外伝19 地図を書けない冒険者
外伝19 地図を書けない冒険者
魔力濃度以外は第1層とほとんど変わらぬ景色の第2層。
そこを慎重に進みながら、カタリナさんへと問いかける。
「そう言えば、カタリナさんは第1層のみ探索していたんでしたっけ?」
『■■■■、■■■■■■』
アイラさんが、通訳をしてくれる。
やはりというか、異世界語はさっぱりだ。
『うむ。彼女は先程のギミックも初めて見たらしい。当然、第2層に来るのも今回が初めてだそうだ』
「……でしたら、無理についてきてもらう必要もないのでは?危険ですし」
彼女はあくまで現地協力者。危険を冒して、自分達と同行する理由などない。
『それはいかんぞ京ちゃん君!彼女にはまだまだ聞きたいことが山のようにあるのだ!フリーにしてどこか遠くに行ってしまったらどうする!?』
「私も、カタリナさんには同行して頂きたいですね」
アイラさんに続き、教授が彼女の必要性を語る。
「同じ物を見ても、現地の方にしかわからない……そういう物品や状況が、フィールドワークではよくあるのです」
「そういうことでしたら……」
『なんだね京ちゃん君。やけに塩対応じゃないか。カタリナ氏に何か不満でもあるのかい?』
「え?いえ、そういうわけでは。ただ、この迷宮は彼女のレベルだと危険かと……」
『……それについてだが、私はむしろカタリナ氏こそこの迷宮に相応しい挑戦者だと思っているがね』
「はい?」
『ババ様。京ちゃん君。どうだろうか?この階層の敵は、カタリナ氏に任せてはみないか?』
「……理由を伺っても?」
「この迷宮が、まるで『覚醒者を育てる為にあるかのよう』、だからですね?」
アイラさんの代わりに、有栖川教授が答える。
『うむ。まだ第1層しか通過していないので、仮説だがね。しかし、そうだとしたら興味深い』
「同意しますが、そこは安全性と本人の同意があって、ですね」
『HAHAHHA!勿論じゃぁないか!流石の私もそこはきちんと』
「……すみません。今の、このダンジョンが覚醒者を育てる為にあるというのは、本当ですか?」
『ひぅ』
影山さんが会話に入ってくると同時に、アイラさんが小さく悲鳴を上げて静かになる。
「まだ、仮説段階ですが」
「でしたら……ここからの戦闘は私にも戦わせて頂きたい」
「え?いや、影山さんはいざという時の戦力ですし……」
「待ってください、婿殿」
「教授?」
有栖川教授が、じっと影山さんの瞳を見つめる。彼女もまたその瞳を見返すこと、数秒。
小さく、教授が頷く。
「まず、ここのモンスターを見てから。それでも良いですか?」
「はい。勿論です」
そういうことになった。
この場の責任者である教授と、本人が良いというのなら……これ以上は何も言うまい。個人的には、反対だが。
しかし、やはり影山さんにはどこか焦りのようなものを感じる。そして、自分や教授へと時折向けられる嫉妬の視線も。
『……やっぱり、この人は私に似ていますね』
『どうしたの先輩。突然名誉棄損なんかして』
『え?』
イヤリング越しにコントが聞こえるが、一旦無視する。
個人的には、レベル上げなんてもっと安全が確保できる環境でやるべきだと思うのだが……本人がそういうのなら仕方がない。
カタリナさんにも後で聞くとして、まずは敵の姿を確認しよう。
そんな風に考えていると、タイミングが良いのか悪いのか、カタリナさんがケモ耳をぴくぴくと動かす。
『■■、■■■■!』
『敵が来たらしい。注意したまえ』
「了解。この敵を討伐後、この先のことを考えます。『白蓮』、最初は防御に専念」
自分の声に、最前列に立つ白騎士が小さく頷く。
直後、こちらの耳にも何かの足音が聞こえてきた。
大きな足音が1つと、それと一緒に小さな足音がある。覚醒前ならば、聞き逃していたかもしれない。
両極端な足音の主達が、通路の向こうからやってきた。
片方は、見間違えるはずがない。『Dランクモンスター』の、オーク。
豚のような頭と、口端から突き出た鋭い牙。脂肪のつまった腹とは裏腹に、筋骨隆々とした手足。灰色の巨体に腰布1枚を巻いただけの姿で、手には簡素な槍を持っている。
だがもう片方。そちらは見たことのないモンスターであった。
一言で表すのなら、二足歩行の鼠だろうか?身長は150センチ前後。橙色の体毛の上から、黒いローブを羽織っている。三角帽子まで被った姿は、器用に握っている杖もあって魔法使いそのものだ。
その顔は愛らしいという言葉から程遠く、ぎょろりとした目玉に剥き出しの歯と、明確なまでにこちらへの敵意を向けている。
『名前は『ビショップラット』。火を使うぞ、気をつけろ!』
「っ!」
アイラさんの声とほぼ同時に、オークが雄叫びを上げて走り出す。
それに対し、白蓮が前進。突き出された槍をタワーシールドで軽々と受け止めた。
びくともしない白銀の騎士に、豚頭の怪物は怯んだ様子もなく槍を叩きつける。その後ろで、巨大鼠……ビショップラットが何やら呟いていた。
『ヂ、ヂヂィ……!』
それに合わせて動く魔力に、それが詠唱だと察知する。
