第八章 エピローグ 上
第八章 エピローグ 上
ケルベロスの討伐。
『Aランクボスモンスター』に、数あるダンジョンの中でも最高位の強敵を自分達は打倒したのである。
最後の打ち合いにて自分が持っていた木彫りの牛とランタンは失ってしまったが、必要経費だ。
むしろ、あの戦いの中でも傷つきこそすれ機能に問題を生じさせなかった『フリューゲル』と『炎馬の腕輪』こそ、異常と言える。それだけ、職人の腕が良い証拠だ。
ゴーレム達はそれぞれ中破から大破という損傷こそあったものの、全員が無事に帰還。エリナさんとミーアさんに至っては、多少の打撲や火傷こそあったものの、覚醒者なら自然治癒で翌日には回復する程度。
文句なしの、大勝利。ドロップ品や経験値、何よりメンタル面を考えると、非常に実りある『冒険』であった。
そんな激闘を超えた、翌日。
「あ゛ー……」
自分はベッドで横になり、溶けていた。
肉体的、魔力的には一切問題ない。だが、精神的にとても疲れた。何回、あの戦いで死にかけたのか思い出したくない。
これが『Aランク』。正直言うと2度と行きたくないが、そうも言っていられないのが現実である。だからこそ、余計にぐったりしているわけだが。
ついでに、ダンジョンから出て来た直後にストアの自衛隊員さん達にもみくちゃにされたのも疲れた。
いや、わかるよ?彼らは純粋に自分達を心配してくれており、その生還に喜んでくれている事は。
それに、エリナさん達女性陣にあんまり近づくのはコンプライアンス的にまずい事も。だから、自分に殺到した事も納得はしている。
だが、ガチムチのおっさん達に囲まれるのは普通に恐怖なんよ……!
頭の撫でられ過ぎで首が折れるかもって、そう思ったのはあの日が初めてだ。最後の方は胴上げで天井スレスレまで打ち上げられたし、ちょっとした恐怖体験である。
え?お前いつも戦闘中飛び回っているだろうって?自分で飛ぶのと、複数人に飛ばされるのは別なんすよ……。
感極まったのか、半裸になって泣いているマッチョなおっさん。逞しい大胸筋にこちらの頭を埋めて背中をバンバン叩くあんちゃん。歳を重ねてなお分厚い腕で肩を組んでくる初老のおっさん。
……喜んでくれるのは嬉しいが、それはそれとして胸焼けする。
承認欲求が満たされる一方、自分の中で大切な何かがガリガリと削れた気がした。
そうしてベッドでぐったりとしていると、スマホに着信がある。
枕元に置いていたそれを、ノロノロと手にとった。どうやら、アイラさんから電話らしい。
「はい……もしもし……」
『グッモーニン京ちゃん君!いや、もうすぐ昼か!』
テンションたけぇ。
『しかしなんだね、そのゾンビみたいな声は。死んだか?』
「ゾンビになったら、真っ先にあんたの頭に噛み付いてやる……!」
『おっかないな。私の様なセクシー美女はどこかしかで死ぬのがホラー映画の鉄板。くっ、美人薄命か!』
「いや。貴女面白枠だからたぶん最後の方まで生き残った後、うっかりミスとかで死ぬかと」
『なんだとぅ』
美人だしスタイルも抜群だが、映画だったら間違いなく3枚目ポジだろう。
まあ、こんなんでもドスケベ一族なので、本気で演技したら並のセクシー女優では太刀打ちできないだろうが。
「で、なんですか。今はゲームとかに付き合う体力ないんですけど」
『む?もしや、本気で不調か?私の鑑定でわかる様なものだと良いのだが……』
「ああ、いえ。単に疲れただけです。気にしないでください」
本当に心配しだしたアイラさんに、ベッドから上体を起こして答える。
『そうかね。ま、無理はしないようにな』
「うっす。それで、ご用件は?」
『祝勝会をと思ってね!またうちに集まって、楽しく騒ごうじゃないか!』
「あー……いや。マジで疲れたので、ちょっと」
『そうか……残念だな。エリナ君達にコスプレでもさせようと思ったのだが』
「いきます」
すっくと立ちあがった。疲れ?『賢者の心核』によってそんなものは消し去った。
そう、あくまで固有スキル。固有スキルの影響である。
煩悩パワーではない。信じて!
