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【書籍化決定】コミュ障高校生、ダンジョンに行く【本編完結済み】  作者: たろっぺ
最終章 コミュ障たち、現代ダンジョンに行く
259/272

最終章 エピローグ 中

最終章 エピローグ 中




サイド なし



『自衛隊の異世界派遣が強行された件について、様々な意見が各所から出ています』


『これは憲法違反としか言えませんね。自衛隊を利用し、政府は権力の拡大を狙った───』


『ダンジョンがこれ以上増えなくなるんなら、何も言いませんよ。これまで多くの犠牲が───』


『異世界への派遣では、自衛隊が新兵器を使ったという報告が出ています!これは明らかに危険な』


『ヴァレンタイン大統領の死亡が、先ほどホワイトハウスから正式に発表されました。犯人については元グリーンベレーの』


『ファッジ・ヴァレンタイン大統領は博愛精神にあふれた、非常に善良な方でした。彼の様な人が亡くなった事に、悲しみを隠せません』


『昨夜未明ハワード副大統領が会見を開き、自身が大統領の職務を代行すると正式に』



 世間では話題に事欠かず、様々なニュースが報道されている。


 そんな中、神奈川県某所。『ウォーカーズ』の本部。


 最上階にあるギルドマスター室には、1匹の猫がくたばっていた。


「し、死ぬ……!」


 訂正する。机に突っ伏しているのは猫耳の青年で、まだ死んではいなかった。


 棺桶に片足突っ込んでいるだけである。


「おーう。どうしたよ博。今にも死にそうな顔して」


「省吾……」


「よっす兄さん。ノックしたけど返事なかったから、勝手に入ったよ」


「どうも」


「明美に、喜利子ちゃんもか……」


 幼馴染に妹、そして妹と共通の友人が入室してきた事で、山下がどうにか起き上がる。


「そんなに仕事きつかったか?一応、昨日からは定時から1時間過ぎぐらいで家に帰れる様になったはずだが」


「仕事は、ギリギリ大丈夫だ。クリスさんの残したマニュアルのおかげで、事務の方も何とか回っている」


「クリスさん、本当に何でも出来たもんねー」


「まさに出来る男」


 先日突然退職した人物を思い出し、幹部達が『惜しい人が去ってしまった』と頷く。


 なお、最近話題の大統領暗殺事件に彼が関与している事を、彼らは知らない。もしも知ったら全員は血の混じったゲロを吐く。


「問題は……今後は彼のサポート抜きでアームストロング首相を始めとした、外国の要人とも会わなきゃいけない事なんだよ」


「はーん。なるほど。今からその事を考えて、緊張で死にかけてんのか」


「そうだよ。あ~……マジで戻ってきてくれクリスさん……!一生のお願いだから、今後もずっと俺を支えてくれ……!」


「っ!」


「喜利子ちゃん。ステイ」


 明美が喜利子の肩をガッシリと掴む。実の兄で妄想を捗らせる友人に、武力行使も辞さない構えである。


「会うとしても、まだ先の事だろ?今から心配していたら、10円ハゲ広がるぜー」


「うるせぇ。他人事だと思って気楽に言いやがって」


「そう言うなよ。代わりに俺が傍でサポートしてやっから」


「っ!」


「はいはい。ったく。お前はいつもそうなんだから……ま、頼りにはしてるよ」


「っ!!」


「喜利子ちゃん。落ち着こう。はい深呼吸」


 かつてない程目を見開く友人に、明美が冷や汗を流す。


 喜利子はもう、だいぶ深い沼へと嵌っていた。


「海外と言えば、赤坂さんからまた無茶ぶりされたんだって?」


「そうなんだよ。明日の会議で幹部にだけ伝えるつもりだけど、噂の『海外に拉致されていた覚醒者』の保護をうちに依頼したいみたいでなー。中には『錬金同好会』の技術でようやく人の姿に戻れたって人もいるらしい。この前まで巨大ウミウシみたいだったとか」


