外伝1 普通の冒険者と普通じゃない冒険者
外伝1 普通の冒険者と普通じゃない冒険者
生きているって、素晴らしい……。
高校から帰り、自室に入ってすぐ鞄を机に置いて胸の前で両の拳を握る。
今ならこの世の全てが輝いて見えそうだ。何故って?
彼女『達』とぉ!イチャイチャしながら学校から帰ったからでぇすぅぅ!
「うぇへっへっへ」
我ながら気色の悪い声が出てきたが、仕方がない。両手に花どころか、フラワートライアングルである。
ルンルン気分のまま着替えを済ませ、スマホを手に取り画面を確認した。今日はダンジョンに行く日ではないので、まだ時間に余裕がある。
これからもう少ししたらエリナさんが迎えに来てくれるので、それで有栖川邸に直行。そこにて『5人の彼女』とのハーレムなムフフな時間が始まるのだ。
……うん。冷静になるととんでもねぇクズ野郎である。
すん、と我に返ると、色々と罪悪感がわいてきた。
そもそもの話。彼女の家に、その……そういう行為を目的にして頻繁に通う事自体、褒められた事ではない。
家主である有栖川教授が満面の笑みで『私は家を空ける事が多いので、婿殿達がいてくれて心強いですね。我が家と思ってくつろいでください』と言ってくれているけど。
……何となく、全て教授の思惑も見えてきた。
たぶん、このハーレム状態はあの人の影響が大きい。具体的に何をしたのかまではわからないが、様子からして何かしら裏で手を引いていたと思う。
その動機は、恐らくアイラさんとミーアさんだ。あの2人は少々難儀な性格と経歴なので、多少強引でもこういう形の方が良いと考えたのだろう。
まあ、自分としては嬉しい現状ではあるので、文句なんて言えないが。
どれだけ教授の掌の上だとしても、これは己で決めた事であり、彼女らの思いも疑ってなどいないのだから。
閑話休題。今はそういった裏事情ではなく、めくるめく桃色生活に思いをはせた方が有意義である。
とっとと学校の宿題を終わらせ、今夜の『お楽しみタイム』の準備を整えねば。
「……ふへ」
いかんいかん。勉強すっとばして、桃色な思考が。
宿題をサボると、エリナさんから『今日はおあずけ』と笑顔で無慈悲な言葉をもらう事になる。そして血の涙を流すミーアさんに滅茶苦茶恨まれるのだ。
『グイベル討伐作戦』より、もうすぐ半月。既に自分は尻にしかれている気がする。
まあ、悪い気はしないから良いんだけどね!さぁて、嫌々ながら勉強を……と。
スマホを充電器に繋げたタイミングで、机の引き出しから『リィィン……』と音がした。
アイラさんから念話である。すぐにイヤリングを取り出し、耳に装着した。
「はい。どうも、世界1幸福なハーレム男、矢川京太です」
『やあ、浮かれポンチ王の京ちゃん君。愛しのアイラちゃんだぞ』
「なんですか、愛しのアイラさん」
『くっ、普通に返すようになりおって……!』
いや、だってマジで愛しのアイラさんだし。
それを自分で名乗るのはどうかと思うが、もう慣れた。
『おっほん。だいたい何だね、その名乗りは。エリナ君と同レベルだぞ』
「すみません。反省します……!」
それは人としてヤバ過ぎる。本気で改めねば。
脳裏に愛しのエリナさんが『イェェイ!忍者イェェエエイ!』と叫んでいる姿が浮かぶ。うーん、これは残念一族の自称忍者。
『わかればよろしい。だいたい、実情を考えなければ今時ハーレム冒険者なんて珍しくもないぞ』
「へ?そうなんですか?」
アイラさんの言葉に、思わず首を傾げる。
例の一夫多妻制度は、アレでかなり条件が厳しいものだ。男性側の年収とか、女性側の年収とか。国籍とか。後は人格面の確認や金銭の授受についてなど、かなりガッツリ調べられる。
どんな法律も悪用する奴は必ず出てくるのだから、当たり前と言えば当たり前だ。
それをクリアして複数の女性と、という冒険者がそんなにいたとは驚きである。
しかし、続く彼女の言葉にすぐ納得した。
『ああ、いや。言っておくが、人間同士ではないぞ』
「……あー。錬金術の」
『そうだとも。口で説明するより、『錬金同好会』のHPを見た方が早いな。そこに、ホムンクルスハーレムな冒険者の動画があるから』
「そんなんあるんですか」
『うむ。っと、すまん。ちょっと呼ばれてしまったので、一旦切るぞ』
「あ、はい。わかりました」
