第百八十話 再びの
※前話、メイス持ちに関して描写洩れがありましたので昨夜修正しました。申し訳ございません。
第百八十話 再びの
『───聞こえるか、『インビジブルニンジャーズ』諸君』
「ええ。その不本意な名前がよぉく」
剣を肩に担ぎ、歩きながら。
イヤリング越しに聞こえる声に答える。
『状況の報告を。無事なのか』
「12体の融合体は撃破。ゴーレム達に損傷はありますが、全員五体満足です」
『それは重畳。して、一旦休憩をはさむ事は可能かね』
「無理ですね」
ずっと、目があっている。
竜の蒼穹の様な瞳と、自分達の瞳はぶつかったままだ。
『では、撤退は』
「それも、無理です」
背を見せた瞬間、猛攻が降り注ぐのは想像に難くない。どんな攻撃であれ、回避は難しいだろう。
なにより、またダンジョンの中をバラバラに飛ばされるのはごめんだ。
『承知した。では、耐えろ。絶対に、援軍を向かわせる』
「了解」
『全員死ぬなよ。君らが死んだら、泣きながら墓石にゲロ吐いてやる』
思わず、笑ってしまう。この人らしい残念っぷりであった。
「この状況で、それ言いますか」
「京ちゃん。さっき不本意な名前って言ったけど、その真意は?」
「お前もか」
「え、えっと……姉さんの今日の下着は!」
「後にしてください」
「はい」
なんとも……これから竜に挑むと言うのに、残念な美人さん方である。
しかし、自分達らしい。
「生きて帰るので、人の墓を汚さないでください」
『その言葉を信じよう。武運を祈る』
「はい」
「オッス!」
「ええ!」
それぞれが答え、その声に呼応する様に。
───G A A A A A A A A A !!
この世ならざる雄叫びが、ダンジョンを揺らした。
純白の竜の顎が開かれ、そこに膨大な魔力が集束していく。空間自体が湾曲する程の密度。この世の終わりとさえ錯覚するこの光景を見るのは、2度目だ。
「エリナさん」
「応よ!」
彼女がばら撒く様に投げた『金色のリング』が、綺麗に自分達の踏み出す先に配置される。
ブーツに包まれた足を乗せた瞬間、靴底にそのリングは吸い込まれていった。
『ホロファグスの金靴───改』
白い竜が焼き尽くした多頭竜達の置き土産を、雫さんに加工してもらった物。
相も変わらず使い捨てで、この戦闘限り。あげく、1つ作るのに複数の金靴を潰す必要がある。
だが、しかし。それでなお、この魔道具は竜との戦いに相応しい逸品だ。
放たれる白の極光。余波だけで白い街並みが炭化し、崩れ去っていく。
それ自体が芸術と呼んで良い風景は焦土と化し、偽りの夜空にまで粉塵が舞い上がった。
だが、その破壊の一閃は標的を捉えない。
黄金の波紋が、宙に広がる。
フリューゲルをなびかせ、風を『概念干渉』で踏みつけ疾走。飛行しながら天を駆け、街に巨大な線を引いたブレスの傍を通り抜けていく。
金靴の効果により、足がかつてない程に軽い。踏みつけた空に黄金が広がり、その度に加速する。
グイベルがその塔の様な首を巡らせ、こちらへと横薙ぎに熱線を振るってきた。だが、遅い。
振るう方向を絞らせない為、極光の周囲で螺旋を描くように移動。音さえも置き去りにして、白い竜へと肉薄した。
「どうも」
きっと、この声は届いていない。届いた所で、言語が違う。
だが、『あいさつ』は大事だ。
ソニックブームとブレスの大気を焼く音が轟く中、剣を振りかぶる。
眼前には、蒼穹の様に青い瞳。
「お久しぶり」
竜の目玉へと、全力で刀身を叩き込んだ。
G Y Y Y Y A A A A A A A ───ッ!?
