第百五十二話 悪夢の国
第百五十二話 悪夢の国
『ケヒャ!』
露悪的な笑い声と共に、幾本ものナイフが飛来する。
魔力を帯びたそれらは、正確に自分の手足へと向かっていた。
風の放出でそれらを蹴散らし、強引に前進。木の幹を蹴りつけて跳躍し、太い枝に片手でぶら下がるピエロ型の人形へと肉薄する。
相手が2本目のナイフを抜くよりも速く、片手半剣がその胴を両断した。
キリングドールはゴーレムに近い存在だが、それでも異なる点は多い。例えば、ゴーレムは核さえ無事なら行動可能だが、こいつらは胴にある『燃料タンク』を破壊されても死ぬ。
要は、核のある頭部か胴体を壊せばいい。シンプルである。
そのまま『概念干渉』で風を蹴り、空中で方向転換。急加速しながら剣を振りかぶった。
一息に次の個体へと間合いを詰め、両断。眼前まで迫る木の幹を蹴り、3体目へと向かう。
その最中、一瞬だけ視線を地上に向けた。
『ガァア!』
雄叫びをあげる狼男に似た人形が爪を左右から振るうが、『ブラン』はそれを堅実に盾で受ける。
そして、攻撃の終わり際に大振りの横薙ぎ。人形は咄嗟にしゃがんで回避するが、返す刀で放たれた2撃目で側頭部をかち割られた。
破壊力は十分。ブランは1歩さがりミーアさんの護衛に戻る。
それと同時に、16の氷の槍が空中に展開。薄っすらと輝きを放つそれらは、夜の森では眩しい程に存在感を放っていた。
「穿て!」
彼女の号令に合わせ、氷の槍はミサイルの様に飛んでいく。1体につき2本の槍が迫り、キリングドール達は為す術もなく粉砕されていった。ナイフを盾代わりにすれば諸共貫かれ、避けようとすれば挟み込む様な軌道で追い詰められる。
こちらも3体目を切り伏せ、振りむき様にナイフの投擲で4体目を破壊。三角跳びの要領で木から木へと飛び移り、地上へと跳躍してピエロ型のキリングドールを袈裟懸けに切り裂いた。これで、5体目。
自分の着地と同時に、頭上を氷の槍が飛び越えていく。先ほど同様2本で1体を狙い、青白い光が確実に獲物を仕留めていっていた。
周囲を見回しながら、立ち上がりナイフを再構築。他に人形はいない様だ。
「敵影無し。この辺りはもう大丈夫そうです」
「わかりました。お怪我は?」
「ありません。ミーアさんも……無事そうですね」
「ええ。ブランが守ってくれたので」
特撮に出てくる怪人めいた見た目のゴーレムは、無言で彼女の傍に立っている。
労う様にその肩へ触れ魔力を補給し、視線を木々の隙間からでも感じられる光の方へと向けた。
「アイラさん。あっちに何かあるか、知りませんか?」
『わかるわけなかろう。衛星だって、都合よくそこの上を通ったりはせん。ついでに言えば、田舎過ぎて碌に情報もない』
「了解。では自分が空から偵察します」
「お気をつけて」
「はい」
剣を右手に持ったまま、地面を蹴って木々より高い場所に。そのまま風を足場にもう1度跳び上がれば、明かりの正体がわかった。
「……遊園地?」
鬱蒼と木々が生い茂る山の中には不釣り合いな物が、そこにあった。
* * *
情報共有後更に建物へ近づいていくと、錆びついた鉄柵が見えてくる。
まるでイルミネーションの様に、魔法で作られた火の玉が柵を彩っていた。自分が見たのは、この光らしい。
柵越しには動いていないメリーゴーランドや、少し遠くの位置にジェットコースターのレールも見えている。だが、どれもボロボロであった。
木製の馬達は塗装が落ちまだら模様に。波打つ様に設計されたレールは遠目にもわかる程に錆びが目立っていた。
他にもアトラクションはあった様だが……大半が原形こそ残しているものの無残な姿に変わっている。
モンスターが破壊した風には見えない。これは、放置され雨風に晒され続けた結果だろう。
「捨てられた遊園地、ですか。なんでこんな山奥に……」
『ふむ。恐らく、バブルの頃に作られたのだろうな。ババ様曰く、あの時代は色んなテーマパークや施設が無計画に作られ、泡が弾けると共に捨てられたとか』
「これもその1つ、ですか」
