第百四十六話 侵略的外来種
第百四十六話 侵略的外来種
木漏れ日に照らされながら、山の中をゆっくりと進んでいく。
体力的には問題ないが、やはり歩きづらい。それに、個々の移動速度も結構変わってくるので注意が必要だった。
これまで色んな森林型のダンジョンを探索した事はあったが、山は初めてだったかもしれない。
「ミーアさん、足元大丈夫ですか?」
「はい。サンダルでも『魔装』ですので、スニーカーよりは歩きやすいです」
振り返って問いかければ、エルフである彼女は柔らかく微笑んだ。
強がりには見えない。本当に大丈夫そうで、安心する。
「2人とも、水分いるー?」
「いえ、僕はまだ」
「私も大丈夫です」
「そっか。喉が渇いたら言ってねー」
「うん」
「はい」
エリナさんの方は、むしろこの中で一番山の中をスイスイ歩いている。足袋と草履なのに、まるでスパイクつきのシューズの様に安定していた。
相変わらずこの人は多芸である。山登りまで得意なのか……。
「……ん?」
そんな事を考えている時だった。エリナさんは僅かに眉をしかめ、小さく声を出す。
彼女の様子にすぐさま重心を落とし、剣を構え直した。エリナさんがこういう顔をする時は、大抵……。
「飛行型の敵が来てる。2時の方向……いや、移動して6時の方に回り込んできているっぽい。数は1体。回り込んだ後に接近中」
「了解」
小声で返事をし、出来るだけ静かに場所を入れ替える。そのタイミングで、自分の耳にもこちらへ近づいてくる音が聞こえてきた。
───ブゥゥゥゥン……!
一瞬、ヘリの音かと思った。およそ虫が発するとは思えないほど大きく、骨に響く飛行音。
緑の葉が生い茂った枝葉の向こうから、それはやってくる。
黒い複眼とペンチの様な口。黒と黄色で彩られた体に、尻の先端から生えた子供の腕ほどもある針。背から生える羽は高速で動いており、『精霊眼』でも捉えるのは難しい。
『ジャイアントビー』
その名の通り、巨大なハチだ。翅と足を抜いても1メートルはある体躯は、人間など簡単に抱えて飛行できてしまう。
ギチギチと歯を鳴らしながら、空からの狩人はアフリカゾウすら容易く屠る毒針をこちらに向けてきた。
だが、自分の方が速い。エリナさんの索敵と、精霊眼による魔力感知で既に狙いは定めている。
真っ直ぐに飛んだナイフがビーの胸を穿ち、その体躯を四散させた。
パラパラと、地面に散らばった破片が塩に変わっていく。ナイフはそのままどこかに飛んでいってしまったので、落下が始まる前に部分解除で消しておいた。
あの、プロペラの回転音じみた羽音は他に聞こえない。周囲に他の敵がいないかを確認した後、エリナさんの『他に敵の音はないよー』という言葉を聞いて胸を撫で下ろした。
数メートル先に落ちているコインを拾い上げ、エリナさんが構えている鏡に見せる。
「討伐しました。空を飛んでいたモンスターは、どうやらジャイアントビーの様ですね」
『そのようだな。目撃者も運が良い。遠目だったとは言え、狙われる事なく五体満足で帰る事が出来たのだからね』
確かに。非覚醒者、いや覚醒者でも戦えるレベルの者でなければ、山の中でこんな怪物に遭遇したら死を覚悟する。
前にテレビだったか授業だったかで見た、『ハチは獲物を肉団子にして~』という映像を思い出し、ちょっと血の気が引いた。
頭に浮かんだ光景を振り払い、周囲の警戒に戻る。自分がそうしている間に、他2人は手早く塩を回収していた。
「よっし、お掃除終わり!じゃ、続きといこうか!」
「はい」
ナイフも再構築し、再び探索に。
歩き出して、ふと疑問が浮かんだ。
「あの、目撃者は覚醒者ですか?非覚醒者ですか?それと、見たのは双眼鏡とかを使ってですか?」
『む?山寺氏からの情報では、非覚醒者で特に道具を使ってはいなかったそうだ』
「……それ、どこから見たんでしょう」
『……なるほど』
「え?どうしたんですか、2人とも」
不思議そうに首を傾げるミーアさんに、エリナさんが答える。
「目撃されたモンスター、たぶんジャイアントビーでも無いよねって話だね!」
「あっ、なるほど」
『まっ、実はこれが私達を罠に嵌める依頼だった可能性もあるがね!』
「ええっ!?」
「……流石にそこまではない、と思いたいですが」
「たぶんないと思うよ!お婆ちゃまが裏をとってくれた依頼だから!」
胸を張ってそう言うエリナさんから目を逸らし、なるほどと頷く。教授がそう言ったのなら、信じられそうだ。
