表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミュ障高校生、ダンジョンに行く  作者: たろっぺ
第八章 迷宮に挑むという事は
207/224

第八章 プロローグ

先日はお休みをいただき、ありがとうございました。

投稿を再開します。



第八章 プロローグ




「では、サイズはこんな感じで」


「……おう」


 白い竜との遭遇から、約1週間。


 9月も下旬に入りかけており、気温も過ごしやすいものになってきた。来週の末には、日中も肌寒くなると天気予報では言っている。


 そんな中、自分はエリナさんと共に雫さんの工房へやってきていた。


 心なしかまた広がった気がする彼女の作業スペースにて、持ってきた紙の束を渡す。


「こいつが、例の『着脱可能マギバッテリー』の外装か……」


 そう言って、雫さんがペラペラと注文書をめくる。


「はい。一応設計図は出来ていますが、まだ実際に作れてはいないので。ある程度内部のスペースに余裕がある形にしてあります」


「しかしこれ、『錬金同好会』のマギバッテリーより小さいぞ。性能は大丈夫なのか?」


「勿論、『裏技』ありでも同好会の物よりは稼働時間が落ちます。しかし、適宜その場で補充が出来るのなら問題ありません。何なら、予備のバッテリーを持ち込んで交換もできますので」


「私の時空間忍法なら、物さえあれば幾らでも持ち込めるからね!」


 隣で、エリナさんがドヤ顔でVサインを決める。


 彼女のアイテムボックスの容量は、今や海上コンテナ数個分だ。転移も組み合わさると、もはや輸送業界にとって爆弾みたいな存在である。


 空間魔法使いはまだ少なく、代用できそうな魔道具も希少だ。しかし、近いうちに物流の革命が起きそうな気がする。


 閑話休題。エリナさん頼りの運用だが、もはや彼女なしの探索を考えられない。この運用方法なら、同好会の作った新型マギバッテリー搭載機なみの継戦能力を得る……はず。


『賢者の心核』を使ってもようやく並べるか、という程なのだから。自分の腕が低いのか、彼らの技術力が尋常ではないのか。


 あの変態ども。本当に純粋な技術力だけなら、世界でもトップの錬金術師集団である。


「ま、アタシは注文通りのもんを作るだけだ。『白蓮』の鎧も、マギバッテリーと接続できる様に……」


「白蓮では、ありません」


「……そうだな。すまん」


「いえ」


 新しい戦闘用ゴーレムの用意は、既にある程度進んでいる。


 白蓮の予備パーツでボディを組み、装備も残っている白蓮の物を調整して使う予定だ。核となる『ホムンクルスもどき』も、既にある。文化祭の時に使ったヤカン型から付け替えるつもりだ。


