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【書籍化決定】コミュ障高校生、ダンジョンに行く【本編完結済み】  作者: たろっぺ
最終章 コミュ障たち、現代ダンジョンに行く
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第百七十七話 融合体

第百七十七話 融合体





『BUOOOOOO!』


「っ!」


 雄叫びと共に繰り出された袈裟懸けの斬撃に、どうにか刀身を合わせる。


 ミシリと両腕からの異音を聞きながら、右斜め下へと大剣を滑らせた。真横で砲撃じみた破壊が起きる中、飛び散る石礫を無視して4つ目の右腕に斬りかかる。


 だが、それはいつの間に握っていたのか。奴の左手にある楕円形の盾で防がれる。


『NUUN!』


「ちぃ!」


 強引に弾かれ、大剣の横薙ぎ。それを跳んで回避し、更に足元を通り過ぎる瞬間に剣腹を蹴って再度跳躍。


 4つ目の上をとり、フリューゲルも使って真上から強襲する。


 炎と風の加速を得た刃。酒吞童子だろうと直撃すれば討ち取れる斬撃に、奴は自分から頭を刀身に通り道に差し出してきた。


 肩口を狙った刃が、どんぐり型のヘルムにぶつかる。曲面により受け流された一太刀が、炎で宙に赤い軌跡を描きながら地面に吸い込まれていった。


 振り抜き、床に巨大な線を刻んだ自分へ盾による殴打が繰り出される。轟、と。風が道を空ける一撃。


「こ、のぉ!」


 それが当たるより先に、4つ目の脇腹を蹴りつけて距離を取る。盾は空を切り、衝撃波が自分の体を更に押しやった。


 背中から後ろの柱へぶつかりそうになるも、両足から風を放出。バク宙の様に足裏を進行方向へ向ける。


 すぐさま柱を蹴りつけ移動すれば、自分がいた場所を大剣が通り過ぎた。


 爆音と共に、大人が数人がかりでようやく腕を回せる白亜の柱が飴細工の様に粉砕された。アレはもはや剣というより、鈍器に近い。


 だが、鋭かった。武器に例える方が間違っていたと考えを改める。アレは、竜の爪なのだ。


 10メートルほど離れた位置に着地した自分へ、4つ目が顔を向ける。だが直後、奴は盾を掲げた。


 そこへ殺到する氷の槍。音速に迫るそれらが、回遊魚の群れの様に宙を駆け抜けていく。


 数十、あるいは3桁に至るかもしれない槍の衝突。分厚いガラスが砕けた様な音が空間を満たし、4つ目の怪物を氷の破片と土煙が包み込んだ。


 剣を構え直しながら、更に距離をとる。隣に『ブラン』が並び、背後にはエリナさん達の気配。


『融合だと!?えぇい、とりあえず融合体と呼ぶ!エリナ君に鏡で映してもらったが、ステータスだけなら完全に酒吞童子と同等だ!極力戦闘は避けろ!』


「残念ながら……」


 硬い唾を飲み込み、重心を更に落とす。


 舞い上がった氷の粒子が、耳をつんざく雄叫びで吹き散らされた。



『GAAAAAAAAA───ッ!!』



「逃がしては、くれそうにありません……!」


 背中を見せれば、その瞬間死ぬ。


 予知で視た光景に口元を引きつらせながら、一瞬だけブランに目配せをした。


 今ならば、これだけで通じる。


 4つ目こと『融合体』が1歩踏み出した瞬間、自分は右斜め上に跳躍。ブランがタワーシールドを構えたまま風を放出し正面へ。


 迫る白銀の壁に、純白の刃が横薙ぎに振るわれる。盾の淵を殴り飛ばす様にガードを解き、融合体は大剣をまるで片手剣でも扱う様な速さで翻した。


 脳天へと繰り出された刃を、ブランが風を前方に放出する事で回避。大剣が空を切った直後、融合体の後頭部へと自分が斬りかかる。


 同時に、ブランが右手の長剣を首目掛けて振るった。前後からの挟撃に、しかし長剣の刀身に奴の目がぎょろりと動くのが見える。


 ぐるり、と。怪物はその身を竜巻に変えた。ただ高速で回転しただけだと言うのに、放たれた烈風が床も柱も纏めて抉り飛ばし、振り向きざまに放たれた大剣がこちらの胴を狙う。


「っぅ!」


 振るおうとした剣を強引に引き戻し、柄頭で相手の切っ先を受けた。耐えられず、衝撃で吹き飛ばされる。


 視界の端で、ブランの巨体もまた盾による殴打で床をバウンドしながら転がっていった。


 なんて出鱈目な……!この馬鹿力め……!


