外伝17 シナリオクリア後にチュートリアル
外伝17 シナリオクリア後にチュートリアル
遺産迷宮に入って、約1時間が経過。
例のプレートの近くに教授がマーキングを行い、帰還はすぐにでも可能であった。この迷宮は日本のダンジョンとは異なり、入り口の階段から脱出できる。そう、カタリナさんから聞いた。
おかげで、いざという時の脱出経路を早々に確保することができ、なおかつ敵も『白蓮』の敵ではない。
半分散歩に近い道のりに、内心で安堵する。
「影山さん。ここまでの経路を見せて頂いても?」
「はい。どうぞ」
教授が立ち止まり、影山さんに振り返る。
そして、自衛官である彼女はボードごとそこに固定された紙を教授に渡した。
「なるほど……ありがとうございます。それにしても器用ですね」
「はい。ダンジョン出現から2カ月程経った頃に、自衛隊の覚醒者全体にマッピングの講習がありましたので」
返された地図を、敬礼と共に受け取る影山さん。
「それで、この地図なのですが……」
「もちろん、自衛隊の方で共有して頂いて構いません。ただ、コピーは私も持たせて頂きますが」
「はい。ご協力に感謝します」
影山さんは、どうも上の方から何か言われているらしい。
やはりというか、自衛隊もこの遺産迷宮には興味津々なようだ。いや、日本政府か?
当たり前といえば、当たり前の話である。何にせよ、自分がとやかく言うことではない。
念のため、『精霊眼』で周囲の索敵を続ける。
護衛として来ているのだ。報酬分の仕事は……ん?
『■■■■■!』
『敵が近づいているそうだ。スケルトンらしい』
「いえ、スケルトン以外にもいます」
アイラさんが翻訳してくれたカタリナさんの警告にそう付け加え、剣を手に教授の前へと出る。
同時に、他の面々もそれぞれ得物を構えた。
「恐らく霊体。魔力量は少ないので、高ランクではないと思いますが……」
そうしている間にも、動く死体どもの足音が聞こえてくる。
進路上にある曲がり角。そこから、2体のスケルトンが姿を現した。そして、その傍に半透明の存在が『壁をすり抜けてくる』。
一見すれば、こちらも骸骨のような姿をしていた。しかし腰から下がなく、ぼろきれのようなローブを纏っている。
それは、この世ならざる存在。死者達の怨嗟の声が聞こえてくるような姿の、常人には触れられぬ者。
『レイス』
こんな見た目だが、奴が成仏できなかった誰かの霊魂という可能性は低い。学者達も魔法使い達も、9割9分ただのモンスターの一種であり、塩からできていると言っている。
それでも、残りの1%の可能性を人は考えてしまうものだ。
本能的な恐怖を抱く自分達に、アンデッドの集団は命を刈り取りにやってくる。
盾と剣を持ったスケルトンが前へ出ると、その後ろでクロスボウを構える別の個体。更にその横で浮かんでいるレイスが、自分達を嘲笑うように詠唱を行った。
『カカカ……!』
スケルトンの笑い声に似た、しかし異なる何か。
空気の振動もなしに響くそれには魔力が乗り、呪いとなって生者を襲う。
……だが、まあ。
豪風が、通路を満たす。
───ガッシャーン!
白蓮は既に動き出しており、騎士が纏う鎧が呪いを蹴散らして、矢が放たれる前にスケルトンは2体纏めてタワーシールドで殴り飛ばされた。
続けて無造作に振るわれた戦斧が、レイスを両断する。魔力を帯びた武器なら、霊体でも倒せるので。
何というか、地力が違い過ぎる。
『私が『鑑定』で見たステータスを言う前に、蹴散らすのやめてもらえないかな……?』
「なんか、すみません」
イヤリング越しに聞こえてきた苦情に、小さく謝る。
白蓮に近づいて労った後、コインを回収。教授達と合流した。
「しかし、敵の編成は明らかに脅威度が上がっていましたね」
ドロップ品のコインを教授に渡しながら、気を引き締める。
ギャグみたいな決着だったが、敵が厄介なことをし始めたのは事実だ。
「盾持ちの前衛に、飛び道具を持った後衛。更に魔法使いまで。露骨に難易度が上がっています」
「もしかしたら、奥に行く程出てくる敵の強さが増すのかもしれませんね」
教授の言葉に、そうなのかとカタリナさんへと視線を向ける。
……いや、うん。
相変わらず目に毒な『魔装』姿なので、すぐにその辺の壁に目を逸らしたが。
『■■■、■■■■■■■』
『■■、■■■■。■■■■』
『ふむ。どうやら彼女も詳しくは知らないらしい。階段からあまり離れず、浅い所だけを探索していたそうだ』
「まあ、撤退ルートの確保は大事ですからね」
彼女はこれまでソロで活動していた。慎重さは美徳である。
なので、申し訳なさそうに耳を伏せないでもらいたい。こっちの顔を覗きこみに来られると、少し困る。
カタリナさんにその気はないのかもしれないが、立派なお胸様とか、それに比べて華奢肩とか、何故か左右がノーガードな袴とかが気になってしょうがない。
5人の彼女の為にも、誠実でありたいのだ……!煩悩なんかに、負けない!