「マジかよ……かなりヘビーだな」


「ああ。その辺りのケアも考えないと。カウンセラーさんとも相談しないといけないし、今後について個々人と面談しないといけない……」


「その辺りは分担しようぜ」


「そうだよ兄さん。私達も一応幹部なんだからさ」


「初期からいたからってだけだけどね」


「皆……ああ。頼むよ。その辺りも、明日の会議で話し合おう」


「うっし!じゃあ今日はこれぐらいにして、久々に皆で居酒屋行こうぜ!」


 省吾がその大きな手を叩き、ニッカリと笑う。


「おいおい、明日は平日だぞ?」


「平気だって!覚醒者は普通の酒じゃ酔わねぇよ!」


「夜更かしはお肌の敵なんだけどなー」


「ギルマスの奢りってなったら、断れないなー」


「って、俺の奢りなの!?いや、良いけどさー」


「へへ、ごちになりやーす」


「お前は払え。つうか一緒に奢る側な」


「ちぇー。しゃーねーなー」


 わいわいと。昔からのノリで笑い合う山下達。


 彼らの元に数年後、ドラマ化の打診があるのだが。それはまた別の話である。


「あ、そうだ。赤坂さんと言えば、俺とお前に見合い話が来ているぞ。しかも全員中々の美人さんだぜ」


「マ?写真とかある?」


「───殺してやる。八つ裂きにしてやるぞ、赤坂雄介……!」


「待って喜利子ちゃん。喜利子ちゃん!?」


 なお。お見合い話について色々と騒動が起きたあげく、この4人の婚期がそれぞれ遠のいたのも、また別の話である。



*    *     *



「誰かから殺害予告をされた気がする……」


「いつもの事ですね」


 東京霞ヶ関、中央合同庁舎。


 最近『漆黒の不夜城』と呼ばれているその建物のとあるフロアに、ダンジョン庁は入っている。


 そのあだ名の通り、日がとっくに落ちた今も彼らの仕事は終わっていなかった。


「んん……それでは、次の議題に移ろうか」


 小さく咳払いをした後、赤坂部長が手元の資料に視線を移した。


「異世界に渡った自衛隊と、同行していた覚醒者がアトランティス跡地の地脈の正常化に成功。これにより、日本とダンジョンがこれ以上繋がる可能性はなくなったと考えられる。ただし、まだ油断はできない」


「イレギュラーはつきものですからねー。各自治体に引き続き新しくゲートが出来ていないか、確認してもらいませんと」


「コストはかさむばかりですが、それでも氾濫が起きるよりは安く済みます」


 部長の言葉に、タブレット端末を抱えた男性職員の佐藤と、その隣にいる女性職員の冴島がそれぞれ続く。


「そうだ。なにせ、我々にはまだ『魔法』や『地脈』に関するノウハウが足りていない。今後もアトランティス跡地を監視している海自、及び各自治体との連携が必要になるだろう」


「あの、そのアトランティス跡地の事なのですが」


 部下の1人が、手元の資料を見つめながら挙手する。


「異世界との国交はどうなっているのですか?アトランティス跡地は完全に海となっている様ですが、監視中の海自と周辺国との衝突は……」


「そちらについては現在外務省が異世界に職員を送り、対応している。だが、『ダンジョンの向こう側』という事でこちらに仕事が回ってくる可能性はある」


「マジですか……」


「私達、外交は完全に畑違いなんですけどね……部長以外」


 職員達の間に、引きつった笑いが広がる。


 彼ら彼女らは各省庁から回されてきた、『能力はあるが扱いづらい問題児』の集まりだ。人並み以上のコミュニケーション能力はあるが、それと外交の基本を知っているかは別である。


「そもそも、言葉の壁が厳しいですよね」


「協力してくれた『有栖川教授』の翻訳ノートで、どうにか意思疎通は出来ているって噂だぞ」


「帝国の言語がまだ異世界で使われていたのは幸運だったな」


 部下達の中から出てきた名前に、赤坂部長も頬が引きつりそうになった。


 それを気合で抑え、彼は会議を続ける。


「とにかく、要請が来た場合は我々も異世界に行かねばならない。その時の為にマニュアルを作っているので、後日配布するから熟読しておいてくれ」


「はい」


「感染症とか、色々不安な事が多いですね~。というか、相手方の魔法とかも注意しないとまずくないですか?覚醒者の中には、人の心を読んだり、操ったりできるスキル持ちがいるって聞きますけど」