『現代でも放置されているのは、土地や建物の所有者が不明になっているパターンが多い。そして、偶にだが『そこに何かがある』事すら記録や記憶から消えてしまう場合もあるそうな』
「厄介な……」
ダンジョン法の改正により、管理されていない空き家などは強引に撤去されゲートが発見しやすくなった。
しかし、それは都市部での話。こういった山奥では、効果は薄い。衛星やらドローンがある時代でも、結局は人が探しにいかないといけないのだから。
まあ、今はこの遊園地の成り立ちなどどうでもいい。
「わざわざ魔法を照明にしている辺り、ここがキリングドール達の巣ですね」
『人間の覚醒者集団が拠点にしている可能性は?逃亡中の凶悪犯とか』
「だったら、こうも分かり易くしないでしょう」
『たしかに』
明らかに、常人とは異なる思考で魔法を使っている。万が一ここを根城にしているのが覚醒者なら、間違いなく異常者だ。
「なんにせよ、足跡がこちらに続いている以上突入します」
『武運を祈るよ。多少なら施設を破壊しても、緊急時という事でお咎めなしで済むだろう』
「はっ」
掛け声と共に鉄柵へ手をかけ、強引に左右へ開く。
少し大きな音がしたが、キリングドールがやってくる様子はない。体を横向きにして、広がった隙間を通る。
ミーアさんもと振り返れば、同じように通ろうとして胸が引っかかっていた。
でっっっか。
「…………」
お互い気まずくなって、そっと目を逸らす。
いや、これは周囲の警戒をするため。鉄柵に背を向けて剣を構えていれば、金属が押し広げられる音がした後にミーアさんが隣にやってきた。
続いてブランも侵入し、ハンドサインを出し無言で歩き出す。
不幸中の幸いと言うべきか、ゴーレム用の装備を持ってこなかった分ブランの足音も控えめだ。エリナさんほど上手くはできないが、隠密行動を心がける。
「京太君。敵の位置は?」
「……3体から5体の集団で動いているのが多いですが、あそこだけやたら密集しています」
古びたアトラクションの陰に隠れながら移動し、首を巡らせる。
すると、巨大なテントの中から多数の魔力を感知した。一見すると、映画等でサーカス団が使っていそうな外観である。
大きさは、体育館の半分ほどか。風雨にさらされ、元は煌びやかだったのが随分とボロボロになっている。それでも、崩壊していないだけ頑丈だとは思うが。
「もしも人間が誘拐されているとしたら……」
「あそこかもしれませんね」
『……マジで突入するのかね。素人が救出作戦とか、失敗フラグにしか思えんぞ』
「そもそも、誰か囚われていると決まったわけではないので」
「ただの掃討作戦である事を祈っていてください。姉さん」
『この脳筋どもめ……』
「それに……あそこに人がいたとしたら、急いだ方が良いかもしれません」
『なに?』
「魔力の流れが変だ。もしかしたら……あそこは『保管所兼食堂』なのかもしれない」
ある可能性が浮かび、答える間も惜しいと小走りでテントへと向かう。
立ち止まる事なく、薄汚れた厚手の布を引き裂いて内側へと跳びこんだ。
まず目に入ったのは、ずらりと並ぶ観客席。木製の長椅子が並び、雨風から多少は守られていたのか外よりは比較的綺麗な状態である。
その奥には、魔法で照らされた舞台があった。
燕尾服姿の人形達が、壊れた楽器で不快な音を掻き鳴らす。中央では緑色のマントを羽織った人形と、狼頭の人形がレイピアと爪で戦っていた。否、戦う演技をしていた。
壇上にいた人形達の、木で出来た瞳が一斉にこちらを向く。不愉快な演奏は終わり、燕尾服姿の人形達はそれぞれノコギリや斧を手に取った。
「むー……!むー……!」
観客席の間を歩き、壇上に向かおうとする。
すると、近くから何やらくぐもった声が聞こえてきた。立ち止まり剣を舞台の人形達に向けながら、視線を声がした方に向ける。
そこには、猿ぐつわをされた管理人さんがいた。どうやら、縄で椅子に固定されているらしい。
更にその向こうには同じように拘束された老人がおり、視線を反対側に向ければこれまた別の老人がいた。
しかし……管理人さん以外は、既にこと切れている。
