外伝18 不自然な便利さ
外伝18 不自然な便利さ
何か可哀想なことをボスモンスターっぽい何かに行い、鍵らしき魔道具を回収。
早速あの檻を開きに───行かなかった。
『解析だ!兎にも角にも解析だ!』
「持ち帰りましょう!記録するのです!」
研究者2名、止まらない。いや探索の足は止まったけども。
教授の転移で入り口の階段まで転移した後、外に。その後大使館まで転移して、こっちに戻っていたらしい丸井さんに挨拶し日本へ帰国した。
なお、帰国後アイラさんをミーアさんと共に寝室へ強制連行した。いくら護衛として同行したとは言え、迷宮ワンフロア全て歩かされたボーナスは頂きたい。
ただし、ミーアさんがいつからアイラさんの背後にいたのかは不明である。アイラさんも気づいていなかったらしく、自分が彼女の研究室に行った時には既に残念1号の後ろでニコニコと笑っていた。
……まあ、いいか!
『逆バニー』って素晴らしいなと痛感した2日後。
鍵となる魔道具は日本へ持ち帰るのは流石に丸井さんからストップされたので、大使館で可能な限り解析と記録を行った。まあ、自分は魔力の流れを観察しただけなのだが。
何にせよ、研究者組が満足したようなので、再びジャンホール伯爵の迷宮へと入る。
階段を下りさえすれば、後は教授の転移で檻の前へひとっ飛びだ。
「では、早速魔道具を入れてみましょう。アイラ、婿殿。記録をお願いします」
「はい」
『白蓮』と影山さん、カタリナさんに周囲の警戒を頼み、カメラと鏡を構える。
緊張した様子で有栖川教授がプレートの窪みに魔道具を押し付けると、ピタリと嵌った。
かと思えば、ゆっくりと内側に収納されていく。それに連動するように、頑丈そうな鉄格子が上へと移動した。
ガシャン、と音をたてて、通路が解放される。
それぞれ顔を見合わせ、小さく頷いてから前進。この先にモンスターがいる可能性は低いと思うが、はたして……。
数メートル程進めば、鉄格子越しにも見えていた突き当りにぶつかる。左右には小さなスペースがあり、それぞれ別々の扉が設置されていた。
「これは……ダンジョンのゲート?」
『それにしては色が違うね』
右手側には青いゲートが、左手側には赤いゲートが、床から数センチ程浮いた状態で待ち構えていた。
色以外は日本のダンジョンで散々見たゲートに酷似しており、それは外観だけではなく魔力の流れ方までそっくりである。
「近くの壁に何やら書いてありますね」
有栖川教授がそう言って、壁に貼り付けられたプレートを読み始めた。
「……青いゲートを通ると、地上へ。赤いゲートを通ると、次の階へ向かえるようです。また、この魔道具を持っていけとも書いてあります」
彼女がプレートを押し込むと、バネでもしかけてあったのか手前側に開いた。
内側には、1枚の鉄製と思しき板が吊るされている。
「教授、念のため素手でとらない方が……」
「そうですね。こんな時の為に、これを持って来ています」
教授はニコリと笑って、空中に出来た波紋から何かを取り出す。
「てれてってってー!マジックハンド~!」
「…………」
場に沈黙が流れる中、百均で買ったのだろうそれをカシャンカシャン開閉させる教授。
数秒程して、彼女は小さく咳払いをしながらマジックハンドで金属板を回収した。
罠の類はなかったようで、金属板をとっても突然上から何か降ってくる……なんてことはないらしい。
『ババ様?どうしたんだババ様?なんて言ったか、もう1度お願いできるかね?もしかしたら大事なことかもしれない』
この残念、人がスルーしたことを……!?