となると。
「ではやはり、もう1種……大きさ的に『ボスモンスター』の可能性もありますか」
『そうだな。マンティスやビーの出るダンジョンにいるボスモンスターについて、少し調べてみよう。探索しながら待っていてくれ』
「了解。頼みます」
剣の腹を肩に乗せ、止まっていた足を前へ動かす。
相変わらず歩きづらい凹凸の激しい地面を進む事、約1時間半。道なき道というのは、こういう事かと痛感した。
ダンジョンの中は、曲がりなりにも人が出入りする事を想定している。偶に泥やら沼やらでまともに歩く事が出来ない場所もあるが、それも魔法や道具の利用で解決できる場合が多い。
だが、この山は違う。覚醒者の体だから良いが、非覚醒だった頃なら途中で倒れていた。
体感だとほぼ垂直に思える坂を上ったり、逆に下ったり。
誰かの罠かと言いたくなる折れ方をした枝が地面に刺さっている事もあれば、蛇がすぐ近くを這っている等々。
これにモンスターの待ち伏せやら襲撃やらが加わるのだから、たまったものではない。
何体目かも数えるのが馬鹿らしくなってきたマンティスを見ながら、出そうになるため息を飲み込んだ。
代わりに、仲間達へ止まれと合図をしてナイフを抜く。
「マンティスです。正面、約20メートル先。数は1」
「あ、ほんとだ」
「相変わらずわかりづらいですね……」
相手は完璧に擬態しているつもりなのか、微動だにせずこちらを待ち構えている。間に遮蔽物はない。
「他に敵はいないよー。音もしないし」
「了解。仕留めます。避けられたら、ミーアさんお願いします」
「わかりました」
「待った。この位置だと、京ちゃんが投げると余計な被害が出るかも。環境破壊は別に好きじゃないでしょ?」
「了解。なら僕は接近戦になった時に備えます」
エリナさんの言葉にナイフをしまい、代わりに剣を構える。
瞬間、彼女の手がぶれたかと思えば2本の棒手裏剣が飛んでいった。マンティスが避ける間もなく、それは頭と胸に着弾。外骨格を貫通し、その向こうの木へと突き刺さる。
風穴の開いた巨大カマキリの体が地面をビクビクと跳ねる光景は、あまり直視したくはないものだった。
「ぶい!」
「お見事」
ドヤ顔をきめるエリナさんで、目の保養を試みる。うん、相変わらず顔が良い。
死体が塩になったのを確認し、周囲を警戒しながら接近。ドロップ品と塩を回収する。
「だいぶ、敵との遭遇率も上がってきましたね」
「そっすね先輩!今ので合計するとちょうど120体っすからね!」
「あ、数えてたの」
「うん!」
そういう所は真面目だな、この自称忍者。自分はもう、敵の総数に関して『帰ってからドロップ品のコイン数えればいいや』ってなっていたぞ。
「でも、これだけ遭遇するという事は」
「ゲートは近い、という事ですね」
『ゴールが見えてきたらしいな。しかし、あまり油断するなよ。常在戦場を心がけるのだ』
「はい」
『それはそうと、帰りにアイス買っていかないかね、アイス。コンビニのじゃなくって、あのパーキングエリアとかで売っている柔らかいソフトクリーム』
「さっきの自分の言葉思い出せや」
「いいっすね!」
「おぉい」
『私が奢ろう』
「ごちになります」
「っす!」
「3人とも……」
すみませんミーアさん。山の中を散々歩き回って、後で誰かの奢りでアイスって言葉に抗うとか無理です。
だが、途切れかけていた集中力も上手くリセットできた。……気がする。
深呼吸を1回。気合を入れ直し、柔らかい地面を踏みしめた。
更に進んでいくと、不自然にへし折られた木々が目立ち始める。エリナさんがしゃがみ込み、地面を見つめた。
「マンティスの足跡かな?それが沢山あるね」
「環境破壊しまくりだな、あの外来種ども」
「ですがこの木、マンティスの鎌で切られた風には見えません」
ミーアさんが、折れた木の断面に軽く触れる。
「彼らの鎌は内側がノコギリの様になっているのですが、これは強い力で無理矢理へし折った様な……あるいは、へし折れてしまった様な感じがします」
「となると、ボスモンスターの仕業ですか」
「恐らくは」
「なら、ますますゲートは近そうですね」
剣を構え、ゆっくりと前進。すると、エリナさんが勢いよく立ち上がった。
「音が近づいてくる。数はたぶん1体。でも大きい。11時の方向」
「了解」
彼女の言葉のすぐ後、自分にも大きな音が聞こえてきた。
───ブブォォォォオオオオオッ!!
