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【書籍化決定】コミュ障高校生、ダンジョンに行く【本編完結済み】  作者: たろっぺ
最終章 コミュ障たち、現代ダンジョンに行く
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閑話 砕けぬ鎧

閑話 砕けぬ鎧




サイド なし



 埼玉県、某所。『トゥロホース』の本部跡地から、少し離れた場所。


 彼らのプライベートダンジョンが発見された為、元々山間で人がほとんどいなかった土地はほぼ無人となっている。


 そんな場所にダンジョンの監視と管理を名目に作られた自衛隊基地。その地下。


 コンクリート打ち放しの広い空間で、1体のゴーレムが歩いている。


 いや、正確には1人と1体と言うべきか。


「田島機、安定して歩行しています」


「バイタル正常。装着者に異常は見られません」


「関節の可動域は想定通りです」


 白衣姿の研究員と迷彩服の自衛隊員、そして魔女狩りでもしていそうな黒ずくめ。


 様々な格好の者が、パソコンや専用の計器を前に真剣な様子で作業を行っている。


 彼ら彼女らの視線を一身に受けるゴーレムは、特殊な形状をしていた。


 その姿を端的に表すのなら、『手足の生えたドラム缶』というのが最も適切だろう。


 頭部と胴体の間に首はなく、1体になった鉄の筒。腰から下は出ているが、そこも分厚い鉄のパンツを履いた様な状態で、ほとんど胴体との境目が見えない。


 ドラム缶の様な胴体から出ている人間の腕は宇宙服の様な特殊繊維で覆われ、その外側を沿う様に伸びる鋼の腕と固定されている。


 人間の腕は鋼の前腕についているグリップを握っており、鉄の五指は更にその先で装着者の指に合わせて動いていた。


 足もほとんど似た様な状態であり、違いはグリップではなくペダルである事ぐらいだろう。


 後ろから見れば、ドラム缶型の胴体に人の胴体程もある箱が取り付けられており、それと鋼の手足が金属の骨の様な物で繋がっていた。


 全体の大きさは高さ約2メートル、幅約1メートル20センチ。機体重量は背部の改良型マギバッテリーを含め90キロ。


 そんなずんぐりとした、言葉を選ばなければ不格好なゴーレムだ。人によっては、ただの不細工な着ぐるみに見えるかもしれない。


 しかし胴体についた小さな窓から覗く装着者の顔は真剣そのものであり、彼の歩行を見守る者達の目は希望に溢れていた。


「これより運動テストを行います。田島二尉、小走りでの移動をお願いします」


『了解』


 スピーカー越しに答え、田島という自衛官が先ほどよりも速いペースで歩きだした。


 歩幅の分普通の人間よりは速いが、それでも鍛え抜かれた彼の肉体なら生身の方が素早いだろう。


 そう思える速度で移動し、彼は予め指定されていた場所を目指す。


 待っていたのは、各種トレーニング器具。ダンベルに、バーベル。サンドバッグに縄跳び等々。床にも幾つかテープが貼られていた。


「それでは、ダンベルからお願いします」


『はい!』


 意気揚々と答えた田島二尉が、次々とトレーニング器具を使っていく。


 彼が身に纏うゴーレムは、人間とは比べ物にならない膂力を発揮した。バーベルは600キロを軽々持ち上げ、サンドバッグは数発で破壊してしまう。


 半面、俊敏性には非常に難があった。縄跳びは1回も成功せず、反復横跳びでは転倒しかけてしまう。


 その様子に一喜一憂する自衛隊員や黒ずくめの男達。ある程度のデータが取れた所で、無線機を持った自衛官が田島に呼び掛ける。


「田島二尉、お疲れ様です。次は射撃実験室に移動してください」


『了解!』


 疲労を感じさせない声だが、田島二尉の頬には幾筋もの汗が流れている。


 彼はゴーレムを動かして、広い空間の角。そこにある、コンクリートの箱めいた部屋に入っていった。


 そこでは防弾ガラス越しに計器やカメラが設置され、自衛隊員や黒ずくめの男達がスタンバイしている。


