第二十七話 家庭の事情
第二十七話 家庭の事情
エリナさんの話を、自分なりに要約する。
まず、エリナさん達の祖父母は仕事の都合で日本に移住したらしい。
そうして、娘さん……彼女らにとっては母親にあたる人と、三好という家でお見合いがあったそうな。
結構良い家同士の婚姻で、美男美女の夫婦だった事もあり周囲は祝福。傍から見れば良縁であるのだから、そりゃそうである。
無論、本人達の恋愛感情も考えた上での結婚だった。そう、『だった』のだ。
しかし、母親は浮気していた。
アイラさんと三好さん……この場だけ、ミーアさんと呼ぶが、この2人は『種違いの姉妹』だったのである。
それが発覚したのは、アイラさんの『生物学的な父親』が母親の所に金をせびりに来たのが原因だった。顔は良いけど性格はクズと、珍しくエリナさんが吐き捨てる様に言う程の人である。
浮気相手と母親は学生時代に付き合っていたらしい。しかし、疎遠になっていたのが同窓会で再会して……だとか。
三好父は、妻の潔白を証明する為にDNA鑑定を複数の機関に依頼。だが、その全てが悲しい真実を示した。
アイラさんの父親は、浮気相手の方だったのである。
その後、母親側から離婚を切り出したあげく三好父を『家庭内暴力があった』として訴えた。
裁判はかなり長引いたものの、三好父が『もう疲れた』と言って離婚は成立。結構な額の慰謝料を手に、母親と浮気相手は去ったらしい。
……アイラさんの親権と共に。
しかし、そこで待ったをかけたのがお婆さん。アイラさんの言う『ババ様』である。
『子を育てるのなら、更生してからにしろ』
エリナさん曰く、ここまで怒りをあらわにしたお婆さんは初めてだったらしい。当然である。
そうしてアイラさんだけ祖父母の家で暮らし、母親たちは『子供への面会』を口実に彼女らの家へ来ては金をせびっていたそうな。
それが3年続き、お婆さんが遂に『いい加減、しかるべき所に叩き込んでやろうか』と本気で検討し始めたそうだ。……アイラさんが、高校生の頃である。
母親とその浮気相手が、心中した。
大量に飲酒した後、車でそのまま海に飛び込んだらしい。2人の住んでいた家には遺書があり、内容は見るに堪えない物だったので詳細は省く。
資金援助を断ったお婆さんへの恨みつらみ……だけなら、まだ良かった。いや良くないけど、書かれた本人は真顔でスルーしたらしい。
問題は、アイラさんにあてた言葉。
『貴女も一緒に死にましょう?待っているわ』
これを読んで、流石にお婆さんも倒れてしまったらしい。この少し前に、お爺さんが病気で亡くなったのもあったのだろう。よもや、娘が孫にこんな事を言い残して死ぬなんて、と。
話を戻そう。これが何故、姉妹の確執に繋がってしまったのか。
「これは、私の想像が多分に入るんだけどね?」
そんな前置きの後、エリナさんが語った予想。
アイラさんは、自分の出生や母親からの言葉と視線に強いコンプレックスを持っている。
対してミーアさんは、『母は姉を選んだ』と思っている。
虐待被害を受けている児童でも、親に対して強い愛情や執着を持つ事は珍しくない。控えめに言って下衆外道の類であろうと、子供にとって親とは特別なのだ。
そのうえ、浮気が発覚するまで彼女らの母親は本当に……理想的な『母』だったらしいというのもある。
そこに昔から優秀だったらしいアイラさんの成績も加わって……互いに『相手を妬んでいる』という状況になったのだとか。
……エリナさん曰く、『母親は離婚する時に姉妹へ何か言った』様なのだ。その内容は、不明らしい。
* * *
以上、アイラさんの過去とも言える家庭事情を聞いて。
「吐きそう……」
『耐えて京ちゃん!ひっひふーだよ!!』
「それ出すやつじゃん……」
『ツッコミのキレまでなくなってる!?』
何というか、興味本位で聞く様な話ではなかった。
笑い話にもならない。こんな重すぎる話を聞かされて、いったいアイラさんと次どんな顔をして会えばいいのか。
「それにしても、高校生……」
『うん。そのぐらいの頃に、ね』
「じゃあ、アイラさんが女子小学生と取っ組み合いの喧嘩になったのも、それが原因ですさんでいたから……」
『いや。それは公園でポケ○ンカードバトルしてて、パイセンが大人気ない手を使った結果リアルファイトになっただけだよ。決まり手は顎への頭突きだったって』
「あ、うん。そう」
アイラさんの残念エピソードが清涼剤になる事ってあるんだ……。
『ちなみにだけど、先輩の父親の三好さんも再婚して妹さんが産まれたらしいよ!』
「うわぁ……」
母親の浮気が原因で離婚して、そこから義理の母に腹違いの妹て。
『お爺ちゃまとお婆ちゃまが、申し訳なさで新しい結婚相手を全力で探したらしいんだよ。良い人らしくって、先輩にも良くしてくれるし家族仲はいいらしいんだけど……』