 佐藤の言葉に、冴島が一瞬部長を気遣う様に視線を向ける。


 だが、赤坂部長はこれと言って気にした様子もなく頷いた。


「その懸念は尤もだ。異世界へ派遣する人員には、そういった能力に耐性のある覚醒者か、専用魔道具の装備を徹底している。その分送れる人員には四苦八苦しているが」


「なぁるほど。その辺も、外務省は前から力を入れていますもんね」


「覚醒者と言えば、異世界の覚醒者事情はどうなっているのですか?」


「そうですね。あちら側はかなり昔から覚醒者もモンスターもいる。『LV:100』……いいや、それ以上の覚醒者がゴロゴロいてもおかしくはない」


「同期から聞いたのですが、異世界の技術力は魔法を除き中世から近世のごった煮みたいな状況らしいです。しかし覚醒者の事も考えると、万が一武力衝突した時が怖いですね」


「というより、先ほど懸念した洗脳や読心のスキル持ちが高レベルだった場合、防御用の魔道具を突破してくる可能性は……」


「いや、その事なのだが……」


 部下達の不安に、部長は何とも言えない顔をした。


「現状、異世界の国家4つと接触できている。そこから得られた情報として、どうにも覚醒者の数と質はかなり低いらしい」


「なぜですか?こう言ってはなんですが、覚醒者のスキルは軍事的にも技術的にも、国家の発展に大きく影響します。技術レベルが中世や近世程度なら、なおの事」


「そうです。倫理的な問題を度外視すれば、むしろ『交配』等でより強い覚醒者を作っていそうなものですが」


「その疑問はもっともだ。少し説明が長くなるので、要点だけ先に伝えよう」


 部長がホワイトボードの前に移動し、ペンをとった。


「1つ『覚醒者同士の殺し合い』。2つ『ダンジョンの封鎖』。3つ『宗教』。詳しく説明すると、だ」


 そうして、赤坂部長が語り出す。



 異世界に派遣された海上自衛隊や外務省職員から得られた情報によると、アトランティス帝国崩壊後も暫くの間は各地で覚醒者達がその力を振るい影響力を強めていた。


 だが、大半の覚醒者には寿命がある。そして、それが尽きる前に戦い命を落とした者も多い。


 言ってしまえば、元帝国軍の覚醒者同士で盛大な仲間割れが起きたのだ。帝国崩壊後の覇権争いで、英雄達が殺し合い、そして消えていったのである。


 各地に残っていた帝国産モンスターと、元々異世界に跋扈していた『特殊危険生物』との衝突もあり、有力な覚醒者は大半が死んだ。その際に、多くの魔法知識も失われたと考えられる。


 そして、残った覚醒者に人の寿命を大きく超えられる者はいなかった。そういう能力者は、他の覚醒者から次代の危険として集中的に狙われたのが大きい。そうでなくとも、消えぬ呪い等を戦いの中で負ったという話もある。


 残された覚醒者の血筋も、代を重ねるごとに血を薄め同時に才能も消えていった。時折先祖返りも現れたが、大成する前に死ぬ事の方が多い。


 それでも、ダンジョンが残っていれば後から強力な覚醒者が出てくる可能性はある。


 だが、全てのダンジョンが正規の出入口を封鎖されていた。


 生き残った覚醒者の1人。異世界では『大賢者』と語られる人物が、半世紀かけて世界中を回りダンジョンの出入口を破壊したからである。


 無限に湧き出るモンスターの対処法として。これ以上の混乱をなくす為。何より、帝国の影に怯える民に応える為に。その賢者は生涯をかけてダンジョンを封鎖したのである。


 現代技術をもってしても、開通が難しい程だ。異世界の技術力では、この封印を突破できない。


 何より、現地の『教会』がダンジョンの解放をしようとする国があれば制裁を加える。


 件の賢者は最後のダンジョンを封印した後、聖都を襲ったドラゴンと戦い相打ちになり死亡。彼の亡骸は異世界で最も広まっている宗教の総本山に埋葬され、今もダンジョンからモンスターが溢れて来ないかを天界から見守っている……。



