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【書籍化決定】コミュ障高校生、ダンジョンに行く【本編完結済み】  作者: たろっぺ
最終章 コミュ障たち、現代ダンジョンに行く
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第百七十五話 白亜迷宮

第百七十五話 白亜迷宮




 白亜の迷宮。純白の石が積み上げられ、各所に群青と黄金で装飾が為された荘厳な空間が、そこにあった。


 人間が徒歩で通る事を想定していない広すぎる通路。そこに立ち、油断なく周囲へと視線を配る。


 すると、イヤリング越しにアイラさんの声が聞こえてきた。


『聞こえているかね、京ちゃん君。お耳の恋人、アイラちゃんだが』


「聞こえています。念話は問題ないようですね」


『うむ。ではこれより、例の機体に搭乗する』


「……?乗らずに入ったんですか?」


『一旦降りて、外装の状態を確認したかったからな。なんせ、これほどの魔力濃度は初めてだ』


「なるほど」


『と、いうわけで』


 突然、エリナさんが目の前に卓上鏡を差し出してきた。


 そこには、ホームズのコスプレみたいな『魔装』姿のアイラさんが立っている。


 いつものドヤ顔で。


『私の搭乗シーンをとくと見るが良い!』


「いいからはよ乗れや」


 何やってんだこいつ。


 この一大決戦でもふざけだすとは、本当にこの残念は。


「いや、そういうの良いんで。周囲の警戒をですね」


「大丈夫京ちゃん!私並列思考得意だよ!」


「問題はそこじゃねぇのよ」


「すみません。搭乗シーンにエッチなカットはありますか?」


「黙ってろ残念2号」


『ミュージック、スタァァトォ!』


「教授。貴女の孫達です。なんとかしてください」


『私は周囲の警戒に忙しいので……』


「逃げるな。目を逸らすな。責任をとれ」


『あ、ぽちっとな』


 なんか聞こえてきた。このアホ、マジで曲を流し始めたぞ。


 アイラさんが無駄に大仰な姿でターンし、悠然と歩き出す。その先には、異形のゴーレムがいた。


 黒をベースに、赤と青で彩られた装甲。女性的なフォルムの上半身はそれだけで2メートル近くある。


 特筆すべきは、その下半身。まるでケンタウロスの様に、腰から下が別の生物めいた形状をしているのだ。


 だが、馬のそれではない。あえて言うのなら、蜘蛛に近いだろう。もっとも、足は4本しかないが。


 前方に2本。そして、後ろへ伸びる『コックピット』から2本。


 外骨格めいた装甲を纏った足は折り曲げられ、コックピットは上へ扉を開けていた。


 内部は複座式になっており、アイラさんは後ろ側に座る。内部にも鏡を設置しているらしく、鏡面が切り替わった。


 意外と広く設計されている様で、彼女はひじ掛けを使って頬杖をつき、長い足を組む。


 アイラさんが、パチリと指を鳴らした。


『出てきたまえ、サナ君』


「え……?」


 彼女の前方にある座席。そこが発光し、1人の少女が現れる。


 黄金を溶かした様な、赤みを帯びた金髪。それを黒いリボンでサイドテールに纏め、肩あたりまで伸ばしていた。


 つり目がちの青い瞳は大きく、しかし感情が読み取れない。すっと通った鼻筋も、桜色の小ぶりな唇も、まるで作り物の様であった。


 その顔立ちに、自分は覚えがある。何より、先ほどアイラさんが名前を呼んだ。


「サナ、さん……?」


 あの鳥籠の中にいた精霊が、アイラさんと同じ身長と体型になっている。


 出るとこは出て引っ込む所は引っ込んだ体を黒い革のボディースーツで包み込み、赤いジャケットを羽織っていた。


 かつてミノタウロスの迷宮で見た、アイラさんとサナさんの融合状態。その時の『魔装』に似た装いで、精霊の少女は両手を左右のグリップに添えている。


『ダンジョン用移動通信拠点、『アリアドネ』!起動!』


 アイラさんの言葉に、サナさんが小さく頷きグリップを強く握りしめた。瞬間、電気信号の様に彼女の魔力がゴーレムの体へと流れ込む。


 鏡面が再び切り替わり、外側からの様子に。ゴーレム……『アリアドネ』の折りたたまれていた足が床を力強く踏みつけ、立ち上がった。


 その右腕には1丁のリボルバーが出現する。無骨な直方体にシリンダーとグリップをくっつけた様な、装飾銃。これも、あの迷宮で見た物そっくりだ。


 更に左腕が傍に置いてあった3つの砲身を束ねた大砲、『冥轟大筒』を掴み上げる。


 前腕から細く短い腕がもう1本展開され、片手での保持を可能にしていた。


『フハハハハ!通常のゴーレムは人型から大きく外れる事はできない。サイズも含めて!しかぁし!それは核が人間より生み出されたホムンクルスだからだ!精霊であるサナ君専用の機体ならば、この様な無茶も可能というもの!』


 いや、そこは作るのに関わっているので知っているのだが。


 どちらかと言うと、サナさんが人間大になっている事が驚きなのだが。聞いてないよ?


