第百七十一話 逃げたって良い。それでも
第百七十一話 逃げたって良い。それでも
10月の下旬に入った事もあって、夜はもう肌寒い。
すっかり暗くなった町を、久々に乗った自転車で進む。こんな時間に外出するのは、ダンジョン関連以外だと初めてかもしれない。
もっとも、両親は止めるどころか全力で背中を押してきたが。それはもう浮かれた様子で。自分とアイラさんは、そんな関係ではないと言うのに。
指定された場所は、人気のない公園であった。
小学生ぐらいの頃に学校の行事か何かで来た事はあったが、その時には色んな遊具や、周囲を囲う木々があったと思う。
だが、今は随分閑散としていた。残っているのは鉄棒が3つに砂場が1つ。そして、ベンチと自販機が1つずつだけ。周囲を囲っていた木も、数メートル間隔でぽつぽつと生えているだけだ。安全面を考えれば仕方のない事だが、なんとも寂しい景色である。
記憶とは随分と違う光景に少し戸惑いながら、木々の代わりに増えた駐車スペースの隅っこに自転車を置く。
そこには、車が1台停まっていた。見覚えのある車種だと思い視線を向けたが、それより先に聞きなれた声が聞こえてくる。
「京ちゃん君」
「ああ、アイラさ───」
答えようとして、しかし言葉が止まってしまった。
月と、公園に設置された街灯に照らされた彼女。白に近い銀髪を軽く右耳にかけながら、こちらへ穏やかな笑みを向けている。
自販機を眺めていた所に、自転車の音が聞こえたのか。アイラさんは腰を捻り振り返った姿勢で手に持った缶を軽く掲げる。
「意外と早かったじゃないか。そんなに私と会いたかったのかい?」
青い縦のセーターに、白いロングスカート。風景も相まって、普段の彼女とは比べ物にならないぐらい……なんというか、大人っぽかった。
思わず呆然としていると、アイラさんは不思議そうな顔でこちらに近づいてくる。
「どうしたのだね。そんなぼうっとして。まさかとは思うが、具合が悪いのか?」
「あ、いえ……大丈夫です」
「ふむ。やはり、こんな時間に呼び出したのはまずかったか」
「問題ありません。本当に大丈夫ですから」
「そうか……。では、これはお詫びだ。飲んでくれ」
「あ、はい。どうも……」
眼前までやって来て、こちらを見上げてくるアイラさん。
そんな彼女に未だ心臓は鼓動を速めたままで、視線を逸らしながら缶を受け取る。
気分を紛らわそうと、すぐにプルタブを開けて中身を口に含み。
「む゛っ!?」
あっっま!?
口の中に入ってきた温かくドロリとした物に、むせそうになる。
そんな自分を、アイラさんがケラケラと笑った。
「お汁粉だ。温まるぞ」
「いやどういうチョイス!?普通こういうのって缶コーヒーとかじゃないんですか!?」
「あの自販機に紅茶は午●ティーしかなかったのでな。しかも冷たいやつ」
「そうでしたね、貴女の家ゴリゴリの紅茶党でしたね!」
「まあお汁粉を選んだのはそのリアクション目当てだがな!」
「確信犯かよクソが!」
「あらまぁ。お口が汚いです事よ京ちゃん君」
「そういう貴女は口調がアホですよ残念様……!」
「AHO!?」
だがまあ、おかげでいつもの感じに戻ってこられた。それに、何だかんだ味は良い。
チビチビとお汁粉を飲みながら、眼前の残念女子大生を見下ろす。
「で、何の用ですか。こんな時間に」
「……そうだな。歩きながらでも良いかね」
「別に良いですけど」
普段の彼女なら、蓋の開いた飲み物を持った相手をあまり歩かせない。
なんだかんだ育ちの良い人なので、立食が普通の場でもないと立ったままは飲み食いしないのだ。アイラさんやエリナさんは。ついでにミーアさんも。
そもそも、こうして2人きりになろうと言ってくる事自体珍しい。
何から何まで普段とは違うアイラさんに、内心で疑問符を浮かべながらも3歩斜め後ろを歩く。
