外伝15 別にジョ●ンズ博士が遺跡を壊しているわけではない、はず
外伝15 別にジョ●ンズ博士が遺跡を壊しているわけではない、はず
「婿殿、撮影機材を出しますのでお願いします。それと、『白蓮』を念話用の鏡で研究室に直接映像を送りたいので、起動を」
「はい」
「影山さんとカタリナさんは、周辺の警戒をお願いします」
「了解」
手早く白蓮を組み立て、起動。鎧を装備させ、タワーシールドを肩紐で背負わせる。
武器の代わりに大きめの鏡を持たせ、アイラさんの声に従うよう命じた。
『そうだ、京ちゃん君。どうせだから、君は空を飛んで上から撮影してくれるかね』
「それもそうですね。婿殿なら、ドローンにカメラを取り付けるより安定します」
「わかりました」
『概念干渉』と『魔力変換』を使い、宙に浮かぶ。フリューゲルは一応装備しているが、速度を出し過ぎても撮影がしづらいので、緩く飛ぶことにした。
元々はとても立派な建物だったようで、1番高い位置で50メートルはある。土地の面積もかなりのものだ。うちの高校の、何倍なのだろう……。
カメラ越しに城を眺めるが、屋根などの比較的壊れやすいだろう部分にも、目立った損傷は見られない。『精霊眼』により、建物を循環する高密度の魔力を感じ取る。
『どうだね、京ちゃん君。君の感想は』
「凄まじいですね。あの城その物が魔道具なんだと思います。土地の霊脈からくみ上げた魔力を使い、建物の強度を上げ、なおかつ修復までしているのかと。あくまで、予想ですが」
『ふむふむ。霊脈から、というのは正しくアトランティス帝国の技術だね。『錬金同好会』もまねてはいるが、あそこのは効率がまだまだ悪いと聞く。君がそこまで言うということは……』
「流石にどういうダンジョンが内側にあるのかまでは知りませんが、一筋縄ではいかないかと」
不気味なほど静かなジャンホール伯爵の城を見下ろしながら、撮影を続ける。
森に囲まれているというのに、鳥どころか地を這う虫すら見受けられない。
植物だけが息をしている。生と死の狭間がごとき、迷宮の入り口であった。
* * *
その日は周囲の探索と撮影だけ行い、大使館に帰還。その後、日本へと戻った。
結局丸井さんは戻ってこなかったが、世界を揺るがすほどの大事件が地球側……というか英国で発生していたので、仕方がないだろう。
それについては解決もしているし、今は置いておくとして。
「どれ。まずは情報の整理といこうじゃないか、諸君」
有栖川邸の一室。シアタールームらしいのだが、今回は置いてあるソファーを脇にどかし、立ったままスクリーンに視線を向ける。
この場にいるのは有栖川教授、アイラさん、ミーアさん、エリナさん、そして自分の5人。
そして、スクリーンに映されているのは先日撮影したジャンホール伯爵の城である。
「敷地面積は東京ドームおよそ5個分。東京のネズミーなランドの半分ぐらいだ。城の高さは最も高い位置で約50メートル。といってもそれは尖塔部分であり、通常の居住空間は4階建てまでだ。それでも十分に大きいがね」
スクリーンを前に、アイラさんが伊達メガネに指示棒まで持って、ニヤニヤと楽しそうに笑いながら語る。
「だが現地協力者のカタリナ氏曰く、肝心のダンジョン部分は『地下』にあるらしい」
スクリーンの画像が切り替わり、城の正面玄関が映される。
「この扉を開けると、石造りの壁に囲まれた部屋に出る。広さは、彼女曰く馬車が2台入れるかどうか。中央に地下へ続く階段があり、それ以外には何もない」
「他の部屋に続く扉も、ですか?」
「うむ」
ミーアさんの問いかけに、アイラさんが大仰に頷く。
「どうにも、あの城は地下以外に入れる場所がない。地上にある城は、窓から侵入しようとしても特殊な結界に弾かれてしまうようだ。壁の強度も異常なほど高い。付近に住んでいるの村人の証言によると、過去に破城槌で叩かれても壁には傷1つつかなかったそうだ」
「そりゃぁ、あれだけの魔力密度ですからね……」
彼女の言葉に、ぼそりと呟く。
すると、アイラさんが伊達メガネをキラリと光らせながらこっちを向いた。
「そうとも。あの城全体に、強力な結界が展開……いいや、柱の一部として使われている。これがどういうことを意味するか、わかるかな?」
「はい!パイセン!」
「素晴らしい挙手だぞエリナ君!さあ、答えを言ってみたまえ!」
「無理矢理結界をどーんってすると、建物自体がどんがらがっしゃんするかもっす!」
「100点満点だぞエリナ君!」
「忍者ですから……!」
いや、忍者関係なくない?
