外伝26 最近の冒険者界隈
外伝26 最近の冒険者界隈
「野球……大会……?」
ジャンホール伯爵の遺産迷宮攻略が一旦休みとなった、土曜日。
11月もすっかり末で、随分と気温も落ちてきた頃に、ダンジョン庁から奇妙なメールが届いた。
悪戯メールの類かと思い公式のホームページやら何やら調べるも、どうやら本物らしい。
どういうこっちゃと、首を傾げる他なかった。
* * *
『別に不思議なことはない。前にやった覚醒者限定のマラソン大会の野球版さ』
「あー……」
ゲームをしながらアイラさんに尋ねた所、そんな答えが返ってきた。
言われてみれば、そんなのあった気がする。例の3人娘の1人が、獣人の女の子と首位争いしていたっけ。
……思い出される光景が揺れるお胸様や瑞々しい肌の太腿な辺り、自分はスポーツに関わるべきではない人間な気がする。
この前新作が出た『松尾スター・牛車ライドォ』をやりながら、若干の自己嫌悪で胸が痛んだ。
『松尾スター・牛車ライドォ』
京の都で賭け牛車レースの最中に降って来た隕石により、謎の惑星へと飛ばされてしまった松尾。
彼は故郷へと帰る為、その惑星で開かれているレース大会で優勝を目指す。フィールドに配置された様々な『スター牛車』に乗り込み、落ちているアイテムで牛車を強化。強化タイムが終わったら、最終ステージで他の牛車と様々な競技でバトルするのだ。
え?『エアラ●ダー』じゃねぇかって?ピンク色の知り合いはいないので、何のことやら……。
『どうやら、有名な冒険者に参加の打診をしているようだね。ダンジョン配信者とか、既に参加表明している人もいるよ』
『うおおおお!パイセン、その伝説パーツもらいうける!』
『ふはははは!私のドラテクをなめるなぁああ!』
アイラさんの牛車にエリナさんの牛車が体当たりを仕掛けているのを横目に、思考を巡らせる。
ダンジョン配信者……名前の通り、ダンジョン内の光景を配信している人達だ。
内部と電波は繋がらないが、映像を撮ることはできる。それを編集し、ネットにアップしているのだ。
自分も戦闘専門の配信者さんの映像を見て、時折スキル運用の参考にさせてもらっている。『概念干渉』とか、最初の頃は『これでどう戦えば良いんだ……!』って悩んでいたし。他の人の戦い方を見て、真似したものである。
しかし、ダンジョン配信者って『有名な冒険者』って言われる程の存在だったのか……。
「僕の見ているダンジョン配信者の人って、あんまり登録者いないっぽいんですけど……有名な人もいるんですか?」
『情弱、情弱ぅ!それは本気で言っているのかぁ?京ちゃんくぅん!』
『うおおお!くらえ、火遁の術!』
『無駄無駄ぁ!』
『ぐわぁああああ!?』
巨大な車輪になって無敵状態のアイラさんの牛車が、エリナさんの牛車とついでにNPCの牛車を轢いていく。
それを回避しながら、フィールドのアイテムを拾う。あ、伝説パーツ出た。これを集めると、『伝説の牛車』という強い牛車が手に入るのだ。
え?『やっぱりどう考えてもカ●ビィのエアラ●ダーだろ』って?すみません。僕まだ英語は日常会話も微妙なんで……。
これは『松尾スター・牛車ライドォ』。本当です。信じて。
『テレビ業界に進出した覚醒者も多いが、ネット業界を戦場とした覚醒者はもっと多いのだよ!なんせ覚醒者は顔が良いのが多いからね!』
「まあ、たしかに」
『私ほどじゃないが!私ほどじゃないが!!』
「まあ、たしかに」
『ほう。流石に京ちゃん君も認めざるを得ないか。私のクールビューティーっぷりに……!』
「画面越しだと残念感が出づらいですからね。黙って椅子に座っていればクールビューティーだと人を騙せると思います」
『どういう意味かね君ぃいいいい!?』
『京ちゃん隙ありぃ!』
「おっと」
『うわらば!?』
燃える牛糞を投げてくるエリナさんの牛車から離れ、ついでにアイラさんの牛車を攻撃していく。
別プレイヤーの牛車を攻撃すると、相手からアイテムが奪えるのだ。伝説牛車のパーツも奪ったり奪われたりするので、その辺は特に警戒が必要である。
『兎に角だねぇ。美少女やイケメンな冒険者が、あまりスプラッターなことにならないダンジョンを選んで映像をとり、それをネットにアップしているのさ。いつの時代も、安全圏から戦いを見て楽しむ者はいる。そして、映っているのが美男美女なら人気も出て当然さ』
「なるほど」
『ついでに言えば、海外のR18なサイトだとゴブリンやオークといった、比較的人型に近いモンスターを討伐する映像が流行っていたりするそうだぞ』
『パイセン!エッチな話は良くないと思います!』
『大丈夫。これR18Gな話だから』
『ならばよし!』
「本当によしか?」
『ミーアが召喚されないからセーフだよ?』