 自分が携わった部分には関係ないとは言え、心臓に悪い。


『そして操縦者であるサナ君は数々の経験から機体の動かし方を独自にマスター!更に燃料タンクも兼任しているため、内部のマギバッテリーも合わさり長時間の戦闘が可能なのだぁ!』


 ドヤ顔を通り越して悪役みたいな笑顔を浮かべるアイラさん。


 そんな彼女が、自分の両サイドの壁に指を引っ掻けた。ガチャリ、とロックが外れ、パネルがアイラさんの前に2つ伸びてくる。


 それらが上下に開かれれば、何枚もの鏡が細かくはめ込まれていた。


『……さて。感想は?京ちゃん君』


「搭乗者というか、サナさんの事は事前に教えておいてください。製作者側なんですが?」


『え、雫君から聞いていないの……?』


「シーちゃんは前にパイセンが教えるって言っていたよ!」


「えぇ……」


 何ともしまらない。随分とありふれたミスである。


『おっほん!それ以外で、感想は!?』


「無事に起動してくれて良かったです。今後も事故なく稼働してほしいですね」


『ノリが悪いぞ京ちゃん君!?』


「すみません。僕、多脚も好きだけどやっぱり王道の人型の方が好きなので」


『白蓮』とか『ブラン』みたいな。勿論実用性最優先だが、デザインとしては人型1択である。


『く、タンク使いのくせに!』


「で、気は済みましたね?じゃあ仕事をお願いします」


『つくづくノリが悪いなぁ、京ちゃん君』


「こんな状況じゃなければ、もう少し気の利いた事を言いますよ」


『はいはい。……さて』


 鏡の向こうで、アイラさんの表情が真剣なものへと変わる。


『これよりダンジョン内にいる『Aランク候補者』達と念話を繋げる。私が中継点となり、各人の位置を記録。ナビをする予定だ。君達だけのアイラさんでは暫しなくなるが、寂しくて泣くんじゃないぞ?』


