第百五十五話 京太式ブートキャンプⅡ
第百五十五話 京太式ブートキャンプⅡ
「それでは山寺さん。失礼します」
「うむ。あんま山を壊さん様になぁ」
「はい。気を付けます」
週末、自分達は山寺さんのお寺まで来ていた。
と、いうのも。
「まさか、ゴーレムの試運転に場所を貸してほしいとは。ちっと予想外だったわい」
「す、すみません」
「いやなに。怒っておるわけじゃないんじゃ。言葉通り、驚いておるだけじゃよ」
『ブラン』の、正確には『自作マギバッテリー』を装着した状態の確認である。
市の訓練場では間違いなく建物がもたないし、以前クルーザーで行った有栖川家の無人島は遠い。
壁や床を粉砕する心配がなく、人気がない場所。その条件に当てはまるのは、彼の持っている修行場ぐらいであった。
「あ、そうそう。くれぐれも、前に君達が調査してくれた山には近づかない様にな。今は警察が封鎖しておるし、自衛隊がゲート周辺でストア建設中じゃ。ま、ストアの前に道を作らんと、という段階らしいがの」
「はい。気を付けます」
この山寺さん、山を複数持っているらしい。今回借りるのはそれらの谷間にある平地で、普段は人が立ち入る事はないとか。
それでいてそろそろ覚醒修行に使う予定らしく、雑草などはきちんと刈ってあるという。まさに、模擬戦に持ってこいの場所だ。
「しかし、良いんですか?ただで場所を貸してもらって」
「構わん構わん。地面は使った後に魔法でならしてくれると言うし、何より高位の覚醒者が戦った場合修行場にどういった影響が出るか興味がある……!」
山寺さんが目を爛々とさせるが、こちらは苦笑をせざるを得ない。
ドラゴンが命がけの死闘をしたとかならともかく、流石に模擬戦でそこまでの影響は出ないだろう。それで土地の魔力に影響が出るのなら、世の中もっと覚醒者が増えているはずだ。
彼もそれはわかっているだろうが、いわゆる『本当にそうか確かめる』のも学者さんにとっては大事……というやつだろう。
「じゃが、撮影どころか見学もダメなのは悲しいのう」
「申し訳ありません。その場合、安全を保障できないので……」
「ぬぅ。無念じゃ……」
半分本当だが、もう半分はマギバッテリーの事を知られたくないからだ。『心核』の秘密が露見するリスクは、少しでも下げたい。
土地をお借りするのに事情を全て説明しないのは、心が痛むけど。
「そうじゃ!代わりと言ってはなんじゃが、後日ちぃっと儂が出かける時についてきてくれんか?ほれ、儂ってもう歳じゃし。しかも最近は物騒じゃろう?」
「えっと、どちらに行く予定なんですか?」
「婆さんの墓参りにのう……この足腰では中々行く事ができんから、若者に手を貸してほしいのじゃ……」
「それは……はい。わかり───」
「山寺さん」
するり、と。
紫の地に金の模様が描かれた着物を纏い、長い金髪を後ろで緩く1つに結んだエリナさんが笑顔で話に入ってくる。
「先日奥様とお電話しましたが、すこぶるお元気でしたよ。少なくとも、『中々墓参りに行けない』……などと。冗談にしても縁起が悪いではないですか」
こ、この生臭坊主……!?
目を見開いて山寺さんを見ると、スキンヘッドに汗を浮かべて目を逸らした。わかりやすっ!?
「そ、そうじゃったかのう?儂も歳じゃから、ちぃっとボケてきてしまったかもしれん」
「まあ!それは大変です。ここは奥様とじっくりとお話をし、夫婦の時間を楽しみましょう。そうすれば、奥様が亡くなったかもしれないと勘違いする事もないでしょうから」
「そ、そうじゃのう。そうしとこうかのう。後でな?うむ。後で」
「ええ。それがよろしいかと」
じりじりと後退する山寺さんに、エリナさんは一切笑みを崩さない。
「くっ……儂も本当にボケたかもしれん。ここは古い友人とかで濁すべきじゃったか……!」
聞こえてんぞ生臭坊主。覚醒者の聴力なめんな。
はたして、自分はどこに連れていかれるはずだったのか。非常に興味深い。
山寺さん……どうしてベストを尽くさなかったんですか!?