「貴女の基準こわれてませんか?」
でも一瞬納得しかけた自分がいる。
あの人、エッチな話になると秒で飛んでくるからな……空耳でも反応するので、もうそういう怪異なのかもしれない。
『それで京ちゃん、参加するの?その野球大会』
『京ちゃん君も東京で起きたスタンピードで後ろ姿が有名になったからね。それで参加の打診がきたのだろう。あと『Aランク候補』だし。いや、もうすぐ正式に『Aランク』だったか』
「はあ。まあ出ませんけど。野球大会」
『出ないの!?』
『君さんざん人に聞いておいて!?』
「え、すみません。ただの興味本位で質問してました」
『素直なのでよし!』
『よし!』
「どうも」
あ、もう1個伝説パーツ出た。あと1個で完成である。
「そういうエリナさんの所には来ていないんですか?参加しませんかってメール」
『さっき来たよー。そっこうで断った!だって……忍者は陰に生きる存在だから……!』
「貴女は忍者ではない。そして陰に隠れるのなら普段からふざけたパーティー名を大声で叫ばないでください」
『貴様ぁ!『インビジブルニンジャーズ』をふざけた名前と申すかぁ!』
「声が笑ってんぞ残念女子大生」
『京ちゃん!もっと里長の自覚をもってよ!『インビジブルニンジャーズ』より優先することがあるっていうの!?』
「里長じゃないし、その名前を優先対象にはしたくない」
『なるほど……これがツンデレ忍者!』
『京ちゃんくぅん。男のツンデレは流行らないぞ☆』
「忍者でもツンデレでもない」
『!?』
もう何回目だこのやり取り。
『そんな……酷いよ京ちゃん……!』
『あー、泣かせたー!ババ様ー!京ちゃん君がエリナ君泣かせたー!悪いんだー!』
「小学生かこの残念女子大生!?というか、え、まさか本当に泣いて……」
『京ちゃん……!あんなに、あんなに一緒に忍者修行して、一緒に世界一の忍者の里を作ろうって約束したのに……!』
「あ、妄想が迸ってる。じゃあ大丈夫か」
『そんな京ちゃんには……火遁の術!!』
「え、あっ」
こっちがフィールドの狭い場所に移動した所へ、まるで待っていたかのように後ろから現れるエリナさんの牛車。
そこから放たれた燃える牛糞を回避できず、伝説パーツを落としてしまう。
「ちょっと待った!話し合いましょう!話し合いましょう!」
『もう遅いのさ京ちゃん!見よ、これが私の忍術だああああああ!』
「絶対に違う!」
エリナさんが落ちた伝説牛車パーツを拾い、全てのパーツを揃えてしまった。
瞬間、巨大な牛車がフィールドに降ってくる。地上にあるビルが踏み潰され、ついでとばかりにNPCの牛車も破壊されてしまった。
『はーっはっはっはっは!怯えろぉ!すくめぇ!忍術の性能を発揮できぬまま、下忍からやりなおせぇ!』
『京ちゃんくぅん!何をやっているんだぁああ!』
「すみませぇええん!いやでもこれ僕のせいですか!?」
『油断してパーツを落としたのはギルティ』
「くぅ!ごめんなさい!」
『ええんやで』
『しかし私の忍術が許すかなぁ!?』
「それは忍術ではない!」
『火遁の術!火遁の術!火遁の術!』
『京ちゃん君!燃える牛糞の雨が!』
「言葉にすると終わってんな。全てが」
この後、エリナさんの巨大牛車が無双して終わった。
* * *
ゲームを終え、念話用のイヤリングを引き出しにしまいスマホを手に取る。
しかし、ダンジョン配信者ってそんな有名な存在だったのか……。
配信できるだけの腕があるのなら、普通に探索をするだけでも生活にはそれ程困らないだろうに。それでは足りないぐらい散財してしまうのか、あるいは承認欲求の問題か。
まあ、戦い方の参考にさせてもらっているので、自分にとやかく言う権利はない。
興味本位で、普段見ている人とは別のチャンネルも探してみる。適当に再生数が多いものを選び、タップしてみた。
『皆さ~ん!こ~んにゃ~ちは~!』
……なんか、思ったより濃いのが出てきたな。
試しに入ったラーメン屋が二郎系だったみたいなインパクトである。ちょっと情報を理解するのに時間がかかった。
画面に映っているのは、猫獣人の女性と普通の人間の女性が1人ずつ。
片方は弓矢を装備しており、もう片方は魔法使いらしい杖を持っている。両方とも『魔装』の得物らしい。
だが、服の方は違う。というか服じゃない。
ビキニアーマーである。どこぞの『Aランク候補』のような胸毛とケツ毛が凄いゴリゴリマッチョのオッサンではなく、女性達がビキニアーマーを着ているのだ。
『魔装』ではないが、魔力を感じる。恐らく錬金術師か雫さんのような職人が手作りしたものだろう。
つまり彼女らは、『魔装だから仕方なく』ではなく、選んでビキニアーマーを装備しているということだ。
ええんか……!?こんなんネットに流してええんか……!?
