインだ。


 ミルメコレオのドロップ品は2種。コインでも研究室が高値で買い取ってくれるが、メインの目標はもう1つの方だ。


「取りあえず、行きましょう」


「おー」


『おー』


 ……三好さんより、エリナさんの方がアイラさんの妹っぽいと思うのは流石に失礼だろうか?


 何はともあれ、少し進んだ所に自衛隊のペイントを発見。


 ミルメコレオはまるで飢えた獣の様に貪欲であり、少しでも『異物』の臭いを感じるとかじりつく。照明が設置できないのは、噛み砕かれてしまうからだ。


 ペイントも例外ではない様だが、岩肌に塗っているので多少齧られたり引っ掻かれたりする程度。読む分には問題ない。


「A-14らしいっす、パイセン」


『うむ。ではそのまま直進し、次の十字路を超えた後丁字路で左に曲がってくれたまえ』


「うっす」


「了解」


 イヤリングからの声に答え、前進。


 暗闇の中を、ランタンとペンライトの明かりを頼りに歩いて行く。静寂に包まれたダンジョンは、自分達の足音が妙に大きく思えた。


 特に白蓮は重量の問題で、余計に気になる。


 多少の足音なら大丈夫とストアのHPに書いてあったが……それでも、気になってしまうものだ。


 戦っても倒せる相手。しかし、それでも油断は出来ない。あの酸を被るのは絶対に嫌だ。


 慎重に進んで行けば、アイラさんの言う通り十字路があり、それを超えて丁字の分かれ道に。


『左に曲がって少しすると、ちょっとした坂道があるはずだ。上からの攻撃に気を付けてくれ』


「はい」


 彼女に答え、剣を握り直しながら歩く。


 緩やかな傾斜にさしかかり、それも半ばまでいった頃。


「っ、京ちゃん。上から足音。数は2」


「了解……!」


 小声で返すが、自然と声が強張る。


 まるで狙ったかの様なタイミング。まったく、運がない。


 坂道の上から飛び出してきた2体のミルメコレオ。奴らは焦点の合わない目のまま、しかし顔だけは真っすぐにこちらを向けている。


『ガアアアッ!!』


 前脚を折りたたみ、雌豹の様なポーズをとるミルメコレオ。突き出された臀部は反り、先端を自分達に側に向ける。


 そして、間髪入れずに放たれる2つの強酸。飛沫を散らしながら降ってくるそれに、無言で剣を横薙ぎに振るった。


 刀身に纏わせた風で打ち払い、両脇の岩肌に酸を逸らす。左右からジュウジュウと溶ける音がする中、一息に踏み込んだ。


『ヴゥア!』


 酸による攻撃を防がれた事に動揺も見せず、牙を剥くミルメコレオ。奴らはこのランクのモンスターにしては珍しく、理性がない。


 ただ本能のまま、敵を噛み殺す。故に迷わない。


 右の個体が跳ねる様にこちらへ跳びかかり、もう1体は壁に張り付いて側面へ回り込んできた。


 両の前脚を振り上げ、圧し掛かりにくるミルメコレオ。その顔面に、柄頭を叩き込む。


 ぐちり、と。嫌な感触が返ってきた。こいつらは『しぶとい』が、『硬くない』。一撃で頭蓋を砕ける。


 右の個体を殴り飛ばした直後、左から跳びかかるもう1体のミルメコレオ。だが空中で側頭部に棒手裏剣が突き刺さり、バランスを崩した事で鋭い爪は空を切った。


 その隙にノーガードの顔面へ、今度は左の拳を打ち込む。鈍器代わりになる程重装甲の籠手は、柄頭同様に奴の頭蓋骨を容易く粉砕した。


 べちゃりと壁に叩きつけられた身体に、念のため剣を突き立てる。直後、


「っ、京ちゃん後ろからも来た!」


「白蓮、回れ右して突撃!」


 エリナさんの言葉に、考えるより先にゴーレムへ指示を飛ばす。事前に決めておいてよかった!