「……どうだね、最近」
「なんですか、その会話の内容に困った父親みたいな」
「アイアムユアファーザー」
「ノー。……そうですね」
棒読みでどこぞの暗黒面ごっこをした後、お汁粉を少し飲む。
「まあ、何だかんだ充実していますよ。たぶん」
「ほう、どんな風に?」
「エリナさん達とちょくちょく遊ぶし、冒険者業のおかげで貯金も随分たまりました。変な噂が出回ったり、無駄に注目を集める事も増えましたけど」
体育祭や『東京事変』で、無駄に目立ち過ぎた。今まで散々避けていた有名税というやつが、遂に追い付いてしまったらしい。
ある事ない事噂されるし、やたら視線が向けられる。しかも悪意だけならまだマシ……いや、それも嫌だが。変に期待や尊敬、あるいは崇拝じみた視線まであるのだからたまったものではない。
自分は、力以外はごく普通の高校生である。シンプルにストレスだ。
しかし、それを差し引いても仲間達と過ごす時間は楽しかった。ゆえに、プラマイで言ったら一応プラスだろう。
「噂、か。良い噂も悪い噂もあるが、ネット上だと比較的前者の方が多いね。日本の未来を守って~……という書き込みを度々見かけるよ」
「勘弁願いたいですね。僕ら、別に正義の味方でもないんですけど」
「そうだな」
子供の頃は大きく感じた公園も、今はそれほど広くもない、普通の公園にしか思えない。
のんびり歩いているのに、もう半分を過ぎている。
「アイラさんの方はどうなんですか?」
「そうだな。まあ、ぼちぼちと言った所だよ」
「へぇ」
「最近は、大学でも日常会話ぐらいなら出来る様になった。まだ友人と呼べる者はいないが、研究室で普通に過ごすだけなら苦ではなくなってきたよ」
「それはまた……成長しましたね」
「生意気な。私は年上だぞ?この溢れるインテリジェンスがわからぬかね?」
「こぼれて地面べちゃべちゃにしていませんか、インテリジェンスで」
「どういう表現だ」
くく、と笑い。アイラさんが立ち止まってこちらに振り返る。
「あのベンチな。実は、あそこで昔偶然知り合った女子小学生とカードゲームをした事があるんだ」
「ああ、エリナさんから聞きました。大人げない戦い方をした結果、リアルファイトになって泣かされたとか」
「ふっ。まあ、人には歴史があるものだよ」
「黒歴史っすね」
ちびちびと、お汁粉を飲む。
これまで敬遠してきたが、ちょっとクセになりそうな甘さだ。常飲は、流石にあかんと思う味だけど。
「私の情けない話を、君は色々と知っているな」
「情けないという自覚はあったんですね……」
「私自身が、もっとも無価値と思うものが私という存在だったからな」
さらり、と。彼女はそう告げる。
「客観的に見れば、私は運動全般と対人能力以外は高スペックだ。本能的にも、自己愛はある。だが、主観……精神が、私という存在を否定する」
「……前に聞いた話ですね」
「ああ。君が無遠慮に、緊急事態だからと乙女の内側に踏み込んだな」
ミノタウロスの迷宮に事故で入ってしまった時、この人の自己認識を知ってしまった。
それまで薄々察していたものが、確信に変わったのはあの時である。
有栖川アイラは、己を天才と自称するこの女性は、過去の体験から自分自身を『生きている価値がない』と判断していた。
死にたい理由に負けないほど、生きていたい理由がある。だから、生きているだけ。死んでも良い理由が出来てしまったら、あっさりと消えてしまいそうな人。
だが。
「僕はあの時、貴女に『生きていてほしい』と言ったはずです」
「ああ。覚えているよ」
彼女が己をどう思っていようが、こちらの考えは変わらない。
今更この人のいない人生は、なんというか……寂しいと思う。
「随分と自分勝手で、そのうえ月並みのくっさい台詞だったからな。よぉく覚えているとも」