念話が終わり、イヤリングをつけたまま再び首を傾げた。
はて。アイラさんは何を言うつもりで念話をしてきたんだ?ただ声が聞きたかっただけとも考えづらい。
おおかた、雑談で本来の用件を言うタイミングを逃したのだろう。彼女らしい。
ならばまた念話がかかってくるだろうから、イヤリングをつけたまま宿題に取り掛かった。
* * *
……それから1時間ほどで、宿題が終了。
軽くのびをして、シャーペンを筆箱に戻す。スマホを充電器から外して画面を見れば、まだ時間はありそうだった。
せっかくだし、アイラさんの言っていた動画でも見てみよう。
そう思い、同好会のHPを検索してみた。
目当ての動画はすぐに見つかり、早速再生マークをタップする。
『───はい。というわけで、本日は我が同好会のゴーレムを購入していただいた冒険者さんの1日をぉぉ……取材させてもらおうと思いまーす!!』
黒ずくめの人物が、片手用ビデオカメラを自身に向け元気よく手を振る。
その後正面を映す様に構え直し、舗装された道路を歩き始めた。左右には妙に空き地が目立ち、少し遠くには紅葉が豊かな山々が見える。
『ここはとあるダンジョンからほど近い土地で、避難勧告が出された範囲ですね。住民の方々は去った後ですが、残っている家もあります』
聞いた事がある。たしか、冒険者ならゲートから半径2キロ圏内の避難範囲にある家屋を、格安で借りる事ができるとか。
一定以上の頻度で付近のダンジョンへ通うなどの義務は発生するものの、かなりお手軽な家賃なので地味に人気が高いらしい。
と、同じ説明を撮影者も言っている。
『そして、こちらが本日撮影させていただく冒険者さんのお家でーす。いやぁ、大きいですねぇ』
撮影者の言う通り、かなり大きな家だ。有栖川邸にも引けを取らない。
チャイムが鳴らされると、Tシャツにジーパン姿の男性が出てきた。中肉中背の、普通の人っぽいが、顔はモザイクでわからない。
『どうもお世話になっております。『錬金同好会』です。本日はよろしくお願いしますね!佐々木さん(仮)!』
『こちらこそお世話になっています。いや(仮)って……さ、どうぞ早速中に』
『ありがとうございます!お邪魔しまーす』
中も綺麗に掃除されており、フローリングの床には埃1つ落ちていない。
『綺麗に手入れされていますね』
『ええ。嫁達がいつも掃除してくれているので』
そうして通されたリビングには、4人の少女……否。
少女の姿をしたゴーレム達が、ミニスカメイド服を着て待っていた。
『どうです、俺の嫁達は!皆綺麗でしょう?って、同好会さんに作ってもらったんだから、今更ですよね』
『いえいえ!カメラ回している身としては、かなりありがたいです!ちなみに、それぞれ紹介してもらっても?』
『はい。4人とも。自己紹介を』
『はーい!』
右端の、桃色の髪をした普乳メイドゴーレムが満面の笑みを浮かべる。
『春美です!よろしくお願いしまーす!』
続いて、赤い髪をツインテールにした貧乳メイドゴーレムが腕を組み不満そうに顔をそむけた。
『まったく、なんでアタシが。夏樹よ。別によろしくしなくて良いわ』
3番目。栗色の髪をおさげにして肩にかけている、爆乳糸目の美女風メイドゴーレムがほほ笑んだ。
『あらあら。秋野です。よろしくお願いしますね』
最後に、白い髪で片目を隠した無表情のロリッ娘ツルペタメイドゴーレムがダブルピースをした。
『冬子。よろしく』
……なるほど。春夏秋冬か。
『全員美人なメイドさんですねぇ!本当にこの子達、ゴーレムなんですか?』
わざとらしく聞く撮影者に、男性が苦笑した様な声を漏らす。
『ええ、勿論。皆、例のアレやって』
彼の言葉に従い、メイドゴーレム達が一斉に自身の頭を両手で掴んだ。
そして、すっぽりと外したのである。血は流れず、脊髄の様に鉄と木で作られた管で頭と首から下が繋がっていた。
『わぁお。……すみません。インパクトありますけど、シュールかホラーのどっちかな光景ですね』
『同好会さんがやってって事前に言ってきたんじゃないですか!?』
『あっはっは!あ、ちなみに普通はこんな風に外れない様ロックがかかっているので、見ている方々は安心してくださいねー』
何事もなかったかの様に、首を嵌め直すメイドゴーレム達。
