外伝21 言霊
外伝21 言霊
『先日ロンドンで発生した大規模テロに関与していた疑いがあるとして、警視庁は昨晩『トゥロホース』の後継団体へ捜査を』
『わたし見たの!リスさんがね、こわいおじさんの足をかんで助けてくれたの!』
『英国のアームストロング首相が退院し、記者会見を行いました。その際、『ウォーカーズ』の山下代表への感謝の言葉を』
『山下代表!質問に答えてください山下代表!あの日いったい何があったんですか!?覚醒者と非覚醒者の懸け橋になるんですよね?じゃあ何でも答えてくださいよ!』
『火災が発生したビッグベンの修理について、専門家は』
『本当なんだって!爆弾を背中に乗っけたリスが走ってきたと思ったら、空に向かって尻尾で打ち上げたんだよ!嘘じゃないんだ!』
『日本の冒険者が過激派組織とロンドンで交戦した……という報道が現地でされていますが、軍事評論家の佐藤さん。この件をどう思いますか?』
『まったくけしからんことですよ!やはり冒険者というのは、自分がアクション映画の主人公か何かと勘違いしている!これは外交的に常識外れの行為であり、やはり覚醒者の危険性を改めて考える必要がですね』
『俺は酔っぱらってなんかいねぇ!本当だ!本当にリスが『外しはしない……!』とか言って、排水溝から跳び出したかと思ったら、カーチェイスしている車のタイヤを噛み千切ったんだ!』
『覚醒者は社会にとって危険な存在なのか。それとも、希望となり得るのか。『覚醒の日』から2年と7カ月が過ぎた今、改めて討論を』
『リスが飛んだ。それだけさ……』
『自衛隊の異世界派遣について、野党第一党の代表、中野国広氏が痛烈な批判を』
* * *
そんな感じで、テレビでは未だに英国で起きた事件で持ち切りである。
一部異世界のことも報道しているが、大規模な動きがないことで皆飽きてきたらしい。
ただ、ネットの方では逆に異世界の話の方が未だに盛り上がっている。ラノベやアニメでしか存在しないと思っていた憧れの世界だ。誰だって『現代知識で俺TUEEE』したい。
自分も正直、ちょっとそういう気持ちがある。向こう側の技術や需要、さっぱりだけど。
閑話休題。世間が異世界への関心を薄くする中、その調査に動く者もいる。
「ほらよ。これが教授に頼まれていた物だ」
雫さんの工房にて、彼女からティッシュ箱サイズの木箱を受け取る。
工場の人達の声が厚手の布越しに聞こえる中、工房の主である雫さんに、愛花さん。そして自分とエリナさんの4人で集まっていた。
いや、正確にはもう1人……というか、もう1体がいるのだけど。
木箱の蓋を開けると、中には映画で見る無線機のような物が入っていた。
「ありがとうございます、雫さん。しかし、これに『入る』のですか?」
「理論上はな。つうか、アタシよりお前らの方が詳しいだろ」
小さく鼻を鳴らして、雫さんがエリナさんの抱える鳥籠に視線を向ける。
「精霊……だったか。アタシにはなーんも見えんがな」
そう。この無線機のような魔道具こそ、異世界に行った際に使うサナさんの入れ物である。
籠に入れた状態で運ぶのは探索に支障が出るから、というのもあるが、もう1つ理由があった。
「折角ですから、早速サナさんにこちらの魔道具に移ってもらいませんか?もしも不具合があったら、すぐに対応できますし」
愛花さんの提案に、頷いて返す。
作業台にサナさんの入っている鳥籠を置き、その前に例の魔道具を置いた。
