第二話 冒険者試験
第二話 冒険者試験
国が出した冒険者になる為の条件。それは『24時間以上の講習』と『体力試験のクリア』、及び『自衛官同行のもとダンジョンの探索を終える』事である。
年齢どうこうの条件は別として、共通となるのはこれだ。
そんなわけで、電車とバスを使って冒険者講習の会場に通う事に。
1人で。
……別に寂しくなんてない。今の世の中、スマホがネットに繋がれば暇つぶしに事欠かないのだ。
決してバスの中にいた友人グループで来たのだろう人達から、極力距離を取っていた事に何かしらの意図はない。ただの偶然である。
そもそも?僕は遊びで冒険者になりに来たわけではないわけで?友達とお喋りとか別に興味ありませんし?
……やっぱつれぇわ。
何が辛いって、講習中その人達が後ろの席だったというのがね。3人がけの机で、自分の両サイドは知らないオッサン達だ。
県外と国外に行ってしまった友人達がいれば、この様な思いをしなかったのだろうか?いや2人とも覚醒してねぇから無理だわ。
しかし、可能性はあるのである。というのも、『覚醒の日』以降に覚醒する人はいる。
最初は50人に1人の割合だったのが、1年後には30人に1人になったのだ。流石に現在は増えるペースが落ちて、あまり数字に変動はないけど。
っと、思考を別方向に飛ばすのはここまで。教官が入って来た。
これも冒険者、そしてダンジョンという夢のある『非日常』への第一歩。
さあ、どんなロマン溢れる話が聞けるのか!
「えー、では。最初に冒険者活動における税金についての講義をしたいと思います」
ロマンの欠片もなかった。いや重要だけれども。
* * *
青色申告、むずい。
社会人って毎年こんな面倒な事やっているのか。帰ったら父さんの肩、久々に揉もうかな……。
税金云々に始まり、冒険者免許の更新費用。ダンジョン内での注意事項。免許を紛失した場合や、ダンジョン関連の仕事中に発生したトラブルについて。数日間に分けてそんな講習は続いた。
ダンジョン法が出来て、およそ1年。その間に先輩達の周りで起きた法的問題が色々とあったらしい。
いや本当に、夢も希望もない話をされたわけだが。必要な事なので頑張ってノートには書いた。幸い、『どこが試験に出る』かを講習中に教えてもらえるので筆記で落ちる事はないだろう。
講習の後半では、遂に『モンスター』や『ダンジョンの内部』について触れる様に。
実際にダンジョンへ入った自衛隊の人達の話や、先に冒険者になった人達の体験談。そのビデオを解説付きで見る授業だ。
大雑把に纏めると、『ダンジョン内は外と電波が遮断される』『一般公開されるダンジョンは自衛隊によりマップが作成済み』『ダンジョン探索は自己責任』というもの。
それと、『ダンジョンに出てくるモンスターはダンジョンストアで公開されているので、入る前に必ずチェックする事』等。
『ダンジョンストア』
ダンジョンからモンスターが出て来た時への対策として、周囲をコンクリの壁で囲っているのだ。
そこに間引きのため来る人用に受付や売店、そして迷宮内で手に入れた物の買い取りコーナーが置かれている。
なお、当初『ゲートを丸々コンクリで埋めればよくない?』と考えられ試した所、翌日にはコンクリの外側に再出現していたそうな。どうも、一定以上の空間と『出口』がないと位置がずれるらしい。
いや本当に、摩訶不思議なモノである。ダンジョンも、そのゲートも。
閑話休題。ダンジョンストアにある『URL』から、出現するモンスターについて確認してから入る様に、耳にタコができる程に聞いた。情報は最強の武器なんて、大昔からよく言われている。
こういう話は、ゲームの攻略本を読んでいる様で少しワクワクした。気が緩んでいると言われたら、否定できないかもしれない。
そんな後半は楽しかった室内での講習も終わりを迎え、体力試験に。
内容はまず、『3000メートルを、4キロの鉄棒をもって12分以内に走り切る』というもの。
はっきり言って、覚醒する前の自分なら無理だ。ガムテープで束ねられた鉄パイプを渡され、3000メートルなど。
しかし、今の身体ならば。
───パァン!