外傷は縄が擦れた程度しか見受けられず、糞尿の臭いが鼻腔を刺激した。血の臭いはしないし、赤茶けた染みもぱっと見視認できない。
「演目の料金は、魔力か」
モンスターは、ダンジョンの外では食事をしなければ活動できない。
口と発声機能があっても、食道も胃袋もない人形達が栄養を得る手段は、他の生物の魔力を奪う事だけだろう。
人間の死体以外にも、動物の腐乱死体があちこちに見受けられた。観客は選ばない質らしい。
兜の下で、眉間に深い皺が刻まれていくのを自覚する。
「営業停止だ、木偶人形ども。スクラップにしてやる……!」
この言葉が合図だったかの様に、壇上にいた人形達が。そして舞台袖や天井で照明の角度調整を担当していた人形達も襲い掛かってきた。
一斉に向けられた数十の刃に対し、こちらは氷も含めて2振りのみ。
されど、
「邪魔だ!」
観客席より上にしかいないのなら、一太刀で十分。
全身のバネを使う様に、横回転。心臓から腕に、指に、指輪を通って、柄から刀身へと魔力を流し込む。
魔法で作られた照明を飲み込む、深紅の炎。それが通り過ぎた端から木偶人形は炭化し、巻き起こった風がテントを薙ぎ払った。
ぶわり、と舞い上がった巨大な布。それを支えていた鉄パイプも幾らか飛んでいき、10秒ほど遅れて少し遠くから盛大な金属音が鳴り響いた。
「……範囲攻撃をするのなら、事前に合図がほしいのですが」
ブランの背中からひょっこりと顔を出したミーアさんが、不満そうに唇を尖らせる。
「すみません。つい……」
「まあ、いいですけどね。私もむかついたので」
彼女が管理人さんに近づき、氷で作ったナイフでロープを切り裂く。
猿ぐつわを外してやると、老婆は堰を切った様に感情を爆発させた。
「た、助けておくれぇ!死にたくない!死にたくないい!」
「落ち着いてください。もう暫くしたら、警察が来ますから」
管理人さんへの対応はミーアさんに任せ、切っ先を床に突き立てる。同時に、『概念干渉』を発動させた。
すると、パキン、という軽い音が劇場に響く。
ここに刻まれた生物から魔力を吸い上げる魔法陣が、壊れた音だ。肉眼では捕捉できないが、この眼ならば一目でわかる。というか、覚醒者なら魔力の違和感で看破可能だ。
そんな察知が簡単な術式であったが、作るとなるとかなり難しい。少なくとも自分には不可能だ。
となれば、相当の術師がここを根城にしている。まあ、十中八九……。
「ここはダメだ!あいつがくる!あた、あたしゃ、受付にスマホを忘れて、車で取りに行こうとしたら攫われて、ここで見たんだ!あの化け物を!」
「大丈夫ですから。まずは深呼吸を……」
「ブラン。2人の護衛を頼んだ。ミーアさん、自分は」
「ええ。迎撃をお願いします」
「逃げなきゃぁああ!逃げなきゃ死んじまうよぉおおお!!」
半狂乱となる管理人さんを背に、劇場の外へと歩いていく。
『ふむ……これはあれだな。過疎な田舎で、数日間そこらの爺さん婆さんが目撃されなくっても数軒分離れたご近所さんにもスルーされていたと見た。都会以外でも、人の繋がりが薄いなんてよくある』
「つまり?」
『これ、たぶん氾濫からかなりの時間発覚していなかったパターンだ。つまり、その分数が多いぞ』
「奇遇ですね。僕も同じ意見です」
崩れた鉄パイプの山を一振りで吹き飛ばし、外へ出る。
すると、数えるのもバカらしい数の足音が聞こえ始めた。奇妙な音色と共に。
まるでパレードでもしているかの様に、キリングドール達が自分を囲う様に行進している。ピエロの様な個体はナイフをジャグリングする者もいれば、大きな玉に乗って進む者もいた。
タキシード姿の人形は壊れた楽器を掻き鳴らし、剣を腰にさげたマントの人形達は罅割れた笛を鳴らす。
音楽に疎い自分でも、聞くに堪えない騒音。だが、不思議と……憐憫めいた感情が胸を襲う。
それを振り払っている間に、行進はピタリと止まった。
どうやら、代金を請求しようというらしい。
深呼吸を1回。ああ、この方がやり易い。少なくとも、哀れなパレードの中に斬り込むよりは、よほど。
「───こいよ」