「サナさん。その籠に、今からこちらの魔道具を入れます。この四角い部分に、入って頂くことは可能ですか?」
魔道具の見た目は、片方だけのイヤホンから細い黒のワイヤーが伸び、チョーカーと繋がっている。更にチョーカーから同じワイヤーが伸びて、スマホ大の箱に接続されていた。
箱の部分を指さしてそう問いかければ、サナさんは小さく頷いた。
慎重に鳥籠の出入口を開き、箱の部分を入れる。内部と外部の魔力が混ざりそうになるのを、手で隙間を覆って防ぎながら見守った。
彼女は相変わらずの無表情で箱の上に降り立つと、粒子になって中へ入っていく。
サナさんの魔力反応が箱に移ったのを確認し、慎重に魔道具を取り出して鳥籠の出入口を閉じた。
「これで、サナさんは魔道具の中に入りました」
「おー。じゃあ、成功で良いのかな?」
「いえ、実際に使ってみませんと。京太君、お願いします」
「はい」
箱の裏側にある留め具をシャツの襟に固定し、チョーカーを巻く。
続いてイヤホンを左耳に装着し、視線をエリナさんに。
「準備完了です。お願いします」
「OK!えっと、そうだなー……よし!」
エリナさんはわざとらしく小さく喉を鳴らして、『マイクテス、マイクテス。生麦生米生卵!』と言ってから。
「タシデレ!」
『こんにちは!』
「おお!?」
エリナさんの言った謎の言葉が、ほぼ同時に翻訳されてイヤホンから聞こえてきた。
もしかしてこれがサナさんの声なのだろうか?予想以上に落ち着いた、大人びた声である。
「エリナさん、今『こんにちは』って言いました?」
「そうだよ!京ちゃんはチベット語わからないよね!」
「はい。……え、貴女チベット語喋れるんですか?」
「残念ながら、少しだけなんだよ。特に発音がまだまだ下手っぴだしね。いつかチベットで修行して、新しい忍術を身に着けようとは思っているんだけど……先は長い!」
「チベットと忍者は関係ないと思う」
「その時は京ちゃんも一緒に修行しようね!」
「嫌です」
「!?」
「それはそうと、聞くのは大丈夫そうなので、喋る方も試したいのですが」
「おう」
自称忍者の戯言は無視して、イヤホンに触れながら雫さんと愛花さんへと視線を向ける。
「アタシが知らなくて、お前が知っている言語で喋れよ。でないと意味ねぇから」
「えーっと、じゃあ……」
スマホを取り出し、メモアプリを開く。
そこに書いておいた、異世界語を読み上げた。
「■■■■■」
『いい天気ですね』
自分の喉から、正確には首に巻いているチョーカーが振動し、そこから『魔力』が発せられた。
それが言葉となり、空気を震わせる。
「今日は曇り空だがな」
こちらの言葉に、雫さんがニヤリと笑いながら肩をすくめた。
その隣で愛花さんも小さく頷いており、異世界語を知らない2人に今の言葉が通じたことを教えてくれる。
「どうやら成功のようです。流石ですね、2人とも!」
「ふん。専門外のことを頼んできやがって……」
「雫さんと一生懸命頑張ったかいがありました!彼女も、京太君の為にって凄く丁寧に魔力を流し込んでいましたから」
「うるせぇ……!」
ふいっとそっぽを向いた雫さんだが、両肩を後ろから軽く掴んで笑う愛花さんの言葉に、その三白眼を吊り上げる。
「本当にありがとうございます。これで、異世界語が僕にもわかります」
今回ばかりは、可愛い反応をする雫さんを揶揄う余裕すらない。
もう、もうわけわからん言語を覚えるのは嫌だ……!英語の勉強もあるのに、マジで脳みそが擦り切れる……!