……5人も彼女がいる段階で、理性が大敗北している気がするけど!
「んんっ!ここからは、よりいっそう警戒していく必要がありますね」
咳払いをして、どうにか思考をシリアス寄りに戻す。
「そうですね、婿殿。頼りにしていますよ」
「はい」
「あの……一応、私も護衛なのですが」
影山さんが、苦笑を浮かべながら右手を軽く挙げる。
「地図の作成だけでなく、戦闘もお任せください。この程度の相手なら、私でも圧倒できます」
「ええ、勿論です。ですが、大半の敵は白蓮……婿殿のゴーレムで片付きますので、影山さんは体力を温存していてください」
「……はい」
何か言いかけた影山さんだが、営業スマイルを浮かべて頷いた。
彼女にもプライドがあるだろうが、こちらとしてはマッピングしてくれるだけでもかなり助かっている。アイラさんがAIを使って映像から地図を作っているが、こういうのは二重三重でやっておくに越したことはない。
なお、カタリナさんは我関せずといった様子で、刀を鞘に戻しポケーとしていた。
この人、言われなければ戦わない気満々である。先程一応構えたのは、アイラさんから霊体の接近を知らせられたからだろう。たぶん、次からは構えすらしないな。
こちらを信頼してくれているからだと、ポジティブに考えよう。そうしよう。
何はともあれ、この程度なら特に危険度は変わらない。自分の眼がある以上、レイスがその辺の壁や天井から奇襲を狙ってこようと、感知できる。
更に進むこと、1時間。合計2時間が経過した頃、通路を塞ぐ鉄格子を発見した。
「これは……?」
広い通路いっぱいを封鎖する、頑丈そうな鉄格子。その隙間から、丁字路が見えている。
『なんだね、この如何にも向こう側に何かあるという障害物は!京ちゃん君、その鉄格子は固定されているのかね。持ち上げたらすんなり通れたりしないかい?』
「無理そうですね。しっかりと床に固定されています。それと、魔力が不規則に流れているので、教授の短距離転移も弾かれるかと」
この迷宮のルールとして、壁や扉を故意に破壊するとペナルティーが加えられる。
と言っても追い出されるだけなのだが、今後他に『絶対に何かを破壊しないといけない』という状況に備え、極力迷宮を傷つけない方が良いだろう。たしか、壊して良いのは3回までだ。
そうでなくとも、破壊しようとしたら教授とアイラさんに止められそうだが。
「となれば、これが開錠のヒントかもしれませんね」
有栖川教授の言葉に、視線をそちらへ向ける。
すると、壁に入口のとは別のプレートが張り付けられていた。しかも、そのプレートの下に妙な窪みがある。
「……これ、もしかして何かを持って来て窪みに入れろとか、そういう?」
「正解です、婿殿。このフロアに鍵があるので、それを窪みにはめ込めと書いてあります」
「マジですか……」
思わず、頬が引きつる。
「ジャンホール伯爵って、ここを娯楽施設にでもしたかったんですか?テーマパークとか」
『随分と物騒なテーマパークだね。しかし、愉快な人物であったのは確定かな、これは』
「まるで、アイラの好きなテレビゲームですね……」
『むむ。ババ様、テレビゲームと一括りにするのは良くない。ゲームにもジャンルがあってだねぇ』
教授に絡みだしたアイラさんを放置し、影山さんの方を見る。
「あの、もう1回地図を見せてもらって良いですか?」
「はい。どうぞ」
彼女と一緒に地図を覗き込む。
結構回ったが、それらしい物は見ていない。となれば、まだ行っていない箇所に鍵はあるのだろう。
そして、ジャンホール伯爵がゲームみたいな迷宮を作ったのだとしたら……。
「やっぱり、角っことか、もっと階段から離れた位置に鍵が隠されているんですかね?それらしい方角を、一旦目指しますか?」
「何を言っているのですか、婿殿」
『おいおい、それはないぜ。京ちゃんくぅん』
先程まで孫の面倒なオタクムーブを受け流していた教授が首を傾げ、面倒なオタクことアイラさんが小さくため息をついた。
あ、もしかして。
「このフロアを、隅から隅まで調べるのが先です」
『マップは全て埋める物!常識だね☆』
「……うっす」
この後、滅茶苦茶歩き回った
* * *
探索開始から約4時間。通常のダンジョンでは、とっくにストアから捜索隊が出ている時間である。
それだけぶっ通しで歩き回ったのだが、教授はまだまだ元気そうであった。
……事前にトイレ行っておいて、本当に良かった。