「……何でもありません」
『本当にそうかにゃ~?おっと、そう言えばビデオを回していたんだった!これを確認しよう!』
「やめてください……!」
エルフ耳の先まで真っ赤にして、有栖川教授がプルプルと震える。
まあ、あの……カタリナさんは興味深そうにマジックハンド見ているので、まるっきり滑ったわけではない……はず。たぶん。
そう口に出すべきか考えたが、傷口を広げそうだったのでそっと目を逸らすにとどめた。
『いいやババ様!先程の奇行は迷宮から何らかの魔力が脳に流れ込んだせいかもしれない!調査が必要だ!』
「本当に……出来心だったので……!」
『コピー!バックアップ完了!再生!そちらにも流すぞい!』
『てれてってってー!マジックハンド~!』
『うーん。とても70代とは思えないハイテンションだな!』
「やめてぇ……!」
とうとう顔を両手で覆ってしまった有栖川教授。
念話越しでもわかる程に、アイラさんが腹の立つニヤケ面をしているのがわかる。
まるで鬼の首を取ったような残念女子大生に、小さくため息をついた。
何でこの人は、後でしっぺ返しが来るとわかっていて調子にのるのか。バカと天才を両立している。流石残念。
『よーし、早速これを他の教授達にも見せて意見を』
「ミーアさん、そこにいますよね?」
『はい!勿論です!』
『勿論じゃないが?え、なんでいるの?しかも背後に』
『私もいるぞぉ!!』
『いやエリナ君は余計になんで!?というかいつの間に!?どうなっているんだうちの大学の警備!』
『アイアム忍者!!』
『忍者なら……しょうがない!』
「いや、忍者ではない」
『!?』
「それはさておき、ミーアさん」
『はい!』
『さておかれた!?これは一大事だよ京ちゃん!』
『そうだぞ京ちゃん君!君には里長としての自覚がないのか!』
「アイラさんを、後でどうぞ」
『くっそ、こいつ聞き耳を捨てやがった!あとどうぞってなんだね京ちゃん君!?』
『ありがとうございます!』
『感謝の言葉を贈る先は彼で正解なのかな!?私の人権なのだが!?』
『ありがとうございます!』
『いや私に言えばOKという話でもないからね!?助けてエリナ君!』
『2人でオフの時間に何かする分には、私は口出ししないよ!ぐっどらっく!』
『誰か、弁護士を呼んでくれ。今まさに、今世紀ナンバーワン美女の人権が蔑ろにされている……!』
「あのぉ……」
気まずそうに、影山さんが口を開く。
「もう少し、真面目に」
この後全員で謝った。本当に申し訳ない。
何はともあれ、遺産迷宮へと意識を戻す。
『しかしあれだね。ますますゲームじみてきたな。ジャンホール伯爵は古き良きダンジョンRPGの愛好家だったのかな?』
「それだと、アトランティス帝国にゲーム機があったことになりますよ……」
『さてはて。彼らの魔道具技術は未知数だからね。ピコピコを作っていた可能性だってある』
「ぴこぴこ……?ああ、古いゲームの言い方でしたっけ」
『ふっ……京ちゃん君。言葉には気をつけたまえ。私の泣き叫ぶ声が聞きたいか?』
「貴女平成生まれでしょ……」
なんで思考と立ち位置が中高年なんだこの21歳。
「ゲームかは兎も角、便利ではありますね。そして、ジャンホール伯爵は迷宮へ侵入者が来るのを楽しみにしていた可能性がまた上がりました」
教授の言葉に頷く。
彼の遺言も合わせると、やはり人をこの迷宮に招き入れたかったようにしか思えない。それが自分の作品を見せたいからなのか、あるいは別の理由があるのか。
その理由について、迷宮を更に潜っていけば判明するのかも、今の所不明である。
「それはそれとして、アイラ。この金属板を『鑑定』してわかったことは?」
『どうも、その金属板に魔力を流しながら例の階段を下りた場合、その青いゲートへと転移できるようだ。ショートカット用の魔道具だね』
「失礼、念話先の彼女は、なんと?」
1人だけイヤリングを装着していない影山さんが、瞳を鋭くして教授に問いかける。
この人相手だと緊張するらしく、アイラさんがまともに喋れなくなるので……。
有栖川教授が、先程アイラさんが言ったことをそのまま彼女に伝える。すると、影山さんの目が大きく見開かれた。
そして、食い入るように金属板を凝視する。
「では、それの解析ができれば、ダンジョン内の好きな位置に最初から行ける可能性が……!?」
「あ、いえ。金属板の方は、あんまり重要じゃないかと……」
『私も同意見だな』
自分とアイラさんが、彼女の言葉を否定する。
凄い勢いでこちらに顔を向けてきた影山さんにちょっとビビりながら、説明した。
「その金属板には、ほとんど魔力が内包されていません。刻まれている術式も、あまり複雑ではなさそうです」
「では、これは……」
