外伝22 魔道具の扱い
外伝22 魔道具の扱い
カタリナさんが武士?になった件について。
「どうしました、婿殿。あっけにとられた顔をして」
「あ、いえ……サナさんに彼女の言葉を翻訳してもらったのですが……なんか、武士っぽいというか……随分と古風かつ畏まった感じに聞こえまして……」
「ほう」
キラン、と。教授の瞳が輝く。
なお、この会話は翻訳されていない。日本語だけで喋りたい時もあるので、こちらから魔力を流し込んだ時だけサナさんに翻訳してもらっている。
『それは随分と興味深いね京ちゃん君!一応聞くが、エリナ君が時代劇やNARUT●疾風伝をテレビで繰り返し見ていることとは関係ないね?』
『まさかの私!?つまりサナちゃんも忍者!』
「いえ。言霊はあくまで言葉の『意図』を表すものですから。喋り方もそれに含まれます。凄く遠回しな言い方をされたわけでないのなら、そのまま訳されるはずです」
それこそ、『ぶぶ漬けでもどうどす?』とかは『そろそろ帰れ』と翻訳されるが、それだって『お帰りやしておくれやす』等。なるべくその地域の言葉に変換される。
あくまで主体は相手だ。英国人が頭の中で考える言葉は英語だし、日本人が頭の中で考える言葉は日本語。つまり、喋り方を含めて『意図』となる。
「彼女の発した言葉は、とても丁寧なものでしたが遠回しな意味はなかったはず。サナさんの翻訳は正しいでしょう」
「教授。むしろ、貴女方にはどういう風に聞こえているんですか……?」
「カタリナさんの喋り方には、こちらへの敬意と畏れを感じますね。しかし、正直に言ってそのニュアンスを正確に把握できているわけではありません」
『到着した、という言葉を敬語にするとしても、『到着しました』なのか、『到着いたしました』なのか。そういう『丁寧さの度合い』がまだわかっていないのさ。我々はね』
「な、なるほど」
「彼女が我々に畏まっていたのはわかっていましたが、まさかそこまでとは……」
『しかしそれ以上に気になるのは、カタリナ氏の喋り方だ。彼女は日本刀の扱いを教えられる環境になかったはずだが、まるで武家のような口調には違和感を覚えるね。ますます彼女の故郷が気になってきたよ……!』
「ええ。本当に。婿殿。他の異世界の方々は、彼女とは別の喋り方なのですか?それとも、皆さん武士のような喋り方を?」
「え、えっと。ちょっと待ってください」
『あの、ちょっと良いですか?』
ミーアさんが、若干気まずそうな声で話に加わる。
『カタリナさんは大丈夫ですか?自分が挨拶した直後に、上役と思っている人達が真剣な顔で何か話し合い始めるって……結構不安だと思うのですが』
「あっ」
ミーアさんの言葉で、カタリナさんを放置していたことを思い出す。
恐る恐る、彼女の方を見てみると。
『…………!』
無言無表情ながら、もの凄い汗を掻いていた。
こちらと視線が合うや否や、凄まじい速さでその場に仰向けで寝転がり、お腹をさらしてくる。
その際Tシャツ越しに『たゆん♡』と跳ねたお胸様が、寝転がったことで重力に引っ張られて少しだけ形を変えた。
……され、煩悩よ!