「棘が多いですねえ」
「これぐらい、甘んじて受け入れたまえ」
軽く肩をすくめる彼女に、こちらも苦笑を浮かべる。
そして、また歩き始めた。ゆっくりと、公園をまわる。
「さて。話を戻すが、そこら中で君達は話題だよ。流石に例の3人組ほどではないがね」
「3人組……ああ、あの人達ですか」
「うむ。彼女らはダンジョン庁が直々に広報として押し出しているからな。メディアへの露出が違う。直接のインタビューは、ほぼないがね」
「たぶん、まともにカメラの前で喋らせたらヤベェ人達だと思いますよ」
「なんだ、彼女らも変態か?」
「いや……たぶん価値観が現代日本に合っていない感じかと」
ただの勘だが、あの3人組は纏っている空気が違う。
ひたすらに自分自身を律しているのに、猫の様に好奇心が抑えきれない。内側にある感情を、爆発させたくてしかたがないと思っている。
他の候補者達が『己の内面を解放した者達』なら、彼女らはその逆。浮かべている笑顔も、数少ないメディアへのコメントも、きっと嘘ではない。
ただ、強く内側へ押し込んでいる欲望がある。それがうっかり漏れ出てしまうから、あまりテレビには出られないのだ。
もっとも、隠すべき内心があるのは普通の事だし、そもそもこれらは自分の勝手な想像に過ぎないが。
「ふーん……君、人の心が読めるのかい?」
「いいえ。ただ、無意識に出ている魔力で何となく」
「だろうね。君が他人の心を全て読めるわけがない。この唐変木め」
「え、なんで今僕ディスられたんですか?」
本当に唐突過ぎる。
アレか?いやらしい目で見られた女性の心を考えろと?やべぇ、バレてないからセーフと思っていたが、やっぱアウトだったか。
たらり、と。冷や汗が頬を伝う。
「すみません。とりあえず土下座を……」
「そこでそういう事を言うから、君はダメなのだ」
「アイラさんにダメって言われた……!?」
「はっはっは。ぶち殺すぞ。社会的に」
「誠に申し訳ございません」
「許す。ついでに私の事をスケベな目で見る事もな。美しさの代償として受け入れよう」
「ありがとうございます……!」
裁判は回避できたらしい。腰を90度曲げたまま、心の底から安堵する。
それはそうと、『見る事も』という事は今後もOKという事なのだろうか?いや、口に出して確認すると言い逃れできない程セクハラなので、直接は聞かないけれども。
やれやれとばかりに、アイラさんがため息を吐く。自分も顔をあげ、その後に続いた。
「……もう1周してしまったか」
公園の入り口に戻ってきて、彼女は足を止めた。
そして、再びこちらに振り返る。
「いい加減、本題に移るとしよう」
「やっとですか」
若干呆れながら、アイラさんを真っすぐ見つめる。
相変わらず、無駄に顔が良い。そんな美貌で真剣な目をするものだから、まるで物語のヒロインみたいだ。残念女子大生のくせに。
「なあ、京ちゃん君」
「はい」
「逃げないか?どこか遠くに」
桜色の唇が、淡々と言葉をつむぐ。
「既に、地脈が崩壊した場合の逃げ場所として相応しい場所はピックアップ済みだ。私と君の能力があれば、どこでもやっていける。エリナ君達だって、引きずって飛行機なり船なり乗せる事が可能だ。ババ様だって、きっとついて来てくれる」
機械の様に感情のこもらない……いいや。籠めない様にしている声。
けれど、焦りを隠しきれないのか彼女の言葉は速度を増していく。
「エリナ君の転移もミーアの魔法も君なら妨害可能だ。力比べになっても、2人同時に押さえられる。体術で圧倒されようと、動きを封じるだけならどうにかなるはずだ。自力で日本に戻ってこられない距離まで行けば、少なくともエリナ君は諦める」
「アイラさん」