ドヤァ……とした顔をするエリナさんこと自称忍者から目を逸らし、画面へと視線を戻す。
「京ちゃん君のゴリラパワーで強引に建物へ侵入しようとした場合、貴重な歴史的建造物でもあるジャンホール伯爵の城が壊れてしまう可能性が高いのだ。当然、中にある貴重な品々もおじゃんだろう」
「誰がゴリラですか貧弱残念女子大生」
「残念ではない。天才だ」
「バカと天才を両立するタイプじゃないですか、貴女……」
「お黙り。続きを話すとしよう」
スクリーンの映像がまた切り替わり、今度は正面玄関横。その壁に、異世界語で何かが彫り込まれている。
「ここには、『城の中の物を誰でも好きに持って行って良い。そして、迷宮を完全踏破した者には、この城の管理者と認めよう』と書いてある。このことから、迷宮を攻略すれば、城の結界を自由に通ることができるようになるかもしれない」
「そうすれば、内部の物を調査し放題……それも、外界とは完全に遮断されていた場所です。本来なら酷い劣化が生じているような物品も、無事な状態である可能性が高いでしょう」
そこまで無言だった有栖川教授が、自身の細い顎に指をあてながら口を開く。
「あの結界がどういう物かは詳しくわかっていませんが、日本と繋がったダンジョンの状態から、多少の破損はあっても書物などは読める状態で残っているかもしれません」
「自衛隊が回収し、現在はアメリカの研究所で保管されている魔導書や記録文書の現物も、多少の虫食いや汚れはあるが手に取って読むことができるらしいからね」
「まさに、宝の山と言って差し支えない場所です。迷宮自体も気になりますが、地上部分の城内部も非常に興味深い」
楽しそうだな、学者組……。
まあ、自分も興味はある。それに報酬が出るのだし、余程の危険がなければ否と言うつもりはない。
しかし。
「歴史的に重要な場所だと言うのはわかりますが、日本各地にあるダンジョンと違い、自衛隊による調査が行われていないダンジョンです。もっと慎重になった方が良いのでは?」
ミーアさんの言う通りである。
出てくるモンスターも、浅い層のものならカタリナさんが知っているらしいが、奥へと進んでいけば未知の敵が出てくるかもしれない。
更に、様々な仕掛けが施されているというのだ。ミノタウロスのダンジョンのように、質の悪い罠が数多く用意されている可能性もある。
ミーアさんの言葉に、アイラさんが少しだけ難しい顔をした。
「うむ……ミーアの懸念は尤もだ。私も、京ちゃん君やババ様には死んでほしくない」
「アイラ……」
「アイラさん……」
「2人には今後とも、私を養ってもらわないと困るのだ」
「そういう所ですよ、アイラ」
「ボケないと呼吸できないんですか?」
「私に社会生活が送れると、本気で思っているのかね?」
「安心してください、姉さん。私が飼います」
「皆!ふざけないで本題に戻ろうね!」
アイラさん。これは貴女が始めた物語ですよ……?
冷や汗をだらだらと流しながら、残念女子大生その1は小さく咳払いをした。
「おっほん!しかしな、ミーア。ババ様には転移がある。それに京ちゃん君のスペックなら、大概の罠は力技で突破可能だ。普通の人間の感覚で『危ない場所』だとしても、彼らならピクニック感覚での調査にならないかね?」
「そうかもしれませんが……そもそも、ダンジョン自体普通とはかけ離れた場所です。もしも『グイベル』のようなモンスターが待ち構えていた場合、京太君やお婆様でさえ……」
あの白い竜を思い出し、無意識に背筋が伸びる。
『Aランク候補』およそ30人が力を合わせ、やっと討ち取ることができた化け物。アレともう一度戦えと言われたら、前回の倍の戦力を用意してほしいところだ。
「しかしミーアさん。アレはアトランティス帝国でも、末期に作られた移動迷宮です。流石にアレと同格は出てこないかと」
「あくまで例えです、京太君。万が一の備えは───」
「つまり、しっかり準備していこうってことだね!」
自分達の会話をぶった切って、自称忍者がそう告げる。
相変わらずの笑顔を浮かべた彼女に、ついつい苦笑とため息がそれぞれの口からこぼれた。
「それもそうですね……こうなった姉さんやお婆様が、止まるとは思えませんし」
「備えあれば憂いなし、ということだねエリナ君。私も同じことを言おうと思っていた!……本当だよ!?」
「勿論、万全の用意をするとしましょう。実は既に、雫さんと愛花さんに幾つか特別な装備を頼んでいます」
「それなら安心……うん、安心ってことにしときましょう」
彼女らの道具なら信じられる。それで大丈夫とまでは断言できないが、『大丈夫にする』のが自分の仕事だ。
冒険はしたくないが、これでも冒険者の端くれ。あの戦いを生き残った自負を胸に、程々に頑張るとしよう。
「まずはこれが必要だよね!」
「いつ着替えたんですか???」
そんな空気の中、エリナさんがドヤ顔で丸めた鞭をぶんぶん振る。
本当にいつ着替えたのか。先程まで着物姿だったのに、今は洋装である。それも、どこかで見たことがあるような。
濃い茶色の中折れ帽に、同じ色のジャケット。その下にはワイシャツを着ている。
履いているのがズボンではなくミニスカートなことを除けば、どう見てもハリウッド映画で有名な冒険家教授のコスプレであった。
「もう、エリナさん!」
ミーアさんが、少し怒った声を出す。
「私達素人がそういう鞭を使うのは危険ですよ。ここは素直に初心者用のを使いましょう」
すげぇや。あの自称忍者が真顔で固まっている。
どこから取り出したのか、乗馬鞭をエリナさんの手に握らせるミーアさん。その顔には、無駄に爽やかな笑みが浮かんでいた。
もうダメかもしれん。あの残念2号。
「待ちたまえ!ツッコムところはそこではないぞ!」
「そうですアイラさん。言ってやってください」
「その教授は遺跡を次々と壊すんだ!縁起が悪い!」
「すみませんアイラさん。黙っていてください」
確かにそうだけれども。あの教授が行った遺跡だいたい壊れている気がするけども。
今語るべきは、そうじゃない……!そうじゃないんだ……!
