外伝6 奇妙なパーティー
外伝6 奇妙なパーティー
初めての異世界転移……転移?を経験した、翌日。
「で、どうだったよ。異世界って」
「やっぱり月が2つあったり、グリフォンに乗った騎士がいたりしたんですか?」
学校の昼休み、質問攻めにあっていた。
「どうって言われても、冷静に考えると、海外の港町とそんな変わらなかったかも……。あと、月は1つだしグリフォンも見かけなかったよ」
「なんだ、つまらねぇの」
「でも冒険者の酒場って所には行った」
「お前それを先に言え」
雫さんがその三白眼でこちらを睨みつけ、愛花さんが瞳を輝かせる。
「凄いですね!やっぱり綺麗な受付嬢さんがいて、テーブルには荒くれ者達!入って来た新顔に『帰ってママのオッパイでも飲んでなぁ!』って言われたりしたんですか!?」
「落ち着け。で、武器は?異世界の武器はどんなだった?」
「いや貴女も落ち着いて。武器は……携帯している人は多かったけど、普通の剣ばっかりだったな。魔力も帯びていない」
「なんて……」
「それと、綺麗な受付嬢さんも定番のセリフもなかったけど、堅気には見えない人達が昼間から酒を飲んでいたよ」
「やっぱり!そうですよね、冒険者ギルドって言ったらそうですよね!」
露骨にテンションの下がる雫さんと、手をぶんぶんとさせて喜ぶ愛花さん。
そう言えば、彼女はわりと厨二病だったな……厨二と異世界ものは、切っても切り離せないもの。
もしも愛花さんが突然謎の詠唱を始めても、温かい目で見てあげよう。
「それよりも、京ちゃん。大事な事があるよ」
「うっす」
がっしりと、エリナさんがこちらの肩を掴んできた。
いつになく真剣な面持ちで、彼女は続ける。
「忍者は……いた?」
「見てないよ。いるかは知らん」
うん。そんなこったろうと思ったよ。
「つまりシュレーディンガーの忍者だね、京ちゃん!」
「そうだね。たぶんね」
「なら最初に私達が名を上げたら、最初の公認忍者だね!」
「そうはならないしさせねぇよ?」
「そんな……京ちゃんはあくまで、忍者は闇に潜むべき……って言いたいの!?もうそんな時代じゃないよ!」
「違う。そうじゃない」
「今はグローバル忍者な時代なんだよ!持続可能な忍術で忍者が忍者しながら忍の里を運営していくんだよ!!」
「すみません、異世界語はまだわからないんです」
「敬語!?あと日本語だよ!だって───忍者、だからね」
「決め顔で言うな。自称忍者」
「公認だもん!きっとダンジョン庁からは公認してもらっているもん!忍者いるもん!」
「トト■みたいに言うんじゃありません」
「つまり……ヴァンパイアハンターなダンピールもいるって事ですね!」
「うわ、このタイミングできた」
「ヴァンパイアと人……決して相容れない種族でありながら、恋に落ちた2人……しかし、世界がそれを許さない!愛の結晶を逃す為、父親であるヴァンパイアは戦い母は散り……そしてそのダンピールは己の出生を探り、ハンターとして立ち上がるんですね!」
「落ち着け」
「雫さん、お願いします」
「銀の武器には、アタシも興味がある」
「ブルータス、お前もか」
「忍者!」
「鳴き声かな?」
「ダンピールが出会ったのは、腹違いの兄!そしてヴァンパイアとも人とも敵対する、狼男!」
「ワーウルフなら前燃やしましたよ」
「だが、銀の武器は強度がな……はっ、ミスリル銀!異世界なら……」
「オリハルコンの理性なら僕が持っていますが?」
「おいバカお前までこっちに回るな。ツッコミでいろ」
「バカって言われた!?」
心外である。まさか自分の鋼を上回る理性が否定されようとは。
あとミスリルってあれ、銀の輝きをもつだけで銀と同じとは言われていない様な……。
しかし、未知の鉱物が異世界で採掘できたら浪漫である。本物のオリハルコンとか、見てみたい。伝説どおり、銅色なのだろうか……。
「あ、あの~……そ、そろそろ授業でーす」
「あ、すみません」
「着席!起立!着席!」
「スクワットしてんじゃありません」
おずおずと入って来た担任の先生に謝罪し、ボケを続行する自称忍者の後頭部をはたく。
それにしても、この先生未だにクラスと馴染めていない感が凄いな。まるで猛獣の檻に入れられた子ウサギである。
あんまり震えないでもらいたい。意外と立派なお胸様も一緒に振動するので。
スーツに包まれた若くて美人な女教師のお胸様は、通常の同じサイズのお胸様よりも3倍の破壊力である事は、学会でも証明されている。非常に危険だ。
浮気は良くないと、恋人が5人いる身としては誠実でいる為にエリナさんと雫さんのお胸様へと授業中であるにも関わらず視線を向けなければならない。
これも誠実でいる為……いや5人も恋人がいる奴が誠実とは?