 柱に背中からぶつかり、肺の中の空気が押し出される。歯を食いしばって飛びそうになる意識を保ち、横方向へ飛行。まだ無事な柱を壁にしながら、魔力で相手の位置を捉え続ける。


 前衛を纏めて蹴散らした融合体が、自分へ顔を向ける気配。追撃にと踏み出した足が、しかし突如として凍り付いた。


 奴の雄叫びで吹き散らされたはずの氷の粒が、いつの間にか怪物の周囲に集まっている。


「凍れ!」


 凛とした声と共に、四方から氷の破城槌が叩き込まれた。


 それを跳躍で回避した融合体へ、柱の陰から飛びかかる。炎の加速ものせた斬撃と白い大剣が衝突し、空中であった事もあって奴の巨体を吹き飛ばした。


 体躯に見合わぬ身軽さでくるりと回り、足裏から柱に着地しようとする融合体。だが、そこへブランが斬りかかる。


 長剣による袈裟懸けの一撃は盾でするりと受け流され、反撃の刃が振るわれた。それを騎士が盾で受け、両者は反動で弾き飛ばされる。


 着地し踵で床に2本線を引きながら、石畳を捲り上げて減速する融合体。その4つ目の正面に回り込み、雄叫びを上げて突撃する。


「おおおおおお!」


『BUAAAAAA!』


 横回転し遠心力も加えた、風と炎の斬撃。それを大剣で受けた融合体だが、今度は奴の得物が上へと弾かれる。


 すかさずその顔面へと左の掌打を叩き込み、魔力を注ぎ込んだ。


「弾けろぉ!」


 集束した風と炎。熱線となり、融合体の頭部右側を焼き尽くす。


 爆炎が一瞬だけ視界を包み込むが、魔力の流動と予知で相手の動きを察知。熱せられた空気を、白い掌と咆哮が突き破った。


『GAAAAA───ッ!』


「しぃ!」


 盾を放棄して掴みかかってきた腕を、剣で打ち落とす。硬いが、肉までは斬れた。


 血飛沫と共に下を行く腕と、反動で上にいった自分の体。勢いそのまま、床と水平になりながら回転。焼け焦げた怪物の顔面へと刃を振るう。


 炭化した肉も骨も食い破り、刀身が脳を潰した。尋常な生物なら致命傷。されど、これは尋常な生物ではない。


『BOOOOOO───ッ!』


 竜の、一端なれば。


 骨だけで親指が繋がっているだけの左腕が片手半剣を掴み、頭に食い込ませたまま固定。右腕で融合体が大剣を振りかぶる。


 柄から手を放すが、回避は間に合わない。防御───いや。



 とすり、と。



 忍者刀が、壊れた兜から露出した耳に突き刺さる。


 下駄で丸太の様に太い腕と肩を踏みつけ、金髪をなびかせた少女が柄を捻った。残された左側の脳も破壊され、融合体の動きが止まる。


 新体操の様に柄を基点にぐるりと体を回したエリナさんが、怪物の首を蹴りつけて刀を引き抜いた。


 赤い軌跡を描いた後、白い巨体がずしりと後ろ向きに倒れる。


 彼女と共に後退し、鞘の中で剣を再構築して抜剣。構え直す。流石に、これで死んだと思いたいが……。



 ぞるり、と。その巨体の内部で魔力が循環する。



「まだだ!」


 吠えると共に、吶喊。自分の声に呼応し、ブランも長剣を振り上げ走り出す。


 腕を使わず足と背筋だけで跳び起きた融合体が、剣を両手で握り構えた。左側しか残っていない顔に憤怒を浮かべ、雄叫びをあげる。


『GUOOOOOOOO───ッ!』


 小脳だけでもまだ動くか!