「恐らく、ダンジョンその物の機能がベースで、この金属板はただの目印というか、受信機というか……その、たぶん、ですけど……」
極論、この金属板自体の複製はそう難しいことではないと思う。
それこそ、雫さんなら半日で同じ機能を持った物を作れるはずだ。『錬金同好会』なら、1時間かからないかもしれない。
問題は、この迷宮にそういった複製品が『登録』されていないことだ。
あくまで主体はジャンホール伯爵の遺産迷宮であり、そっちの方を解析しないと何もわからない。
『私も京ちゃん君と同意見だね。そう、影山氏には伝えてくれたまえ』
「孫も、婿殿と同じ意見だそうです」
「……そうですか」
少しだけ悔しそうな顔をした後、影山さんはすぐに切り替えた様子ですぐに凛とした顔へと戻る。
「失礼しました。ただ、一応帰還後にその魔道具のデータも我々に見せて頂けませんか?」
「勿論です。私もここで得た知識や物品を独占したいわけではありません。自衛隊と有栖川研究室は、協力してここの調査を行っているわけですから」
ニッコリと、綺麗な笑みを浮かべる有栖川教授。
遠回しに『お前らも何か見つけたらこっちに教えろよ』と言っている気がするが、相手もそれは承知しているのだろう。影山さんはゆっくりと頷いた。
そして、彼女の視線が青いゲートへと向けられる。
「しかし、このゲートを調べて何かわかったりは……」
「いえ、流石にそこまでは……」
「ですよね。失礼しました」
ゲートは非常に高度な魔法で作り出されている。下手に弄って、空間ごと炸裂するとかしたら、大惨事だ。
何をどう調べれば良いのかも、よくわかっていない。科学的にも魔法的にも、未だ謎ばかりの存在。それがダンジョンゲートである。
それらの謎を解決する糸口も、ジャンホール伯爵の遺産にあれば良いのだが……。
「何はともあれ、下へ向かって見ましょう。ある程度第2層を探索してから、本日の調査は終了とします」
「了解」
『まだ30分もダンジョンに入ってはいないが、安全第一だからね。もっとも、個人的には敵戦力次第で、迷宮にいられる1日の許容限界……12時間たっぷり調査しても良いと思っているが……』
『もう!姉さん、無茶を言わないでください!大変なのはお婆様や京太君なんですからね!』
『そうだぜパイセン!忍の道も一歩からって諺があるんだよ!』
『むぅ、致し方ない』
アイラさんの無茶を止めてくれる人が増えたことに、内心で安堵する。片方意味不明なこと言っているけども。
兎も角、赤い方のゲートの前へ立つ。自分を先頭に、それぞれ体の一部を接触させた後互いに目配せした。
既に鏡は教授のアイテムボックスに収納し、『魔装』の剣を右手に握っている。柄の感触を確かめるように力を籠めながら、イヤリング越しにアイラさんへ話しかけた。
「これより、第2層へ向かいます」
『うむ。先程はああ言ったが、安全第一というのも本音だ。気を付けて向かいたまえ』
『そうですよ、京太君!お婆様と、影山さん、カタリナさんも!』
『ファイトだぜ京ちゃん!お婆ちゃま!『インビジブルニンジャーズ』の力を異世界に見せてやるんだよ!掛け声出そうぜ!3!2!』
「それでは、向かいます」
『フライングだよ京ちゃん!?』
自称忍者を無視して、赤いゲートを潜る。
日本に出現したダンジョンと同じ、足元が突如として消えたのに、浮遊感のない不思議な感覚。
それもすぐに終わり、ブーツ越しに固い感触が返ってくる。
壁に等間隔で設置された燭台に、自動的に火が灯って石造りの通路を照らし出した。
作り自体は第1層と大きな変化が見受けられない。道幅や天井までの高さも、同じようだ。
しかし、流れてくる魔力が僅かに異なる。
「第2層に到着。循環している魔力濃度が、微妙に上昇しました。配置されたモンスターのランクが、第1層よりも上がっている可能性があります」
『ふむ。やはりジャンホール伯爵はゲーム好きらしい。階層を増すごとに難易度が上がる仕組みか』
「……1階分下る度、1ランク上がるとか、ないと良いのですが」
このままいくと、『Aランクモンスター』が跋扈する階層を調べることになりかねない。
こちらへ来られるのは、身内だと自分と教授のみ。白蓮がいるとは言え、普段日本で『Aランクダンジョン』に潜っている他のメンバー抜きで攻略することになる。
恐らく、この階層なら調査しながらでも探索は余裕のはずだ。
しかし、この先はどうなるのか……。
嫌な汗が背筋を流れるのを実感しつつ、ゆっくりと歩き出した。
燭台やLEDランタンによって作り出された自分達の影が、ゆらりと動く。
そんな当たり前のことすらも不気味に思いながら、今はまだ、足を止める理由など存在しなかった。
読んでいただきありがとうございます。
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