10秒程して、オークが突然横へ飛び退いた。次の瞬間、ラットの杖が光り先端から火球が発射される。
真っ直ぐ迫るそれに、白蓮は冷静に『概念干渉』を付与された盾を振るった。羽虫でも払うような軽い動作で、火球が散らされる。
だが、その隙を待っていたかのようにオークが踏み込んだ。倒れ込むような前傾姿勢で両足を動かし、突撃。咆哮と共に槍を突き出す。
タイミング自体は完璧と言える刺突。しかし、スペックが違い過ぎる。
甲高くも腹に響く音をたてて、簡素な穂先を引き戻された盾が受け止めた。槍の柄が衝撃でたわんだかと思えば、ベキリとへし折れた。
『ブォ……!?』
流石に狼狽えた様子のオークだが、すぐさま折れた槍を棍棒代わりに振るい始めた。その後ろでは、先程よりも距離をとってビショップラットが詠唱を開始している。
「……アイラさん」
『うむ。見るべきものは見たと言えるだろう。彼らに他のスキルはない』
「了解しました。白蓮、終わらせよう」
白い騎士が戦斧を豚頭に一閃するのと同時に、自分も踏み込む。
一足でビショップラットへと間合いを詰め、その首を刎ねた。念のため少し後退し、壁を背にしながら剣を構え直す。
首を失った体が、2秒程遅れて床に倒れた。そして、間を置かずに塩へと変わる。
オークも同じく塩の山へと変わったのを確認して、小さく息を吐きながら構えを解いた。
「アイラさん、カタリナさんに他の敵はいるかどうか聞いてもらえますか?」
『任せたまえ』
塩の中からコインを回収し、教授へと渡す。
予想通り、この層の敵は『Dランクモンスター』。ただし、見知らぬ怪物が出てきた。
「教授。影山さん。ビショップラットというモンスターに、心当たりは?」
「いえ、私はないですね」
「こちらもです。自衛隊が遭遇した全てのモンスターを知っているわけではありませんが、少なくとも『Dランク』にああいったモンスターはいないかと」
『カタリナ氏は、他の敵は近くにいないと言っているよ。それで京ちゃん君、どうかね?彼女らでも問題なさそうか?』
「……レベル的には。ですが、やはり危険では?」
「問題ありません。『Dランクモンスター』であれば、討伐経験があります」
『■■■■■■!』
『カタリナ氏も、大丈夫だと言っているよ』
「……わかりました。では、自分と白蓮はいざという時のサポートということで」
「ええ。お願いします」
自分と白蓮に代わり、カタリナさんと影山さんが前に立つ。
片や短槍。片や小太刀二刀流。通路内での戦闘に向いた武器と言えるが、遠距離から中距離の攻撃手段がやや不安である。
「あ、それと。これもお願いします」
「はい。はい?」
無意識に影山さんから受け取ったのは、マッピング用の紙とペンであった。
「私は戦闘に回りますので、代わりに地図の作成をお願いします」
「……あの、すみません」
剣を鞘にしまい、紙とペンを持ったまま固まる。
「マッピングのコツとかって、教えてもらったりとか……」
「……あっ」
兜の下で冷や汗を流す自分に、何か察した顔をする影山さん。
『ふーっ!やれやれ!ここまで地図に関して他人に丸投げしていたツケがきたようだねぇ、京ちゃん君!ふぅぅぅう!やぁれやれだぜぇい!』
「こ、この、鬼の首を取ったように……!」
つうか初めてだぞ、リアルにこんな短期間で『やれやれ』を2回言った人。
『鬼じゃなくってゴリラかな?まあ?京ちゃん君がどうしてもと言うのなら、私が耳元で優しく教えてあげようじゃないか!』
『姉さん!?今耳元でやらしく教えてあげるって言いませんでした!?破廉恥です!破廉恥罪で起訴ですよ起訴!』
『言っていないが?なんだこの当たり屋』
「えっと、たしか一般の冒険者の方も、講習で習ったと思いますが……」
「すみません……やり方を忘れました……!」
「婿殿……」
『京ちゃん!私に任せろ!まずは歩幅を一定にするんだ!それで何メートル進んだかがわかるよ!』
「え、ごめん。まず歩幅を無意識に一定でとか、無理かも……」
『……諦めも肝心だね!』
「匙を投げないで!?」
『んー。この脳みそまで筋肉な冒険者』
『いや、そもそも私達って、自衛隊の方が作成してくれた地図を元々使っていたので、自分で書くという経験が……』
結局、地図は教授が描くことになった。
僕には……僕には、力しかねぇ……!
剣を両手で握り、いつでも跳び出せるようにカタリナさんと影山さんの後ろで構える。
『京ちゃん。たぶん目がやばいよ』
『カタリナ氏が震えているな……』
『これが、京太君の闇堕ち……!』
さあ、化け物ども!来るなら来い!
そして!僕に仕事をさせてください!!
読んでいただきありがとうございます。
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……話が、すすまねぇ!
それはそうと、『コミュ障高校生、ダンジョンに行く』の第1巻!感想欄で購読してくださった方がたくさんいて、感無量です!本当にありがとうございます!