至近距離で響く絶叫に、鼓膜が破れたのを自覚する。発生した衝撃波で吹き飛ばされそうになるのを、フリューゲルで強引に堪えた。
もがく様に首を動かすグイベル。歯を食いしばって柄を握り、魔力を流し込む。
赤熱する刀身と腕輪。風と炎を概念干渉で混ぜ合わせ、一振りの刃へと変えていく。青かった目玉は沸騰し、神経を焦がし脳にさえ届かんと出力をあげた。
だが、デカすぎる。このクソトカゲ、前に会った時よりやはり大きい。
「あああああっ!」
横へ剣を振り抜き、衝撃波に『乗って』離脱。大きく距離を取れば、炎と血が混じった赤い線が宙を舞う。
ブレスの余波と、痛みで振り回された白い四肢のせいで周囲の建物は酷い有り様だ。骨組みと壁が幾枚か残っていれば良い方。半径100メートルほどは、瓦礫の山と変わっている。
『G U U U U U U ……!』
隻眼となった竜が、こちらを睨みつけた。それだけで垂れ流される魔力は呪詛となり、自分を侵そうとする。
それを打ち払えば、純白の両翼が広げられた。
ただそれだけで暴風が発生する中、50……いいや、80メートルはあろう巨体が、宙を浮く。
そこからは、あっという間の出来事であった。物理法則を完全に無視し、たった1回の羽ばたきで竜の巨体が眼前にまで迫っている。
「ちぃ!」
フリューゲルと脚力で左方向へと急速離脱。自分が先ほどまでいた位置を、巨大すぎる前足が通り過ぎた。
先端が発するソニックブームに巻き込まれながら、視線は竜の巨体に固定し続ける。
『G R U A A A ……!』
ぎょろりと、残った奴の右目がこちらを捉える。瞬間、その鱗が激しく発光した。
サクスの召喚、ではない。全身の鱗が杖であり、砲身。一斉に光線が放たれる。
全力で後退し、追いすがる光の弾幕を上に回避。だが、鋭角な軌道でビームが曲がった。
ほぼ真下から飛んできたそれらに、バレルロールを交えながら螺旋を描くように避けていく。
多い上に速い。振り切るのは厳しいか……!
天井スレスレまで飛翔し、一瞬だけ減速。兜が擦れそうな距離で天井を這う方に飛べば、どうにか光線はダンジョンに幾つもの穴を作って追撃をやめた。
だが、まだ手番はこちらだとばかりに竜は雄叫びを上げ弾幕を張ってくる。それを必死に避けながら、視界の端でこちらへ向かってくる存在を捉えた。
直後、白い巨体に2筋の流星が突き刺さる。
『G U O O O ッ!?』
「私だって」
未だ粉塵が舞う街の中から、1騎の『チャリオット』が姿を現した。
「何も用意してこなかったわけでは、ありません!」
木材と岩、そして氷で構成された、人が5人は乗れそうな戦車。それを牽くのは、ケンタウロスの様に下半身を馬に変えた『右近・左近』であった。
2体のゴーレムは盾と刺す又から得物を変え、身の丈程もある大弓を握っている。
チャリオットに乗ったミーアさんが、左手で手綱を、右手で杖を持ち天へと踏み入ったのだ。
右近達が番えた石の鏃をもつ矢が氷の粒子を帯び、放たれる。それらはミサイルもかくやという速度と衝撃波を伴い、白い鱗へと突き刺さった。
されど。
『G A A A A A A A !!』
グイベルは血の一滴すら流さず吠える。鬱陶しいとばかりに彼女へも数十の光線が放たれ、チャリオットが軌道を変えて回避行動に移った。
避けきれない軌道の物を氷の壁が防ぎ、無傷で空を駆っている。自分もまた、それを横目に追加の光線を避け続けた。
わかってはいたが、やはり3人と3機だけで挑む相手ではない。手数も大きさも違い過ぎる。
あいさつ代わりの一撃も、次は通じない。それどころか、しっかりと焼いたはずの傷口は既に再生し始めている。後10分もすれば、再び視力を取り戻すかもしれない。
内心で舌打ちをしながら、ひたすら回避に徹する。攻め込む好機がない。
ハリネズミの様に光線をばら撒きながら、白い竜がこちらへと迫ってきた。遠近感が狂いそうになる巨体が、高速で飛んでくる。
音さえ置き去りにする今でさえ、振り切れない。腕の様な骨格前足を振りかぶり、自分目掛けて爪を叩きつけてきた。
背後で凄まじい轟音が響き、衝撃波と石礫が襲ってくる。しかも、それらは今も背中に衝突し続けていた。
振り返らずともわかる。あのくそトカゲ、前足を天井に埋めたまま飛んでいるのだ!