「と、言うのが。異世界に伝わる伝説だ」


 以上の事を部下達に伝え、部長は小さくため息を吐く。


「あくまで伝説だが、バカに出来る話ではない。ダンジョンから出て来た日本人に対して、異世界側は政治的な警戒以外にも、宗教的に()()()()()を抱いている。私の古巣は、『よりによって宗教関連か』と頭を抱えていたよ」


「部長。僕、異世界には行きたくないです」


「はっはっは。誰かが貧乏くじを引かないと、社会は回らないものだよ」


 そう笑顔で言い放つ赤坂部長だが、外務省がダンジョン庁へのヘルプを要請した場合1位指名は間違いなく彼である。


 部長もそれがわかっているので、心の中で泣いた。


 赤坂雄介。彼が自宅のベッドでゆっくりと眠れる日は、遠い。


「話を戻そう。以上の事から、異世界でのアトランティス跡地の監視は万全と言い難い。海自も頑張ってくれているが、そもそも異世界の海に自衛隊の船を浮かべる事自体様々な面で問題がある。跡地海上に出現したゲートから出てくる、モンスターへの対応もある」


「つまり、その分こっち側での監視が重要だと」


「そうだ。各自治体に余裕はないだろうが、それでもゲートの新たな出現を警戒していく他ない。空き家の強制調査や撤去なども続けるよう、私も関係各所に頼みに行く。君達ももう暫く頑張ってくれ」


「はい」


 彼の言葉に、職員達が力強く答える。


 一癖も二癖もある面々だが、こと『やる気』という面に関しては誰もが漲っていた。


「では次の議題に移る。日米合同で作られた覚醒支援センターに関してだが、ようやく我々も介入し、健全化に向けて動き出す事が───」


 そうして、今日もフロアから明かりが消えたのは定時から随分経っての事であった。


 赤坂部長がその片手間に、ある法案の根回しを済ませていたが……それは、今語る事ではない。



*     *     *



 千葉県南部、某所。


 かつては人のあまりいない地域であったが、とある工場が出来た事でその辺りはいつの間にか多くの建物が並び、人通りも多くなっていた。


 お手本の様な地域の活性化だが、肝心の工場がおよそ『手本』とは出来ない物であった。



『錬金同好会第1工場~ラビュラビュ♡ホムンクルス嫁を作ろう~』



 地獄の様な看板である。大半の近隣住民はそれから目を逸らし、子供達には決して近づかない様に言い含めていた。


 それでも離れられないのは、その恩恵故である。現金な話であったが、同好会は彼らを毛嫌いなどしなかった。


 なにせ、そういう人間に布教してこそ、彼らの悲願……『全人類がホムンクルス彼女彼氏をもったら、全員同類だよね?計画』。通称『ZZ計画』が叶うのだから。


 きっと彼らは狂っている。たぶん、恐らく、メイビー。


「ふっふっふ……どうだね、副会長。ラブドール型ゴーレムの広がりは」


 そんな気の狂った看板のたつ工場の、とある会議室。そこでは、黒ずくめの覚醒者達が集っていた。


 彼ら、あるいは彼女らの顔は見えない。全員が、魔女狩りか邪教の儀式でもする様な黒い頭巾を被っている。


「はっ。順調です、会長。独身男性を中心に広まっており、じきに独身の成人男性の内、3人に1人は我らのラブドールを持つでしょう。また、独身の覚醒者女性も既に5人中1人が彼氏型ラブドールを購入しています」


「素晴らしい。最高だ。我らの悲願が成就される日は近い」


「また、海外からの注文も増えています。我らの技術を盗む目的の者も多いでしょうが」


「軍事利用されるのは、極力避けたいが……今更だな。一応、利用規約の魔法契約を強めた方が良いかもしれん」


「ですな。下手にマイナスイメージがつき、規制派を活気づかせてはまずい」


「左様。既に国内の政治家、及び財界の大物たちには『身辺警護』という名目で高性能美少女ゴーレム、あるいは美少年ゴーレムを『試用』として送っているが、世論というのはバカにならんからな」