万が一にもフライングにならない様、合図から半瞬遅れて走りだす。
他に走り出した人達をあっという間に置き去りにし、トップへと躍り出た。そのまま一切減速する事なく、ゴール。周りに迷惑がかかるかもしれないから、『風』は使っていない。
ゴール地点にいた教官が、ストップウォッチと自分を何度も交互に見ている。その様子に少しだけ気分が良くなった。
それから少しして他の受講者もゴールし、落第は0人。やはりというか、受講料が取られるのに『思い出作り』って人はいなかった様だ。
それはそれとして、1位である。これまでの人生、スポーツでトップだった事などないので内心でドヤ顔が止まらない。顔は、どうにか無表情をたもっているけど。
今の自分の3000メートル走のタイムは、素の状態で約5分。余裕で『かつての』世界記録を超えている。両親に冒険者試験を受ける許可を貰えたのは、これが一番の理由だ。
覚醒者の身体能力は、基本的に非覚醒者よりも高い。そこに、『スキル』という超常の力が加わる。
『固有スキル:賢者の心核』
賢者の石。錬金術における至宝として有名な石と、自分の心臓は同じ力を持つ。
その血潮は生命力の塊であり、魔力は無尽蔵に湧きで、あらゆる病も呪いも傷も癒す事ができる。
こと持久力という点に置いて、チートもチート。3000メートルを100メートル走の気分で走ろうと、汗すら掻かない。それでいて恩恵は他にもあるのだから、とんでもない『当たりスキル』と言って良いだろう。
……もっとも、現在の3000メートル世界記録は非公認ながら『1分ジャスト』と頭おかしい数字だが。これも、覚醒者の記録である。
覚醒者は公式大会に出られない。そう、去年あたりから各スポーツ協会が打ち出したのも無理からぬ事だ。勿論、抗議はあったらしいけど。
続いて、4キロの鉄棒を持った状態で10キロの水が入ったリュックが追加され、シャトルラン。
更に腕立て伏せ。腹筋。背筋などの各種目を行い───全て、受講者の中で1位。
「なんだよあいつ……!」
「ばけも、の……!」
「ぼ、冒険者って、こんな……!」
いやぁ、気分が良いなぁ!!
息も絶え絶えな他の受講者から向けられる化け物でも見た様な視線に、頬がにやけそうになるのを必死に堪えた。
ここで高笑いなんてしようものなら、あっという間にSNSで拡散され炎上するに決まっている。僕は詳しいんだ……!
何より……思ったのだ。これは、友達。もといパーティーメンバー集めのチャンスではないかと。
ここで受講するという事は、十中八九県内住み。その上結構な割合が同年代と見た。詳しい年齢は、喋った事がないからわからないけど。
もしかしたら、同じ高校の人がいるかもしれない。そこから仲の良い人も出来るのでは?
誰だって強い人と組んでダンジョンに潜りたいはず。つまり、ここで一目も二目も置かれたら『きゃー!京太くーん!』『一緒にダンジョンいこー!』となるのは間違いない。
え?そんな寄生じみた関係でいいのかって?それを言える人はね、誰とも喋らず周囲の喧騒を聞くだけの休み時間を経験した事がない奴だけだよ。あるいは孤独じゃなくって『†孤高†』な人。
何事もまず一歩から。寄生から始まる友情……あっても良いんじゃないかなぁ!?