『期待通りのリアクションだな。では、早速今日やるぞ今日!』
「はい!」
『夕方辺りエリナ君が迎えに行くから、楽しみにしていたまえ!』
「はい!一生ついていきます、アイラさん!」
『はーっはっはっは!勿論だとも、京ちゃん君!今後もしっかりと私の背中にはりついてこい!』
「よっ!孤高の天才!1人でも単位落とさない超人!プロ級ゲーマー!」
『ふふん!ねえ、最後以外褒めてなくない?』
* * *
と、言うわけでやってまいりました桃源郷。
いつもの様に着ぐるみ装備で防御は完璧。アイラさんに頼み、有栖川邸の倉庫に置いてもらって良かった。
……何故か内側が妙に湿っていたが、洗濯でもしてくれたのだろうか?
まあ、それはさておき。
「無事、『Aランク』攻略を祝ってぇ!かんぱーい!!」
「かんぱーい!」
アイラさんの自棄くそ気味な音頭で、それぞれがコップを掲げる。
なんで彼女がそんな状態かと言うと。
「すまんな。アタシらまで呼んでもらって」
「私達は直接関わっていないんですけどねー」
雫さんと愛花さんがいるからだろう。
現在は着ぐるみ装備の自分に隠れ、チビチビと麦茶を飲んでいる。お願いだから呪文みたいに『これはビールこれはビールこれはビール』と唱えないでほしい。怖い。
「そんな事ないよ!2人のおかげでかなり助かったもんね!京ちゃん!」
「うっす。ありがとうございました」
全面的に同意である。マントと腕輪無しでは、手足の1つか2つ食い千切られていた。
その状態で自分が戦闘続行できるかは不明なので、彼女らの助力は勝敗に大きく影響している。
「おう。感謝は受け取るが……」
「視線が露骨ですねー、京太君」
「うん!元気そうで何より!」
「な、何の事やら……」
彼女らの言葉に、全力で目を逸らす。
だが、また視線が引き寄せられるのを堪えきれなかった。
ありがとう、アイラさん……!ありがとう……!
まず雫さん。彼女はシンプルにバニー衣装である。女性にしてはややガッシリした肩回りと、小柄な体格のアンバランスさが妙な色気を放っていた。
だが何より、今にもこぼれてしまいそうなロケットお胸様のインパクトが強い。というか、これ上から覗き込んだらワンチャン頂きが見えるのでは?そんな度胸はないけれども。
更にハイレグの角度もえぐい。がっつり足の付け根が見えており、あと少しずれたら見えてはならないものが見えそうだ。肉感的な太腿と網タイツ生地のニーハイソックスの組み合わせも良い。
次に愛花さん。こちらはチャイナ服である。本場の正式なやつではない。叡智なお店でしか着ない様な方だ。
普段ストレートに伸ばしている長い黒髪を2つのお団子にし、白いうなじを露出させている。
そういう『静かな色香』とは別に、首から下は派手にエッチ……もとい叡智であった。
薄くピッタリとした黒い生地が、彼女の華奢な体にフィットしている。肩や背中は大きく露出しているし、スリットも深い。あげく、スカート丈もかなり攻めている。
そしてこの『精霊眼』は見逃さなかったのだが、彼女が一瞬振り返った時、背中が開きすぎてちょっとお尻も見えていた……!