「誰も彼も、勝手に君達へ希望を押し付け過ぎだ。まだ10代の若者達だぞ。戦国時代じゃないんだ。命を懸ける年齢じゃない。そもそも、日本の未来など知った事か。自分が生きる為に国へ属するだけで、国の為に死ぬなどナンセンスだよ。別の共同体が選り取り見取りならなおさらだ」
「アイラさん」
「安心してくれ。私は自他共に認める天才だ。普段が残念なのは認めよう。だが、今回ばかりはその全能力を活かすとも。どこへだろうと逃げられるし、逃げた先での生活も安泰だ。君のご家族や、愛花君達だって一緒に行ける。合計で30人までならどうにかしてみせる。だから」
こちらの声も聞こえていない様子で、そうまくしたてて。
「だから……逃げてくれ」
彼女の瞳から、一筋の雫が流れ落ちた。
「君は私に、死んでほしくないと言った。その言葉、そっくりそのまま返してやろう。エリナ君にも、ミーアにも、ババ様にも。私は、死んでほしくない」
ぽすり、と。
アイラさんがこちらの胸に飛び込んでくる。長い銀髪を揺らし、額を自分に押し付けて。
くぐもった涙声で、言葉を続けた。
「勝てるかもわからない戦いから逃げても、良いんだ。そんな責任なんてない。だから……」
「……本音を言えば、僕だって逃げたいです」
「ならっ」
「それでも」
少しだけ、迷ってから。
彼女の頭に、右手をのせる。
「戦うと、決めました」
「……それが、君の『答え』だったな」
「ええ。まだ、変わっていません。後でこの選択に後悔するかもしれないけど……少なくとも今は、逃げない」
『白蓮』の仇。
過去の自分を超える為。
あの人の、隣にいたいから。
その他諸々。『これは』というたった1つの理由はないけれど、色んな事情で、自分はもう決めたのだ。
「だから、ごめんなさい」
「……謝るな。まるで、私が告白して振られたみたいじゃないか」
「ははっ。そうですね。貴女に告白されたら……いいえ。何でもありません」
きっと、アイラさんに告白されたら……自分は驚いた後、頷くだろう。
その後はまあ、有頂天になるのが目に見えていた。
この見た目以外が色々と残念な女性の事を、何だかんだ言って酷く気に入っているのだから。
「ここで愛の告白でもして、キスをしたら一緒に逃げてくれるのかい?エリナ君達も連れて」
「さあ。でも、そういうのは少し嫌いです」
「だろうな……」
顔は見えないけど、きっとお互いに笑っている。
「だが……そうか。君の答えを、尊重しないわけにはいかないな。他でもない、私が背中を押したのだから」
「言っておきますけど、責任とか考えなくて良いですよ?」
「おや、私がそんな物を感じる女とでも?」
「思いますよ。貴女はちゃらんぽらんですが、優しい人ですから」
「……ばかめ」
「僕がバカなら貴女は残念オブ残念だ」
数秒ほどして、アイラさんが数歩分離れる。
そして彼女は取り出したハンカチで顔を拭いた後。
「まったく、君は仕方のないやつだ!」
いつもの様に、腹の立つ笑みを浮かべてこちらを見てきた。
「自分が物語の主人公や、神話の英雄にでもなったつもりなのかね?あー、痛い痛い!誰か絆創膏を持ってきてくれ!彼の頭がすっぽり入るサイズだ!」
「うっせぇぞボケカス」
「KASU!?ボケって段階で酷いのにカス!?この今世紀最高の美女に、なんという口の利き方かね!?」
再びチビチビとお汁粉を飲み始めたら、すぐに尽きてしまった。
はて、重さからしてまだ少し中身があるはずだが……あ、底の方に小豆がたまってる。
「まったく、仕方のない奴だよ君は!だが仕方がない。バカなのだから仕方がない!」
「すみません、缶の底に小豆が残っちゃったんですけど」
「今ぁ!?それは汁が少なくなったタイミングで揺らしながら飲むんだよ君ぃ!」
「マジか……」
地味にショックだ。どうにかリカバリーする手段はないものか。