そっと彼女の胸元から目を逸らしながら、教授と一緒に説得して起き上がらせた。
* * *
あの後、翻訳機を起動した状態で軽く街を回ったのだが。
「やっぱり、武士っぽい口調なのはカタリナさんだけでしたね。他の人達は、普通の話し方でした」
大使館の一室にて、教授と自分だけで向かい合う。無論、アイラさん達とは念話で繋がっているが。
客も店員も基本的にため口で会話し、偶に店員側が発する敬語も『ですます調』だった。特に特筆すべきものはなかったと思う。
「……それはそれで、気になりますね。婿殿の普通ということは、現代語ということです」
『その辺りは、サナ君の調整範囲外なのか……いや、カタリナ氏のことがある。となると、異世界の文化が……?』
「地球側と異世界側で、時差こそありますが時間の経過にズレはありません。見た目が中世に近いからと言って、人類が生きてきた年数は変わらないのかもしれませんね」
『そこまでいくと、考古学や人類学の範囲を超えるね。生物学や地質学的な調査も必要だ。影山氏や丸井氏はなんと?』
「その辺りの調査はまだあまり進んでいないようです。大規模な人員を、上陸させるのは難しいですから」
「……どうでも良いですけど、アイラさんってカタリナさんとは普通に喋れていますよね?影山さんとかは、まだ無理なんですか?」
『え。だってカタリナ氏は開幕へそ天の子だし』
「貴女に服従のポーズしたわけじゃ、ないと思いますよ……?」
『君のものは私のもの。私のものは私のもの。つまり君への降伏は私への降伏ということだ!』
「コミュ障のガキ大将ってどうなんですか?」
『つまり、京太君へのプレイは姉さんへのプレイ!?スケベのコラボレーション……!破廉恥ですよ、姉さん!京太君も!』
『先輩。ちょっと黙ってようね』
「おっほん。話が脱線していますね」
「あ、すみません」
教授の咳払いに、小さく頭を下げる。
「やはり、今度カタリナさんに詳しく生まれ故郷について尋ねるべきですね」
『うむ!これは非常に重要なことだ。根掘り葉掘り聞かねばなるまい。どこで産まれ、どのように暮らし、どのような理由で冒険者となったのか。本人のデータもほしい。身長体重血液型、その他にも……』
「一応言いますが、カタリナさんの精神面も配慮してくださいね?こう言ってはなんですが、この世界で若い女性が1人で冒険者やっているとなると……たぶん、訳ありです。魔眼持ちですし、話したくないことの1つや2つあると思うので」
「勿論です。『魔装』を見た時のような醜態は、もう見せないと約束しましょう」
『えー?良いじゃないか、ちょっとぐらい。京ちゃん君は私とカタリナ氏のどちらが大切なんだい!?』
「勿論、アイラさんです。ですが、貴女の好奇心と彼女のメンタルなら僕は後者を取りますよ。仮とはいえ、同じパーティーですので」
『むぅ……面倒くさい彼女ムーブしたのに、ガチの返しがきてしまったな』
『パイセン!?今のネタだったんすね!パイセン素で面倒な人だからてっきりガチだと思ったっす!』
『ふふん。まだまだ心眼を得てはいないようだね、エリナ君……!』
『押忍!精進します!』
『姉さん……面倒くさい扱いされているのは……いえ、何でもありません』
「残念2名と自称忍者、隙あらばボケないでください」
『はぁん?私は残念じゃないんだが?クールビューティーなんだが?』
『待ってください、今私はボケてないですよ!?真面目枠です!』
『自称じゃないよ!公式だよ!きっと各国政府も私のことを忍者って思っているよ!勿論京ちゃんもね!忍の里は注目の的だぜぇ!』
頭の良いバカ共を放置して、視線を教授に向ける。
「では、そういうことで良いでしょうか」
「ええ。カタリナさんに色々とお尋ねするのは、また後日。タイミングを見計らうとしましょう」
彼女と頷き合い、部屋を出た。
通路には、影山さんが立っている。扉を開けた自分に、ビクリと肩を跳ねさせていた。
「あ、どうも。お疲れ様です」
「はい。その……どうも」
軽く会釈すると、彼女は少し気まずそうな顔をした。
別に、盗み聞きしていたわけではないだろうに。なんせ影山さんの魔力は扉の前でうろうろと移動していた。動きからして、考えごとでもしていたのだろう。
これでも教授の護衛としてここに来ているのだ。意識の半分は、ダンジョン内のつもりで周囲の警戒をしている。
……カタリナさんからの無自覚な視線誘導を受けている時以外は!
