最終章 プロローグ
最終章 プロローグ
10月もあと少しで中旬に入る頃。スマホでソシャゲの周回をしながら、放課後にリビングでぼんやりとテレビを見る。
『やはりですね。冒険者達をまたダンジョンに行かせるのは時期尚早だったんですよ。また、ダンジョンの外から別の強力なモンスターが出現するかもでしょう?』
『異世界の生態系が分からない以上、突然危険な毒虫や病気が入ってくるかもなわけですよ!私がアマゾンの奥にロケで行った時はですね』
『そもそも、自衛隊の異世界派遣は侵略行為としか思えない。これは憲法違反ですよ。歴史に侵略者として名前を残したいんですか?答えてくださいよ総理!』
『中国の反乱は未だ沈静化せず、混乱は広まるばかりです。現在は3つの軍閥に分かれている状態であり、それぞれが正統性を主張し』
『ご覧ください。こちらが1カ月ダンジョンに行った後の、彼の体力測定結果です。これまであまり運動してこなかった人でも、この短期間で『覚醒の日』前の世界記録を簡単に塗り替えてしまう。覚醒者の軍事利用がどれほど危険な事か、それは火を見るより』
『覚醒者は非覚醒者の奴隷じゃない!今こそ『トゥロホース』の!矢車代表の意思を継ぎ真の自由を!』
『地方での行方不明件数が、『覚醒の日』前と比べて3倍にもなっています。これは政府の対応が遅れている事の証明でしょう。異世界派遣の前に、対処すべき問題があると言わざるを得ませんね』
『覚醒者の平和的な雇用を!冒険者なんて危険な職業じゃない、インフラの整備という健全な職の斡旋こそ今の世の中には必要な』
『ホワイトガンズは君の入隊を待っている!覚醒者の皆、私達と一緒に世界へと羽ばたいてみないか!?今ならこの番号に電話をしてくれるだけで、本物の銃を撃てる体験ツアーに案内しよう!さあ!正義の民間軍事会社、ホワイトガンズに入隊だ!』
等々。自分はよく知らないが有名らしい評論家さんや、アイドル、政治家さん達が何やら色々言っている。宣伝で海外の民間軍事会社が出てきた時は、驚いたが。
もはや、こうしてスーツを着た人達が、それも国会議事堂にいる議員さんが『ダンジョン』とか『モンスター』と言っても、誰も違和感を抱かなくなっている。
『覚醒の日』から2年と半年。そして、自分にとっては半年の冒険者生活。
もはや、非日常が日常へとなりかけていた。
「あっ」
なんて考えていたら、ソシャゲの方でタップミスをしていた。
……まあ、これも日常である。
* * *
ダンジョンが当たり前にある世界。
そして、冒険者も職業として普通にある。だがその中で自分は、自分達は少しだけ特殊な立ち位置と言えるかもしれない。
ストアの更衣室にて、手早く着替えを済ませる。ツナギを着て、登山用のブーツと鉄板入りヘルメット。そして自衛隊から支給された防弾ベストを装着する。
『魔装』を展開するとは言え、気絶して解除してしまった時の備えは必要だ。
防弾ベストを軽く叩いてチェックを済ませ、最後にイヤリングを確認した後に更衣室を出る。それからすぐ、似た様な格好の仲間達も女子更衣室から出て来た。
「お待たせー、京ちゃん!」
「いや、僕も今きたところなので」
『おいおい、まるでデートみたいだな』
イヤリングから、アイラさんの揶揄う様な声が聞こえてくる。
「はいはい。そうですね」
『むぅ。反応がつまらんぞ京ちゃん君』
「で、デートってそんな……つまり帰りは……!?」
『うちの妹ぐらい面白いリアクションをしてくれたまえよぉ』
「本当に、ミーアさんみたいなのが2人に増えてほしいんですか?」
『はっはっは。さあ、真面目に。一切のおふざけなくダンジョンに挑むとしようじゃないか……!』
「はいはいはい」
適当に返事をしながら、ふと妙に静かなエリナさんの方に視線を向ける。
いつもの様に天真爛漫な笑顔で、何やら彼女は硬直していた。
「エリナさん?」
「うん!そうだね、ダンジョン探索とはすなわち、忍者修行。真剣にだね!」