何故か道中で迷宮内なのにあったトイレ……小部屋の中の『おまる』を思い出し、少し遠い目になる。
新品同然に綺麗な様子であったが、正直アレは使いたくない。
「さて。あとは、この扉の先だけですね」
探索の結果発見した、分厚い木製の扉。両開きになっており、如何にもといった雰囲気を放っている。
いや、まあここ、例の鉄格子を見つけて30分後ぐらいに見つけたのだが。何なら、トイレから5分ぐらいの位置にあったし。
ジャンホール伯爵の性格を考えると、この扉の先に鍵がありそうなのだが……。
『何かイベントフラグを踏んでしまうかもしれない!』
と、アイラさんの指示により後回しとしただけである。
本当にマップを全て埋めてから、またこうして扉の前に戻ってきたのだ。
なんかもう、グダグダである。自衛官の影山さんと、スタミナに制限のない自分は良いが、カタリナさんは露骨にげんなりとしていた。
「では、皆さん準備は良いですね?」
『私のシックスセンスが囁いている……この先はボス戦だぞ!』
元気ね、あんたら。
キリっとした顔の教授と、恐らく念話越しにドヤ顔をしているアイラさんに頭痛を覚える。学者って、もしかして皆こうなのだろうか。
何はともあれ、戦闘が待っている可能性には同意する。剣を握り直し、教授へと頷き返した。
「アイラさん。カタリナさんに、内部から何か音は聞こえるか質問してください」
『うむ』
こちらの問いかけに、カタリナさんが首を横に振る。
『わからない、だそうだ。いないのではなく、わからないと彼女は告げている』
「扉厚いのか、中の存在が不動で音が出ないのか……魔力の流れも、この扉越しではよくわからないですね」
「了解。では、扉は私と矢川さんが開けます。開けると同時に、ゴーレムが突入。その後、全員で入る。危険そうなら即座に後退。それで良いですね?」
「はい」
影山さんの提案に頷き、彼女とそれぞれ扉の取っ手を握る。
「『0』と言ったら、突入してください」
そう告げて、影山さんがカウントする。
「3……2……1……0!」
勢いよく扉を開ける。それと同時に、白蓮が盾を構えて突撃した。
その後を続くように部屋へ入ろうとして、目撃する。
部屋の中央に立つ、4体のスケルトンと、1体の鎧を着た何か。
黒いゴツゴツとした鎧を付けた、他のスケルトンよりも1回り大きな個体。魔力の流れから、恐らくボスモンスター。
それが、開かれた扉に反応しようとして。
───ドガァン!
纏めて、白蓮に撥ね飛ばされた。
突入した自分達を出迎える、骨が床に散らばる音。力なく落ちた、ボスモンスターと思しき個体の頭蓋骨が『カツーン!』と床に転がった後、すぐに塩へと変わっていく。
「……クリア!」
影山さんが、若干やけくそ気味に周囲を見回しながらそう告げた。
いや、うん。1時間半無駄に歩いてこれは、ちょっとやるせない気持ちにもなりますよね。
しかし、思わぬ死闘になんてならなかったのは、幸運だ。そこは素直に喜んでおこう。
改めて室内を見回せば、広さは教室3個分といったところ。部屋の奥に、これ見よがしに宝箱が置いてある。どう考えても、あの中に鍵が入っているパターンだ。
一応剣を握ったまま部屋の奥に進み、白蓮の背中を叩く。
「お疲れ様……」
ビシっと。戦斧を自身の肩にたてかけてサムズアップする白銀の騎士。
その姿に癒されながら、宝箱の魔力を確認。アイラさんの『鑑定』で罠の類がないか調べてもらい、慎重に蓋を開けた。
中に敷き詰められたクッションと、その中心に置かれた球体。
魔道具と思しきそれに、鏡をかざす。
『うむ!間違いない。特定の魔道具に接続すると、魔力が流れるらしい。あの鉄格子を開ける為の鍵、ゲットなんだZE!』
「……うっす」
達成感より疲労感が勝る、第1層の探索。
興味深そうに球体型の魔道具を眺めまわす教授を横目に、小さくため息をついた。
はたして、あの鉄格子の先には何があるのやら。
わかるのは、これで終わりではないということ。ジャンホール伯爵の性格なんて知らないが、この迷宮に流れる魔力量を考えると……。
「あと、何階層あるんだろう……」
どうせあの鉄格子の先って、下へ続く階段なんだろうなぁ。
とりあえず、帰ったらアイラさん達に全力で癒されよう。そう、心に誓った。
読んでいただきありがとうございます。
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