第百三十五話 さらけ出す
第百三十五話 さらけ出す
「始まりました文化祭2次会!今日は飲んで食べて遊ぶぞー!!」
「お、おー……」
この自称忍者、無敵か……!
場所は例のごとく例の様に、有栖川邸のリビング。土曜日ながら今日も教授は仕事で外出中らしく、アイラさんが我が物顔でお誕生日席に座っている。
あ、違うわ。ドヤ顔のまま硬直しているだけだあの人。
机には各々が持ち込んだお菓子やらジュースがあるのだが、服装は『アレ』である。
そう、アイラさんセレクションのコスプレ衣装であった。ただし当の残念女子大生はいつものジャージ姿だし、自分は顔出し着ぐるみである。
しかし、現在アイテムボックスから取り出した法螺貝を片手に、口で音を出している自称忍者はと言うと。
「ブオオオ!ブオオオ!ほらどうしたの京ちゃん!もっとテンション上げていこうぜ!忍者らしく!」
「忍者とは」
ビキニアーマーである。
古式ゆかしい、『それはいったい何を守るんですか?』と問いかけたくなる、あのビキニアーマーである。
細い紐で吊るされた赤い金属製のブラトップに、前面のみ金属製のパンツ。後ろは黒い布地だけであり、水着の様でもあった。
そして同じく赤色の肩パットに、籠手と脛当て。靴だけ布製だが、某有名RPGに出てきそうな格好である。
惜しげもなく深い谷間も、綺麗な曲線を描く北半球も出したお胸様。薄っすらと腹筋が浮いた細い腰。きちんと肉がのりつつも、ツンと上を向いたお尻。そして柔らかそうなのに長く細い美脚。
この全身スケベ人間、羞恥心はないのか……!?
「こ、この格好、本当にしなきゃだめなんですか……!?」
「エリナの家に行くと、結構な割合で変な恰好をさせられるな……」
あっちの2人みたいに!
片や、黒いビキニと網タイツ素材の長手袋。そして太腿の下半分から先しか布地の無いダボッとしたズボンと草履姿の愛花さん。
他のメンバーと比べて控えめなお胸も、小ぶりなお尻も三角ビキニが覆うだけ。僅かに浮いた肋骨や、縦に長いおへそが目に飛び込んでくる。
そして、もう片方は雫さん。こっちは魔法使いが被る様な三角帽子に、黒いマント。その下には何と赤いビキニの上と、紺のローライズなホットパンツにボーダー柄のニーソックス姿。
ビキニに包まれた身長不相応なお胸様の、ロケットっぷりは言わずもがな。今日も元気溌溂である。
そしてホットパンツの下にハイレグビキニを履いている事が、えぐい角度で上に伸びる紐でわかった。肝心な部分は見えていないのに、どうしてこういうのって逆にエロいんだろうね……。
「京ちゃんからのお願いだって、パイセンから聞いたよ!文化祭で1番頑張っていたのは京ちゃんだし、今日の主役は京ちゃんだね!」
「京太、お前さぁ……」
「最っ低……」
「まって……!」
女子2名から向けられた侮蔑の視線に、声を震わせ必死に首を横に振る。
あ、ダメだ。着ぐるみで首が左右に上手く動かねぇ。
「違うんですよ。僕はただ、自分だけ文化祭で恥ずかしい格好をする事になったから、アイラさんに他3人にもコスプレか何かしてほしいと言っただけで。決して詳しい指定などはしておらず」
「でもよぉ。こうなるのを期待して有栖川さんに頼んだんだよなぁ」
「最っっ低……」
「……いや、あの……すみません」
「でもこれ、ほとんど水着だよ?そんな怒る事なの?」
あっけらかんとそう言って、エリナさんが首を傾げる。
いや。確かに布面積というか、素材もほぼ水着だけれども。それで納得するのはおかしくないか……?
