第一話 変化する日常
第一話 変化する日常
───この国に大きな変化が起きた日。通称『覚醒の日』より2年が経過した。
飛び過ぎと思うかもしれない。しかし、その間に色々とあり過ぎて飲み込むのに少々時間がかかったのである。
そんな風に、日記には書いていた。
というか、こうして書いているのも頭を整理する為である。普段日記とか書かんし。……前の内容から飛びすぎな理由、それでは?
何はともあれ、ネット上にて『覚醒の日』と呼ばれるあの日からすぐの頃。日本政府はゲボ吐きそうになりながらもテレビ等で国民に落ち着いた対応を呼びかけた。
それから暫くして、『鑑定』のスキル持ちの協力を得て『覚醒者』のスキルを登録しようって事になったのである。
『鑑定』
数々のラノベにて活躍した神スキル。まさか実在するとはなぁ……しかも数十人単位で。
当然ながら、自分も登録しに行った。お上に逆らって何かあったら怖いし。あと自分のステータス知りたい。
そんなわけで、県庁前まで電車で行って視てもらったわけである。
『矢川京太』
LV:1 種族:人間・覚醒者
筋力:19
耐久:19
敏捷:22
魔力:22
スキル
『精霊眼』
『魔力変換・風』
『概念干渉』
固有スキル
『賢者の心核』
……うん。高いのか低いのかわからんってなったのを、よく覚えている。
その一週間後、政府の発表で『10が成人男性の平均。15がプロのアスリート。20が金メダリスト』と言われ、ようやく基準がわかった程だ。
どうも、ネットの情報を鵜呑みにするのなら自分のステータスは随分と高いらしい。しかもスキルが固有含めて4つ。多くてもこの数が限度らしく、何ならスキルが1つしかない人も多い。自分の様に、通常が3つに加えて固有が1つあるのはかなりレアだ。
これには思わず鼻の穴も興奮で広がるというもの。パッとしない人生を送っていたわけだが、こんな転機に恵まれるとは。
しかも、だ。スキルが固有含めてクソ強い。ざっと能力を確認しただけでも、『ダンジョンに行け』と言われているのかと思うぐらいだ。
まあ、肝心のスキルの説明は追々するとして。
この後の事を、日記に書こうと思う。
ダンジョンからモンスターが出て来た。
『覚醒の日』から約半年後。日本各地に出来たダンジョンの把握すらままならず、一般人の立ち入りは原則禁止。自衛隊や警察の中から、志願者で構成した部隊を調査に向かわせていた頃。
日本各地の手付かずだった、あるいは『キープアウト』のテープだけ貼られて調査を後回しにされていた『ゲート』から、多数のモンスターが溢れる様に外へ出て来たのだ。
結果街はパニックである。不幸中の幸いなのは、モンスター相手に普通の銃が通用した事か。
今でも思い出す。報道のヘリが捉えた、小屋ほどもあるトロールを警察官がパトカー数台で押さえ込んでいた様子を。押し寄せる津波みたいな勢いで走るコボルトの群れに自衛隊が小銃を撃ちまくる光景を。
1日だけで死者行方不明者は200人以上。更に数日間各地のダンジョンからモンスターが外に出てきて、人々を襲った。今でも、山間部なんかは確認されていないモンスターが隠れているのではないか、と危険視される程。
奴らは非常に好戦的であり、なおかつダンジョンの外に出ると『目を赤くして凶暴さが増す』という謎過ぎる特性もち。
ネットでは『某国の生物兵器じゃないか』なんてぶっ飛んだ陰謀論まで実しやかに噂されるレベル。
その後の調査と検討によって、ダンジョンは『間引き』が必要だと結論が出された。
ダンジョン内部で増えすぎた、あるいは『ダンジョンの出口』にまで到達したモンスター達が外に出てくるのだから、その前に狩ってしまえという話である。
そんな単純明快な解決策が出たのだが、問題は山積み。予算はどうするのか、人員は。どこの庁が対応するのか等々。
会議はダンスダンスし、国会はいつもの様に罵詈雑言が飛び交ったわけだが、遂に結論を政府は発表。『覚醒の日』から、約1年後の事であった。
『ダンジョン庁の設立。及びダンジョン法の作成』
このダンジョン法。なんと、『人手が足りないのなら、民間に投げれば良いじゃない』という内容を含んでいる。
当然の様に国内外から批判の声は上がったものの、政府はこの法案を強引に通した。噂では、国外からの圧力があったとか。
そんな噂が出た理由は、ダンジョンから採れた『資源』があったからである。
普通の鉄や水晶から、未確認の金属や植物。更には『不思議な力を持った道具』。
これを政府も海外も欲しがったから、色々と圧力が加わったのではないか……という、これも陰謀論である。