 VIPにのみ送っている、身辺警護用の高性能ゴーレム。


 外観こそ無骨な鎧型や、子供受けする着ぐるみ型であるが、それを脱いだら美少女型や美少年型が出てくる仕組みである。


 そういった『心づけ』が通じる相手の選定は、会長と副会長の『表の人脈』で把握済みだった。


 赤坂部長すら、その激務もあって把握していない裏事情。同好会の魔の手は、日本の奥深くまで伸びている。


「しかし会長。我らが警戒すべきは、規制派だけではないのでは?」


「どういう事かね、小島君」


 黒頭巾の1人が、肩を怒らせて拳を握る。


「自衛隊との協力以降、ホムンクルス嫁の製造よりも『パワードスーツづくり楽しい!楽しい!』『量産機!もっと!専用機!強いの!』『あ゛~、油圧の音~』と。狂った様に叫びながら我らの会合ではなく、自衛隊基地に向かう裏切り者が増えています……!」


「なるほど、その事か」


 彼の言葉に、会長が深く頷く。


「君の懸念は尤もだ。彼らが我らの技術を余所へもらし、先ほど警戒していた軍事利用に繋がるのでは……と、考えているのだね?」


「その通りです。ロボに傾倒するのは良い。私も泥臭く人型ロボットが戦う姿は好きだ」


「うむ。ちなみに私は宇宙でスタイリッシュにビームを撃ち合う派だ。でも泥臭い地上戦も良いよね」


「スタイリッシュ、わかります。とにかく!あの裏切り者どもには今一度、己の性癖を思い出させるべきです!」


「ふっ……まだ若いな、小島君」


 会話を聞いていた副会長が、頭巾の下で小さく笑う。


「彼らは確かに、最近はエッチな浪漫よりも、熱血やむせる浪漫に向かっている。だがな……君も知っているはずだ。『ロボットもの』と『エロ』は───ズッ友だと!」


「はっ!」


 副会長の言葉に、小島が頭巾の下で天啓を受けたかの様に目を見開いた。


「彼らは今、一時的にパワードスーツ作りに邁進している。だが、すぐに下半身のムラムラに従う事だろう。そして、その時は……」


「自衛隊に新たな同志をつくり、共にこちらへ戻ってくる……!」


「イグザクトリィ……!」


 自信満々に笑う副会長。彼の言葉が正しいと証明されたのは、この数か月後の事であった。


「それに、自衛隊……というより丸井陸将が健在なうちは、むしろ好都合だ。戦争の時代に技術は発展し、平和な時代にエロ文化は発展する。彼らには、今後も頑張ってもらうとしよう」


「そういう事でしたか……この小島、浅慮でした……!」


「構わんよ。そうして疑問や不満を言葉にしてくれる者がいた方が、皆助かる」


「君には我が同好会のナンバー3になれるだけの、才能と熱意がある。期待しているよ」


「はい!ありがとうございます、会長!副会長!」


 この場に正常な思考の者がいれば、『この変態集団でトップ3になれる才能と熱意とか、もう侮辱だろ』と思ったに違いない。


 だが、この場にそんな常識人はいなかった。世も末である。


「さて、次の議題ですが……赤坂部長から、また魔法薬と魔力を帯びた武器。そしてゴーレムの催促ですな」


「むぅ。正直面倒くさいが、彼を敵にしたくはない。第2工場の本格稼働を急がせるとしよう」


「ですな」


 会長と副会長の頬に、冷や汗が流れる。


 この場にはいないが、赤坂部長の娘。ファザコン覚醒者の赤坂勇音は同好会に入会済みである。その地頭の良さと行動力もあって、幹部入りも近い。


 彼女の篭絡は困難を極める。父親そっくりのゴーレムを会長達がプレゼントした事があったのだが、『そういうんじゃないので』と丸焼きにされた。


 勇音はファザコンだが、常識の範囲内のファザコンである。常識的なファザコンってなんだ。


 そして、彼女は愛する父親を殺しかけた会長達に個人的な恨みを持っている。もしも赤坂部長が『GO』と言ったら、勇音は迷いなく彼らの手足を2、3本へし折った上で社会的に殺す事は想像に難くない。


 かといって武力でどうにかするのも、『Aランク候補』である3人娘との繋がりがある為不可能と言って良かった。彼女らを本気で撃退しようと思ったら、それこそ艦隊規模も戦力か同格の覚醒者……それこそ『インビジブルニンジャーズ』の協力が必要である。


