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外伝16 迷宮の入り口

外伝16 迷宮の入り口




 ロンドンで発生した世紀の大事件に世間が持ち切りの中、自分達は再び、異世界へと赴いた。


 一度大使館に顔を出すも、丸井さんは留守らしい。他の大使館員さんに『遺産迷宮』への挑戦を報告した後、有栖川教授の転移によって現地に向かった。


 彼女らの予想は正しかったらしく、特に引き留められることはなかった……の、だが。


「あの。自衛隊の派遣はダメって話でしたけど……影山さんは良いんですか?」


 自分達についてきた護衛の自衛官に、そう問いかける。


 すると彼女は、若干口の端を引きつらせながらも笑みを浮かべた。


「問題ありません。私はあくまで『冒険者』として活動中ですし、相手国もたった1人ならと、特に目くじらはたてないそうです」


「そ、そうですか……」


 詳しくはわからなが、彼女の頭を跳び越えて色々と駆け引きやら取引があったんだろうなぁ……。


 内心で若干同情していると、念話越しにアイラさんがブツブツと呟きだした。


『ふむ。覚醒者で、なおかつ戦いを生業にする者を『たった1人なら』と、そう扱ったのか。君達がいる異世界の覚醒者達がレベル上げを満足にできていないという話が、より確度を増したね』


「はあ……」


『冷静に考えて、君やババ様、そして他の『Aランク候補』のような人間兵器を自由に歩かせるなど、日本以外ではありえんからね。普通、厳しく取り締まるはずだ』


「酷い言われようだ……」


 否定はしないけども。


 レベルが『70』もいくと、単独で軍艦を轟沈させられる者も出てくる。無論、一撃とはいかないが。それでも無防備な横っ腹に数発叩き込めるのなら、可能な者の方が多い。


 実戦なら艦載機やら機関銃やらで迎撃されるだろうが、シンプルにそれだけの『破壊』をもたらせる個人というのは生物の範疇からはみ出ている……かもしれない。


 影山さんはランクで言うと『D』以下かもしれないが、自分達が見張りの1人もつけられていないあたり、本当にこの世界の人達は覚醒者を『多少強いだけの個人』として見ているのだろう。


「考察はそこまでです、アイラ。今はこの迷宮の攻略に集中しましょう」


『む、それもそうか』


「ここからは、何が起きても不思議ではありません」


 蔦だらけのジャンホール伯爵の城を前に、有栖川教授が真剣な声で告げる。


「冷静に、慎重に。浮かれた気分など一切なく、探索をするとしましょう」


 そう告げる彼女の服装は、薄茶色の帽子に、シャツ。そして長ズボンと、首元のスカーフもあいまって若干ボーイスカウトっぽい。


 確かに探検する格好としては正しいかもしれないが、それはそれとして、この人も大概浮かれている気がする。


 だがツッコミを入れる程じゃないよな、と思い、口を閉じることにした。


『でもババ様。直前まで長ズボンじゃなく短パンで行こうとしていたような……』


「おっほん!」


 イヤリング越しの孫の声を遮り、教授がわざとらしく咳払いをした。


「では、先頭は婿殿のゴーレムが。次に私と婿殿。カタリナさんと影山さんが、殿を頼みます」


「はい」


「了解しました」


『■■■■』


『■■■■!』


 アイラさんが念話で通訳したのもあって、カタリナさんも大きく頷いた。


 影山さん以外が『魔装』を展開し、自分も『白蓮』を起動する。


「では、出発します」


 タワーシールドを掲げた白蓮にライトをテープで貼り付け、前進させる。


 城の敷地内に侵入し、庭園を進んだ。


 昔は綺麗に整えられていたのかもしれないが、今は腰より少し下辺りまで雑草が生い茂っている。


 白銀の騎士がそれを踏みつけて道を作り、自分達は後ろを歩く。植物は元気に育っているのに、不気味な程それ以外の生物の息吹が感じられない場所だった。


 ここの魔力は、やはりおかしい。鳥や虫達は、本能的な恐怖からここを避けているのではないか。


 そんな想像が浮かぶ中、城の玄関に到達。白蓮が右手に持っていた戦斧を逆さに持ち替え、石突でゆっくりと扉を開ける。


 両開きの扉の先。そこには、光源のない石造りの部屋があった。


 ライトで照らし出された、濡れたような色合いの石壁。埃っぽい空気が出迎えたというのに、その壁面にはひび割れ等の傷が見当たらない。手入れする者など、いないはずなのに。