 ボディも、装備も、白蓮と同じ。だが、このゴーレムは白蓮ではない。


 不要な拘りであると自覚はするが、これが自分なりのケジメだ。


「こちらこそ、すみません。サイズや装備の調整等は、全て白蓮と同じです。ただ、核が違うだけですので」


「おう。わかった。ま、核が違うのなら動きも変わってくんだろ。その辺の調整は、実際動かしてからだな」


「はい。またお世話になると思うので、よろしくお願いします」


「ま、金はとるがな」


 雫さんと、この場にはいないが愛花さんには『何故白蓮を失ったか』を伝えていない。


 白い竜については、自衛隊から口止めがされている。強制力はないが、今はそれに従う事にしていた。


 もしも、それを破って彼女らに伝える時がくるとしたら。それは……。


「マギバッテリーを付けるのなら背中って事だし、鎧の背当(せあて)には専用のソケットがあった方が良いよな」


「あ、はい。それも、外装の大きさに合わせてお願いします」


「わかった。ま、それほど時間はかからねぇよ」


「よろしくお願いします」


「で、だ」


 机の上に注文書を置き、雫さんはその三白眼でこっちを見上げてくる。


「新しい装備やら何やらに、お前の素材はどうするんだ?」


「……勿論、これを使います」


 そう言って、薄手の上着を脱ぎ半袖姿になる。


 彼女に、剥き出しの左腕を差し出した。


「注射器って、もう完成していますか?」


「まあな。お前の皮膚を安全に貫くサイズだから、かなり太いぞ」


 そう言って、彼女が床に置いてあったケースを机に置く。


 蓋を開けたそこには、明らかに人間の採血に使うとは思えないサイズの物が入っていた。自分の頬が引きつるのを自覚する。


「……お手柔らかにお願いします」


「つってもアタシは医者でも看護師でもねぇし。実際血を抜くのは、教授辺りに頼んで誰か紹介してもらってからになるがな」


「……面倒なので、やっぱナイフでザクッとやった方が良いのでは?」


「なんで注射にはビビるのに、そっちは躊躇ねぇんだよ。お前」


 そんな珍獣を見る目を向けられましても。


 だって今雫さんが取り出した注射器、針の太さが小指ぐらいあるですけど?もうナイフで刺すのと変わらなくない?というかナイフより怖くない?


 あと、別にナイフで刺す事に躊躇がないわけではない。普通に怖いから、自分だって刺したくはなかった。必要なら我慢する覚悟があるだけである。


「お前の場合、斬ってもすぐ治ってあんまで出ねぇんじゃねぇの?」


「深めに切って、こう……どばっと。治る前にたくさん一気に出せば良いかと」


「痛覚死んでんのか?」


「生きてます。たぶん切った瞬間泣きます」


「泣くのかよ」


「勿論です。痛いですから」


「たいへんだね―」


 既にこちらの会話に飽きてきたのか、エリナさんが壁にかけられている道具に視線を向けていた。


「ま、この話も後だ。エリナ。お前から預かった手裏剣も修理と改修が終わったぞ」


「おー!さっすがシーちゃん!仕事が早い!」


「ネット注文の方も、アイラさんの仕事を受けるにあたって幾つか断ったからな。もうほとんどお前ら専属になりかけてるよ」


「つまり……シーちゃんも既に忍者!!」


「忍者ではねぇよ」


「!?」


「僕も忍者ではないからな?」


「!!??」


 なんだその『宿敵(ベイ●ー卿)が実は父親だった』なみに驚いた顔は。


「うそだあああああああ!!」


 本当にそんなリアクション始めおったぞこいつ。


「エリナ」


「うん!」


「次工場内で叫んだら追い出すからな」


「はーい」


 小さく額に青筋を浮かべた雫さんに、自称忍者が素直に頷く。


 そして、不機嫌そうに工房の主は奥へ歩いていき、すぐに布で包んだ巨大手裏剣……『大車輪丸』を担いで戻ってきた。


 エリナさんが受け取り、巻いてある布を一部剝がす。


「ほらよ。ブレードの厚さを3ミリ増やして、使っている鋼材も『ウトゥックの炉』で鍛えてある。前の倍……は、言い過ぎだが。それでもかなり頑丈になっているはずだ」


「センキューシーちゃん!愛してるぜい!」


「はいはい。アタシも愛してるぜー」


「どうしよう京ちゃん!?私告白されちゃった!」


「よかったですねー」


「すまん、エリナ。アタシにそっちのケはない」


「どうしよう京ちゃん!?私ふられちゃった!」


「たいへんですねー」


 適当に迷言を聞き流していれば、雫さんがおもむろにこちらの手を取ってきた。


 小さいが、少し分厚い手。エリナさんのソレと比べてやや硬いが、それでも異性の手だとわかる感触に、思わずドキリとする。


 だが握ってきた人物は、こちらの指先を見て舌打ちしてきた。


「ちっ、まだあんま伸びてねぇな」


「あ、はい」


 このセクハラドワーフ。マジで性別逆だったら訴えられているからな?民事とかで。


「爪と髪の毛が伸びたらまた来い。アタシが切る」


「あの。採血どうこうで資格の事を気にするのなら、そっちも美容院とかネイルサロンとか本職に頼むべきなんじゃ……」


「うるせぇ。採取させろ」


「京ちゃん、大丈夫?美容院とかネイルサロンとか行ったら、石になっちゃわない?」


「……ノーコメントで」


「前にパイセンと行ったら抱えて帰る事になったからね!京ちゃんが行く時は、私も同行するよ!」


 元気よくガッツポーズをする自称忍者に、無言で視線を逸らす。


 床屋さんとかならちょっと前まで通っていたのだが、美容院って何となく敷居が高い気がするんだよな……。ネイルサロンに至っては、そもそも何をどうする所なのかもよくわかっていない。


 こう、爪を研いだり、なんか塗る場所?的な?