鋼より硬いはずの迷宮に容易く破壊をもたらしながら、こちらをひき潰す為に追いかけている。
蛇行する様な軌道をとるも、グイベルはピッタリと後ろについてきていた。速度はあちらが上。小回り以外では負けている以上、この状況では振り切れない。
ならば……!
「っぅぅ……!」
足を折り畳み、一気に減速しながら上下を逆転。天井を蹴りつけ、急降下する。
振り抜かれる前足。その爪がこちらの足のすぐ傍を通過し、発生した暴風にバランスを崩した。
きりもみ回転しながら、次々と変わる景色の中で精霊眼を働かせ続ける。
こちらを追いかけ、急降下するグイベル。その上で光線を避けながら飛行するミーアさんのチャリオット。
そして、戦車から飛び降りる2つの影。
「いぃぃぃやっほおおおおおおおおお!!」
この場にそぐわぬ陽気な声は、きっと幻聴だろう。実際に言っているかもしれないが、風の音で聞き取れない。
金色のツインテールをなびかせ、両手で大筒を携えた彼女。その背後で降下する、白銀の騎士『ブラン』。
ブランが戦斧を大きく振りかぶり、合図も出さずにエリナさんの足裏へと叩き込む。
それに対し、彼女はまるでわかっていたかの様に膝を折り曲げ衝撃を吸収。呆れる程に滑らかな動きで、穂先の裏側を下駄で受け止め加速した。
こちらを追いかけるグイベルを、更に追いかけるエリナさん。地上まであと僅かとなり、衝突寸前で自分は『炎馬の腕輪』から炎を放出して軌道を横へ変えた。
それを好機とばかりに前足を振りかぶった白い竜の背に、ピタリ、と。砲口が合わせられる。
『冥轟大筒』
刹那、この風が荒れ狂う中でも届く砲声が轟いた。
『G Y A A A A A A ッ!?』
前足を振るおうとしていた事もあり、バランスを崩すグイベル。白い竜は頭から地面に衝突し、隕石の衝突めいた破壊を巻き起こした。
瓦礫と衝撃波が飛び散る中、魔力を追ってエリナさんの位置を把握。出力に任せて一直線に飛翔し、彼女へと左手を差し出した。
「エリナさん!」
「京ちゃん!」
大筒を左手と脇で保持し、エリナさんが右手でこちらの手を取った。『冥轟大筒』の分かなり重いが、自分ならこのまま飛べる。
視界の端ではブランはミーアさんのチャリオットが回収し、再び高度を上げていた。
こちらもエリナさんをぶら下げたまま上昇し、グイベルが落ちた場所を見下ろす。
「やったか!?」
「わかってて言ってるよね」
「うん!」
元気な返事をするエリナさんが、大筒を肩に担ぎ直しながら片手で持ち手近くのレバーを引く。砲身が回転し、3発目が発射可能になった。
先の融合体で1発。今ので2発目。次が最後の1発となる。
ケルベロス出現までのインターバルもあり、用意できた大筒はたった2つだけ。虎の子の砲弾だ。外すわけにはいかない。
舞い上がる粉塵を、旋回しながら見下ろす。追撃は、下手に近づけば返り討ちにあうだけなので出来ない。
そんな事を考えていれば、精霊眼の予知が脳裏に走る。
「回避!」
「おおお!?」
振り回される形になったエリナさんが、驚きの声をあげる。
直後、自分がいた位置を数十の光線が貫いた。大気の焼ける独特の音をさせ、光の槍は天井や都市を穿つ。