 広さは、カタリナさんの言っていた通り馬車が2台入れるかどうか。そして、これも彼女の言っていた通り、中央には下へと続く階段のみがある。


 不気味な程静かなそれを見下ろし、自分達は無言で互いに頷いた。


 これは、日本に出現したダンジョンの入り口である『ゲート』とは異なる。体のどこかが接触していなくとも、バラバラに内部のどこかに飛ばされる、ということはない。


 ゆっくりと腰の剣を抜き、剣帯にぶら下げたLEDランタンのスイッチを押した。


「それでは、探索を開始します」


『ああ。全員、くれぐれも注意してくれたまえよ』


「はい」


 軽く白蓮の背中をノックし、前進させる。ガシャリ、ガシャリという鎧の音を響かせながら、石の階段を下っていった。


 地下に到達するまでの時間は、それ程長くはない。30秒から1分ぐらい。


 たったそれだけの間だったが、自分には奇妙な感覚があった。


 時間が、いいや空間が引き伸ばされたような、逆に圧縮されたような。そんな気配を感じ取る。


 ゲートを潜った時とは、また別種の違和感。それが、この空間が正常なものではないことを再認識させた。


 たどり着いた地下1階は、等間隔で燭台が壁に取り付けられた、石造りの空間であった。


 地下だというのに、湿気た空気がない。地上と違って細かな傷が壁にあるが、自分にはどうにもそれがわざとらしく感じられた。


 通路の幅は、一車線分と少しといったところだろう。天井の高さは、3メートル程。白蓮が全力戦闘するには、若干狭い。


 そして、右手側の壁。そこには、金属のプレートが埋め込まれている。


「アイラさん、1階に到達しました。それと、金属のプレートらしき物を発見。文字が書いてあります」


 そう告げ、手鏡を取り出しプレートに向ける。


 こちらの後ろから身を乗り出すようにして、教授もプレートを凝視した。


「ふむ。アトランティス帝国でよく使われていた文字ですね」


『現代では、異世界でも古めかしい言い回しだな。しかし、問題なく解読できる』


 彼女らが言うには、このプレートには『注意事項』が書いてあるらしい。



 一つ、迷宮の壁や天井、床等を、故意に壊してはならない。


 一つ、この空間で殺人を犯してはならない。


 一つ、この空間で1日12時間以上過ごしてはならない。


 一つ、この迷宮にある物は、好きに持って行って良い。


 一つ、なるべく死ぬな。自殺行為は避けよ。


 以上のルールを守らなかったと『迷宮』が判断した場合、手に入れた物品を没収した上で外に放り出す。三度ルールを破った者は、二度とこの場所に足を踏み入れさせない。



『……だ、そうだ』


「なんというか……微妙に親切ですね」


『うむ。もしや、ジャンホール伯爵は意外と茶目っ気のある人物だったのかもしれないね』


「実際にこのルールを破った場合どういう風になるのか、試したい所ですが……今は我慢するとしましょう」


「教授、『今は』って言いました……?」


 正気かと視線を向ければ、至極真面目な顔で彼女は頷く。


「はい。この迷宮自体が、ある意味遺跡ですので。その仕掛けについても興味があります」


「……そうですか」


 不要なリスクは負ってほしくないが、まあ良いだろうと流すことにした。


 後ろで油断なく『錬金甲冑』の槍を構えていた影山さんが、プレートの方をチラリと見る。


「先ほど、迷宮の壁や天井を故意に壊してはならないとおっしゃっていましたが、どの程度の範囲は大丈夫なんでしょうか?」


「それも不明ですね。しかし、ルールを破ってもすぐに殺される……という可能性は低いでしょう。今は、慎重に進むとしましょうか」


「了解」


 教授の言葉に短く頷く、影山さん。その隣で、カタリナさんがしきりに耳をヒクヒクと動かしている。


 そして、何かをボソボソと呟いた。


『京ちゃん君。ババ様。カタリナ氏がこちらへ接近する足音を感知したらしい。注意を』


「はい……!」


 やがて、自分達にもカシャカシャという、軽い物がぶつかる音が聞こえてくる。


 真っ直ぐに伸びる、通路の向こう。十字路から、2つの影が現れた。


 肉も筋肉もなく、骨だけで自立する奇怪な体。胴体と肩、そして前腕と脛を金属製の鎧で覆い、手には槍を握っている。


 空っぽの眼窩に、青白い光がぼぅっと灯っていた。


『スケルトン』


 かつて、『Eランクダンジョン』にて戦ったモンスター。


 それらが自分達を見るなり、カタカタと歯を鳴らす。それはまるで、死地へとやってきた生者を嘲笑っているようだった。


 彼らは武器を構え、こちらへと駆け出す。鋼の穂先が、燭台の明かりに照らされて鈍く輝いた。


 そして。


「白蓮」


 ───ぶぉん!


 白銀の騎士が振るった戦斧で、2体纏めて薙ぎ払われた。


 バラバラに散らばる骨。少し遅れて、カラーンと、槍が床を転がった。


 それとほぼ同時に、骨が塩へと変わっていく。武器や防具も崩れてなくなり、残ったのは塩と銅貨だけだった。


 この辺は、日本のダンジョンと同じらしい。ちょっと安心する。


「では、探索していきましょうか」


「はい。あ、お疲れ、白蓮」


 教授の言葉に頷いて、彼女のアイテムボックスに回収した銅貨をしまった後。


 何事もなかったように、歩き出した。



 ……いや、流石に警戒はしますけどね?





スケルトンA

「メインシナリオクリア後に来るんじゃねぇよ……!」


読んでいただきありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。励みになっております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


本日、『コミュ障高校生、ダンジョンに行く』の第1巻が各書店様で発売されました!ここまで来られたのも、皆様のおかげです!

ご購読いただけると幸いです!よろしくお願いします!


※次のお話は、また今週の土曜日に投稿させていただこうと思います。テンションが上がり過ぎて、突然ですが本日投稿させていただきました。混乱をさせてしまい、申し訳ございません。



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> メインシナリオクリア後に来るんじゃねぇよ……! ここ追加dlcなんだから仕方ねぇだろ……!
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