「そちらこそ、緊張で吐かないでくださいね」


『がんばる』


 エリナさんが、鏡を引っ込めた。


 切り替わった彼女の雰囲気に、自分も剣を握り直す。


「敵の数は?」


「正面の通路。曲がり角の先から5体こっちに向かって来ているよ」


「了解」


 エリナさんの凛とした声に頷き、1歩前に出た。


「こちらも、仕事の時間です」


 深呼吸を1回。いつものルーティーンを挟み、思考を切り替える。


 自分にも、バサバサという羽音が聞こえてきた。


 広すぎるこの通路は、奴らの為にある。白い炎が焚かれた燭台で照らされた、道の先。曲がり角から5つの影が姿を現した。


 2体は、絵に描いた様なワイバーン。角の生えたトカゲの様な頭に、長い首と尻尾。前足と融合したコウモリの様な翼の、竜。


 3体は、純白の兵士達。この白亜の迷宮にあって、なお存在感を放つ魔力。古い時代の装備を身に纏い、2体が飛竜に騎乗。1体がタワーシールドを手に駆けている。



 飛竜とサクス。あの日見た、白い竜の手勢。



『GYAAAAA!!』


 雄叫びを上げるワイバーンどもの口腔に魔力が集められ、火球として放たれる。


 迫るそれらを『概念干渉』でもって纏めて切り払えば、周囲を爆炎が包み込んだ。


 だが、問題ない。舞い上がった炎も煙も纏めて穿ち、飛翔する。


 高度を上げ正面から突撃する自分に、2体のワイバーンは再度火球を発射。それらの間を最低限の動きですり抜け、距離を詰める。


 相対速度もあり、瞬く間に縮まる間合い。左側のワイバーンに突っ込めば、騎乗していたサクスが馬上槍を突き出してくる。


 だが、遅い。


 減速せずに飛び、バレルロールで穂先を回避。地面と水平になりながら、すれ違い様にサクスの胴体へと剣を叩き込んだ。


 逆袈裟に両断される白い兵士。即座に反転した自分の下では、盾を持ったサクスとブランが正面から衝突している。


 出力は互角。互いに盾と剣をぶつけ合う中、エリナさんが鉤爪を使い両者の頭上を跳び越えサクスの背後を取った。


 更に前方。直進していった2体のワイバーンのうち、騎手を失った方が真下から飛んできた氷の破城槌で胴を撃ち抜かれる。


 残る1体のワイバーン。その個体が、大口を開けミーアさんへと火球を放とうとした。


 しかしこちらの方が速い。投擲したナイフが喉に突き刺さり、発射寸前の炎が内部にて爆発する。


 頭部を失って落下する飛竜から飛び降りたサクスへ、突撃。


 相手もすぐさま槍の横薙ぎで迎撃しようとするが、構わず加速して体当たりをしかけた。こちらの左籠手と、槍の柄がぶつかり合う。


 なるほど。確かに、この白い兵士は『疲弊した酒吞童子』ほどの膂力があるらしい。


 それでも強引に槍を押しのければ、サクスは左手を腰の剣に伸ばした。しかし、


「鈍い!」


 先に、こちらの刃が白い首へと食い込んだ。


 炎と風の加速を得た刀身が、強引に皮も肉も引き裂く。骨さえ断ち切りながら、空中でサクスとすれ違った。


 振り返れば、白い兵士は地面に落ちるまでに同質量の塩へと変化。バサリ、と。白い床に降り積もる。


 盾持ちの方も終わった様で、両腕を失い背後から喉を忍者刀で貫かれていた。


 それでも警戒しながら降下。床に足をつけ、小走りで仲間と合流する。


 構えを解かない自分に、エリナさんが気の抜けた声をかけてきた。


「お疲れー。周囲に他の敵はいないよー」


「了解。……ふぅ」


 短く答え、切っ先をおろす。


 このサクスとかいう兵士。確かに酒吞童子やケルベロスが比較対象に出るだけの身体能力はある。


 だが、動きが拙い。あの日と変わらず、自分と大差ない技量だ。そのうえ奴らの様に特殊な力もないのだから、対処はそう難しくない。


 もっとも。


『気を付けてくれよ、3人とも。他の冒険者は10体規模の集団に挟撃されている。別の冒険者が近くにいたから、救援に向かってもらった所だ』


「はい」


「おっす!」


「勿論です、姉さん」


 油断が出来るほどの余裕は、ない。


 これが、これで、『雑兵』なのだ。まったくもって嫌になる。


 塩の中から大振りのコインを右近が拾い上げ、それをエリナさんがアイテムボックスにしまった。落ち着いてドロップ品を拾える機会も、ほとんどないだろう。


 ブランの方を一瞥し、背中のマギバッテリーが正常に稼働している事を確認。小さく頷いて、イヤリング越しにアイラさんへ話しかけた。


「これより、僕達も探索を開始します。目印を発見後、また報告します」


『うむ。気をつけてな』


「はい。それと、事前に伝えましたが教授にアリアドネの予備パーツは渡してありますので。破損した場合は、それと交換してください」


『ああ。わかっているとも』


「私もブーちゃんが壊れたら修理するからね!説明書もバッチリ読んだよ!」


「お願い」


 今回の作戦に辺り、多めに作ったブランの予備パーツもエリナさんに預けてある。


 余裕があれば自分が修理するが、いざとなったら彼女に直してもらう手はずだ。


 ……もっとも、大半の予備パーツは装備も含めて白蓮用の流用だが。


 今の青い手足ではなく、白銀の鎧と共にアイテムボックスで眠っている。


 弔い合戦ではないつもりだが……妙に感傷的になってしまう思考を振り払って、剣を握り直した。


「では、行きましょう」


「おー!」


「はいっ」


 自分を先頭に、斜め後ろにブラン。エリナさん、ミーアさん、『右近・左近』が続く。


 いつもの隊列で、しかしいつもとは異なるダンジョン。


 白亜迷宮の最奥を目指し、足を踏み出した。






読んでいただきありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。励みになっております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。




Q.前話、なんでそんな希少な魔道具を大統領が持ってんだよ。

A.借金のかたに持っていかれた物です。

1.自衛隊、激戦の果て(主に不死川さんの漢気マッピングとトラップ解除)で激レア魔道具ゲット。

2.研究の為移送。なお、アイラさんが前に言った通り『基本的に海外に流れる』模様。理由:借金。

3.米国「うちが一番出しているんだから、うちが最優先だよね?大丈夫、調べ終わったと判断したら返すから」

という流れです。

作中日本、マジでインフラやら何やらが海外の助けなしだとヤバいぐらいダンジョン被害でボロボロなので。下手に国民の生活水準落とすと余計経済が低迷するし、覚醒者の海外への引っ越しも増えるから表向きは頑張って取り繕わないといけないので余計に借金が……。

その後。

マッド

「これ使ったら凄く凄い兵士作れる気がする!」

CIA長官及びその他大臣たち

「何言ってんの?」

大統領と彼が起用した者達

「採用」

CIA長官及びその他大臣たち

「何言ってんの?」キリキリキリキリ

ジョージ

「ファーwwwwww」


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― 新着の感想 ―
残念2号! エッチなシーンはなぁ! ロボに乗る時じゃない! 魔法少女に変身するときだ! つまり、アイラさんを魔法少女に変身させればいいんだ!
日本は返してくれなかった分費用と迷惑料をこの後はアメリカに請求できますね!!www 大統領が死ぬか負けたらですが サナさんまさかの巨大化……アイラさんにて胸部装甲は大きく育ったのですねぇなんだか残念…
アイラさんの並列思考を起点に魔導具扱いしサナさんがファンネル操作もできそうな気がするな アイラさん“頭だけは”高スペックだからサナさんが居たら化け物になりそうよね 多脚型より阿修羅型の人形が好きかな…
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