「そりゃ拗れますよね」
たとえ良い人達だろうと、気まずいなんてもんじゃない。
『お婆ちゃま達の世代とか産まれだと、こういう話はケジメとしてもっと良いお見合い相手を探してくるのが定番だったからねー……。あ、先輩もお婆ちゃま達の所で引き取るって話だったけど、先輩が断ったらしいの。あの人は、全寮制の中学高校を出て今大学生で1人暮らしなんだよー』
「さっきから拗れる要素しかないんですけど?」
『だからこうなっているんだよね!!』
とても元気なお返事がきた。ですよね。そりゃそうですよね。
ため息をついて、天井を見上げる。
「……2人は、お互いの事を嫌っているわけじゃないんですよね?」
『うん。むしろ大好きだと思うよ?パイセンとか、部屋の壁に先輩の等身大写真を飾っているし』
「ちょっとそれは引く」
『好きだからこそ、意識しちゃうんじゃないかなー』
「……なるほど」
取りあえず、気になっていた事は聞けた。
そして、自分がすべき事も既に思いついている。
「エリナさん」
『なぁに?』
「アイラさんの残念エピソードを沢山聞かせてください。今聞いた話が上書きされるぐらい」
『任せろー!パイセンの珍プレー好プレーな話なら山ほどあるからね!!』
自分がすべき事。それは今聞いた話で、アイラさんへの態度を変えない事である。
嫌だぞ、ダンジョンでナビしてもらうのにお互い変な空気になるの。ちょくちょくゲームして遊ぶ仲だし。
であれば、ここはあの人の残念エピソードで印象を初期化するしかねぇ……!
一瞬だけ、自分の中の天使が『ここは男らしく、2人の仲を取り持って姉妹を仲直りさせるんだよ!』と言ってきたが、悪魔と一緒に理性でボコボコにした。
そんなコミュ力と行動力があったらね……教室で未だにボッチじゃないんですよ……。
というか、こういう事に第三者が首を突っ込むと大抵碌な事にならない。物語の主人公でもなければ、余計なお節介で事態を悪化させるだけだ。
つうか、行動力の化身であるエリナさんがいてこの現状なのが事態の面倒くささを物語っている……!!
『まずねぇ。パイセンは中学の頃にクラスの自己紹介で自分の事を『シルバーバレット』って名乗ったらしいの!!最強のヴァンパイアハンターって!!』
「多方面に飛び火しますけど、まずエリナさん大丈夫ですか?致命傷受けてたりしてません?」
『ん?なんで?私はこの名乗り凄く格好いいと思っているんだよ!!』
「そっすか」
自称忍者って強い。数年後が楽しみである。
『この話には続きがあってね!パイセンったら次の日に陰陽師がどうたら言い出して2日目で設定の矛盾が出てきちゃったの!』
「きっつ……」
あれ、もしかしてこれ僕にもダメージこない?
………中学の頃に書いた黒歴史ノート。今度燃やそ……。いやいっそ錬金術で分子レベルまで分解を試みた方が……。
* * *
翌日。ダンジョンストアにて。
『準備は良いかね、京ちゃん君、エリナ君』
「おっすパイセン!!」
「はい。……あの」
『なんだね京ちゃん君。私のスリーサイズでも聞きたいのかい?残念だがそれはトップシークレットなんだなぁ、これが!思春期もほどほどにしておきたまえ!はっはっは!』
「アイラさんって、中学の頃『シルバーバレット』兼『安倍晴明の生まれ変わり』兼『名前を遺さなかった円卓の騎士』を名乗っていたって本当ですか?」
『すぅぅ……京ちゃん君。その話は誰から聞いたのかな?』
「私が喋りました!エッヘン!!」
『エリナくぅぅぅん!!』
イヤリングから響く慟哭。
うん、いつものアイラさんだな!
『5百年後ぐらいに死んだら、安倍晴明に生まれ変わって吸血鬼退治して転生して円卓の騎士になってやる……!!そうすれば黒歴史ではなく予言になるはずだ……!』
「まず5百年生きるつもりなんすね……」
『まあ、ハーフとは言えエルフだからね。実際、私の寿命がどうなっているのかわからん。老人がエルフになって若返った事例は聞くが、『覚醒の日』からまだ2年だからな』
「私は130歳まで生きるつもりだよ!!」
「細胞への挑戦かよ」
『おっほん!無駄話はこれぐらいにして、ダンジョンへ行こうじゃないか!そしてイイ感じに頭へダメージを受けてくるんだ!』
「記憶喪失になれと?」
『うむ!!!』
「流石に否定してください」
口を『へ』の字にしながら、ゲートを前に装備の最終確認を終える。
「では行くぞ京ちゃん!進軍じゃああ!!」
「うん」
エリナさんがこちらの肩に手を置いたのを確認し、白い扉を潜る。
───ドロップ品の販売が許可されてから、初のダンジョン探索が始まった。
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