「まあ、確かにそうかもな」
「京太君のリアクションが面白かったので、つい言い過ぎてしまいましたね。ごめんなさい」
え、おかしいのは僕なの……?
何かわからないが、女子達の怒りがおさまった様で何よりである。
……いや、今リアクションが面白いとか言ってなかった?これ自分が弄ばれているだけでは?
───たゆん。
───つるん。
───ぷるん。
絶景の前には全て些事だな!!
「あいつ、マジで分かり易いよな」
「正直将来が心配というか、何なら今でも変な勧誘に引っかからないか不安ですよね……」
我が心に、一片の曇りなし!!
「あ、あの……事情はわかったのですが……」
そこへ、背後から声をかけられた。
この着ぐるみ、振り返るには体ごとでないといけない。えっちらおっちらと方向転換すると。
「え、痴女?」
「はっ倒しますよ!?」
「呪ってやりましょうか!?」
「落ち着け。今回はお前じゃない」
ドスケベ一族代表。三好・スケベ・ミーアさんがいた。
神官が被っていそうな白い角ばった帽子に、シスター服についていそうな白い襟。そして白い長手袋。そこまでは、まだ良い。
なんでそんな際どいビキニ姿に……?
彼女の爆乳を包むにはあまりにも小さい紐ビキニ姿。綺麗なくびれの腰の下、あえて『デカ尻』と評すべき臀部の方も、碌に覆えていない。絶対、後ろ側も凄い事になっている……!
一応腰布もあるが、シースルーなので何の意味も成していない。白いニーソックスが作りだす太腿のムチッとした食い込みもなんと艶めかしい事か。
断言しよう。これは性女である、と。
「姉さんが、どうしてもと言うから着てみたのですが……本当になんで私まで……?」
「それは本人に聞いてみよう!おーい、パイセーン。起きてー」
「はっ!?どうやら気絶していたらしい。良かった、アレは夢だったのか」
エリナさんに肩を揺らされ、残念女子大生が意識を取り戻す。
というかこの人、目を開けたまま気絶していたのか……。
「『あんまり親しくないJK2名がいる状態でパーティー』という、気まずさMAXの状況なんてなかったんだ……!」
「ところがどっこい、現実です……!」
「なん、だと……!」
「大丈夫、もうパイセンとシーちゃんアーちゃんは友達さ!」
「そんな陽キャにだけ許されるムーブは無理だよ!?」
自称忍者と残念女子大生その1のやり取りが、放っておくといつまでも続くと知っているからか。
両手で必死に体を隠そうとした結果、余計に叡智な事になっているミーアさんが両者の間に割って入った。
一瞬だけその後ろ姿が目に入ったが、この『精霊眼』は見逃さない!
あれは、伝説の『Tバック』……!白く大きな桃尻が、小さくふるん、と揺れた……!
「姉さん!突然これを着る様に言ってきた理由を教えてください!」
「え、痴女?」
「ふん!」
「あいたー!?」
銀色の頭を、スパーンと叩かれる残念女子大生その1。残念でもなく当然である。
「いや。どうせだから今回のコンセプトは『異世界の冒険者一行』って事にしようと思って」
「いらないでしょう、そんなコンセプト……それで。何故、私までこんな格好になる必要が?」
「まあ、待ってくれ。説明するより見てもらった方が早い。エリナ君。例のアレを配ってくれたまえ」
「ほーい」
そう言って、エリナさんがアイテムボックスから次々と武器……いや、武器らしき物を取り出していった。
「はい、たけのこ!」
「竹光、ですか?」
「で、シーちゃんにはこれ!」
「杖だな……やけに捻じれた」
「そして先輩にはこれ!」
「なんですか、この成金趣味な錫杖は……」
「最後に私はこれだね!」
エリナさんが素肌の上に剣帯を緩く巻き、そこにプラスチック製の剣を紐で吊るす。
そして、スケベコスプレ姿の美少女達が横一列にスラリと並んだ。
2礼2拍手しそうになる体を、理性で抑える。天国の様な景色と、絶対に手を出してはいけない地獄……!いかん、オリハルコンの理性が削られていく音が聞こえだした!