あの光景、夜に見たら普通に怖そうである。
『そして佐々木さん。この子達とは普段どの様な生活を?』
『はい。その、最初はエッチな事目的で買ったんですけど……思いのほか家事とか完璧にやってくれるものでして。今では家の事はほとんど任せっきりです。料理洗濯、掃除と』
『ほうほう。ちなみに、夜の方は?』
『そりゃあ勿論、5人でしっぽり……って、何言わせるんですか!』
『まあまあまあ!ぶっちゃけ、そういう用途メインですからね!うちのゴーレム!』
『……たしかに!』
そんな感じで笑い合い、雑談を交えてメイドゴーレム達の事を解説する2人。
どうやら、先ほどの自己紹介は『喋った』というより喉の奥につけた小型のスピーカーから、登録してある音声を流したらしい。
同好会が雇った声優さん達の声を録音し、音声合成ソフトとして搭載。有線でパソコンからの編集が可能だとか。
簡単に言っているが、かなりの高等技術である。
『ホムンクルスもどき』は確かに人間が出来る身体動作はだいたい再現出来るが、ゴーレム側に人間同様の発声器官をつけるのは難しい。
かと言ってこの様な機械を埋め込んでも、ホムンクルス側が上手く起動できないとされていた。
だが、同好会の技術はそれを可能にしている。主の声に反応してではあるが、『ホムンクルスもどき』がどのワードを言うかチョイスし喉の機械を動かしたのだ。
なお、この超技術の使い道は夜の生活を彩る為らしい。うーん、この馬鹿な天才集団。
『さて!では、そろそろダンジョンの方に』
『ええ。ハニー達!行ってくるね!』
『ちょぉ、ハニーって!』
『いやぁ、あっはっは!』
メイドゴーレム達に手を振られながら、佐々木さんとやらと撮影者は車で移動を始める。
ぱっと見、佐々木さんはかなりの軽装……というか普段着のままであった。持ち物もスマホと免許証。あと車のカギぐらいである。
疑問に思うも、次のカットですぐに納得した。その理由は彼が普段通っているストアの有料貸しロッカーに、装備の大半を預けているからである。
自分は利用した事がないが、冒険者免許で所持できる刀剣や弓矢等も保管しておけるのだとか。
そんな解説を簡単に挟みながら、佐々木さんがフルフェイスのヘルメットに灰色の厚手のポンチョ。その下に都市迷彩カラーの軍用戦闘服姿で更衣室から現れた。
背中にはリュック。肩には大型のクロスボウをかけ、腰にはマチェットを下げている。
『魔装』には見えない。だが……。
『武器以外は全身同好会コーデです!いやぁ、中々様になっていますね!』
『どうもどうも。俺の『魔装』って魔法使い型で、あんまり頑丈じゃないし動きづらいんですよね』
やはり、魔力を帯びた衣服か。
同好会の出したこういった衣服は、高ランク覚醒者の『魔装』と比べるとかなり脆い。
だが、逆を言えば低ランクなら覚醒者にとっても十分な防具となる。
『それじゃあ、ゴーレム達と一緒に『Dランクダンジョン』へ入りましょうか!』
更衣室の扉横で待機させていた2体のタヌキ型ゴーレムと共に、彼らはゲート室へと歩き始めた。
信楽焼のタヌキを彷彿とさせる姿だが、足軽に木の盾を持たせた様な格好をしている。
決して機敏とは言えない動きで歩いていき、受け付けを済ませゲートに。
1度カメラが暗転し、画面には苔が所々に生えた洞窟が映し出された。
『はい。というわけで、ダンジョン探索をやっていきましょう』
『よろしくお願いしまーす』
自衛隊が取り付けた照明によって、真昼の様に明るい洞窟の中。
そこを、2体のタヌキ型ゴーレムを先行させながら進んでいく佐々木さんと撮影者。
彼らは和やかに談笑していたが、ここはダンジョン。当然、侵入者を排除しようと怪物が姿を現す。
1車線道路に細い歩道をつけた様な道幅と、高さ3メートル程の通路を埋め尽くしてしまいそうな巨体が、2つ。
頭に生えた、ペットボトルサイズの木。そして全身は木の根っこと石で構成された、大柄な人型。
手には石斧を持ち、顔の様に作られた根と石でこちらを睨みつけている。
『ウッド・ソルジャー』
ランクは『D』。オークと同格のモンスターである。
ソルジャー達は石斧を手に、猛然と佐々木さん達へと走り出した。
それに対し、前列のゴーレム達が槍を突き出す。歩行速度に反して中々に鋭いが、このランクの怪物相手では遅い。