 そして彼らの反対側。防弾ガラスの向こう側では、各種銃器の置かれた台と、25メートル離れた位置にある的があった。


 田島二尉が台の傍に立ち、窓越しに銃を見下ろす。


「では、射撃実験を開始します。右端の拳銃から使ってください」


『了解!』


 彼は言われた通り、拳銃を手に取ろうとする。


 だが、鋼の指は拳銃のグリップを掴もうとして弾いてしまった。指の太さや長さは手袋をつけた成人男性と同程度ゆえ、大きさの問題ではない。


 再度チャレンジして今度は掴む事に成功し、若干もたつきながらもマガジンを装填。スライドを引いて弾丸を薬室に。


 普段より前腕と膝から下が長いせいでやや不格好になりながら、田島二尉は拳銃を構えた。


『撃ちます!』


 そう告げた後、彼が引き金を引く。


 発砲音。弾丸は正確に的の中心に命中した。


 続けて放った弾丸も中心付近に着弾する。これには撃った本人も、計測していた者達も感嘆の息を吐いた。


 単に彼の腕が良いのもあるが、それ以上にゴーレムの体は非常に安定している。銃の反動などものともせず、姿勢が乱れる事もない。


 ワンマガジンを撃ちきり、傍に置いてあった次のマガジンを装填。先ほどより、コンマ数秒程度だが素早い。


 そうして用意された弾丸を使った後、彼は次々と銃を持ち換えていく。


 自動小銃。軽機関銃。そして重機関銃。


 流石に重機関銃は反動もあり命中精度は低下したが、立位での発砲は可能であると証明された。


 この結果に、防弾ガラス越しに眺めていた隊員や黒ずくめの男達のテンションが否が応でも上昇する。


「凄いな……これなら、今度の屋外実験でも300メートル先の的に安定して当てられるんじゃないか?」


「重機関銃以外はそうだな。まあ、ダンジョン内の戦闘なら25メートルあれば十分。それより、弾帯での装填に手間取る事こそ注目したい」


「あとは近接戦についてですな!機敏な動きは難しいので、そこを留意して……」


 会話に夢中な白衣組や黒ずくめ組に苦笑しながら、自衛隊員がマイクで田島に呼びかける。


「試験終了です。田島二尉、お疲れ様でした。指定の場所へ移動し、ゴーレムスーツを脱いでください」


『了解。ありがとうございました』


 マガジンを外し薬室に弾薬が入っていない事を確認した後、田島二尉は銃を台に戻して防弾ガラス越しに一礼。その後、部屋を出て誘導員に従い反対側の角へ向かい機体をベンチの上に座らせた。


 自衛隊員達がドライバーやレンチで固定具を外していき、1分ほどでボディスーツ姿の田島二尉が解放される。


 彼は汗こそ掻いているがそれほど疲れた様子はなく、他の隊員からタオルと飲み物を受け取り白衣の研究者達と話し始めた。


 ドラム缶の様な胴体が前後に開かれたゴーレムには、黒ずくめの男達……『錬金同好会』が集まり点検を行っている。


 その光景を、丸井陸将と赤坂部長が見ていた。


「順調なようですね」


「ああ。問題は多いが、以前までと比べれば圧倒的に性能が上がっている。特に操作性の向上が凄まじい」


 そう答え眼鏡の位置を直す丸井陸将の顔には、隠し切れない笑みが浮かんでいた。


 全体的に四角い顔の彼が、珍しく口元に弧を描いている。


「装着者の健康に今の所問題はない。鍛えられた肉体と、身長166センチ以上、173センチ以内という制限こそあるが、以前の様に骨や関節を1回の装着で壊す事はなくなった」


「当然だ、と言わせてもらおう」


 そこに、黒ずくめの男が加わる。


 首から下げた名札には『会長』とだけ書かれており、写真部分も頭巾を被ったままで本人証明の意味を成していない。


 これはどちらかと言うと、他の同好会メンバーと区別する為の措置であった。


「流石ですね、『錬金同好会』は。ここまで飛躍的に技術の針が進むとは」


「我々の努力の結果……も、勿論あるが、『例の本』の影響も大きい」


 にこやかな笑みを浮かべる赤坂部長に、会長は頭巾の下で瞳をぎらつかせる。


「アレは、恐らく膨大な資料のごく一部を、錬金術師が選んでまとめた物だろう?分かり易い、とても良い資料だ。それがなければ、この短時間でここまでの躍進はなかっただろう」