「涙目になってんぞ、あいつ」
「そんなに嫌だったんですね。異世界語覚えるの」
「京ちゃんはそういうの苦手だからね!ドカーンで、ズドーンなこと以外、あんまり得意じゃないよ!」
「やはり、やはり僕には力しかないのか……!」
「おい、闇落ちしかけてねぇか」
「これはいけません。雫さん、ここは貴女の愛で京太君を光の道に呼び戻してあげましょう……!」
「顔が笑ってんぞ、まな板」
「うふふふふ。何か言いましたか、ドチビ」
「闇落ちはだめだよ京ちゃん!そんなの……そんなの……なんか忍者っぽいから、有りだね!」
「僕は光の道に戻りました。というか前に似たような会話をした気がする」
「なんと!ブラック忍者にはならず、ホワイト忍者に……!」
「まず忍者ではない」
「嘘だ!!」
「やかましい」
「はーい」
工場の6割ぐらいを占有する雫さんの工房で、改めて4人で向かい合う。
「しかし、本当に凄いですね。これ。サナさんが理解した言霊を、言語として伝えてくるなんて……」
そう。この魔道具は『翻訳機』なのだ。
どんな言語であれ、発した瞬間に魔力が宿る。それが誰に言うでもない、無意識に出た独り言だったとしても、だ。
人の意思は魂によって形成され、魂とは魔力の塊である。故に、発せられた『意思』に魔力が微量ながら宿るのが道理だ。それが言霊である。
これを規則的に発することで不思議な現象を起こすのが、魔法だ。陣を描く錬金術もまた、文字や図形に『意思』を籠めるという点では変わらない。
サナさんは、精霊は言語ではなく発せられた言葉の言霊を認識する。それを外部に出力する手段の用意が、今回遂に完成したわけだ。
「しかし、このワイヤー……妙に僕の魔力を感じますね?」
イヤホンとチョーカーを繋げ、チョーカーから箱へと繋がる黒いワイヤー。そこからは、自分の魔力を多く感じられた。
「それは当然ですね。なんせ、京太君の髪を材料にしていますから」
「えっ」
「より正確には、お前の髪の毛と針金を合わせた。遺髪アクセサリーってあんだろ。アレと似たようなもんだ」
「もう……雫さん。遺髪は縁起が悪いので、そういう言い方はやめてください」
「へえへえ」
「……僕の髪の毛、そんなに集まっていたんですね」
若干抜け毛が心配になる。大丈夫だよね?ふさふさだよね?
「安心して京ちゃん!今の所京ちゃんはハゲてないよ!」
「ありがとう。でも心を読まないでね。あと『今の所』はって部分もやめてね?」
「わかった!」
「そういや。小学校の頃エロい奴は髪が伸びるの早いって噂があったな……」
「スケベボディの人が何を言っているんですか。この低身長巨乳美少女ドワーフ」
「京ちゃん、今の発言先輩っぽいよ?」
「雫さん。誠に申し訳ございませんでした」
「落ち着け。わかったから土下座はするな。あと泣くな」
「どれだけミーアさんと同じ扱いが嫌なんですか……」
「いや、人としてまずいかなって……」
「そこまで……いや、うん。はい」
「……アタシも言い過ぎた。すまん」
「うっす……」
何とも言えない空気になるも、愛花さんが小さく咳払いをする。
「と、兎に角!髪の毛の持ち主に魔力の繋がりをつけるのは、呪いの基本ですからね!雫さんの魔力の伝導率を上げる鉄の糸を交えることで、サナさんと京太君の繋がりを強めました!」
「な、なるほど。あの、それはそうと……この魔道具って、燃費が凄く悪かったりします?」
「あ?いや。ただお前とサナっていう精霊のパスを強めただけだぞ」
「それが、もの凄い勢いで一定の魔力が常に吸われているのですが」
「……サナちゃん、食いしん坊!」
この後、どうにか吸いとる魔力を減らしてもらった。
箱の部分にはレンズもついている。これを通すことで、文字をサナさんに読み上げてもらうことも可能だ。なんかもう、異世界関係なく便利である。
書くのは相変わらず無理だが、これで異世界の人ともコミュニケーションが可能だ。
どんとこい、異世界!
* * *
そんなわけで、また異世界に来たわけなのだが。
『■■■■■、■■■■■■■■■■!■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■!■■■、■■■■■■■■……!』
『おはようございます、キョウタ様!本日も某の刃を御身の為に振るえるとは、光栄の極みに存じます!必ずや、キョウタ様のお役に立ってみせまする……!』
「 」
なんか、武士?な感じでカタリナさんの言葉が翻訳された。
大丈夫?これ壊れてない?
読んでいただきありがとうございます。
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Q.そういえば、他にも精霊がレイ・クエレブレからドロップしたりしないの?
A.あのボスモンスター、かなりレアなので……そもそも目撃例が滅茶苦茶少ないです。