「くっ……赤坂親子さえどうにかできれば、『インビジブルニンジャーズ』に……有栖川教授に接触できるのだが」


「『プロフェッサー』……表の住民も、裏の住民も、彼女の一挙手一投足に注目している。教授がもつ戦力と、錬金術の資料……それさえ手に入れば……!」


 なお、教授が同好会の計画を知ったら全力で潰しにかかるのは間違いない。何故なら、彼女の『悲願』と真っ向からぶつかる可能性がある。


 その事を知らない彼らとしては、どうにか利益による同盟が結べないかと模索していた。


「あ、それと山下君からまぁたおねだりです」


「んもぅ。山下君はしょうがないなー」


 副会長が持っていた資料のページをめくると、途端にトップ2人の声が軽くなった。


「『ウォーカーズ』の簡易魔道具製造の教導依頼。及び、駆け出し冒険者用の盾役ゴーレムの要請ですね」


「しょうがない。これ以上工場のラインは増やせない以上、一部私と副会長。あとは、『ウォーカーズ』に所属している同志で内職するかぁ」


「ですな。まったく。あの若者は大きな目標を持っているわりに、実力も経験も足りていないのだから」


「ああ。我らが手助けしてやらねば、まだまだ子猫。は~、やれやれ」


 楽し気なおっさんと爺さんに、一部の同好会メンバーが顔を見合わせる。


「なあ、山下代表の事になるとあの2人おかしくならないか?猫耳だから?」


「それもあるかもしれないが、それ以上に『ああいう青臭い若者にね。おっちゃん達は弱いの』って言っていたぞ」


「ほーん。そういうもんか」


 明らかな贔屓だが、それを気にするメンバーはいない。何なら、小島の様に自衛隊へ流れた同志への不満を抱いていた者もごく少数である。


 彼ら同好会は、そもそも私欲の集まり。何より、自分のホムンクルス嫁に直接の関係がないのなら無関心な者の方が多かった。


『ウォーカーズ』に並ぶ影響力を持つ覚醒者団体こと、『錬金同好会』。それが組織としての形を保っていられるのは、偏に会長と副会長の実力故である。


 この2人が消えた場合、同好会は自然消滅するのが目に見えていた。


「よし、ついでに彼好みのラブドールゴーレムも送ってやるか!直接運ぶのは面倒だし、郵送で!」


「彼が購入したエロ本はハッキングで把握済み。それに沿ったタイプを作ってやるとしましょう!」


 なお。後日山下代表が武装して工場に乗り込み、同好会崩壊(バカ2人に鉄槌)の危機に陥ったのは言うまでもない。


 会長と副会長は、頭にでかいたんこぶを作る事になった。ついでに、そのごたごたに乗じて勇音が同好会の計画を知る事となる。



 ───だが、この程度で彼らはへこたれない。



 いずれ全人類がホムンクルス彼女彼氏を作り、大手を振ってホムンクルス嫁とデート出来る日を夢見て……!


 負けるな、『錬金同好会』!進め、『錬金同好会』!


『ZZ計画』の完遂に向け、彼らは今日も叡智な談義を繰り広げるのだった。






読んでいただきありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。励みになっております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


明日は『エピローグ 下』を、明後日には『最終章設定+おまけ』を投稿させていただく予定です。


以前にもご報告しましたが、本編完結後も『外伝』……あるいは後日談として、週1程度のペースでこの物語を続けたいと思います。次回作と平行してになるので、もしかしたら休む事もあるかもしれません。

どうか今後とも、今作をよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
『ウォーカーズ』もすっかり国際的な政という機構の歯車に。お疲れさまです。 >喜利子はもう、だいぶ深い沼へと嵌っていた。 首まで浸かっていい湯ですね(白目) >この前まで巨大ウミウシみたいだったとか…
次回作と同時にこの物語も続けてくれるだって⁉︎ 作者様はいったいどれだけ読者を楽しませてくれるんだ‼︎ 無理をせず描きたい事を書いていってください。
可愛い可愛い猫耳嫁を送ろう
感想一覧
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