数秒程視線を彷徨わせた後、意を決した様子で影山さんがこちらを見る。
より正確には、首につけたチョーカーと黒いワイヤーで繋がったイヤホンを。
「先ほどカタリナさんから聞いたのですが、矢川さんが特殊な魔道具で異世界語を使えるようになったとか……」
影山さんは、大使館についてすぐ丸井さんと別室に移動していた。恐らく、英国の件などで話すことがあったのだろう。
肝心の場面は見ていないからか、やや半信半疑な様子だ。
しかし、一緒に遺産迷宮へ行くわけだし隠せる内容でもない。素直に頷いておく。
「はい。少し大変でしたが、知り合いの伝手を頼って手に入れました」
「非常に素晴らしい魔道具です。良ければ、私にも見せては頂けませんか?」
「申し訳ありませんが、デリケートな魔道具ですので……。できれば、ご遠慮ください」
「そこを何とか、お願いできないでしょうか」
真剣な面持ちでこちらを見つめる影山さんに、つい視線を逸らしてしまう。
どうしたものか……彼女に『精霊眼』や『鑑定』のスキルはなさそうだが。
チラリと、教授へ視線で助けを求める。彼女は『ヘルプ要請が早すぎですよ、婿殿』とでも言いたげな苦笑を浮かべ、自分達の間に立った。
「影山さん。こちらの魔道具は我々が懇意にしている魔道具職人が作ってくださった、一品物です。壊れてしまった場合、代えがきかないのです」
「丁寧に扱いますので……」
「ふむ……わかりました。では、この場で手に取って見て頂くだけなら良いでしょう」
「っ!ありがとうございます!」
安心した様子で笑う影山さんに、教授は穏やかに微笑む。
何か企んでいるなと思いながら、彼女のジェスチャーに従い魔道具を外し影山さんに手渡した。
「これが……」
「慎重にお願いします。実験中の魔道具であり、特許申請の目途も立っていない代物ですから。その有用性を考えれば……もしも販売にまで漕ぎ着ければ、売り方次第で数十億では済まない利益を生むでしょう」
「す、数十億……」
「一応言いますが、通貨単位はポンドです」
「数十億ポンド……!?」
まあ、丸っきり嘘ではない。実験中なのは本当だし、特許申請の目途も立っていない。というか、特許申請する気も、販売する気もない。
わかり易く冷や汗を掻く影山さんが、緊張した様子で魔道具を眺めまわす。
「その……これの製造は、どなたが?」
「秘密です。ああ、ですが、神に誓って違法なことはしていませんよ?我々は品行方正な一般市民ですから」
とっても綺麗な笑みを浮かべる教授。これも、嘘ではない。法に触れていないという部分は。
なんせ、精霊をどうこうする法律は今の所ないし。
「そのぉ……写真など、良いでしょうか?」
「ほう……数十億ポンドの利益を、我々に手放せと?」
「い、いえ!そのようなことは!」
「写真や動画などはお控えください。貴女のことは信用していますが、『手癖の悪い方』とはどこに潜んでいるかわからないものですから。こちらとしても、慎重に慎重を重ねたいのです。ここで貴女にお見せしたのも、信頼の証と受け取って頂きたいですね」
「そ、それはありがとうございます。ですが、自衛隊としましては……」
「私は自衛隊ではなく、貴女とお話しています。影山さん」
「は、はいぃ……」
優しい笑顔なのに、いつになく圧が強い教授。それと正面から相対し、影山さんは若干涙目になっていた。
美人ほど怒ると怖いとも、普段優しい人ほど怒ると怖いとも言う。であれば、普段は優しい美人さんが怒るとどうなるのか。
しかも出身は英国貴族で、現在が大学教授。その上『Aランク冒険者』という、正直護衛がいるのかと思うような実力者。
自分だったら、絶対に今の影山さんの立場にはいたくない……!