ミーアさんとブランなら人を1人守りながらでも迎撃は可能だろうが、流れ弾で管理人さんが死ぬ可能性もある。
少しでも多く敵を自分に引き付けた方が、全員が生き残る確率は高い。意味があるかわからないが、左手を柄から放し精一杯の不敵な笑みと共に挑発してみる。
『ガァアアア!』
効果があったのか、はたまたこちらのリアクションなど関係ないのか、雄叫びと共に先陣を切る狼頭の人形達。それに続き、それぞれ武器を構えた人形達が襲い来る。
風を刀身に纏わせ、不可視の槌を横薙ぎに一閃。数体を纏めて粉砕し、返す刀で踏み込みながら更に5体ほど殴り飛ばした。
宙を舞う仲間の体を潜り抜け、緑マントの剣士人形達が切っ先をこちらに向けてくる。
迫るそれらに対し、左手を横薙ぎに振るった。空を引っ掻く様な軌跡が、炎で赤く染まる。
人形達が燃え上がる眼前の空間に突撃すれば、ピエロ達が投げたナイフが先ほどまで自分がいた位置に突き刺さった。構わず前進し、手近な個体から切り伏せていく。
袈裟懸けに両断し、間髪入れずに隣の人形の胴を横一閃。続けてすぐ近くの個体を縦に切り捨て、振り返り様に背後から飛びかかってきたピエロを真っ二つにした。
胴を上下で泣き別れさせた個体の傷口へ滑り込ませる様に、マント姿のキリングドールがレイピアを突き出してくる。
予知にて首を傾けて回避し、手首を掴んで握り潰した。そのまま振り回し、適当な集団に投げつける。
これで4分の1ぐらい片付いたか。キリングドール達は固まっていると纏めて風か炎で破壊されると学習したか、散開して襲い掛かってきた。
ならばと、最初に突っ込んできた人形にこちらから駈け出す。一瞬で十文字に切り裂き、出来上がった隙間に体をねじ込んで前進。
素直に囲まれてやる気はないと、縦横無尽に走り回り、行き掛けの駄賃と人形達の頭か胴を叩き割った。
やっておいてなんだが、これはもはや戦闘ではない。作業である。
自分が剣を振った余波だけで半壊した人形が、ボロボロになりながらレイピアを突き出してきた。
それを籠手で受け流し、鉄拳を上から振り下ろす。まるで紙細工でも壊す様に、キリングドールの核は砕け散った。
だが、油断はできない。
劇場の方へ向かおうとする人形へと襲い掛かり、勢いそのまま剣を横薙ぎに振るう。そして弧を描く様な軌道で、離脱しようとするまた別の個体へと斬りかかった。
行かせないし、逃がさない。ここですり潰す。
3桁を超えていた人形達が20になり、そして今風の鉄槌で10になった頃。
親玉が、ようやく動き出したらしい。
バキン、という大きな金属音がメリーゴーランドの方から聞こえてきた。
固定されていた木製の馬達が、その四肢で地面に降り立つ。まるで生きているかの様に嘶きをあげ、パラパラと木片を散らした。
あれらは、モンスターではない。それが魔力の流れでわかる。
動き出したのは木馬だけではない様で、ジェットコースターの錆びたマシンが大蛇の様にこちらへ向かって来ていた。
それらを率いるのは、巨大な人形。
黒いぼろ切れをローブの様に纏い、4本の足でクモめいた動きをしている。丸太の様に太い腕には杖が握られ、顔は絵本に出てくる悪い魔女そっくりだった。
『マジシャン・ドール』
キリングドールの出るダンジョンの、ボスモンスターの一種。精緻な魔法を使うからもしやと思っていたが、やはりか。
思考を中断し、周囲にいる人形達を風と炎を纏わせた剣にて粉砕。地面に刃を叩きつけた衝撃で跳び上がり、再度振り下ろした斬撃でキリングドールは全て仕留めた。
そこへ、木馬が突撃をしかけてくる。更には十数個の光球が自分目掛けて降り注いだ。
後退は、位置関係的にあまりしたくない。ならばと前進し、木馬を蹴散らし上からの光球を切り捨てる。
瞬間、魔弾が爆発した。だが、この程度ではかすり傷1つ負わない。爆炎を掻き分け、進路上の木馬を切り伏せながらマジシャン・ドールへと突撃する。
魔女の様な人形は、それに動揺した様子もなく杖を動かした。それに呼応する様にジェットコースターの大蛇が猛スピードで突っ込んでくる。
避けても切っても後ろの劇場に……!