滑らかで小ぶりなお尻の谷間にもドキリとしたが、それ以上にハンケツが拝めたという事は……もしやかなりローライズな下着を履いているのでは?自分の灰色の脳細胞がそう名推理をしてみせた。
そして、エリナさん。ドスケベ一族の一角である。
八百万の神々に謝罪すべきではと思う、スケベ巫女であった。
なんだ、その肩だし脇だし横乳もろ出しな着物は。というか着物か?ありがとうございます。
彼女の細い肩から腕にかけてのラインも美しいし、手入れされているのか、はたまた天然か。染み1つない脇は好きな人はたぶん五体投地する滑らかさである。
だが、個人的にはちょっとズレたらお胸様がポロリする着物にこそ視線が吸い寄せられるのを堪えきれない。まさか、オリハルコンの理性に罅が入るとは。流石ドスケベ一族。大変柔らかそうな曲線は、きっと引力をもっている。
下は下で尋常ではない。巫女さんらしく朱色の袴を履いているが、上の衣装が左右の布地を忘れ去ったせいで横から色々見えている。具体的には太腿とか足の付け根とか。
1番大事な箇所は流石に見えないが、同時に下着の紐も見えない。袴の腰紐で隠れているのか、あるいは……。
二の腕から先は着物の袖っぽいのをつけているが、間違いない。これはドスケベ巫女です。
学友3名すらこの破壊力だが、ドスケベ一族はまだこの場に3人もいるのだ。もってくれるか?我が理性よ……!
「姉さん……!やっぱりこの格好は恥ずかし過ぎるのですが……!」
「え、普段の言動より?」
「姉さん???」
白衣のスケベ天使。もとい残念女子大生その1。
天使のふりをした淫魔。もとい残念女子大生その2。
この桃源郷を作った張本人の露出は、他の面々と比べれば控えめだ。しかし、本人も感覚がマヒしてきたのだろう。十分すぎる程にスケベであった。
アイラさんの長い銀髪は後頭部で纏められ、ナースキャップも加わり白衣の天使めいた雰囲気だ。
その巨乳も、きちんと布地で隠されている。サイズが合っているのかいないのか、『ミチミチ♡』と擬音がつきそうな状態だが。
極めつけは、そのミニスカ具合。謝りなさい。全国の看護師さんに謝りなさい、この元祖残念女子大生。
網タイツである。雫さんの格好といい、この人は網タイツにハマったのだろうか?大変良い趣味だと思います。
真っ白な太腿と、その下に続く黒い網タイツのコントラストは素晴らしい。その上かなりのミニスカなので、ちょっと動いたら下着が見えてしまう。というか見えた。
黒のレースに紫のフリル……!大人だ……!
続いて、エルフから淫魔に種族を変えるべき人ことミーアさん。
白い襟に青いリボン。白いドレス風の衣装で、背中には白い羽まで背負っている。彼女の綺麗な金髪と美貌も相まって、そこだけ見れば天使の様だ。
まあ例のごとく例の様に、首から下は淫魔なのだが。
ドレス風の衣装は横乳がもろ出しな上に、中央部分も布地がない。水着だったら『クロスホルダービキニ』というのが近いだろうか?もっとも、それと比べても明らかに布地が少ないのだが。
深い谷間が丸見えであり、もはやその隙間は何か用途があるのではと、スケベ親父みたいな思考に陥りそうになる。
腰には無骨なベルトが巻かれているのだが、その下は前後の布地しかない。だから、なぜ左右の布地がことごとく無いのですか?
むっちりと柔らかい肉がのっているのに、滑らかな肌の長い足。美脚と言って差し支えないそれが、恥ずかしそうにもじもじと合わせられている。
長い耳も先端まで真っ赤にして、ミーアさんは胸元を隠そうと左手で覆っていた。だが、お胸様が御立派すぎて彼女の細腕ではカバーしきれない。というか、余計叡智である。
……うん。
「母さん……父さん……産んでくれて、ありがとう……!」
「感極まっているな、こいつ」
「面白いので写真を撮っておきましょう」
「私も写る!いぇーい!」
何やらフラッシュが焚かれた気がするが、気のせいだろう。こちらはそれぞれの艶姿を網膜に焼き付けるので忙しい。
もってくれよ、『精霊眼』……!ここが、この時この瞬間こそが、最も輝くべき異能なのだから……!