「京太君」
「は⤴ぁい!」
我ながら上ずった声で、エリナさんに返事をする。
わぁ。お嬢様モードのこの人に、びっくりするほど慣れる気がしなぁい。
「あまり長居しては迷惑ですし、そろそろ行きましょうか」
「うっす!」
「それでは山寺さん。場所をお借りいたします。この御恩は、後日覚醒修行のお手伝い等で返させていただきます」
「うむ。まあ、本当に気にせんでいいよ?だからほら、さっきの事は内密に……」
「ええ。勿論ですとも」
楚々とした態度で一礼し、満面の笑みで顔をあげたエリナさん。
何故だろう。見惚れてしまうぐらい綺麗な笑顔なのに、背筋に冷たい汗が流れて止まらない。
エリナさんに続き、会釈してからその場を離れ少し離れた場所で待つアイラさんの車に戻る。
「どうしたのだね、2人とも。何やらただならぬ空気だったか」
「はい。特にエリナさんから、怒っている時のお婆様に似た気配を感じたのですが……」
頬に汗を浮かべながら、アイラさんとミーアさんが後部座席にいる自分達に振り返る。
それに対し、エリナさんはいつも通りの雰囲気に戻って答えた。
「ううん、なんでもないよ!ただ山寺さんが、奥さんと仲良しだなって話をしていただけ!」
「……ああ、うん。仲良しだな。あの夫婦は」
「お2人とも武術を嗜んでいて、よく拳を交わしていると聞きますが……」
場合によっては、今夜は彼がサンドバッグにされるかもしれません。
そう答えようか迷ったが、自分に山寺さんを救う手段はないので、口を真一文字に閉じておいた。
安らかに眠れ、生臭坊主。お墓参りには、行けたら行くので。
「しかし、それであの様な気配になる理由が」
「やめろ、ミーア。私はもうこの話につっこまんと決めた」
「え?」
流石アイラさん。大した危機察知能力だ。
普段から教授のお説教を受けているだけはある。
「さあ!あんまり遅くなると日が暮れちゃうよ!しゅっぱーつ!」
「お、おー……」
「さらば山寺氏。成仏してくれ」
「あの、結局なにが……?」
そうして。4人中2人が遠い目をしながら、車は発進した。
* * *
彼に渡された地図通りに行くと、そこは川沿いの開けた場所だった。
薄茶色の地面が広がり、端の方に行くと段々と黒くなっていく。その先は苔と砂利で彩られた河原。更にその先には穏やかな小川があった。
川の反対岸は急な崖がそそり立っており、その上に生えた木々もあって夏場はきっと良い日陰となるだろう。
川釣りでもすれば、さぞや穏やかな1日が過ごせるに違いない。最も、水辺であまり気を抜くのはよろしくないが。
なにより、今日は遊びに来たわけでもない。
「エリナさん」
「うん!よっと」
彼女がアイテムボックスから、ブランの入ったバッグと武器ケースを取り出してくれる。
礼を言ってそれを受け取り、手早く組み立てた。鎧を着せ、長剣とタワーシールドを持たせる。
続いて、ヤカン頭をメモ書きした錬成陣と共に地面へ置いた。
カンペ片手に錬成しながら、『心核』の魔力を流し込む。かつて、『白蓮』の専用ボディを作る前に何度もやっていた作業。しかし、形作られる即席の体は『質』が違う。
あの頃よりも整然とした、それでいて今にも溢れ出しそうな魔力の流れ。作り出された2メートルほどの巨体は、人型を保ちつつも、人外の威圧感を放っていた。
指先は河原の砂鉄を使い鋭く尖り、ヤカン頭の接続部に作った口にも同じ様に牙が錬成されている。
「ブラン。これから、合図をしたらこのゴーレムと戦ってもらう。魔力の消費は考えず、思いっきり戦え」
こちらの言葉にただ静かに佇む白銀の騎士にそう伝え、視線をヤカン頭の方に向ける。
「『白壁』も、僕の合図に合わせてあの鎧のゴーレムと戦うんだ。良いな」
今日の為に即席で作ったこちらのゴーレムも、当然反応はない。
それに若干の寂しさを覚えつつ、魔力をたっぷりと与えてから離れた。
岩の壁が腰当たりまでせり上がっている場所に向かい、ミーアさんとエリナさんに合流する。なお、アイラさんは更に離れた所にある車の中だ。
「皆さん、今日はありがとうございます」
『うむ。心の底から感謝したまえ。そして称えろ。この私を』
「気にしないでください。私達の仲なんですから!」
「そう!私達は同じ里の忍なんだからね!!」
「それはない」
「!?」
驚愕の表情で固まるエリナさんを放置し、視線を向かい合う2体のゴーレムに向ける。
身長はほぼ同じだが、僅かに白壁の方が大きい。横幅や厚みの方は、圧倒的であった。
はたして、このウェイト差がどこまで影響するか……。
「地面に魔力を流して硬化しています。そう簡単には壊れませんよ」
「ありがとうございます。では……始め!」
自分の声に従い、2体のゴーレムは弾かれた様に動き出した。
即席ボディとは言え、『心核』の力を使った白壁の基礎スペックは『Dランクモンスター』……ともすれば、そのランクのボスに匹敵する。
並の冒険者なら圧倒できるスペックだが……。
───ドオォォォン……!