……ない気がしてきたなぁ!流石にそんな関係は嫌だ。良い様に利用されるだけの未来が見える。
どうしよう。冷静になったらめっちゃ気分が萎えた。いや、うん。最後まで真面目にやるけども。
冒険者は現在、6つのランクに分けられている。ラノベでよく見るアレだ。最下級が『F』で、最上級が『A』。作品によってはその上に隠された『S』ランクとかあるやつ。絶対、これを決めた人は『こっち側』だと思う。
講習で聞いた所、この等級によって入れるダンジョンが決まるとか。
基本的に初心者は『F』スタートながら、講習や試験で優秀と判断された場合は『E』スタートとなる。自分が両親から冒険者になる事を認めてもらうには、『E』が必要なのだ。
なお、冒険者になった後にランクを上げるには『鑑定』で視てもらってレベルが一定以上になったとか、指定された課題をクリアする必要がある。
兎に角、体力試験は非常に優秀な成績で終わった。……はず。
ここの受講者だけ極端に身体能力が低いとかじゃなければ、大丈夫だ。筆記の方も、ネットで聞いていた通り真面目に講習を受けていれば問題ない内容だった。
故に、最後の課題は。
「───では、これから皆さんにはダンジョンに潜ってもらいます」
体力試験の翌日行われる、ダンジョン探索のみ。
県内の各講習所から集まった、筆記と体力試験を越えた者達。
前にテレビで見た、運転免許の試験会場っぽい場所だ。そこに自分を含めて50人前後がやってきている。
こうして見ると、女性の受験者も結構多い。パッと見、3割ぐらいだろうか?
覚醒者の場合、見た目や性別と実際の身体能力がかけ離れているなんて事はよくある。前に動画で、小学生の華奢な女の子が200キロのバーベルを持ち上げているのを見た事があった。
その辺、子供でも大人顔負けの膂力な子がいるから教育現場って大変そうである。高校生の身で言うのも、少し変かもしれないが。
何はともあれ、ここが正念場。さあ、初めてのダンジョン……開幕デストラップみたいな難易度はないと思うが、自分の能力はどこまで通用するのか……!
「では、早速2人組を作ってください」
開幕即死魔法……!?
慌てて周囲を見回すも、既にペアを組んでいると思しき人ばかりだった。そんな、事前に相手を決めていたのか!?ずるくない!?
ダンジョンに入る『パーティー』は、基本的に3人か4人。
というのも、ゲートを通るとダンジョンのランダムな場所に飛ばされるのだが、身体の一部を触れ合わせていると同じ場所に飛ぶらしいのだ。
その限界人数が4人。自衛隊の調査で5人の班で入ろうとした所、1人だけ全く別の場所にいたとか。
だがそれ以外にも、『ダンジョンの狭さ』などで推奨パーティー人数は変わったりする。ここのダンジョンは、3人制。引率の教官も含めると受験者は2人……!
その場で組むのだと思っていた。しかし、皆もう動いていたのだ。これが、『冒険者の事前準備』……!試験はもう始まっていたのか!
いやたぶんそこまで試験官も考えていないな?単に自分がコミュ力低い上に受け身だったせいだわ。
などと、セルフツッコミしている場合ではない。まずい、これはまずいぞ……!
どうしよう。流石に偶数だよね?50人ぐらいいたけど、51人とか49人じゃないよね?僕1人だけ余ったりしないよね?
そうなったらどうなるんだ?引率が2人になる?それともマンツーマン?どっちにしろ何か嫌だ!
冷や汗をダラダラと流しながら、視線を彷徨わせる。
お、落ち着け京太。同じ講習所にいた人なら、ワンチャン身体能力の高さアピールで組む事も……!
───ツンツン。
「え?」
突然肩をつつかれて振り返れば、そこには1人の少女がいた。
かなりの美人さんである。覚醒者は身体がシュッとするし、肌や髪のつやが良くなるから美形が結構いるが、この人はその中でも頭1つ抜けていた。
キラキラと照明を反射して輝く金髪をツインテールにしており、アーモンド形の大きな瞳はエメラルド色。
雪の様に白い肌に、すっと通った鼻筋。クールな印象を受ける顔立ちながら、口元は柔和な笑みを浮かべている。
その服装は、大正ロマンとでも言えばいいのか。赤い着物に黒の袴姿。足元は編み上げブーツと、この場では少々浮いている。
それでも似合っていると思うのは、彼女の美しさあってこそだろう。
あと、着物で分かり辛いがこの人結構胸がで───。
「ドーモ!!アイアム忍者!!一緒にダンジョン潜りませんか!!!」
いや声でっっっか。
読んでいただきありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。本当にありがとうございます。創作の励みになっています。どうか今後ともよろしくお願いいたします。
Q.主人公の固有スキル、人にバレても大丈夫?鑑定で見られて政府に目をつけられない?
A.その辺、大丈夫な理由はまた数話ほど後に説明させて頂こうと思います。