「違うが?」
「!?」
どうやら問題なさそうだ。いや、普段からアレなだけとも言うけど。
「じゃあ……行きましょうか」
「うん!」
「はい……!」
深呼吸を1回。仲間達と共に、受付へ向かう。
防弾ベストにつけてあるケースから冒険者免許とダンジョン庁の許可証を提示し、ゲート室へ。
「ご武運を」
「はい。ありがとうございます」
敬礼で見送ってくれる自衛官さんに会釈し、扉をしめる。
室内中央にある白い扉の前で立ち止まり、『魔装』を展開。
口元の開いたサーリット。首には鉄板のついたチョーカーの様な簡易首鎧に、胴を覆う厚い胸甲。
両肘から先を覆う鋼の籠手に、膝から下を守る脛当て。ブーツの爪先で軽く床を突いて、履き心地を確認する。
籠手の革部分で覆われた手で、剣帯にLEDランタンと巾着袋を装着。裏に鎖帷子を縫い込んだ腰布ごと、軽く締めなおした。
最後に、腰の左右にあるナイフと片手半剣をチェック。鞘から僅かに抜き、刀身を検める。
視線をエリナさんの方に向ければ、忍者みたいな格好の彼女がアイテムボックスから『ブラン』の入ったバッグと武器ケース、そして木製の箱に入った腕輪とマントを出してくれた。
それに礼を言った後、手早くブランを組み立てる。1分ほどで鎧と武器を装備させ、手と目視で軽く確認。続いて、自分も『魔装』の上から腕輪とマントを装着した。
準備が完了し、小さく頷いた後にミーアさんの方を見る。向こうも、『右近・左近』を起動し終えた様だ。
ブランのマギバッテリーはダンジョン内で装着する。イヤリング越しにアイラさんへと声をかけた。
「準備が終わりました。これよりダンジョンへ入ります」
『うむ。……今回挑むのも、前回同様『Aランク』だ。レベルと装備の分余裕はあるかもしれないが、それでも一切の油断は許されない』
「はい」
3人揃って、彼女の言葉に頷く。
自分達が、他の冒険者達と異なる点。それは、世界で30人といない『Aランク冒険者』……正確には、その候補に入っている事。
本来、一般人が入る事が決して許されない危険地帯。そこに、警察でも自衛隊でもない身で、現代兵器の1つも持たずに挑むという事だ。
まあ、ダンジョン庁の赤坂部長曰く『多少の持ち込みは全力で見逃す』と言われているが。正直、今更銃器を渡されても使い方がわからん。
このランクでは、素人が機関銃を撃っても味方の邪魔にしかならないだろう。
ゆえに、これで良い。この装備が、最良だ。
肩にかけたマントに軽く触れた後、再び深呼吸。思考を戦闘時のそれへと切り替える。
「では、いきます」
『ああ。いってらっしゃい。全員、気をつけてな』
「了解」
「うっす!」
「はい」
仲間達が自分の肩に手を置き、ゴーレム達もそれぞれ接触。全員がどこかしかが触れている状態で、先頭に立つこの身が前へと歩き出す。
当然、その足は眼前の白い門の先へ。
足場が消え失せた様な感覚。しかし、浮遊感はない。違和感を覚えるそれも、すぐに終わる。ブーツ越しに硬い床を踏みしめた。
薄茶色の石がブロック状に積み上げられた壁と、同じ物が敷き詰められた床と天井。
幅は10メートル前後。高さは12メートルだと、聞いている。
壁に備え付けられた燭台が、自分達が入った瞬間一斉に火を灯した。薄ぼんやりと照らされた通路の中、腰にさげたランタンが一際強い光を放っている。
まるで、ファンタジー作品に出てくる迷宮の様な光景。だが、これは現実なのだ。
乾いた空気が肌を撫で、燭台の火がゆらゆらと揺らめき自分達の影を乱す。
鞘から抜いた剣が、光を反射して鈍く輝いた。
さあ、今日も───『冒険』をしよう。
読んでいただきありがとうございます。
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※お知らせ
今章で最終章となりますが、最終話後もちょくちょく外伝的なものが出ると思います。
もう暫く、皆さまお付き合いのほどよろしくお願いいたします。