勝負は、一瞬だった。
ブランが左手で盾を構えながら、右手1本で放った大ぶりな斬撃。それが飛びかかった白壁の肩に直撃し、そのまま袈裟懸けに振り抜いたのである。
まるで砲弾でもくらったかの様に石の体は弾け飛び、地面の表面が抉れて土煙が上がった。
「そこまで!」
転がったヤカン頭に追撃を仕掛けようとするブランを制止し、土壁を越えて近づく。
即席ボディは、ものの見事に粉砕されていた。原形すら残っていない。
白壁の本体を拾い上げれば、ヤカンの表面に幾つかへこみや傷がついている。しかし、肝心の『ホムンクルスもどき』の方は無事な様だ。
「よし。よくやった、ブラン。白壁。魔力の方は……問題なさそうだな」
ブランの周りをぐるりと1周し、魔力の流れを確認し頷いた。
自作のマギバッテリーはきちんと機能してくれている。1撃だったとは言え、風を全開で放出しながら突っ込んだのにまだまだ戦えそうだ。
「じゃあ、次だな」
そして、近くに来てくれたエリナさんからもう2つヤカン頭を受け取る。
「白壁2、白壁3。基本はさっきまでと同じだ。合図をしたら、この鎧のゴーレムと戦え。ブラン、お前もだ」
錬金術で白壁の表面を直し、もう1度即席ボディを生成。更に、白壁2と白壁3の体も作り出す。
それら3体を、ブランを囲う様に配置。
「ブラン、頭は狙うなよ」
エリナさんと土壁の後ろに戻り、深呼吸を1回。
「では……始めっ!」
先ほどと同じ様に、一瞬で白壁の体が袈裟懸けに切り捨てられた。
しかし、その後は違う。左右の斜め後ろから同時に飛びかかる白壁2と白壁3に対し、ブランが反転。
剣と盾でそれぞれの爪を受け止めた。
武器の分リーチはブランが勝り、そのうえ片手であっても2体を上回る膂力を誇る。質量差も風の放出で補って、強引に白壁達を押し戻した。
だが白壁2と3もそれで怯む事なく、再び突撃。左右に弾かれた時に、剣と盾の差で距離に違いがあったのだろう。奇しくも、今度は時間差攻撃の様な形になった。
盾側の個体が爪を振り上げ飛びかかる。トン単位で表記すべき体重とは思えぬ跳躍を見せ、重力をのせた引っ掻きを放った。
それに対しブランは盾を掲げて防御。腹に響く重い音と共に受け止め、それどころかまたも石の巨体を弾き飛ばす。
続いて両手を広げてタックルを仕掛ける白壁2。鉄の牙をぎらつかせ、鎧に覆われた脇腹に襲い掛かった。
だが、ブランの方が速く、早い。瞬時に長剣が振り下ろされ、石の右腕を切り落とす。
衝撃でぐらついた白壁2の体に逆袈裟の斬撃が直撃し、胴体が粉々に砕け散った。破片がバラバラと地面に転がり、ヤカン頭がバウンドする。
間髪入れずに、白壁3がブランの背後に回り込んだ。巨体に見合わぬ機敏さで足を動かし、右腕の爪を振り上げる。
奇襲が決まったかに思えたが、やはりスペック差が出た。鉄の爪が振り下ろされた段階で動き出した白銀の剣が、先に石の腕を叩き割ったのである。