「あと、覚醒者。それも高レベル覚醒者用の美容院とかネイルサロンは、マぁぁジで高いからな。気をつけろよ。現金で払おうとか思うな。カード持ってけ。じゃなきゃ高額の決済ができるアプリ」


「そんなにですか」


「目が飛び出るかと思った」


 真顔で頷く雫さんに、再度頬を引きつらせる。


 この人、数百万。場合によっては数千万単位の武装を取引している人なのだが。そんな彼女が目を剝くって、どんだけだよ。


 しかし、取りすぎとも言い難い。自分の髪の毛など、触った感じは普通なのにいざ刃をいれたらワイヤーかという強度だったし。それをカットして整えるとなると、美容師側も覚醒者。かつ道具も専用の物となるだろう。


「だから、アタシに切られとけ。な?どうせお前、悪目立ちしないのなら髪のカットとか爪とか、大して気にしないだろ」


「それに京ちゃん、シーちゃんに腕抱えられるの好きだもんね!オッパイ押し付けてもらえるから!」


「エリナ」


「うん!」


「声がでけぇ。帰れ」


「しまったぁ!?」


 そっぽを向いて作業台に向かった雫さんの耳が、ほんのり赤くなっている。


 何というか、すみません……。


 そして横乳ありがとうございます……!実際に言ったらセクハラになるので、心の中で深く頭を下げた。


「京太ももう帰れ。注文は受け取った。注射器はそこのバカに渡す。素材は後でもってこい。お前ごとな」


「わかりました。それじゃあ、これで」


「アタシは、お前の血を打ち込む前段階まで作業を進めておく。アイラさんからの依頼もあるしな。そっちも進めねぇと」


「はい。よろしくお願いします」


 振り返らずに手をひらひらと振る彼女に一礼してから、作業スペースを出る。


 相変わらず工場の中は工員の人達が汗を流して鉄に向き合っており、機械の音が響き渡っていた。先ほどの自称忍者の声が、彼らに届いていない事を祈る。


 しかし、この工場は雫さんが『ダンジョン探索用の装備』を作る事で持ち直したらしいが……彼ら彼女らは、今の状況をどう思っているのだろう。


 白い竜がホロファグスのダンジョンに現れた日から、約1週間。



 未だ、全ダンジョンの封鎖は解かれていない。



 はたして、再び民間へダンジョンが解放される日は来るのか。来たとして、その際に政府は白い竜……そして、噂に聞く赤い竜に関して情報を公開するのか。


 もしも黙ったままダンジョンを解放するのなら、雫さんや愛花さんには自分から伝える他ないだろう。それ以外の冒険者にも教えるかどうかは、状況次第だ。


 しかし、政府があの日の出来事を公表した場合。


 日本は、冒険者は、どうなるのだろう。ランクによる『建前上の安全』まで崩れた場合、冒険者制度は続けられるのか。


 危険だからと、引退する人が続出するかもしれない。あるいは、そもそも民間への開放が取り下げられるかもしれない。


 冒険者制度の存続にも関わるだろうこの問題は、はたしてどの様な決着を迎えるのだろう。


 そんな事を考えながら、自称忍者と共に工場を後にした。






読んでいただきありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。励みになっております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
京ちゃんはおっぱいくっつけるだけで何でもOkだからね。 エリナさんがしっかり手綱を握っておかないとやらかすと思うの。 忍者の里作る前に不祥事は勘弁なのだ!
今後 白蓮の後継機として黒蓮はどうだろう?なーんて言うと作られていくゴーレムが「蓮しりーず」になっちゃいそうではあるけど 忍者連盟「蓮シリーズ」
なんと!髪の毛も爪も、もう普通のはさみでは太刀打ちできない硬度になっていたのですね。 血をとる注射器の針も小指みたいって、それ血管よりも太くないです? やはり体液は別のところから取るべきじゃないですな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