ジャイアントビーのそれよりも、更に大きい。
これが羽音だとすれば、ボスモンスターは『あいつ』か。
道中でアイラさんから貰った情報と、この状況は一致する。事前に決めていた通り、数歩進んだ後に風を放出しながら跳躍。一気に高度をあげた。
幸い、モンスターのせいでこの辺の木は倒されている。何の障害もなく上空に出れば、こちらへ向かってくる巨影がハッキリと見えた。
全体的なシルエットは、トンボに似ている。
真っ赤に染まった複眼に、強靭かつ巨大な口。頭から尻の先までで、やく4メートルの体躯とそれに見合ったサイズの高速で動く2対の翅。
だが、その前足と尻の先が明らかにトンボとは異なっていた。
他の足と比べて異様なまでの発達をした2本の前足は、カマキリの前足に酷似している。そして本来生殖の為に使う器官があるはずの尻の先からは、人間大の物騒な針が生えていた。
『イビル・ドラゴンフライ』
カマキリとハチの特徴をもつ、トンボ型のモンスター。命名した人のセンスを疑いたくなる安直な名前だが、しかし確かにこれは『悪魔トンボ』と呼ぶに相応しい見た目と凶悪さだ。
『ヂヂヂヂヂヂ……!』
奇怪な鳴き声を開ける口から、管の様な舌が見える。あの化け物、一丁前に舌なめずりをしているらしい。
真正面から向かって行く自分の周囲に、別の音が複数聞こえ始めた。奴が引き連れてきたらしい、ジャイアントビーおよそ20体。
悪魔トンボは前進を止めホバリングすると、体を折り曲げて尻をこちらに向けてきた。
直後、奴はスイングでもするように『腹』全体を揺らしたかと思えば、空気が破裂する音と共に針を発射する。
否、針と呼ぶには大きすぎるそれに、左右から襲い掛かってくるジャイアントビーの群れ。
恐らくだが、地上でもこのタイミングでマンティス共が一斉に彼女らへ攻撃を仕掛けているだろう。援護は期待できない。
「しぃぃぃ……!」
避けるのは容易い。だが、下手な位置にあの毒針を落として、山をダメにするのは山寺さんに悪い気がした。
丸太ほどの太さと、1メートル前後の毒針。それを左脇で挟む様に受け止める。
胸甲と籠手の間で擦れ、火花が散った。あまりの衝撃に体が後ろへ弾き飛ばされる。
だがおかげで、左右からの挟撃からは逃れられた。抱えている針を根本の毒袋もろとも炭化させ、放棄。
両手で剣を握り、腕に、指に、そして柄から刀身へと魔力を伝わせる。
山火事は避けたい。ならば、奴らが地に落ちる前に燃え尽きる火力を叩き込む。
刀身を覆う風と炎が、一瞬だけ球状に膨張。こちらへ向かってくるジャイアントビーどもに、剣を横薙ぎに振り抜いた。
空が、赤く染まる。
深紅の炎が扇状に広がり、瞬く間に巨大なハチどもを飲み込んだ。空に青色が戻ったのと、黒い塊が20個ほど地面に落ちていくのがほぼ同時。
その炭化した物体も真っ白な塩へと変わり、山火事になる心配もないだろう。
精霊眼の広い視野でそれを捉えながら、意識は先の一撃を避けた存在へ。
『ヂヂヂヂヂッ!!』
怒りか、鼓舞か、それともただの威嚇か。そんな鳴き声が上から聞こえてくる。
悪魔の様な巨大トンボは、左右と上下に動く口を全開にしてこちらへ急降下してきた。やはり他の虫型と違って知能が高い様で、太陽を背にして突っ込んでくる。
だが、あいにくとその戦い方は『聞いていた』。
こちらもまた急上昇し、開かれた口ギリギリを飛翔。すれ違い様に箱型の胸に剣を入れ、そのまま相対速度も利用して外骨格を引き裂いていく。
刀身に残していた風が内部を粉砕し、毒針のなくなった尻の先から刃は抜けた。