ミーアさんの方でも膨大な数の光線が飛び、チャリオットを追いかけていた。援護に向かうのも、逆に助けてもらうのも難しい。
「くぅ……!」
「京ちゃん、10時方向の建物に落として!」
「了解!」
重心が乱れる中、エリナさんが告げた方向へと飛ぶ。
ここまでの戦闘で崩壊した街の中で、比較的無事な高層建築物があった。僅かに高度を下げ、その屋上へと彼女を落とす。
エリナさんは大筒を持ったままだと言うのに屋上へと転がる様に着地し、何事もなかった様に駆けていく。
その建物も、光線で撃ち抜かれた。魔力の動きで彼女は無事である事を察知し、胸を撫で下ろす間もなく右へ体を傾け迫っていた光の槍を避ける。
宙に黄金の波紋が広がる端から、白い光が貫いた。肩を、頭を、脇をかすめていく光線。圧縮された高密度の魔力攻撃は、1発でも直撃すればその個所を抉り飛ばす。
避けきれない弾を剣と籠手で受け流す度、『魔装』が削れていく。側頭部をかすめた光線が、兜を吹き飛ばし頭蓋骨をも僅かにこそぎ取っていった。
激痛と共に視界が揺れる。本能だけで回避を続け、いやに広くなった視界から兜がまた砕け散ったのだと察した。
次はない。今度は死ぬ。『心核』により多少脳が削れても生きていられるかもしれないが、殺到する光の束に飲み込まれて塵となれば再生もできない。
激しさを増す光線の中、グイベルの姿を一瞬だけ捉えた。
無傷。
あの巨体で、あの速度で地面に衝突して、傷の1つも見当たらない。
いいや。最初に目玉を潰した感触からして、墜落直後は多少の傷が鱗にあったのだろう。ただ、とっくに再生してしまっただけだ。
化け物め、もう少し常識というものを大切にしろ……!
バレルロールしながら左斜め下に滑る様な軌道で移動し、そこから三角跳び。次いで、螺旋軌道で上昇。
凄まじいGがかかるが、気にしてはいられない。
防戦一方な中、粉塵を掻き分けて白い竜へと駆けていく魔力を感知。エリナさんだ。
どうにか、上へと奴の注意を向け続けさせねば……!
そう思い、牽制の1つもしようとした直後。
───ズッ……!!
白い竜がその巨体を起こし、後ろ足のみで立ち上がる。鋭い爪で地面を掴み、僅かに上体を前へ傾けた。
次の瞬間起こる事を予知し、全力で叫ぶ。
「尻尾だ!!」
『G U O O O O O O O ッ ッ ! !』
一際巨大な雄叫びと共に、白い巨体がぐるり、と回った。
地面を纏めて削る、長く太い尾。奴の頭から後ろ足の付け根までと同じ大きさのそれが、周囲の建物を舞っている粉塵ごと一掃する。
薙ぎ払ったのだ。自身に近づく敵の気配を感知し、足元の全てを。
風圧と瓦礫が天井近くまで飛んでくる中、今しがた起きた事に喉が引きつる。
「エリナさんっ!!」
自分の悲鳴すらかき消す風の音。それに構わず高速で弧を描くように飛行し、彼女の姿を探す。
大筒だ。大筒の魔力を探せ。そこにあの人は……!?
3本ある砲身の内、2つがへし折れた『冥轟大筒』を土煙の隙間から発見する。瓦礫の上で無造作に突き立ったそれは、間違いなく彼女が持っていたものだ。
まさか、下敷きに……!
そう思い急降下しようとした直後、視界の端で何かが動いた。
急停止しそちらへ視線を向ければ、四角い何かが飛んでいる。あれは……凧?