「ロープと、いざという時の保存食と水。手回し式のライト。他には……」
良かった。こっちの教授はまともだ。
真剣に必要な物リストをメモに書いていく有栖川教授に、心の底から安心する。
「京ちゃん……この鞭は、京ちゃんに譲ろう……!」
「いやですよ。その鞭変態がついてくるじゃないですか」
「京太君。鞭と聞いて全て変態な趣味と決めつけてはいけませんよ!」
「ついてくる変態は貴女です」
「なあなあ京ちゃん君。京ちゃん君は何作目が好きなんだい?」
「後にしてください。頭蓋骨引き抜いてクリスタルにしますよ」
「私だけ物騒過ぎないかな!?」
残念どもを捌きながら、ふと気になったことがあったので教授に問いかける。
「あの、有栖川教授」
「どうしました、婿殿。もう少し孫達のせ……孫達と遊んでいて良いのですよ?」
「今貴女『世話』って言いかけませんでした?いや、それは置いておいてですね」
視線を、スクリーンに映っているジャンホール伯爵の城に向ける。
「この一件……そもそも自衛隊案件では?」
はたして、民間人が踏み込んで良いラインなのか。
「あの城の秘密を解けば、ダンジョン問題の解決にまた一歩近づくかもしれません。その重要度を考えれば、日本政府が真っ先に調べたがるのでは?流石に、本格的な調査は止められる可能性も……」
「いいや、その可能性は低いぞ。京ちゃん君」
伊達メガネを『くいっくいっ』しながら、アイラさんが続ける。
「まず、あの異世界の国が、他国の軍隊が上陸するのを許さないだろう」
「……あー」
「自衛隊は軍隊ではない。だが、かの国からすればそんなこと信じられん。ただでさえ『ダンジョンから出てきた存在』として、あちら側の宗教組織に目をつけられている。大規模な行動はできない」
「それに、今の日本政府にジャンホール伯爵の遺産迷宮へ回せる手札はありません。むしろ、我々があの城の情報を持ち帰ってくれるのなら、万々歳でしょう」
有栖川教授が、小さく肩をすくめた。
「なんせ、つい昨日、危うく第三次世界大戦が起きる所だったのですから」
……そう言われれば、そうである。
自分が異世界に行っている間に、全てが終わったらしいので実感がないが。世の中は今、その話でもちきりだ。
『ウォーカーズ』の山下代表が英国のアームストロング首相を誘拐した……と、最初は報道されたものの、それは誤りであったことが判明。
実際のところは、『トゥロホース』の残党と、中東のテロ組織と、MI6の裏切り者達の戦闘に巻き込まれて、彼が英国首相を抱えてロンドンの街を逃げ回っていたらしい。しかも、赤坂部長子飼いであるあの3人娘の目撃情報まである。
わけがわからん。
なんで英国に山下代表が行っていたのかとか、どうして英国首相と一緒にいたのかとか、どういう星の下に生まれたらそんな大事件に巻き込まれるのかとか。疑問はつきない。
新聞の一面にでかでかと映った、爆発する時計塔を背に英国首相をおんぶして全力疾走する猫耳の青年を思い浮かべ、額を押さえる。
あの人、実はイン●ィジョー●ズの生まれ変わりだったりしない?
押し付けられた鞭を片手に、猫耳の青年の顔を思い浮かべた。
……まあ、その辺は両国のお役所が頑張ってくれるだろう!教授のご実家も無事らしいし!
自分達は、遺産迷宮の攻略準備を進めるのだった。
読んでいただきありがとうございます。
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昨日の猫耳
「あ゛ー!なんでこんなめにー!」
昨日の部長
「はっはっは。誰か、私の胃薬とエナドリを知らないか?空っぽなんだ」
昨日のリス
「前歯で爆弾の解除をしろと!?」
昨日の大使
「知らなかったのか?アメリカの車に轢かれると───とても、痛い」
昨日の長官
「まさか、私の最後の仕事が君との共闘とはな。『J』」
昨日の3人娘
「……よく、燃えていますね」
「これ、アタシ達のせいかしら」
「人命は地球より重いって偉い人も言っていたからね!仕方ないね!」