両断とはいかなかったが、地面に頭から下を開かれた悪魔トンボが落ちていく。それを見下ろしていれば、地上から昇ってきた水の竜が奴の巨体を飲み込んだ。
どうやら、あちらも既に殲滅が終わっていたらしい。白く染まった怪物の体は、水へと溶けていった。
その中に、キラリと光る物を見つける。近づいてみれば、それは琥珀だった。
トンボの形をしている。トンボ入りというわけではなく、琥珀自体が加工してあるかの様にトンボ型をしているのだ。
「ドロップ品を確認。これって、幾らになるんですかね?」
『さて。私も詳しくはないが、高く売れると思うぞ。確か、炎や電撃系の魔道具関連で需要が高い。中々市場には出ないから、結構レアだ』
「へえ、炎の魔道具に……」
現在、雫さんにはどうにか『炎馬の指輪』をより高出力に耐えられる様に出来ないかと依頼している。
高値で売れるというと聞くと惜しいが、背に腹は代えられない。分け前は基本人数で割る形なので、他のメンバーと交渉し自腹切ってでも確保しておこう。
『しかしアレだな、京ちゃん君』
「はい?」
『君。もうボスモンスターを見かけたら逃げろ、戦うなというダンジョン庁からの言葉。完全に頭から抜け落ちているな?』
「……さ、ゲート探しに戻りましょう」
『はいはい』
普段のダンジョン探索では、きちんとルールを守って……レフコース以外では基本的にルールを守っているから、セーフ。
少し前にこちらから探し回ったボスモンスターの事は思考から追いやり、せっかくなので上空からゲートを捜索。
ここまでは上から見ても木が邪魔で探せないと思っていたが、悪魔トンボが出たのなら話は別である。
奴は離着陸に邪魔な物があるとすぐに破壊するので、ゲート周りの木々も伐採されているはずだ。案の定、自分達がいた位置から30メートルほど離れた位置に白い扉を発見する。
更に、その向こう側にあまり見たくない物を発見した。
「うわ……」
へし折った木を、他のモンスターどもに運ばせたのだろう。それを積み上げた巨大な枠の中に、大量の死体が積み重なっていた。
鹿、猪、鳥。幸いな事に、パッと見だと人間はいない。どうやら、アレは奴らの食糧庫の様だ。
ダンジョンにいる間、モンスターは飲食を必要としない。だが、外に出てからは普通に食事と排泄が必要になる。増え方は相変わらず尋常な生物とは異なるが、それでも生態系に大きく影響を及ぼすのだ。
「……マジで侵略的外来種でしょ、モンスターって」
『ふむ。侵略、か』
「アイラさん?」
何やら意味深に返事をしたアイラさんに、首を傾げる。
『いや、なんでもない。ただ、例の白い竜の事を思い出しただけだ』
「……あの、ダンジョンそのものを乗っ取った力ですか」
『うむ。もしもアレが外に出てきたら……どうなるのだろうな』
「…………」
彼女の言葉に、無言で高度を下げる。
正直、考えたくもない。だが、もしもあの竜が外に、こちら側に出てきたら。
比喩でもなく、天地がひっくり返ってしまうのではないか。
そう思えて、背筋が冷たくなった。
……よそう。あの化け物は、自衛隊が何とかしてくれる。ミサイルなり大砲なり使って、丸焦げにしてくれるはずだ。
そう自分に言い聞かせながら、視線はトンボ型の琥珀へと引き寄せられる。
……頑張ろう。生き残るために。
着陸すると、鼻をつまんだエリナさんが出迎えた。
「くちゃい……」
「生きていてごめんなさい」
「落ち着いてください」
目に涙がうかび、視界がかすむ。やばい、ちょっと立ち直れないかも。