バランスを崩した白壁3の胸に、大振りの刺突が放たれた。躱す間もなく切っ先が貫通し、衝撃で胴体に大穴が開く。
バラバラと崩れた石の体と、ガランと転がるヤカン頭。
「そこまで。全員、お疲れ様」
今度は3人で石壁を避けてブラン達の元へ行き、白壁達を回収。
ヤカン部分を直した後、軽く労ってからエリナさんのアイテムボックスに戻した。
「さて……マギバッテリーは、大丈夫そうですね」
「ええ。問題なく機能している様に思えます」
「流石だね、京ちゃん!」
「いえいえ……」
ブランの背後に回り、取り付けられている黒い直方体を眺める。
戦闘の衝撃で接続が緩んだという事もない。きちんと稼働している様で、魔力をガンガン使っているブランが機能停止する様子はなかった。
ただ……。
「さっきのを戦闘と呼ぶのは、ちょっと難しいけどね!」
『魔装』姿のエリナさんが、お胸様の下で腕を組み元気よくそう言った。
ブランの基礎スペックは白蓮と同等。それこそ、『Cランクモンスター』がダースで来ても魔力切れさえなければ相手にならない。
かといって、即席ボディで自分が作り出せるゴーレムは白壁達のアレが限界である。かと言って模擬戦用のボディまで作ったら、財布と材料がもたない。あと時間。
錬金術があるとは言え、1人でブランのボディをメンテし、予備パーツも組んでいるので……。
「やっぱり、ダンジョンで試すのが手っ取り早いと思うな!私が連れて行こうか?」
「……いや。やっぱり、まだ同格やそれに近い相手と本番は早い」
「そう?」
先ほどの戦闘を見て思った。
ブランは、白蓮に比べて圧倒的に『弱い』。
マギバッテリーがブランにだけついた状態で戦ったとしても、間違いなく白蓮が勝つ。そう、確信があった。
思い出補正ではない。それでゴーレムの優劣を判断する程、目は曇っていないつもりだ。
「やっぱり、僕が模擬戦の相手になろう。エリナさん、ミーアさん。危なくなったら、止めてください」
「ほーい!」
「……お気をつけて」
「はい」
『魔装』を展開し、拳を構える。
剣は抜かない。それをやったら、ブランを大破させてしまう。
「ブラン。これから僕と戦え。遠慮は不要だ。全力で来い。合図はあちらのエリナさん……金髪の髪を2つに結っている人がする」
深呼吸を挟んで、静かに目の前の騎士を見据えた。
ギラリ、と。日の光に照らされた長剣が輝く。
「……でも首から上は狙わないでね!?あと、お互い地面に転がったらその段階で戦闘中止!追撃はなし!絶対に禁止!」
「へたれたね!」
「安全第一!!」
「安全第一なら、そもそも真剣で模擬戦をしない方が良いのでは……」
ミーアさんが若干呆れた様子で言うが、これでないとそもそも訓練にならないのだから仕方ない。
僕だって真剣と拳で戦いたくないやい……!