おおかた、自衛隊の上の方から、もしも『インビジブルニンジャーズ』が何かやったら探れとか言われているのだと思う。非常にふざけた名前ながら、自分達は『Aランク冒険者』の集団だ。
歩く戦術兵器の群れだと考えたら、警戒もする。
それでも、交渉の類なら丸井さんの方を寄こすべきだろうと思うが……外務省と自衛隊は、別ということなのだろうか。
魔道具のことなんてわかるか、と。顔に書いてある影山さんが何度も魔道具を眺めた後、恐る恐る教授へ差し出す。
「そ、その。ありがとうございました」
「ええ。ご満足いただけたのなら何よりです」
「ですが、やっぱり我々自衛隊としても非常に興味深い代物ですので……量産化の暁には……」
「先ほども言いましたが、私は貴女と話しているのですが……しかし、そうですね。量産化ができたら、考えておきます」
「はい。よろしくお願いします……!」
ホッとした顔をする影山さんから、魔道具を受け取る瞬間。
教授が、こちらへ目配せした。瞬きするよりも短い、刹那の出来事である。
2人の間を移動していた魔道具が、ポロリ、と。床に落ちていく。
慌てた様子でキャッチしようとする彼女らをよそに、自分は既に手を伸ばしていた。
床に落下する魔道具を掴み取り、素早く後退する。
「影山さん……!?」
「す、すみません!すみません!」
信じられないとばかりに影山さんを見る教授に、若い自衛官は顔面蒼白になっていた。
……ひでぇ。アレ、たぶん教授がわざと落としたぞ。
だが悲しきかな。凄くナチュラルに責任転嫁されて、影山さんは『自分が落とした』と思い込んでしまったらしい。
「……いえ。私の手元が狂った可能性もあります。謝罪は不要ですよ、影山さん」
「で、ですが、その……」
「どちらの手元が狂ったかは、この際考えないでおきましょう。何にせよ、我々の手ではなく、婿殿の傍がやはり一番安全のようですね」
教授の視線を受け、無言で頷きながら魔道具を装着し直した。
すみません、サナさん……。
そう思い、少し多めに魔力を流し込む。……待って。なんかめっちゃ吸われる。
これ幸いとバキュームのごとく吸収される魔力に、ちょっと頬が引きつりそうになった。あの、この魔力量は普通の覚醒者なら真面目に命の危機では?
自分の表情を見て、何を勘違いしたのか影山さんも頬を引きつらせる。いや、怒っていませんよ?教授とサナさんにそれぞれドン引きしているだけで。
「婿殿。その魔道具を、大切にしてくださいね」
「はい、教授」
「その……本当にすみませんでした」
「いえいえ」
恐縮した様子で、トボトボと歩いていく影山さん。
その背中を見送りながら、教授がこちらへパチンと綺麗なウインクをしてきた。
『京ちゃん君。君は勘違いをしているから言っておくが、その人は私達の産みの母親がやらかした後も、エリック氏や里奈氏と共に家を守りきった人物だぞ。優しいだけであるはずがないだろう』
「うっす……」
「その言い方は語弊がありますよ、アイラ。私は影山さんに対して、とても優しい対応をしたと考えています」
『そうだね。ババ様が本気ならもっとえげつないことするよね……!』
『ガチのお婆ちゃまはやばいよ。本当にやばいよ。今回は凄く優しかったよ。というかぬるかったよ』
『お婆様は、その……頼りになる方です。本当に』
「孫達からの信頼のなさが、少し辛いですね……」
不満気に唇を尖らせる教授から、一歩分距離をとる。
大人って、怖い。
Q.サナさんが京太から吸った魔力って、どれぐらいなの?
A.才能ある巫女(覚醒者)がその命を生贄にするぐらいの量ですね!なお、別に怒っていない模様。たんに京太が『食べていいよ』したので『わーい』と思いっきり吸っただけです。精霊って怖いですね。
読んでいただきありがとうございます。
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今年一年、本当にありがとうございました。『コミュ障高校生』の第1巻を出すことができたのも、皆様のおかげです。
どうか、よいお年を!来年もよろしくお願いします!