こちら側からでは見えないが、その裏側に慣れ親しんだ魔力を感知する。
「はっ……」
思わず、気が抜けてしまった。彼女の無事に、胸を撫で下ろしたのだ。
それが致命的な隙であると、遅れて気づく。
「しまっ」
粉塵を突き破り、純白の熱線が眼前へと迫る。
身の丈を超える太さの光に、回避は間に合わないと概念干渉により剣で受け止めた。
だがそれは、ただの足掻きに過ぎない。衝撃で押しやられる最中も、着弾した刀身へと光線が合流していく。
「あ、ぐぅぉおおっ!」
刀身に幾つもの罅が入っていき、骨が、筋が、全身の全てから異音が聞こえる。
白く染まった世界の中、我武者羅に炎と風を放出した。刹那の内に壊れていく刃を、強引に右斜め下へと振るう。
僅かに軌道がそれる光の渦と、押し上げられる自分の体。それでも逸らしきれず、白光は己の右腕を飲み込んだ。
「あ、がああああああああああ!?」
肘から先が、消えた。それを知覚しながら、地面へと落ちていく。
フリューゲルも4分の1近くが焼き切られ、無意識では飛行できない。激痛に脳が支配される中、頭から真っ逆さまに地上へと墜落した。
それでも、本能からか。はたまたただの運か。
咄嗟に突き出した左腕。そこに嵌められていた腕輪から、焔が溢れ出した。溶けかけた表面を突き破り、制御を失った魔力が紅蓮の炎へと変換され放出される。
ほんの僅かに減速し、左掌から地面に衝突。骨が砕け散った感覚を味わいながら、意識が途絶えた。
だが、恐らく数秒後。気絶から復帰する。
瞬間的に回復した五体。傷1つない体となり、跳び起きた。
しかし『魔装』は破損状態。何より───。
『G A A A A A A A A A ッッ!!』
白い顎が、目一杯開かれていた。
こちらを見下ろす隻眼。展開された両翼でゆっくりと浮き上がりながら、グイベルが自分に狙いを定めている。
避け、られない。ミーアさんが何かを叫びながら、必死の猛攻を竜に浴びせながらこちらに近づいている。
だが、それも間に合いそうにない。彼女の攻撃を受け鱗に傷が入るも、グイベルは一切を無視。ただ、自分という『敵』を殺す事だけに集中している。
防御も、無理だ。ただ鱗からの光を幾つか受け流しただけでこの様だと言うのに、ブレスを捌く事など出来ない。ましてや、無手では。
そんな思考が駆け巡るも、体はその速さに追いついてこなかった。ああ、これが走馬灯というやつかと、頭の片隅に呑気な感想が浮かぶ。
必死に、たとえ間に合わないとしても、足を動かそうとした。万に1つは、助かるかもしれない。その願いに縋りつくように、後ろへと跳躍する。
だがそんな足掻きは無意味だと嘲笑うかの様に、極光が───。
鋼色の光が、通り過ぎていった。
何が、起きた?わからない。だが、
『G A A A A A A ! ?』
絶叫と共に口腔へ集束していた魔力は四散し、あらぬ方向へと水飛沫の様に飛び散った。
そして、視界の端。比較的無事な、骨組みだけは残った建物。その屋上に、1人の老人が着地する。
着崩した着物に、黒い袴。長い黒髪を1本に縛った彼は、露出した右腕に刀を握っている。
鍛えられているが、一目で老人のそれだとわかる体躯。刀身には罅が入り、腕は紫色に変色していた。
だが、彼の刃は。
───ズゥッ……!
竜の翼を斬ったのだと。数秒遅れて切り落とされた羽を見て理解する。
絶叫をあげるグイベル。飛び上がろうとしていた巨体は大地に落ち、その四肢でどうにか転倒を防いでいた。
そして、ここまで沈黙していたイヤリングから声が聞こえてくる。
『褒め称えろ。崇め奉れ』
尊大な事を言う、ソプラノボイス。
その声の主の気配を感じとり、悶えるグイベルに意識を向けながらも振り返った。
『今作戦に参加した『Aランク候補』30余名』
遠く。数キロは離れている位置。まだ無事な建物の屋上に陣取る、4つ足のゴーレムとその傍に控えるエルフの女性。
そして、白い竜の周囲に続々と集まってくる強靭な魔力の持ち主たち。
『世紀の大天才、この有栖川アイラが!全員最深部へと導いてやったわぁあああ!!』
念話越しに響く、アイラさんの声。
その言葉に、全身に力が駆け巡った。
崩壊した白亜の都に集った猛者ども。対するは大いなる竜。
奇しくも東京事変と似た状況に、似た顔ぶれ。その事に苦笑しながらも、『魔装』を再展開させる。
傷1つない剣を鞘から抜き放ち、竜へと切っ先を向けた。
さあ、第2ラウンドだ。クソトカゲ。
読んでいただきありがとうございます。
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