理性からのツッコミを無視し、授業を受ける。
この『精霊眼』をもってすれば、恋人達のお胸様をチラ見しながら板書するなど容易い……!
なお、何故かこの後愛花さんに脛を蹴られた。解せぬ。
* * *
『さあ、愉快な遠足の時間だ!野郎ども!』
「おー!」
「いや、遠足ではないでしょう。あと教授、落ち着いてください」
「はい」
放課後。エリナさんの転移で移動し、諸々の支度を整え船に乗りゲートに。
そして、今回も影山さんと共に異世界へと渡った。なんというか……2回目以降は、こうして船で移動するのすら若干煩わしくなっている自分がいる。
いっそ、教授を自分が抱えて空を飛んでいこうかと考えたが、航空法とか色々な問題がありそうなのでやめた。
まあ、ミノタウロスの迷宮を超えて異世界に着いたら、後は教授の転移で一瞬である。
大使館の何もない一室に到着し、そこを出て丸井さんの部屋に向かった。
ノックをすればすぐに返事が来て、部屋へと入る。
「ようこそ。昨日ぶりですね、教授」
「ええ。今日も数時間しかいられませんが、全力で調査にあたります」
相変わらずハイテンションな教授を横目に、ふと視線を窓の方へ。
向こう側では夕暮れも近かったのに、こっちは太陽が随分と高い位置にある。
「時差が気になりますか?」
「あ、いえ、はい……」
丸井さんに話しかけられ、小さく頷く。
「こちらの世界……というか国と日本では、約8時間の時差があります。向こうが16時の時、この大使館では朝の8時を迎えるぐらいなのですよ」
「へぇ……そう、なんですね」
「ちなみに、イタリアと日本の時差も約8時間ですよ婿殿。これははたして偶然なのか、あるいは必然なのか。興味を惹かれますね、婿殿!!」
「そうですね」
『もしやその星と地球は、並行世界の同じものなのかもしれないねぇ!しかぁし!アトランティスと日本の地脈が似ている。この事も考えると、色々と考察が捗るというもの!だが考えてばかりじゃぁダメだ!実際に調べなければ!』
「そうですね」
『京太君。後で姉さんに女教師のコスプレさせた後エッチな悪戯をしましょう』
「そうですね」
『この流れで私に被害が飛ぶ事あるんだ!?』
そして女教師の胸をチラ見していた事バレているんだ……。
エリナさんかな……エリナさんだろうなぁ。
あの自称忍者、本当にスペックは忍者である。ふっ……土下座したら許してもらえるかな???