「サムライ、魔法使い、戦士『忍者!!』の組み合わせだと回復役が足りないなー、と思ってな。じゃあついでに性的な痴女と書いて性女を加えようかと」
「ふんぬっ!」
「いったーい!?」
ミーアさん、怒りの錫杖アタック。かなり手加減しているのか、アイラさんの頭からは『ぽこん』という音が鳴るにとどまった。
まあ、殴られた本人は頭を抱えてうめいているが。
「ち、ちなみに京ちゃん君は道中に出てくる雑魚敵A……」
「ミーアさん、もう1発お願いします」
「わかりました」
「あばぁ!?きょ、京ちゃん君!裏切ったのか京ちゃん君!」
「すみません。雑魚に雑魚って言われるのって、意外と頭にくるもので……」
「私がZAKO!!??」
ヒグマ並みの身体能力を得ても、その辺の空手部や柔道部にすら負けそうな人だし……。
アイラさんのレベリングを手伝っていて、確信した事がある。
この人、絶望的なまでに『体を動かすのが下手』……!
イメージが先行し過ぎる、とでも言えば良いのか。恐らく彼女の頭に浮かんでいるフォームは完璧なのだろうけど、それを再現するには体の掌握度が足りていない。
それ自体は以前から知っていた事だが、まさかここまでとは思っていなかった。多少動けば、覚醒者なのだし慣れてくるかと……。
年単位で鍛えれば、ワンチャン?それでも微妙な気がするけど。
まあそんな事はどうでも良い。今はお胸様である。
「まあまあ!先輩も水着って事で!」
「いえ、これ水着としてもかなり恥ずかしいのですが……!」
「でも先輩、嫌そうじゃないよ?」
「そ、それは……」
耳まで真っ赤にした状態で、ミーアさんがアイラさん、エリナさん、そして自分の順番に視線を動かす。
かと思えば、背筋をピンっと伸ばし錫杖を握り直した。
お胸様が!背筋を伸ばした際にお胸様が『どたぷん♡』って!!あと少しで先端が!大いなるお山の頂が見えそうだったぞ、あの揺れは!
と、というか……心なしか頂が自己主張している気も……。
いや、これ以上考えるな。理性がオーバーヒートするぞ!
「ま、まあ。文化祭の2次会と言う事ですし?ここはパーティーの余興として受け入れましょう」
「そうだね先輩!どうせだから楽しんじゃおー!」
「それと姉さんには後で魔王になってもらいます。無論、私達と似た様な」
「えっ」
「ああ、それ良いっすね。アタシも協力します」
「えっ?」
「無論、私も協力しましょう」
「えっ??」
いつの間にか包囲されるアイラさん。
それはそうと、やっぱりマントを羽織っている雫さん以外後ろ姿もやばいな……。ミーアさんはミーアさんだし、エリナさんと愛花さんも綺麗なお尻である。
自分は生粋の乳派だが、尻も良いものだ……。
だが、エリナさんとミーアさんの後ろからでもわかる横乳はもっと良いものだ……!
「パイセン!」
「え、エリナ君!助けてく」
「今時は戦えない魔王もありだと思うな!」
「私を助けろ京ちゃん君!この君にとっての桃源郷を作ってやった、いわば恩人のピンチだぞ!」
「すみません、アイラさん」
着ぐるみで顔を横に動かせないので、視線だけ左右に動かす。
「その中に跳びこむのは、無理です」
「こ、この童貞陰キャがあああああ!」
慟哭をあげる残念女子大生その1。
すみません……僕には、この絶景を目に焼き付ける事しか出来ない……!なんて無力なんだ……!