 猛スピードで突っ込んで来たミルメコレオと、白蓮が衝突する。振るわれた前脚をミトン型の手で掴み、手四つの体勢で膠着した。


 その間にエリナさんが忍者刀を手に間合いへ跳び込み、ヤカン頭を噛み砕こうとしていたミルメコレオの眼球へ突き立てる。


 視力を失っていようが、そこから脳への『穴』が消えたわけではない。刀身はずるり、と潜り込み、容赦なく内部を引き裂いた。


 大きく捩じられてから抜かれる刃。脱力したミルメコレオの身体が倒れ伏し、塩へと変わる。


「サンキュー京ちゃん&びゃっちゃん!」


「いえ……」


 最初に倒した2体に視線を戻しながら、どうにか答える。滅茶苦茶びっくりした。心臓に悪い。


 足元の個体と、上に吹き飛んで坂道をずり落ちてくる個体。両方が塩に変わるのを見届けて、ようやく剣を下ろす。


 構えを解き、一息。……1本道でもないのだから、後ろから敵が来るのも当たり前だ。もっと冷静に動ける様にならねば。


「おつかれ京ちゃーん」


「そちらこそお疲れ様。怪我は?」


「ないよー。びゃっちゃんのおかげだね!」


「なら、良かった」


 無傷でVサインをするエリナさんに頷き、白蓮の状態を確認する。


 ゴーレムボディの方は問題ない。だが、組み合った時頭部が無防備になったのは懸念すべきか?