片方は腕で穂先を押しのけ、もう片方は前腕を盾代わりにして強引に距離をつめてきた。
短めの槍とは言え、この距離では満足に振るえない。ウッド・ソルジャー達が、タヌキ型ゴーレム達を打ち砕こうと石斧を振り下ろす。
だが、それは陣笠───頭に被る傘の様な兜に防がれた。
信楽焼のタヌキみたいな見た目だけあって、首がないゴーレム達。その衝撃に堪えた様子もなく、陣笠と木製の盾で至近距離から繰り出される石斧を防ぎ続けている。
しかし、ソルジャー達の攻撃手段は石斧だけではない。頭部の小さな木が発光したかと思えば、全身の根からツタが生えゴーレム達に絡みついた。
たしか、あのツタには毒針がついている。覚醒者なら即死する程ではないが、力が入りづらくなる効果があったはずだ。
もっとも、ゴーレムには通用しない。無機物には意味のない毒である。
そんな攻防が行われている前衛を余所に、佐々木さんはのんびりと滑車を使いクロスボウを引いていた。
そして、奇妙な矢を装填する。
まるで捕鯨砲の銛を鋭く改造したみたいな鏃をつけている。シャフト部分がもう少し太ければ、メイスと見間違えていたかもしれない。
佐々木さんはゴーレムの後ろに隠れながら、ゆっくりとソルジャーの顔面にクロスボウを構えた。敵も当然首を捻って狙いをつけさせまいとするが、ゴーレムと組み合った状態では限界がある。
数秒後、矢が発射された。ビュオン、と音をたて、ソルジャーの顔面へと飛んでいく。
至近距離だった事もあり、ほぼ同時に着弾。速度はそれほどでもなかったが、質量と鋭さで強引にぶち抜いた。
鏃が後頭部まで貫通し、そのソルジャーは動かなくなる。それを確認すると、佐々木さんは再び釣り竿のリールみたいな滑車を使ってクロスボウの弦を引っ張りはじめた。
同じ流れで、残る1体の顔面にも発射。僅かに外れてしまった様で、頭の半分近くを抉られるもまだ動いている。
だが、それでも距離を取ろうとすればゴーレム側が盾と陣笠を押し付けるし、そもそもツタが邪魔になって相手も動きづらい。
3射目がウッド・ソルジャーの頭を完全に破壊したのは、当然の結果だった。
佐々木さんは矢とドロップ品を回収し、塩を払い落としてカメラに拾ったコインを映す。
『これが『Dランク』で落ちる金貨です。綺麗ですよね』
『ええ、本当に!しかし危なげない勝利でしたね』
『いやぁ、ゴーレムと武器のおかげですよ。俺自体は戦闘とか苦手で』
謙遜ではなく、事実だろう。ハッキリ言って、これは戦闘ではなく作業だ。
だが、勝ちは勝ちである。その価値は変わらない。
彼らは1日の稼ぎについて話ながら、再びダンジョンを進み始めた。
『俺、昔はクランに所属して『F』とか『E』で活動していたんですけど、人間関係で上手くいかなくって』
『あー、ありますね。冒険者同士でも中々話が合わない事って』
『そうなんですよ。で、思い切ってソロ始めたんですけど、これが大変で。稼ぎも少ないし、怪我も多いし。それで、『ウォーカーズ』に入ってソロやめたんですよね』
『最大手のクラン、いいやギルドですね!』
『そんで、面接の時にコミュニケーション苦手って言ったら、ソロ用プランって事でこのゴーレム貸し出してもらえたんですよ』
佐々木さんが、右手側のタヌキ型ゴーレムの背中を軽く叩く。
『もう、世界が変わりましたね。めっちゃ安定して稼げる様になりました。おかげで今はソロなのに『Dランク』ですよ』
『なるほどぉ。ちなみに、そのクロスボウは?』
『あ、これは運よく大人気魔法武器店のをネットで買えたんですよね。もう3カ月ぐらい使っていますけど、めっちゃ助けられてます』
『えー。それは同好会のじゃないんですかー?』
『ちょ、怒んないでくださいよ』
……あのクロスボウ。なんか見覚えあるな。
ブランド名はモザイクで隠されているが、あの造りは間違いない。雫さんの武器である。
あの人の武装、やっぱ人気なんだな……。
『とにかく、今は安定安全に狩りをして稼げていますね!』
『しかし、前方はゴーレムで安全ですが、もしも挟み撃ちされたら危なくないですか?』
『これまでそういう経験はないですけど、一応の備えもしていますね』
そう言って彼が腰のベルトから外したのは、手榴弾みたいな卵型の魔道具。見た目は、白い卵にレバーとピンが取り付けてある感じだ。