 彼らが見た資料。矢川京太の『魔装』の本から抜粋した物は、ハッキリ言って同好会すれば目新しい知識ではない。


 だが、納得を得るには十分であった。


 スキル持ちである彼らが行う錬金術は、感覚で『2』という答えを出すのに対し、あの資料では『1+1=2』と書いてある。そういうものだ。


 数式無しで計算()()()()()()()()()所に、数式が提示された。これにより、『応用』が出来る様になったのである。


「そうですか。『教授』に借りを作るのは怖いですが、その甲斐はあった様ですね」


「そうだな。しかし……あの資料をもっと、限定された範囲ではなく全て……いや、もう20ページも読む事ができたら。ゴーレムの更なる改善が期待できる。いいや、してみせる」


 同好会会長、本田警視長は度し難い変態でなおかつ自己中心的な男である。


 しかし、その本性を隠して警察組織の中でのし上がってきた男でもあった。それ故、本来交渉事にはとても強い。何より頭の回る男である。性癖が爆発した時以外は。


 その彼が、今は自分自身を抑えきれていなかった。


「教授に、プロフェッサーにつないでくれ。いいや、私か副会長が会いに行く権利をくれ。そうすれば、必ずや……!」


「それはできません。彼女の、『インビジブルニンジャーズ』の持つ知識は膨大です。ですが、借りを作り過ぎれば今後の」


「貴様は何もわかっていない!」


 赤坂部長の胸ぐらを掴み、会長が吠える。



「あの知識があれば、念願のホムンクルス嫁が作れるはずなんだ!!」



 そう、会長は性癖が爆発していた。現在進行形で。


 ざわり、と。他の同好会メンバーが反応する。それを横目に、赤坂部長は表情を崩さずに続けた。


「はっはっは。今は自衛隊用のゴーレムに集中してください、会長」


「何を言う!我らの理想のホムンクルス嫁は戦闘だって出来るんだぞ!」


「そうです!俺のママは、いいやマムは凄く強くて賢くて、でも俺にだけは甘々なんです!」


「ほら、うちの小島君もこう言ってる!」


 丸井陸将が『小島って誰だ』と思ったが、スルーする事にした。


 同好会のメンバーは頭巾を被っている者と被っていないものでわかれており、小島(29歳独身)は前者である。普通に見分けがつかなかった。


「そして見た目は小学生ぐらいで、でも口調はのじゃロリ!老成した雰囲気で、着物とキセルが似合うマムなんです!」


「よぅし、小島君もう良いぞ!戻れ!」


「俺のツルペタ合法ロリマムは最強なんだ!」


「誰かそいつを黙らせろ!同好会の品位に関わる!外では言わない様にって言ったでしょ!」


「マーム!!」


 小島、もとい変態が他の変態に連行される中、赤坂部長は冷静に会話を続ける。


 なお、丸井陸将も最近は彼らにすっかり慣れてしまっていた。この耐性が今後の人生で活かされるかは不明である。


「なるほど。それを戦力として提供してもらえれば、確かに心強いですね」


「だろう!?さあ、だからすぐに教授へアポイントメントを」


「ところで」


 ニッコリと、赤坂部長は笑顔で続ける。



「その理想のホムンクルスとやらは、制作にどれぐらいかかるので?」



 そっと、会長達が一斉に彼から目を逸らす。


 同好会メンバーを見る研究員達と自衛隊員達の目は、冷たかった。一部同志を見る様な目の者もいたが。


「す、数年後?ぐらい?」


「その頃には日本が滅んでいます、会長。今はこっちに集中してください」


「同時並行でやるから!絶対ちゃんとやるから!だからね!?お願い!!」


 丸井陸将は『まるで小学生が夏休みの宿題を放置して遊びに行きたいと言っているようだ』と思った。


 全国の小学生に申し訳ないと思い、彼は内心でごめん、と謝罪した。


「なんだね!私の駄々を見たいと言うのかね!よかろう!50代男性が寝転がって駄々をこねる様を存分に眺めるが良い!」


「会長」


「ふん!何を言おうと無意味だ!もう止められん!プロフェッサー以外にはなぁ!」