 ただのヤカンを改造した物なので、子供でも金槌や石で破壊出来てしまう。強度を上げるか、白蓮用の装備など別の対策を講じるべきかもしれない。


 そんな事を考えながら、塩の山に視線を向ける。


「あっ」


 2つはまたコインだったが、坂からずり落ちていたのはお目当ての物がドロップしたらしい。


 拾い上げたそれは乾燥した内臓……に、そっくりな見た目の『鉱物』である。


「アイラさん。目的の石、ドロップしました」


『でかした!!』


 声でっか。


『それは未知の鉱物でねぇ。銅に近い……はずなのだが、地球上のどの金属にも一致しない。まぁさにお宝だよ!!』


「あの、声抑えてもらえますか?」


『おっとすまない。だが君の剛腕ならミルメコレオも一発だろう?』


 テンション跳ね上がってんなー、アイラさん。


「いや、単純にうるさいので」


『エリナ君、最近京ちゃん君がつめたいのだか』


「慣れっすね!仲良しの証っす!」


『なるほど、これが友人同士のじゃれ合い……』


「………」


 ツッコミづらい。アイラさんの家庭事情を考えると、こんなやり取りすら意味深に思える。


 だが、ここはダンジョン。この思考も余分なものだと切り替える。


「取りあえず、エリナさんこれをお願い」


「オッケー」


 ドロップ品をエリナさんに預ければ、白蓮に貼り付けた鏡の向こうでアイラさんが自分の拳を見つめているのに気づく。


『……それにしても京ちゃん君。君のパンチ、本当にとんでもない破壊力をしているね』


「そんなにですか?」


『ああ。至近距離でショットガンをぶっ放すより威力があるんじゃないか?』


「いや、それは言い過ぎでしょう」


 いくら何でも、ただの拳が銃を上回ると思えない。


『おや、やけにハッキリ否定するね』


「え?いやだって、鉄砲ですよ?きっと、もっと凄い威力ですって」


 確かに自分の拳は、本気で振るえば人を簡単に殺傷できると思う。


 だが、ショットガンの方が強いに違いない。まあ画面越し以外に銃を撃っている光景なんて見た事ないから、予測だけど。


『……私には、君の攻撃の方が下手な銃器より高威力だと思うんだがねぇ』


「お世辞ですか?何も出ませんけど……」


『いや、まあいいか。京ちゃん君が全身凶器な事には変わらんし』


「全身凶器……やはり忍者か……!」


「ふざけてないで探索続けますよ」


 お馬鹿2名にそう言って、再び歩き出す。


 が、1分後。


「あ、京ちゃん。また敵だよ。数は2体」


「多いな、ここ……」


『あんまり冒険者が行かない、所謂『不人気ダンジョン』だからねぇ』


 レベル上げと資金稼ぎには、良い所なのかもしれないが。


 獣の雄叫びと虫の足音に辟易しながらも、剣を構えなおした。



*     *     *



 戦闘こそ多かったものの、ダンジョン探索自体は無事に終了。約2時間ほどで帰還した。


 金貨の様なコイン28枚。乾いた内臓みたいな鉱石16個。まさか、1回の探索で40体以上と遭遇するとは思ってもみなかった。


 おかげでレベルが更に上がり、『12』に。そこは嬉しいのだが、流石に疲れる。主に精神が。


「いやあ、大漁だね京ちゃん!旗掲げる?」


「やめて」


 なんでアイテムボックスに大漁旗入れてんだこの人。


 自称忍者の奇行に頬を引き攣らせていれば、ストアの買い取りコーナーでの手続きが終わったらしい。番号札が呼ばれたので、カウンターに向かう。


「では、こちらのドロップ品は全て指定された研究室に販売……という事でよろしいでしょうか?」


「はい。お願いします」


 ドロップ品の売買自由化と言っても、許可が下りたのは一部。植物系を中心に、毒や生態系の破壊につながる物は禁止されている。まあ、一部は許可されているが。トレントから落ちる苗木なんかも、OKだったはず。


「ドロップ品の審査などで手数料が発生しますが、ご理解ください」


「はい」


 ……なお。自由化とは言いつつ手数料その他が結構取られたりする。


 ストアの運営費用とか考えたら仕方ないのかもしれないが、少し悲しい。


「アイラさん。エリナさんがそちらに持ち帰るので、後で確認をお願いします」


『うむ!待っているよ!!』


「それと……下世話な話なんですが」


『なんだね京ちゃん。私のパンティの色か?この変態め!』


「ん?パイセンの今日のパンツは白に青いリボンの」


『京ちゃん君!どんな質問なのかな!!??』


 だから声がでけぇ。あと、白に青いリボンなのか……。


 少し悶々としながらも、どうにか声だけでも冷静さを取り繕う。


「今回の報酬って、どれぐらいになるんですか?」


 ストアから貰えたのは、討伐報酬その他含め『3万円』。正直、危険に見合うかと言うと微妙である。


 しかし、ドロップ品は別である。はたして幾らで買い取ってもらえるのか……。



『そうだね。たぶん100万ぐらいかな?』



「ひゃ、ひゃくぅ!?」


 やべぇ、思ったより大きな声が出た。


 慌てて周囲を見回した後、ストアの壁際に移動しながら小声でイヤリングに話しかける。


「そ、そんなに貰えるんですか……!?」


『未知の鉱物だぞ?むしろこれでも安い方だ。まあ、相場なんか各大学やら何やらで話し合った結果なのでね。我慢してくれ』


「我慢というか、むしろ申し訳ない様な」


『あ、手数料はババ様……教授が受け持つそうだ。明日入金するから、楽しみにしていたまえ』


「は、はい。ありがとうございます」


 ……え、税金とかどうなんだろう。というか、青色申告とか影響ある?


 か、帰ったら父さんに聞こう。それでわかんなかったら、ネットとかで調べて……アイラさんって、税金関係も知っていたりするかな?