『高いんであんまり使いたくないですけど、これを2つ携帯してます』
『ほほう!秘密兵器ですね!ではこちらに同じ物を用意しましたので、実演をお願いします!』
『わかりました』
そうこうしていると、次のウッド・ソルジャーが通路の向こうからドスドスと向かってくる。
ちょうどいい事に1体だからと、佐々木さんがレバーを握りピンを卵型魔道具から抜いた。
そして、投擲。ぽーん、という擬音がつきそうな一投に、ソルジャーは左腕を盾にして構う様子もなく突っ込んでくる。
魔道具と腕がぶつかった瞬間、卵部分が砕け散り中から青白いガスが勢いよく噴き出した。
それを浴びたウッド・ソルジャーはみるみるうちに体を凍り付かせ、やがて根っこ部分が割れて転倒。四肢をバラバラに散らばせる。
そうして動けなくなったソルジャーに、ゴーレム達が槍で止めをさした。
『同好会と『ウォーカーズ』の共同制作、簡易魔道具ですね!今のは氷結の魔法でしょうか?』
『はい。ここのモンスターって近づくまで回避とかしないので、俺の腕でも当たるんですよ。動きもそんなに速くないですし』
軽い調子で会話する、佐々木さんと撮影者。
……いや、なんだ今の。
簡易魔道具。噂には聞いていたが、ここまでの効果だったとは。相性が良いにしても、このランクで簡単に勝敗が決まるのは驚きである。
そうして、彼らは探索を1時間ほど行い、帰還。もっとも、大半がカットされて動画だと5分程度だが。
『本日はありがとうございました、佐々木さん!』
『いえいえ。こちらも、いつも同好会さんには助けられていますから』
『そして撮影も終わり、今日はもう帰宅なされるわけですが……』
『───勿論、今夜も嫁達としっぽりです!』
『その言葉が聞きたかった!我々同好会は、いつでも桃色ゴーレムライフを応援しています!』
ストアの前で馬鹿笑いをした後、車で帰っていく佐々木さん。どうやら撮影者はバスで帰るらしい。
『では、これにて今回の動画も〆させていただきます!ご視聴、ありがとうございましたー!チャンネル登録も、ぜひお願いします!』
そうして、動画は終了した。
スマホを置き、動画の内容。特にダンジョン探索の様子を思い出す。
ハーレムどうこうは、まあ置いておいて。自分もエリナさん達に会わなかったらこういう生活だったろうから、コメントする事はない。
あの探索、非常に安定していたし効率も悪くはなかった。レベルも上がるので、『魔装』とスキルでの戦闘に切り替えれば昇格も狙える。
しかし、佐々木さんの口からそういった事は出てこなかった。恐らく、上のランクにいく気がないのだろう。
あの戦法では、『D』より上ではやっていけない。何なら、同ランクの別ダンジョンでも難しいだろう。
彼自身も言っていたが、アレは『狩り』だ。戦いではない。
これが、今の『普通の冒険者の仕事風景』。なるほど……。
実に素晴らしい。
今も自分達は『Aランクダンジョン』へ度々通っているが、レベルも上がって半分作業になっている。
こういうので良いんだよ、こういうので。
冒険者という名前ながら、『冒険』なんてこりごりだ。未知の領域に踏み込み、怪物どもと死闘を演じる……そんなのは、もう勘弁である。
これからは、佐々木さんの様にハーレムなスローライフだ。
そう考え1人頷いていると、イヤリングに魔力を感じ取る。
「アイラさん?」
『やあ、京ちゃん君、先ほどはすまなかったね。少々、アトランティス帝国語の翻訳に手間取ってしまったよ』
「いえいえ」
『それで、言いそびれてしまったがババ様……教授からの伝言だ』
「はい」
そうじゃないかとは思っていたが、はたしてどういう内容だろう。
今度行くダンジョンの指定か、はたまた流石にこの爛れた生活に釘を刺されるのか。まさか、ひ孫の催促ではあるまい。
『来週異世界に行く事になったから、同行してくれとの事だ。護衛役を頼んだぞ』
「なんて?」
───未知の領域とか、行きたくないんですが?
読んでいただきありがとうございます。
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次の外伝も、来週のこの時間を予定しております。よろしければ、また読みにきてください。