そんな自分の肩を、ミーアさんがガッチリと掴む。
「木々が折れた開けた場所に出たら、エリナさんが『腐臭』がすると言い出したんです。京太君の事ではありません」
「あ、良かった。本当に……」
「貴方からするのはいやらしい匂いです」
「なんて?」
「それより京ちゃん。この臭いってさぁ、もしかして」
「うん。あっちの方に、モンスターどもの食糧庫があった。中は見ない方が良い」
「そっかー」
「一応、パッと見た感じ人の遺体はなかった。それと……その近くにゲートが」
「そっかー……」
珍しく、露骨にエリナさんが遠い目をする。無理もない。スキル抜きでも彼女は五感が鋭いのだ。今は風上にいるのでマシだが、風下にいったらたぶんキツイ臭いがすると思う。
その後、流石に単独行動はさせられないと、半泣きになるエリナさんも連れ3人でゲート周辺にGPSのついた杭を複数セット。これで自分達の仕事は終わったと、転移でアイラさんと合流した。
すぐに山寺さんのいるお寺まで車で移動し、報告を済ませる。
非常に事務的な会話となったが、彼の頭に出来た真新しいたんこぶは関係ないと思いたい。
ついでに。去り際に聞こえた、『まだじゃ……儂はまだ諦めんぞい……!』という言葉も気のせいという事にしておこう。
うん……気のせいだけど、頑張ってくださいと心の中で願うのは自由だよね!
いや、自分でそういうお店に行けば良いだけなんだけどね?能動的に行くのは負けた気がするし、公序良俗的に良くない事だし。
何より───昨今の写真加工技術は、ね……。
僕はガンダ●とか普通に好きだけど、ド●やサイコガン●ムで童貞を捨てたくない。陰キャ童貞にも、選ぶ権利はあるはずだ……!
ゆえに、頼れる先達の紹介は欲しい……!ネットの海で聞いた数々の経験談を思い出すと、とてもじゃないが自力で調べて行くとか無理!怖い!
だから、諦めないで生臭坊主!負けないで生臭坊主!走り続けてマッドサイエンティスト生臭坊主!!
他力本願?大人に頼るのは子供の特権だ……!
「京ちゃん」
「はぁい!!」
そんな事をお寺から遠ざかる車の中で考えていたら、隣からエリナさんに話しかけられた。
「な、なんでございましょうか……!」
「どうして敬語……?」
「うっす。なんでもないっす。大丈夫っす」
「どうした京ちゃん君。その分かり易い動揺っぷりは。トイレ我慢中か?」
「ちげーよ残念オブ残念」
「なんだとぅ」
助手席から身を捻り、こちらを見てくる残念女子大生。
だが、今はナイス残念だった。ありがとうございます、マジで。
「で、どうしたのエリナさん」
「んーん。また皆で遊ぶなら、いつが良いかなーって」
「その事なら大丈夫だぞエリナ君。どうせ京ちゃん君に、私達や大山君達以外と過ごす予定などない」
「マジではっ倒すぞ残念女子大生」
「おんやぁ?事実とは違うのかね、京ちゃんくぅん」
「事実なら何を言っても良いと言うのなら、僕は今から貴女の事について色々語りますが?」
「ふっ……アイス、君には2つ奢るから勘弁してもらえないだろうか……!」
「ごちになります」
この後4人でアイスクリームを食べてから帰った。仕事終わりに他人の金で食うスイーツは最高である。
なお、次の日有栖川教授から『くれぐれも悪い大人の誘いに乗らない様に』と釘を刺されたが、それはまた別のお話。
読んでいただきありがとうございます。
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