……良いということにしよう!!
猫獣人さんの方はスレンダーな体つきで、胸も小ぶりである。しかし、体の各所に女性らしい丸みがあり、何より足がとても綺麗であった。これが『カモシカの様な足』というやつかと思う程である。
魔法使いさんの方は、全体的にムチっとしていた。太っているという程ではないが、ちょっと油断したお腹や二の腕は、好きな人は本当に好きだろうなと思う。
だが何よりお胸様である。中々のサイズだ。これは恐らく……『GよりのF』と見た……!
この『精霊眼』が見間違えるはずがない。竜の爪すら見切ったこの眼を、僕は信じる!
『今日も地方の不人気なダンジョンを間引いていっちゃいまーす!褒めろぉ!私達を褒めろぉ!』
『ついでにストレスを発散する所存……書類なんて、ここにはないんだ……!』
2人とも顔は隠しており、猫獣人さんは緑色のスカーフで鼻から下を覆い、魔法使いさんは黒いフェイスベールをつけている。
だが、はて?この人達どこかで見たことがあるような……。
『スパチャとかはいらん!金なら腐るほどある!使う機会もないまま口座に溜まっていくから!』
『代わりに褒めてね……マジで褒めてね……褒めなないと恨む』
2人して目がやばかった。やだ、この配信者さん達瞳孔ひらいてる……。
というか、まさかこの人達……山下代表と一緒にパーティー組んでいた人達か?
コボルトロードに追いかけられていた4人組。その内の2人が、彼女らな気がする。
綺麗な背中にキュッと上を向いた小ぶりなお尻と、自身の太腿をペシペシと叩く猫の尻尾。
その姿に若干視線を奪われながら、思考する。
たしか彼女らは『ウォーカーズ』の幹部だったはずだが……これも覚醒者のイメージ向上の一環なのか?
『さあ蹂躙だ!闘争だ!雑魚狩りこそ至高!雑魚狩りこそ至高!』
『クリーク……クリーク……クリーク……!殴って解決する。なんて素晴らしい……』
あ、違うわこれ。シンプルにストレスが限界にいっているだけだ。
チラリとコメント欄を見るも、どうやら『ウォーカーズ』の幹部と気づいている人はいないらしい。まあ、山下代表以外の面々はあんまりメディアに出ないし、ぶっちゃけ地味な印象あるからな。
『さて、ゴーレムのカメラを調整して……っと』
アップになる魔法使いの深い谷間。ぱちん、と左右の乳肉がぶつかる音が、急接近したことでハッキリと聞こえた。上体を起こして遠ざかるお胸様。代わりにアップになる少し油断したお腹と、その下の鼠径部。
……うん。
別に法律を犯しているわけではないし、ストレス発散の仕方は人それぞれ。そもそもやっていることが、田舎の不人気ダンジョンの間引きという善行である。
彼女らを称賛こそすれ、批判する理由は1ミリもない。
頑張れ、美尻……じゃなかった猫獣人さん。頑張れ、お胸さ……じゃなかった魔法使いさん。
スパチャもコメントもしないけど、応援しています!
────なお、この後エリナさんから『猫耳とビキニアーマー用意しとくね!』と電話がきた。
部屋に盗聴器やカメラが仕掛けられていないかチェックしたり、スマホに見知らぬアプリが入っていないか調べたりしたが何もなかった。
……忍者じゃなくって、エスパーなんじゃないかな、あの人。
読んでいただきありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。励みになっております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。
Q.エリナさんは京太を監視しているの?
A.
エリナさん
「シンプルに京ちゃんがわかり易いだけだね!これも心理学と人類学のちょっとした応用だよ!」
Q.スプラッターなことにならないダンジョンって?
A.それこそ、『錬金同好会』がホムンクルス嫁ゴーレムの宣伝動画に使ったダンジョンとかですね。切ったり刺したりしても血が出ないモンスターが出るダンジョンです。