あと、アイラさんのスケベ衣装も普通に見たいし。見た目は本当に完璧なんだよ、見た目は。
「そう言わずに跳びこんでこようぜ、京ちゃん!」
「うわっ、こっち来た!?」
「せっかくだから京ちゃんもまた女装しよう!」
「いやだよ!?」
無邪気な笑顔で、こちらに駆け寄ってくるエリナさん。そして上下するお胸様。危うく、ビキニアーマーから巨乳がこぼれそうになる。
からの、続けて膝に手をついて下から覗き込んでくる美貌。左右から腕に挟まれ強調された谷間と、柔らかく形を変えるお胸様の破壊力も合わさり、頭がクラクラとしてきた。
なんだこのドスケベ自称忍者、いい加減襲うぞ……!?
いかん、脳が沸騰する!血液が頭にまで回ってこない!
「せ、戦略的てった」
「待った!全員ちょっとストップ!」
自分が逃げ出そうとした直後、アイラさんが大声をあげながらスマホを掲げて腕をぶんぶんと振るう。
瞬間、煮えたぎっていた脳がスゥっと冷えていくのを感じた。この感覚は、ダンジョンで敵の接近を知らされた時に近い。
「なんすか。言っておきますが、言いくるめられる気は」
「シーちゃん」
悪戯っ子みたいな笑みの雫さんの肩を、いつの間にか接近していたエリナさんが掴んで止める。
ミーアさんも神妙な面持ちで、アイラさんの次の言葉を待っていた。
……すみません。格好のせいでシュールだし、また脳みそがグラグラしだしたのですが。
「エリナ?」
「パイセン、何かあったの?」
「う、うむ。実は今しがた、登録しているニュースサイトから速報が届いてだね……。見た方が早い。テレビをつけるぞ」
そう言ってアイラさんがリモコンを手にとり、リビングのテレビに向けた。
何かのドラマやショッピング番組と、次々とチャンネルを切り替えていく。そして、『速報』とテロップが表示されたどこかのスタジオで彼女の指が止まった。
『速報です!先ほど、中国で起きた大規模反乱に協力したと思しき覚醒者集団が拘束された状態で、軍の基地前に放置されていたのが発見されました!』
「えっ」
誰が声をあげたのか。もしかしたら、自分だったかもしれない。
思わぬニュースに、一瞬アイラさんへ視線を向ける。以前、『案外早いうちに片が付くかもしれん』と言っていたが……。
『彼らは『イスティオ』と名乗る『元トゥロホース』である可能性が高く……いえ!』
画面越しに、ニュースキャスターの動揺が伝わってくる。
横から出された原稿を受け取り、キャスターが額に汗を浮かべた。
『ネット上に彼らの顔写真が公開されています!これに対し、『アリアンロッド』は全員『トゥロホース』の団員リストには載っていないと関与を否定して───』
周囲の夢の様な光景も忘れて、画面に視線が固定される。
……マジで?
「いやぁ、噂にはなっていたんだ」
アイラさんの、どこか気の抜けた声がリビングに響く。
「『Bランク冒険者』の3人娘が、万里の長城に行ってみたいとSNSに上げているって」
……あ、あのヤバそうな赤坂部長の子飼い達!?
ツーサイドアップの小柄な少女と、その横にいた2人を思い出す。『Bランク候補への説明会』で、比較的普通の見た目ながら一際強いプレッシャーを放っていたので印象に強く残っていた。
彼女らほどの強者が、反乱で荒れていた中国に行った可能性がある。更に『元トゥロホース』を名乗っていた集団が拘束……それも、状況からして現地の軍隊や警察ではない何者かによって。
ただの偶然とは、思えない。
「じゃ、じゃあこれって」
「ああ」
自分の言葉に、アイラさんが頷いた気配を感じる。
「赤坂部長が、やりやがったという事だ」
赤坂部長
「ほえ?」
読んでいただきありがとうございます。
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