だがわりと無くは無いんじゃないか、とも思う説だ。米国のとあるメディアは、ダンジョンを『新たなるフロンティア』なんて言って炎上したぐらいである。
兎にも角にも、所謂『冒険者』という職業が出て来たわけである。批判の声の中に、期待や喜びも混ざるというもの。
かく言う自分も、テンションが跳ね上がった。逆に覚醒者になった若者で、こうならない奴の方が少数派である。
だが、命懸けの仕事な以上制約は複数あるわけで。
まず『15歳以上』である事。『未成年の場合保護者の許可が必要』な事。『一般人の銃器の持ち込みは禁止』な事。その他諸々。
この頃受験を控えた中学生な自分に、冒険者なんて夢のまた夢。必死こいて勉強する他ないのである。
幸い、『固有スキル』の影響で頭の回転は速くなっていた。ただし、知能や知識が上がったかと言うとそういうわけではなく。
あえて言うのなら、『1秒間に考えられる事が増えた』とでも表現すべきか。バトル漫画とかでよくある、『1分しかないのに10分ぐらい内心描写してんぞ』な事が出来るわけだ。
なお、先ほども書いた通り頭が良くなったわけではない。思考速度が速くなっただけである。
つまり、テストを受ければ『あ、この公式忘れちゃった』とか、『英単語のスペル間違って覚えている』とか、『古典……苦手っす……』な事が普通にあるわけで。
結論、点数がちょっとだけ上がった。以上。
まあ、『賢者の心核』の神髄は他にある。これは思わぬ幸運程度のもの。ありがたい力ではあるのだから、それで満足すべきだろう。
長く険しい受験戦争を超え、無事高校生に。だがその際に、『2つ』の大きな問題が発生。
1つ目。父さんの会社が、ダンジョン被害を受けた。
直接ではない。取引先の工場に、ダンジョンのゲートが出来てしまったのである。
この2年で判明したのだが、あのゲート。『覚醒の日』以降も日本のあちこちで発生しているのだ。国内という点以外、共通性はなし。
それこそ都心のマンションの一室に突然出来る事もあれば、誰も立ち入らない山の中にいつの間にか発生している事も。
不幸中の幸いというべきか、その頻度は少ない。ついでに取引先の工場にも人的被害はなかったそうだ。
問題は、取引先の工場が営業停止。土地は国家の管理下に移り、周辺は立ち入り禁止となった事である。
何が言いたいかと言えば、父さんの会社が倒産しそうって事である。ギャグじゃないけど。つうか笑えん。
わりと真面目に、家計が心配である。両親は『大丈夫』と言っているが、目が泳いでいた。
……これを少しでも『冒険者になるのを認めてもらえるチャンス』なんて思った自分は、親不孝者なのだろうな。
勿論、家が心配な気持ちが8割以上である。
冒険者は、普通のバイトより儲かると噂だ。ダンジョン内にいるだけで時給1000円。『収獲』次第だが、平均して2時間潜るだけで1万円ほど稼げるらしい。
命を懸けて、2時間1万を安いと見るか高いと見るか。それでも、普通の高校生が法を犯さずに稼ぐならこれ以上はそうそうない。
……何より。これは根拠の乏しい妄想じみた事ではあるのだけれど。
自分は、ダンジョン探索に向いていると思うのだ。主に『スキル』が、だけど。
そうして何とか両親を説得し、『冒険者試験』を受ける許可を得た。ただし、一発合格。それも高評価以外だったのなら諦めろと言われたが。
そして、2つ目の問題。
小学校からの付き合いがあった友人2人が、県外に行ってしまった。
……1つ目と比べてなんと小さな問題かと言われるかもしれない。だが、個人的には切実である。
1人は親の仕事の都合で埼玉に引っ越してしまったし、もう1人は県外どころか海外だ。
というのも、その友人の親戚がアメリカにいるらしく、ダンジョンが現れた日本は危ないとご両親がその伝手を頼りに海を渡ったのである。
あいつ、英語とか喋れないのに大丈夫なのかな……。何より胃腸が強くない奴なので、海外の水や食事で体調を崩さないか心配でもある。
だが、他人の心配をしてばかりもいられない。
なにせ───高校生活。まさかのぼっちスタート。
以上、これがここ2年での出来事である。日記にこうして書き記したわけだが……頭の整理をしても、どうにもならん事ってあるよね。
端っこが少し折れている以外綺麗な日記帳を閉じ、勉強机で頭を抱える。
……友達って、どうやって作るんだっけ?
読んでいただきありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。本当にありがとうございます。創作の励みになります。
まだまだ始まったばかりのこの物語でありますが、どうか今後ともよろしくお願いいたします。