「では、尋常に!」
エリナさんが右手をあげ、凛とした声を響かせる。
「始めっ!」
その手が振り下ろされると同時に、突撃。
ブランがタワーシールドを構え、剣を振りかぶる。だが、遅い。
風の加速を乗せた右の拳が盾の角を殴りつけ、防御に隙間を作る。間髪入れずに左の拳をねじ込み、ボディブローを叩き込んだ。
衝撃波で土が舞い上がり、砂利が吹き飛んでいく。川が荒れ、崖に水がぶつかり弾かれた。
ブランの体が『く』の字に曲がる。だがゴーレムに痛覚はない。すぐさま右手の剣が振るわれた。
その手首を、掴んで止める。
「この距離で振りかぶるな。ラップショット……剣の背で相手の背中や裏腿を狙うか、盾で殴りつけろ」
手首を掴んだまま風を放出し、強引にブランを背後に放り投げた。
風の放出でどうにか着地した瞬間を狙い、右肩を殴る。簡単にバランスを崩した所で盾のふちを掴み、強引に引き寄せた。
「風を放出するのなら、その状態からでも剣は振るえる。こちらが近づけない様に、牽制でも良いから斬撃を放て」
こちらの言葉が終わる前に、ブランの剣が動く。
先ほど教えた通り、剣の背で裏腿を狙ってきた。だがその太刀筋は拙く、ラップショットと呼ぶには憚られるものだった。
左の裏拳で鍔を弾き斬撃を止め、盾に右肘を打ち込む。
「そうだ。それでいい。太刀筋はこれから磨いていこう」
たたらを踏んだブランが、刺突を放ってくる。それを足捌きで避け、同時に右側面に。がら空きの脇腹に軽く拳をいれた。
それだけでまたもバランスを崩したブランの右二の腕を鷲掴みにし、最初の位置へと放り投げる。
「突きは当たると確信がもてる時以外に放つな。それと、お前の本来の役割は相手の攻撃に耐える事だ。重心をもっと落として、一々体を揺らすんじゃない」
「京ちゃんに突きは必殺技と教えたのはぁ……私!でぇす!!」
「外野は黙ってて」
「はぁい」
盾の下側を地面に押し付け、重心を落とすブラン。正直まだまだ隙だらけだし、側面に回り込めそうだが……。
「よし。まずはそれを覚えろ。これから殴りに行くから、耐えるんだ」
ファイティングポーズをとり、正面から突っ込む。
褒めて伸ばす……とは、少し違うが。とにかく『これをされると怖い』と思った動きを伝えていく。
それにしても、学習スピードは自分より遥かに早い。素直だからだろう。いや、無垢と言うべきか。
両の拳によるラッシュで盾を強引に引っぺがし、胴体に組み付いて宙に放り投げる。
着地狙いで殴り掛かった自分に、ブランが風を放出しながら長剣でこちらの右肩を狙ってきた。
身を低くして潜り抜け無理矢理拳の間合いに入れば、盾が鼻先に突き出される。仰け反って衝突を回避しながら、膝で盾ごとブランを蹴り飛ばした。
───もう膝を使わされるとは。
これは、剣を抜かされるのも近いかもしれない。そう思うと、あの極光に消えた騎士を思い出す。
白蓮も、いつの間にか強くなっていたな……。
「京ちゃんってさぁ。絶対子供を甘やかすタイプだよね」
「え゛っ。この模擬戦を見てそう思うんですか……?」
「いや。だってさっきから拳の威力がかなり控えめだし」
外野の会話を無視し、再度突撃。今度は盾を正面に構えたブランの側面に回り込む。
「重心を落とすのは良い!次は円を描くように盾の向きを変えろ!」
こちらに振り向こうとするブランの肩を手で押さえ、蹴りを膝裏に叩き込んだ。
そのまま、肩と腰を掴んで放り投げる。
なんか、ちょっと楽しくなってきた。自分は人に教えられるほど武芸に詳しくないが、ゴーレムに学習させる分には良いだろう。
何より、自分の戦闘速度に慣れさせたい。
さあ……もっと加速していこう。
* * *
「……お前さぁ」
「はい……」
翌日。雫さんの工房にて。
床に敷かれたシートの上に、ボコボコにへこんだ盾と鎧。そして刃こぼれだらけの長剣が並ぶ。
「いやほんと……お前さぁ」
「すみませんでした……!」
雫さんの作った装備は素晴らしい。これだけ鎧がボロボロなのに、ブラン本体にはほとんど損傷がなかったのだから。
その旨を伝えると共に、平身低頭修理をお願いする。自分には今後も、彼女の武装が必要なのだ。
アイラさんの依頼で忙しいだろうに、ため息交じりに承諾してくれた事には感謝しかない。よくわからないが、雫さんの職人魂が刺激された様だ。しかも今回の修理費はサービスにしてくれたのだから、足を向けては寝られない。
……次はがっつり取るからなと、当然ながら釘を刺されたけど。
あの学習方法……もう2度とやらん様にしよう。
なお、マギバッテリーの方は問題なく最後まで稼働していたので、試験の方は大成功であった。
読んでいただきありがとうございます。
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