『満足してくれたのなら何よりだ。今後も頼むぞ、京ちゃん君!』


「はい!頑張ります!」


「私もやるぞー!」


 何にせよ、貰えないよりは貰えた方が良い。古事記にもそう書いてある。


 2時間で100万円とか、金銭感覚狂いそうだけど。これは、冒険者業で億万長者も本当に狙えるのでは?もう高校行くのやめてこっちに専念しようかな……。


 そう頭を欲望が支配するも、慌てて首を振って理性を引き戻す。


 今回の探索は、戦闘回数こそやたら多かったけど順調すぎた。だが、毎回こうも上手くいくとは限らないと肝に銘じておこう。油断慢心、駄目絶対。


 深呼吸をして、脳みそと心臓を落ち着かせる。ダンジョンに入った後は、いつもより少し思考がクリアになる……と、思う。たぶんだけど。


 集中力が上がると言うべきか。何にせよ、その影響か道中思いついた事がある。



 アイラさんと、三好さんの件だ。



 更衣室で着替えを済ませ、エリナさんと一緒にバスへと乗る。


 教授への報告をしに行くとアイラさんとの念話が切れたので、早速隣に座る彼女へ視線を向けた。


 ……それはそれとして、相変わらず距離が近い。


 なんでエリナさんは毎回隣に座って来るのか。肩が触れそうで、ちょっとドキドキしてしまう。


「あの、エリナさん」


「んー?なあに、京ちゃん」


 自分が思いついたのは、ごく当たり前の解決手段。でも、きっとまともにはまだ実践されていない事。


 アイラさんはあの性格だし、お婆さんやエリナさんは彼女に立場が()()()()()()


 ほぼ部外者の自分だから、まだ『余地』を作れる……かもしれない、方法。


 だけどなぁ。『コミュ力たったの5』でしかない僕が出来るのかは、甚だ疑問である。というか、考えただけで胃が痛くなりそうだ。


 正直、首を突っ込むだけ余計なお世話になりそうだけど……アイラさんは恩人であり、仕事仲間なのだ。


 少しぐらい、手助けしたい。


 下手な介入は事態を悪化させるだけだけど……この方法なら、悪化はしないと思うから。


 そう自分に言い聞かせ、重い口を開いた。



「三好さんの……三好ミーアさんの連絡先って、わかる?」


「え、わかんない」



 ……待って。計画が一歩目でとん挫したんだけど。


「だって先輩、数年前にスマホを買い替えた時に電話番号もメールアドレスも変更しちゃったし。お婆ちゃまもたぶん知らないと思うよ?先輩のご両親なら知っているかもだけど、教えてくれるかなぁ。というか、突然どうしたの?」


「……いえ。何でもないです」


「おー!京ちゃんお口が富士山みたいになってる!『へ』の字の上位版だ!」


「気にしないでください」


「また敬語だ!なんだ京ちゃん!挨拶か!挨拶して決闘か!?」


「違います」


 ……計画が始まる前から失敗し、ちょっとだけ『じゃあしょうがないかー!』とホッとしたのは内緒だ。


 この先、自分が三好さんの連絡先を独自で入手できると思わないし。やっぱりアレコレ考えるのはやめである。



*     *     *



『矢川京太』

LV:12 種族:人間・覚醒者


筋力:37 (成長性:A)

耐久:37 (成長性:A)

敏捷:40 (成長性:A)

魔力:40 (成長性:A)


スキル

『精霊眼』

『魔力変換・風』

『概念干渉』


固有スキル

『賢者の心核』





読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。励みになっております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


Q.ミルメコレオの足音って『カサカサ』なの?

A.私は蟻エアプなので断言できませんが、少なくとも作中のミルメコレオは『カサカサ』です!そういう事にしといてくだせぇ。


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― 新着の感想 ―
三好ミーアルート 突入しちゃった? まあ、多分ミーア嬢はあれだね 陰ではお姉ちゃん好きを拗らせてると思うな
最後のステータスですが、タイトルにちなんで まるで成長しないコミュニケーション能力も書いて欲しいです
成長幅ってレベル×1.nって言ってたからてっきりレベル上がる毎に加速度的に成長幅が上がってくのかと思ったけどずっと1から2に上がる時の上昇率なんだ? でも最初3あがってなかった?それって初期レベル1…
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