「ちょっと娘の声が聞きたくなってきたので、電話して良いですか?」


「さあ、諸君!仕事に戻ろう!日本の未来は我々にかかっている!」


 会長は思い出した。あの崖で見た、およそ正常な人間が出してはいけない殺気を。


 そしてその隣にいた、笑顔なのに目が笑っていなかった蛮族達を。


「……相変わらずだな、彼は。というか『錬金同好会』は」


 丸井陸将が、ベンチに座っている姿勢のゴーレムに視線を向ける。


 赤坂部長も頷きながら、そちらに顔を向けた。


「ええ。ですが、腕と情熱は確かです」


「その情熱は、中々度し難い方向に向いているが」


「別に構わないでしょう。この場にいる全員が、我欲の為に働いている」


 渋い顔の丸井陸将に、赤坂部長は笑顔のままだった。


「国への忠誠であったり、亡くなった方々への罪悪感だったり、金銭であったり、名誉であったり。そして性欲であったり。ですが、それは普通の事だ。欲があって、人がある」


「性悪説かね」


「どうでしょう。私は人の根本に善も悪もないし、ましてや欲においては上下すらないと思っています。ただ、同じ方向を向けている間はそれで良い。少なくとも、私はそう考えています」


「……道理だな」


 丸井陸将の顔に、不敵な笑みが浮かぶ。


「人道を極力守った上で……どんな事をしても、国を守る。それが私の仕事だ」


「ええ。共に頑張りましょう」


 2人はそうして笑い合い、いつか対立するかもしれない未来を先送りにする。


 立場上、言葉の矛を交える事もあるだろうが……今は、その時ではない。


 護国の為、彼らは笑顔を浮かべ続ける。


「そう言えば」


「なんだね」


 赤坂部長が、何か思い出した様に丸井陸将の方を向く。


「あの装着型ゴーレムですが、名前はあるのですか?」


「ああ、それか。勿論だとも。ないと不便であるし、隊員達の士気にも関わる事だからな」


 丸井陸将が、四角い眼鏡の下で目を細め、次の実験の為また田島二尉が装着する姿を眺める。


 あのゴーレムの頭頂部には『ホムンクルスもどき』が核として搭載されており、彼はその腹の中にいる状態で手足の稼働を『指示』している。


 こうした実験を重ねていけば、量産化や改良の目途がたつ上に、ゴーレムの学習にもつながるはずだ。


「砕けぬ鎧。不滅の盾。そういう願いを込めて、我々はあの機体をこう呼んでいる」


 ボルトが締められ、固定が完了。ゴーレムを纏った戦士が、立ち上がる。



「『金剛』。それが、あのゴーレムの名だ」






読んでいただきありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。励みになっております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。



今作における『金剛』の大雑把なスペック

筋力:30

耐久:40

敏捷:10

魔力:──

※10を平均的な成人男性、20が非覚醒の限界。


IFルートだと同好会はこれの強化版と平行してホムンクルス嫁の制作をしていた模様。


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ドラム缶、、、バケツ、、、おっぱい、、、触手、、、筋肉、、、豊満、、、ゥッアタマガ、ガ、ガ、
 知識が揃えば人類を自分の性癖に沈める男。小島(29歳独身)。  果たして、本編ルートにおいて彼は悲願に達することが叶うのだろうか?  しかし、鍵となる禁断の知識はプロフェッサー事、有栖川エヴァ教授…
同好会にとっては道の途中なれどもこれは真なる叡智の結晶。 >半面、俊敏性には非常に難があった。 この辺りのスムーズさは通常のゴーレムの方に軍配があがるか。 創作でもそれを補うためにスラスターだったり…
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