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第百三十三話 自衛が必要な世の中

第百三十三話 自衛が必要な世の中




 なんか、大変な事になった。



 文化祭の翌日、まだその熱が残る中に総理大臣の口から告げられた『異世界への自衛隊派遣計画』。


 そして、その更に翌日発生した『トゥロホース残党による中国での大規模反乱』。


 立て続けに起きた出来事に、何をどう驚いて良いのかもわからない。


 ただ、確かなのは。自衛隊の異世界行きは延長になる。それだけだ。



『北京を制圧した反乱軍の中には『イスティオ』を名乗る『トゥロホース』の残党がおり、彼らが反乱の中心にいた可能性が』


『中国政府から正式な発表は未だなく、主席を始めとした国家の主要人物と現在連絡が取れず混乱状態に』


『今回の反乱は、日本にも責任があるんじゃないですかね。なんせほら、反乱軍の主力には日本人がいるわけですし』


『『元トゥロホース団体』である『アリアンロッド』は関係を否定しており、そもそも反乱に参加している者達も見た事がないと』


『矢車代表は国家に凌辱された!彼の掲げた覚醒者が統治するモンスターに脅かされない国家の為、我々は立ち上がった!もう日本に希望はない!志を同じくする者よ、海を越えこの地に集まるのだ!』


『やはり覚醒者は危険な存在だ!野放しにしてはいけない!今こそ平和の為に厳正な管理と指導が必要なんだ!』


『こんな状況で異世界とか、言ってられないんじゃないですか?未来の話より今ですよ、今。なんせ皆、今を生きているんですから』


『今回の一件により、ダウ平均株価は異例の』


『主人が中国に出張中で……!電話が繋がらなくて、会社に問い合わせてもわからないとしか言われないんです!すぐにでも、あの人を助けてください……!』


『中国に進出している日本企業は多く、現地に取り残され連絡の取れない邦人も』


『この状況に対し、アメリカやイギリスを始めとした国々は一般人の保護の為全力を尽くすと発表が』


『本日夕方より外務大臣の記者会見が予定されており、今後の対応が』



 等々。テレビではこの話題一色であり、それに関わる形で『今は自衛隊を異世界に送っている場合じゃない』という意見が多数出ている。


 実際、人道的なアレコレとか、経済や政治のアレコレ以前に。お隣でこんな大火事が起きている中で、ただでさえ人手不足の自衛隊を異世界に向かわせるとか無理だろう。


 ビッグニュースに次ぐビッグニュースで、日本は上から下まで大混乱に陥っていた。



*    *     *



「なんか、大変な事になっていますね……」


『うむ。本当にな』


 世界がそんな事になっている中、自分達は何をしているかと言うと。


『自衛隊が管理しているストアの前では、デモも起きているそうだよ。やっぱり覚醒者は危険な存在だったんだー……とね』


「……こっちのストアでは起きていなくて、本当に良かったです」


 今日もまた、ダンジョンへとやってきていた。


 激動過ぎる世の中で、自衛の力は幾らあっても足りない。過ぎた力は身を亡ぼすと言うが、もはやどこから先が『過ぎた力』なのかもわからない世の中だ。


 このダンジョンのドロップ品は、『ゴーレムの素材』として優秀と聞く。同好会も太鼓判を押しているらしいので、かなり確度の高い情報だ。


 是非とも、自分達のゴーレムの強化素材として手に入れておきたい。そう思い、少し遠いながらも足を運んだわけである。


 平日の放課後に行く様な距離ではないが、帰りはエリナさんの転移で時間を短縮できるので問題ない。エリナ様様である。


 そんなわけで。現在は一足早く更衣室を出て、女子2名が支度を済ませるのを待ちながらイヤリング越しにアイラさんと世間話に興じていた。


『いやぁ、冒険者が通っているダンジョンには余程のアホ以外はデモに行かないと思うぞ?』


「……自衛隊相手なら、反撃はされないと?」


『信頼されているねぇ、自衛隊は』


 何というか、コメントに困る。


 その辺りを話しても愚痴しか出てこないと、話題を切り替えた。


「……仕事の話に戻りましょう。例の異世界への自衛隊派遣。もしも実行するなら有栖川教授も同行するかもって、本当ですか?」


『うむ。ババ様は今や世界的な権威だからな。本人も行く気満々だったよ。まあ、今は予定の見直し中だがね。そもそも、ダンジョンの出入口を塞いでいる瓦礫の撤去もまだ終わっていない。実際に行けるのは、まだまだ先になるだろうな』


「はぁ。しかし、教授が自衛隊に同行する場合、その間僕達はどうするとか決まっているんですか?」


『当初の予定では君達は私と一緒にこっちで待機。任意のダンジョンへ行く事になっていたよ。ドロップ品の売り先についても、ババ様から聞いている』


「そうですか」


『ガッカリしたかな?異世界行きに同行できなくて』


「いえ、むしろ安心しました」


『うん?何故だい?君なら『異世界で現代知識無双!自分の国を作ってエロエロハーレム』!とか妄想していそうだが』


「貴女の中で僕はどういうイメージですか。いや、異世界転生とか転移とか妄想した事はありますけど……それでも、やっぱり嫌ですね」


『ほほう。その心は?』


「異世界がどういう場所かは知りませんが、僕はネットも水道も通っていない場所に行きたくありません」


『共感しかないな……!』


 こちとらガチガチの現代っ子である。ネットで好きな動画を見たりