表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミュ障高校生、ダンジョンに行く  作者: たろっぺ
第八章 迷宮に挑むという事は
222/225

第百五十六話 百鬼夜行さえ注目する

第百五十六話 百鬼夜行さえ注目する





 自作マギバッテリーの試験も済んで、暫く。


 まだ10月の上旬と言える頃の、土曜日。自分は再び東京へとやってきていた。


 東京駅ではトイレ以外ひたすらエリナさん達の背後をキープする事で、遭難する事を回避。我ながら成長を実感する。


 前回や前々回は、人の波に流されいつの間にかはぐれていたからな……。


 そんなこんなで、ホテルにチェックインした後霞ヶ関にある中央合同庁舎へ向かう。バスは人が多く乗れなかったので、タクシーにて移動した。


 しかし、相変わらず東京は人が多くて目が回りそうである。これでも『覚醒者の日』よりは少ないというのは、本当なのだろうか。


 だが意外なのは、『東京事変』後も人がそれほど減っていない事だろう。


 というのも、『東京ならいざと言う時強力な覚醒者達が戦ってくれる』という噂が広がっているのだとタクシーの運転手さんが言っていた。


 東京事変では当時の『Bランク候補』達が。そしてこの前山下さん達が交戦したという謎のモンスターは、彼らと『通りすがりの凄腕覚醒者』が対処している。


 実際にそんな幸運……いや、不幸中の幸いが何度も起きるとは思えないが。せっかく街が賑わっているのに、わざわざ否定する事もあるまい。


 適当な愛想笑いと相槌で濁している内に、合同庁舎に到着した。


 料金を現金で払い、助手席から外へ降りる。


「ありがとうござい……えっ」


 車から出る自分の背中にかけられた運転手さんの言葉が、不自然に止まった。


 どうしたのかと振り返ると、彼は目を見開いてこちらを見ている。


「この場所で、その背中……まさかあんた……!」


「送ってくれて、ありがとうございました」


 問いかけには答えず、営業スマイルを向けた後に気持ち大股で合同庁舎へ足を動かした。


 歩きながら、隣にきたエリナさん達に冷や汗を流しながら小声で尋ねる。


「僕の背中、そんな特徴的ですかね……」


「いえ。ですが、レベルアップのせいか妙な威厳が後ろ姿にあるのかもしれません」


『正面から見ると威厳も何もないのだがな!』


「忍者は背中で語る、だね……!」


「すみません、ボケるならちょっとツッコミを入れる間をください」


「私ボケてないよ!?」


『私も本音だが?』


「なお悪いわ」


 そんなアホな会話をしつつ、受け付けを済ませた後エレベーターに乗り込んだ。


 メールで指定されたフロアに到着し、降りてすぐの場所にあった案内板に従い進んでいく。前回と同じ部屋の様だ。


 両開きの扉を前にして、思わず遠い目をする。


「……他の『Bランク冒険者』達、更生していると思いますか?」


「無理でしょう……彼らはもう、戻れない所にいますから」


『ミーアも大概だがな』


「姉さん?」


 イヤリング越しに姉妹で騒ぎ始めたミーアさんを横目に、小さくため息を吐く。


 また、あの百鬼夜行を直視せねばならないのか。そう思うだけで気が滅入る。


 そして、前回の事を思い出して慌ててエリナさんの方に振り返った。


「どうしたの京ちゃん?私は準備万端だよ!」



 フルアーマー馬鹿が、そこにいた。



『私が新時代の忍頭』と書かれたタスキに、『インビジブルニンジャーズ・見参!』と書かれた旗。


 手には『里長選挙にて清き一票を』と書かれたビラの束が抱えられ、何故か自分とエリナさんの顔が印刷されている。何やら言った覚えのないキャッチコピーまで書いてあった。なんだ、『僕の風遁に抱かれて昇天しちまいな』って。地獄に落とすぞ。


 大正ロマン溢れる装いの金髪美少女が、ちんどん屋でもしない様な格好で目をキラキラとさせている。タスキや旗以外にも、ハチマキにゴム製手裏剣を吊るしていたり、忍者刀……恐らく竹光を腰に佩いていた。


「エリナさん」


「うん!私と京ちゃんの連立政権の為に、頑張ろうね!当選の暁には先輩とパイセン、シーちゃんアーちゃんを幹部と相談役に迎えて、一緒に里の運営をしていこう!」


「貴女の首を鷲掴みしたまま僕が家まで全力疾走するのと、今すぐそのアホみたいな格好をやめるの。どっちが良い?」


「いやん!京ちゃんのエッチ!こんな所で脱げだなんて破廉恥さんだよ!」


「…………」


「色々しまうからちょっと待ってね!」


 無言で指の関節を鳴らした事で、こちらの本気が伝わったらしい。


 タスキや旗、ビラや謎の装備一式をアイテムボックスにしまい、不審者から袴姿の美少女に戻ったエリナさん。


 彼女は唇を尖らせ、子供みたいに不満を露にする。


「ちぇー。京ちゃんのけちんぼー。勝手に台詞考えたのそんなに怒るなんてー」


「むしろそこ以外に怒る箇所がないと思っていらっしゃる???」


 かつて、『エリナさんは常識という鎖に縛られない』と評した事がある。


 別方向で縛られなさすぎだろ、この自称忍者。


「もう既に疲れたけど……いい加減、覚悟決めて入りましょうか」


「なんで説明会に参加するだけで、こんな心境にならないといけないんでしょうね」


「楽しみだね!!」


 ミーアさんと2人して遠い目をするが、相変わらず自称忍者は元気である。


 あれか。この人もあちら側の人間だからか?残念その2に関しては、比較的常識人であろうとしているから辛いのかもしれない。


 この場唯一の常識人としては、どうにかこちら側に留まってほしいものである。


「開けますよ……」


 一応2人に声をかけてから、扉を開く。


 小声で『失礼しまーす』と言いながら入室すれば、やはりというか。カオスとしか言えない空間が広がっていた。



 攻めと受けを交互にやっている、ドリルヘアーお嬢様と猫耳男装執事。


 何やら筋肉の比べ合いをしている、ビキニアーマーけつ毛おじさんとマッスルサンバ女性。


 部屋の隅で何やらロウソク攻めしている、男の娘コンビ。


 髪の毛をぶつけ合い、お互いに褒め称えているリーゼントとアフロとモヒカン。


 前回は見かけなかった、幼稚園児の様なスモック姿をしたダークエルフの美女。


 これまた初見となる、背中に蝶の様な翅を背負った上半身裸のドワーフ男性。



 ……やだ。もうおうちに帰りたい。


 眼前の百鬼夜行に、一昔前に流行った『しわしわピカチュ●』みたいな顔になる。


「おおっ、そこにいるのは『インビジブルニンジャーズ』か!」


「そうです!私達がインビジブルニンジャーズです!!」


 エリナさんが元気よく返事をした方向へと、嫌な予感を抱きながらも視線を向けた。


 視界一面に、肌色が映る。


 正確には、豊かな胸毛とたくましい胸筋。そして綺麗なシックスパックが迫っていた。


「久しいな!息災で何より!」


「うむ。若者は元気が一番だ」


 UMA、星条旗ブーメランオヤジ。妖怪、褌イッチョ爺が現れた。


 相変わらず暴力的な光景だ。悪い意味で。


「あ、どうも……東京事変の時は、避難する人達の護衛ありがとうございました」


「なぁに。我々はただ己の正義に従ったにすぎん」


「左様。力ある者の責務を、そして大人としての役割を果たしただけだ」


 本当に、言動は立派な人達なんだよ。あの時も思ったけど。


 その分見た目のインパクトというか、攻撃力が高すぎるだけで。


「ふっ。その時に私はいなかったからね。少し居心地が悪いよ」


「あ、貴女は」


 そこへ、白いタキシードにシルクハット、仮面で顔を覆った女性がやってくる。


 ……まさか、この見た目で『Bランク』の中ではまともな格好に分類されるとは。


「やあ、皆元気そうだね。どうだい?1つバトルでも」


「あ、いえ。もうすぐ説明会も始まるので……」


「そうか……残念だ」


 タキシードの前を開き、大量の遊●王デッキを見せてくる白仮面さん。


 顔は見えないが、こちらの返答に心の底から悲しんでいるのが伝わってくる。


 だけど何故だろう、これっぽっちも罪悪感がわかねぇや。うん、だってこれ僕変質者に絡まれている被害者だし。実際悪くないもんな。


 なんで入室から3分で変質者に絡まれてんの?


「君の様な有名人を沼に沈めれば、より多く布教できると思ったのだが……この後時間ない?」


「すみません、先約があるので……有名人?」


 この後エリナさんに色んなお店を連れまわされる予定なので、嘘ではない。


 しかし、有名人呼ばわりには引っかかった。


「そんな僕の背中って目立つんですか……?」


「別に背中限定ではないよ。そもそも、高位の覚醒者は生物としての『規格』が違う。ただ立っているだけで、人々の注目を集めるものさ」


「はぁ」


 つまりあれか。無意識に漏れ出ている魔力に、本能的に反応してしまうと。


 ……もっと、魔力制御を鍛えた方が良いかもしれない。


「その上、東京では君に関する商品も幾つか出ているからね」


「なんて?」


「インビジブルニンジャーズ饅頭。インビジブルニンジャーズ煎餅。矢島京子写真集。矢島京子戦記。矢島京子愛用の紅茶ショップ……」


「待って。いや本当に待って」


 咄嗟に第一容疑者である自称忍者に視線を向けるが、即座に首が横に振られた。


 この人がやるとしたら『良かれと思って』なので、嘘ではないのだろう。であれば、知らない人が勝手にやっているという事だ。


「そんなものを出した覚えはないのですが……というか、誰ですか『矢島京子』って」


「君の変身した姿ではないのか?なら、やはり噂の通り『インビジブルニンジャーズ幻の4人目』……?」


「存在しねぇよそんなもん」


 白仮面さんが、スマホの画面を見せてくる。


 そこには、よりにもよって文化祭で女装した自分の姿が映っていた。彼女の手袋に包まれた指が画面をスライドすると、体育祭のメイド姿も表示される。


 ……なるほど。


「エリナさん」


「お婆ちゃまに電話したよ!弁護士さんは任せて!」


「恩に着ます」


「いいって事よぉ!」


 商魂たくましいのは良い事だが、限度はある。


 堪忍袋の緒が切れちまったよ……。


「おお、怖い怖い。ま、これも有名税というやつだ」


「だから目立つのは嫌なんですよ……!」


「忍者だからね。ショックだよね」


「忍者ではない」


「!?」


 僕だって承認欲求はある。だが、有名人になって『商品』にはされたくない。自称批評家に好き勝手言われ、ネットで玩具にされるのはごめんだ。


 そんな会話をしていると、もうそろそろ説明会の開始時間だ。


 変態どもの対応を自分に丸投げして壁の花になっていたミーアさんに抗議の視線を送った後、手近なパイプ椅子に座る。


 しかし、白仮面さんの言う通り自分はわりと目立っているらしい。


 軽く室内を見回しただけで、結構な数……少なくとも、東京事変にいた面子とは目が合った。


「やはり里長選挙では、京ちゃんがメインになりそうだね……!」


 まあ、自分が目立っているというより、隣の自称忍者に注目が集まっている可能性もあるが。


 なんせ顔が良く、それでいてこの百鬼夜行でも埋もれない個性もちなので。ド級変質者の一員とも言う。


 だが、自分達よりも注目を集める存在が部屋に入ってきた。


 先頭を行く、小柄ながら出る所が出たスタイルの、長い黒髪をツーサイドアップにした少女。


 その左右を固める、エルフ耳に抜群のスタイルを誇る美少女に、灰色の髪をポニーテールにしたスレンダー美少女。


 タイプの違うその3人組にも、白仮面さんが話しかけに行く。そして、室内全ての視線が数秒、彼女らに集まった。自分も例外ではない。


 存在感と言うのなら、あの3人組が頭一つ抜けている。


 純粋な魔力量の話ではない。生来の『オーラ』と言うべきか。もしもこの世界が漫画だったら、彼女らこそがメインキャラなのだろう。


 彼女らの事を扱う番組を、何度か見かけた事があった。ネット上ではほとんど常にスレッドがたっている。それも、好意的な内容のものばかり。溢れ出るカリスマと強者の風格が、多くの人を虜にしているのだろう。


 時代が違っていたら、王様にでもなっていたのではないか。そう感じさせる少女達の入室に、この場に集った猛者達の意識が引き寄せられている間に。


 1人の男が、静かに別の扉から入って来る。


「皆さん、お待たせしました」


 艶のある黒髪を綺麗にセットし、高そうなスーツを違和感なく着こなす30代ぐらいの男性。


 舞台俳優でもしていそうな顔立ちに、人のよさそうな笑みを浮かべて部屋の上座に立っている。


 赤坂雄介。ダンジョン庁部長にして、この面々を集めた張本人。


 そして、あの3人組を見事に制御している『怖い人』であった。



「それでは───説明会を、始めさせていただきます」



『Aランク冒険者制度』の説明会が、始まる。






読んでいただきありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。励みになっております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


Q.矢島京子って名前に体育祭や文化祭の写真……やりやがったな、伊藤とその仲間達!

A.いいえ。彼らは許可なくそういう事をしないので、全くの無関係です。情報社会ですからね。SNSに上がった京子ちゃんの写真が、回りまわって……。

 なお、本筋とはマジで関係ないので矢島京子が今後話題に出るかは不明。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 いつの間にかアイドル売り(?)されとるよ京ちゃん君、しかもバリバリ無許可でww どっかの美容室は「京子ちゃんの行き付けです」って嘘こいて矢島美容室に改名してそう(笑) それでは…
京ちゃん君:伊藤くんが犯人かと思いきや、全くの別人が犯人だった!? 伊藤くん:訴訟も辞さない 京ちゃん君:でも写真集とか買ったんでしょ? 伊藤くん:観賞用、保存用、布教用と最低3部 伊藤くん:だが個人…
なんだその八神庵子みたいなアレやソレは、古いけど。 Bランク説明会いた人ほぼ全員そのままAにスライドで上がれるくらいのメンツなのかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