「ちっ!」
剣腹で正面から受け止めれば、質量差で押しやられる。罅割れたレンガの足場が砕け、衝撃で膝あたりまで地面にめり込んだ。
風の放出で強引に後退を止めた直後、大蛇がこちらを跳ね上げる。所詮人の身である以上、逆らう事ができずに地上十数メートルまで打ち上げられた。
間髪入れずに、鋼の大蛇が身を捻り尻尾を叩きつけてくる。剣で受けるがやはり体は弾き飛ばされ、狙っていたのかジェットコースターのレールへと着地した。
ブーツが金属のレールを歪ませた直後、高速で迫る光の槍。それを切り払った直後に、大蛇が猛スピードでジェットコースターの受付に頭から侵入する。
木製の壁も屋根も砕かれ、鋼の怪物は新しく生えてきたムカデの様な足をレールに添えた。かと思えば、時速200キロオーバーでこちらに走ってくる。
振動を足元から感じながら、視線を外し軽く遊園地を見回した。
木馬とマジシャンも、自分の方に向かって来ている。更に向こうをみれば、劇場の屋根はなくなっているので、ミーアさんと目があった。
僅かに心配が浮かぶ、彼女の美貌。それに答える暇はなく、すぐに視線を大蛇へと戻す。
別の意味でモンスターマシンとなり果てたそれが、一番高い位置に到達。元々の速度と重力も合わさって、信じられない加速でこちらを轢き殺しにかかった。
避けて空中に身を躍らせれば、マジシャンと木馬の猛攻。このままレールに留まれば、衝突は免れない。
状況だけ見れば絶体絶命である。しかし。
「しぃ……!!」
───ガギャァァアアアアンッ!!
破砕音が鳴り響き、レールを振動させて遊園地全体に轟いた。ほぼ同時に、爆音が地上で発生。
何の事はない。剣を木馬の集団に投げた直後、自分が両手で鋼の大蛇を受け止めたのである。
レールを支える金属板を足で割りながら、風を放出。両手足に伝わる衝撃に歯を食いしばって耐え、遂にその突撃を止めてみせた。
静止した瞬間、光の槍がこちらに迫る。それを、腰の捻りでモンスターマシンをレールから引っぺがして防いだ。
流石に重すぎて全部を投げる事はできないが、衝突のダメージで連結部が壊れていたらしい。先頭車両だけなら、余裕だ。
空中で車両と槍が衝突し、爆散。その中を突っ切り、地上のマジシャン・ドールに吶喊する。
木馬は、なし。キリングドールも、なし。たった1体となった人形達の長は、光弾を宙に浮かべ放とうとした。
だが、遅い。
重力ものせた左の鉄拳が、その顔面を打ち抜いた。
土煙をあげて着地したものの、勢いが殺しきれず地面に敷かれたレンガを剥がしながら減速。
ようやく勢いが止まったのと、廃墟となった遊園地から明かりが消えたのは、ほぼ同時であった。
読んでいただきありがとうございます。
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