もしも『浮気者』とか言われて捨てられたらどうしよう。泣きそうになっていると、教授がこちらの手を引っ張ってきた。
「孫達と仲が良いのは良い事ですが、今は調査です婿殿!早速冒険者の酒場とやらに行き、フィールドワークの大義名分を得ましょう!冒険者なら、街の外をあちこち回っても不審ではないそうです!」
「大義名分って」
「おや。こういう外国での調査では大事ですよ?大義名分。それがないと、捕まるので」
「あ、はい」
笑顔だが冗談を言っている風ではない教授に、こちらも真顔で頷く。
異世界の国で、しかも宗教的に上手くいっていないらしいのだ。スパイ容疑で逮捕されたら、とんでもない事になる。
「さあ、いざゆかん!調査の旅へ!」
『今こそエリナ君から借りてきた法螺貝の使いどころ!ぶおおおおおお!』
「口で言うのまで同じなのか……」
教授に引っ張られるまま進んでいけば、出入口ではなく別の部屋に辿り着いた。
「ここは……?」
「カタリナさんの部屋です。さて」
有栖川教授が喉の調子を確かめた後、ノックをして扉の向こうに呼び掛ける。
異世界語なので何を言っているのかさっぱりだが、その声音は楽しそうだ。まるで、昭和が舞台のアニメに出てくる、友達を遊びに誘う小学生みたいである。
返事は聞こえなかったが、扉が内側からゆっくりと開かれた。
少しクセのある青い長髪を伸ばし、片目を隠した犬耳の少女。カタリナさんが出迎えてくれる。
大使館から支給されたのだろう、長袖の白いTシャツに黒いスウェット姿というラフな格好の彼女は、自分と教授を見た後。
ごろり、と。お腹を見せる様に寝転がった。
……またかぁ。
デジャヴを感じるが、前回と違い彼女は震えておらずその表情は何かを悟った様であった。
『■■■■■■■■?■■■■■■』
『■■■、■■■■■■■……』
教授が流暢な異世界語で話しかけ、それに彼女も答える。
そのまま何やら言っているが、何が何やら。
「アイラさん。通訳をお願いします」
『ババ様がどうしたのかと尋ねたら、彼女は生贄としての覚悟が決まったと返答したね』
「生贄?」
『食べた事がないぐらい美味しい食事。未知の素材で作られた衣服。たっぷりとお湯が使われたお風呂。ふかふかのベッド。これらを与えられたのは、ババ様と京ちゃん君に食べられる為だと考えたらしい』
「どうしてそうなった……」
『生贄……食べられる……それは、エッチな意味でですか……!?』
「違うので引っ込んでいてください」
『なんだか扱いが雑な気がします!?』
ミーアさんの色ボケ化が止まらない。加速している気がする。
まあ、残念女子大生その2は置いておいて。どうやら教授が無事に誤解を解いてくれたらしい。カタリナさんが立ちあがり、まだ怯えた様子こそあるが自分達を真っすぐ見てくる。
とりあえず会釈するが、恋人達以外で同年代っぽい異性と話した経験はほぼない。どうしたものかと、気まずくなって1歩後ろに下がった。
入れ替わりに、影山さんが笑顔でカタリナさんへと話しかける。
『■■■■、■■、■■……■■■■!』
かなりたどたどしい上に、メモを見ながらだが、確かに異世界語だ。
……え。もしかして喋れないの、僕だけ?
握手を求めて差し出された手と影山さんを見比べた後、カタリナさんは真顔で普通に手を握った。
どうやら、こっちにも握手の文化があるらしい。
『■■■■、■■■■■■■■■■■■?』
「……」
カタリナさんが何か言った瞬間、影山さんの頬がピキリと引きつる。
「アイラさん」
『あー……彼女は、影山氏に『貴女はこの怪物達の従者か』と尋ねたようだ』
「お、おう」
怪物扱いに悲しめば良いのか。仕事でついてきているだけなのに、従者扱いされた影山さんに同情すれば良いのか。
よくわからないので、曖昧に笑って誤魔化しておく。
『■■■■、■■■■』
『■■■■!?■■■■■■■■!?』
「…………」
教授が何か言ってカタリナさんが驚き、影山さんが笑顔のままこめかみに青筋が浮かべる。
え、なにごと?