というか、土下座したら写真撮らせてくれないだろうか。なんか愛花さんがスマホ構えていたし。
「アイラ……多少羽目を外すのは許しますが、何故私までこの様な格好を……」
そう、呆れた様子でため息を吐くドスケベ一族……もとい。有栖川教授。
彼女はまさかの白い競泳水着である。黒いラインが入ったそれが、彼女のしなやかな肢体を彩っている。
お胸様こそお孫さん達の平均と比べ平均以下というか、何なら日本の平均と比べても小ぶりな部類だ。
しかし、たしかに『ある』。それがわかる膨らみと、綺麗にくびれた腰。そして腰からお尻にかけてのライン。もはや、一種の芸術めいている。
この人、エルフとは言え本当に孫がいるのか……。絶対に教授がいる大学は、性癖壊された学生でいっぱいだと思う。
「だってなババ様。この場で貴女だけ普通の格好とか、白けるだろう?」
「それは否定しませんが、だったら普通に自室でくつろいでいましたよ」
「まあまあ!久々に帰ってこられたのだし、スキンシップスキンシップ!だが……流石にその歳で水着はキッツwww」
「てい」
「ぶべらっ!?」
両手で指差して嗤っていた残念その1が、教授のチョップで轟沈する。
叡智な巫女さんな自称忍者が倒れ伏した彼女の傍で『倒れたぁ!立ち上がれない!ワン!ツー!』とかふざけているので、たぶん大丈夫だろう。
「そう言えばお婆様。『Bランク』に上がったというのは本当ですか?」
「ええ。最近は自衛隊との調整で時間がとれませんでしたが、またダンジョンに潜る予定です。近いうち『Aランク候補』に加わるかもしれません」
「ほ、本当ですか……!?流石です……」
「孫達が危険な事をしているのです。座して待つつもりはありません」
「相変わらず、エリナの親族って才能がヤバいよな」
「雫さん。貴女も世間一般からしたら同類ですよ?方向性が違うだけで」
「そうか?ま、アタシには出来ない事も多いし……その、頼むぞ。色々」
「ふふっ。ええ!なんたって親友ですから!貴女の苦手な部分は、私がフォローします!」
「ナイン!テン!ここで試合終了!パイセン、惜しくもここで敗退!」
「くっ……!来年、来年こそはリベンジを果たしてくれる……!」
「その意気だよパイセン!よし、今から忍者式トレーニングを始めよう!」
「え、やだ」
和やかに、騒がしく。お菓子をつまんだり、テレビゲームに興じながら、時間が過ぎていく。
正直、これからの事に不安はいっぱいだ。
白い竜には、まだまだ勝てる気がしない。ケルベロスを相手に、再び戦ったとしても楽勝とはいかないだろう。
世界の決断や、覚醒者の扱いについても懸念はある。山下さんは、国連で上手くやれたのだろうか。中国の革命や中東の騒ぎで、諸外国から覚醒者へ向けられる視線は、どんどん厳しくなっている。
だが、今は。今だけは。
不安も忘れ、ただ仲間達との愉快な時間を楽しむ事ができた。心の疲れが、癒えていく。
こんな日々が、これからも続けば良いのに……。いいや。
それを守るために、これからも戦うのだ。
「ねえ京ちゃん。さっきから京ちゃんの牛車が、コースアウトばっかりだけど。大丈夫?」
「言ってやるなエリナ君。京ちゃんの視線は忙しくて画面を見ている暇がないのだ」
「凄いですね。ケルベロスと戦っている時並みに、目が鋭く動いています」
こんな日々が、ずっと続けば良いのに……!!
読んでいただきありがとうございます。
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