「ぜぇああああああ!」


 振り下ろされた刃を、正面から片手半剣で受け止める。


 重い。足元の床が陥没し、脛の半ばまで埋まった。ミシミシという異音が全身から響く中、無理矢理に刀身を『回す』。


 右から左へ相手の刃ごと剣をずらし、同時に埋まった足を引き抜きながら自身は右へ。受け流して、柄を捻って押さえ込む形に。


 ずしり、と。大剣の切っ先が隣に埋まる。ほぼ同時に、横合いからブランが全速力で斬りかかった。剣での迎撃は不可能と判断したか、融合体は即座に柄から手を離す。


 無手となった瞬間、奴は首狙いで放たれた横薙ぎの斬撃を仰け反って回避。そのまま床に手をつき上下反転、カポエラの様な動きで足を振り回した。


 咄嗟に反応が遅れるも、右の前腕でブランが蹴りを受け止める。反動を利用して飛び退ろうとした融合体に、氷の破城槌が直撃した。


 ずぐり、と。腹に突き刺さった氷柱。それに歯を食いしばり、踏ん張って受け止めようとする怪物。


 砲弾の様に吹き飛びながらも足で床を削り、天井を支える柱を幾本も背中でへし折った後。融合体は氷の塊を握り砕いた。


 しかし───舞い散る氷の破片の中を突き破って、自分が追い付く。


「しぃぃあああ!」


 炎風一閃。今度こそ、首を刎ね飛ばした。


 勢い余って数十メートルほど飛ぶも、着地。すぐさま反転し、床を削って強引に減速する。


 頭を完全に失った融合体は数秒ほど立ち尽くした後、ようやく死んだ事を自覚した様に跪いた。


 油断なくジリジリと距離を詰めていけば、奴の巨体が塩へと変わり始める。


「……倒したみたい。それと、周囲に他の敵はいないよ」


「ふぅぅ……」


 エリナさんの言葉に、肩から力を抜いて近くの柱にもたれかかった。


「アイラさん。とりあえず、こちらに目立った損害はなし。融合体を撃破しました」


『良かった……他の冒険者達もそれぞれ融合体と交戦している。だが、運良くそちらは別のパーティーと合流。協力して迎撃できている様だ』


「それはまた。僕らは運が悪い様で」


『孤軍奮闘は慣れているだろう。すまんが、頑張ってくれ』


「了解」


 息を大きく吸って、吐く。


 あの融合体、間違いなく技量がこれまでのサクスと比べて高かった。恐らく、他のパーティーと交戦している個体とも情報を共有。アップデートを行っている。


 ……まぁじできっつい。


「弱気はダメだよ、京ちゃん!」


 エリナさんが、バシバシとこちらの肩を叩いてきた。


「ごめん、顔に出てた?」


「ううん!なんとなく!」


 あっけらかんと告げる彼女に、思わず苦笑してしまった。


 そこへ、ミーアさんも加わる。


「大丈夫です、京太君。敵は強いですが、貴方も間違いなく強くなっています」


「……そうですね」


 レベルがまた1つ、上がった感覚。


 相手から吸収する『器』……ゲームなら経験値と呼ぶべきそれが、いつもより多い。敵の強さもあるが、エリナさん達が上限に至ったのも影響しているのだろう。


 つまり、自分の腰が引けては勝てるものも勝てないわけだ。空元気だろうが、雄叫びの1つもあげて敵に突撃せねば。


「元々京ちゃんは技量よりゴリ押しだからね!正面から突撃して強引にねじ伏せればOKよ!」


「言い方ぁ」


 柱から背を離し、剣を握り直す。


 爪先で軽く石畳を小突いた後、小さく息を吐いた。


「でも、その通りかもしれない。突っ込んで斬る。シンプルで良い」


「そのとーり!さあ、ガンガンいこうぜ!」


「道具もちゃんと使ってくださいね」


「はい。私も頑張って魔法薬を飲みます……!」


 満面の笑みなのに顔色が悪いという、なんともお労しい様子のミーアさん。


 自分に出来る事はその辺りないので、曖昧な笑みで返す。ガンバ。


「アイラさん。次の道を聞いても?」


『……うむ。うむ。京ちゃん君達はその部屋を真っすぐ突っ切って、出てすぐの十字路を左だ。そこに下へ続く階段がある』


「了解。アイラさんも、頑張ってください」


『応とも。私は10人までなら同時に話を聞けるからな。情報整理はお手の物だよ』


「どこの聖徳太子ですか」


『もっとも、お口は1つだから受け答えは限定されるがね。そこもかの太子殿と同じで』


「はいはい。それより、報告です。相手は剣術だけではなく、格闘技も使ってきました。あと首を落とさないと動きます。頭を半分潰したぐらいでは、止まらない」


『承知した。他の冒険者にも伝えよう。あちらで得た情報も、整理した後に君達へ教える』


「ええ。お願いします」


『任せたまえ。ではな。死ぬなよ』


「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ」


 苦笑いしながら念話を終え、仲間達に目配せする。


 心身に疲労こそあるが、継戦に支障はない。蹴りを受けたブランの腕も、まだ交換する程ではなさそうだ。自分達は再び、迷宮を歩き出す。


 建ち並ぶ柱の間を進み、広い空間の端を目指した。随分とスペースがある様で、15分ほど歩いてようやく通路と繋がる巨大な出入口が見えてくる。


 先の空間を出て少し進めば十字路に到着し、左へ曲がれば階段が目の前にあった。


 地の底へでも続いているかの様な、燭台があってなお見通せぬ長さ。そこへ、1歩踏み出す。


 自分達の足音が反響する中、下を目指して足を動かした。


 さてはて……竜の寝床まで、あと何度階段を下りれば良いのやら。





読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
頭半分に脳味噌ぐるりでまだ死なないとかほんとねーもうドラゴンなら頭落としても脊髄残ってれば精度は落ちても反射で攻撃してきたり頭だけでも攻撃してきそうな怖さがあるw オペレーターとしてはほんと破格なア…
凄いよアイラさん!再び! 同時に10人対話できるとか、まさに聖徳太子か甲殻のオペレーター並ですな。 ようやく地下への階段に進んだようで、ほかのパーティーとの邂逅も見えてきますね。 他のパーティーの普段…
形は人なれども流石は竜の眷属というべきか。クッソしぶとかったなあ。 >「元々京ちゃんは技量よりゴリ押しだからね!正面から突撃して強引にねじ伏せればOKよ!」 『レベルを上げて物理で殴る』ンッン~名言…
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