『ババ様が影山氏を護衛の様なものと紹介したら、こんなに弱そうなのに、と……』
「シンプルに失礼」
『まあ、相手の力量がわかる者からすれば、驚くのも無理はあるまい』
「いや貴女も失礼ですね……」
『だって事実だし』
『姉さん……そんなだから友達いないんですよ?』
『心外!?』
そうこうしているうちに話はまとまった様で、教授がニッコリとこちらに振り返る。
「では婿殿!行きましょうか!」
「あ、はい。冒険者の酒場に、ですよね?」
「ええ、勿論。そして早速仕事を受けてみましょう。ふふ、この世界の経済に関わってみるというのは、心が躍りますね!」
少女の様にはしゃぐ教授に、苦笑で返す。
気持ちはわかるが、ここまで楽しそうにされると逆に冷静になるというか。
あれだ。『自分よりパニックになっている人を見ると、逆に冷静になる』ってやつに近い。
「最初にどんな依頼を受けてみるか。ここは経験者であるカタリナさんの意見が大事ですね」
「そうですね……ええ。どんな依頼でしょうね」
心なしか声に怒気が混ざっている影山さんが、教授に答える。
それに対しては一切怯えた様子を見せず、カタリナさんは自分の顔色を窺ってきていた。
たぶん、ここまで1人だけ彼女に話しかけていないので不安になったのだろう。突然敵対しないか、と。
「えっと、教授。カタリナさんに、これからよろしくお願いしますって、伝えていただけませんか?」
「はい。勿論です」
教授に通訳してもらい意思を伝え、自分も握手を求めて手を差し出す。
カタリナさんは見えている側の目に涙を浮かべながら、恐る恐るといった様子で手を握ってきた。絵に描いた様に怖がっているが、逆らったらもっと怖いという様子だ。
地味に傷つく……。
手を握ってわかったのだが、意外と指が硬い。これは、タコ?武器を普段から使っている人の腕だ。
まるで小型犬の様な振る舞いの彼女だが、やはり冒険者だけはあるらしい。
『しかしアレだな。態度は小型犬なのにオッパイは大型犬だな!ミーアほどではないが。なんなら私だって負けていないが!!』
張り合うんじゃありません。
確かにカタリナさんは結構なお胸様である。エリナさん未満、アイラさん以上といったところか。Tシャツ姿なので、分かり易い。
『それはそうとババ様。最初に受ける依頼だが、私に良い考えがある』
「碌なものではない気がしますが、聞きましょう」
『ふっ……信頼がない』
残念でもなく当然である。
『まあいいとも。冒険者が最初に受ける依頼と言ったら、そう!』
念話越しでも、アイラさんがドヤ顔で人差し指をこちらに向けているのがわかった。
『ゴブリン退治さ!』
「おいバカやめろ」
若干語気に力を込めたせいか、カタリナさんが肩をびくりと震わせる。同時にお胸様もびくりと跳ねた。
ノー……こわくなーい。わたし、人畜無害ねー……。
『ゴブリン退治!?そんな!京太君の初めては私が美味しく頂くんです!』
「一応聞きますが、どこのですか?」
『前はもう違うので、勿論アナ』
「OK、黙ってやがれください」
『くぅん』
『問題は、もはやゴブリンごときでは京ちゃん君の貞操を奪えない事、か……』
「アイラさん」
『うむ』
「後で歯を食いしばってくださいね?」
『殺害予告!?』
拳骨で済ませてあげるので、感謝してほしい。いやマジで。
「ゴブリン退治ですか……悪くないかもしれませんね」
「教授!?」
「いえ、最初は簡単な仕事をと考えたのですが、我々はこちらの文化に詳しくありません。薬草の採取や何らかの配達をするのは、難しいでしょう」
「……意外と、その、ゲームに詳しかったり?」
「アイラから聞きました」
「なるほど」
その細い顎を指にのせ、教授が頷く。
「ですので、手っ取り早く武力で解決できる依頼は適当かもしれませんね。まあ、基本的にはカタリナさんの判断が優先ですが」
ナチュラルに案内役をやらされる事になったカタリナさんに、同情の目を向ける。
教授は本気でこの犬耳少女を逃がす気がないらしい。
とうの本人は、自分に見られて泣きそうになっていたが。ふふ……こっちも泣きそう。
女の子にさぁ……ガチ目に怖がられるとか、メンタルが辛い。
「そうと決まれば早速行きましょう!いざ、出発!」
「お、おー」
「……はい」
『■■■ー……!』
ハイテンションな教授が拳を突き上げ歩きだし、それに自分、影山さん、カタリナさんが続く。
なんとも奇妙なパーティーによる、『日帰りの冒険』が始まった。
読んでいただきありがとうございます。
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次の話は、来週の土曜日にまた投稿したいと思います。また見て頂けたら幸いです。