「でぇい!聞け!というか何で私がツッコミに回っている!京ちゃん君の役割だろう、こういうのは!」
「休みって、大事だと思うんです」
「人がシリアス全開で話している時にキラーパスはやめてくれまいか!?」
だって、こっちとしては既に結論を出している事を蒸し返されただけだし。
しかも『答え』を出す様に導いてきた張本人だからな、アイラさん。今更感が半端ない。
ジトッとした目を向けていると、彼女がわざとらしく咳払いしてくる。
「おっほん!とにかくだね!……君が、君達が戦うというのなら、私も全力でサポートしてやろう。地面に額をゴリゴリしながら、感謝してくれたまえ」
「地面には嫌ですが、感謝はしますよ。本当に。なんなら普段からありがとうございますと、思っています」
「う、うむ。まあ普段の探索はこちらも依頼した側なので、お互い様だが」
胸の下で腕を組み、若干目を右往左往させるアイラさん。
あまりお胸様を強調しないでほしい。『精霊眼』の真価を発揮してしまう。
「まったく……こう言うべきかな?」
アイラさんは少し考えた後、右手を差し出してくる。
「今後とも、お互い死ぬ時までよろしく。京ちゃん君」
「ええ。よろしくお願いします。アイラさん」
そうして、互いに真面目くさった顔で固い握手をして。
なんだか気恥ずかしくなって、2人揃って笑い合う。
「まるで告白だな、これだと」
「全くですね。照れくさい」
すぐに指から力を抜いたが、彼女の指が手に引っかかる。
まるで名残惜しいとでも言う様に、白魚の様な指がゆっくりと離れていった。
「……帰ろうか」
「そうですね。送って……いや。そう言えば」
視線を駐車場に停まっている車へと向ける。
「もしかしてですけど、教授がいますか?」
「ああ。この時間に公園へ行くと言ったら、運転手兼護衛に名乗り出てくれた」
「なるほど。ただ、なんであんなに魔力を潜めているんでしょ……その割に、何か感知したら速攻で殴りかかるみたいな空気ですし」
たぶんアレ、固有スキルまで使って体内を循環する魔力を隠しているぞ。精霊眼でも、そこにいるとわかった上で視ないと気づけない程だ。
「さて。君がケダモノになって、私を襲わないか見張っているのではないかな?」
「はっ、ナイスジョーク」
「京ちゃん君。君が私のパイスー姿を熱心に撮影し、その写真を後生大事に持っている事を忘れていないからな?」
「自分の理性はオリハルコンです!サー!」
「卿と呼ぶな、サーと。まったく、ババ様の実家的にそういう呼び方は面倒だからやめてくれたまえよ」
「ああ、なんかすみません。それはそうと、ちょっと小豆についてお知恵を貸していただきたいのですが」
「この話の流れでかね!?ええい、仕方のない奴だな。君の力なら、もう缶を素手で開いた方が早いだろうに!」
「あー……でも手がベタベタしそうなんで」
そんなバカな話をしながら、駐車スペースへと歩いていく。
いつもの様に、笑い合って。
「……ありがとうございました」
「は?この程度のアイデアで感謝されると、逆にイラっとくるのだが?」
「そっちじゃないんだよなー……」
逃げても良いと言ってくれて、嬉しかった。
だからこそ、覚悟が決まる。
「絶対に、生き延びます。だから、貴女も死なないでくださいね?」
車の後部座席近くで立ち止まり、彼女はこちらを振り返って。
「当たり前だ。この私を誰だと思っている」
月の光を反射して煌めく髪をなびかせて、自身の胸に手をあてながら、アイラさんは自信満々に笑ってみせた。
───悔しいが……本当に綺麗な人である。
見ているこっちが、思わず笑顔になってしまうぐらいに。
読んでいただきありがとうございます。
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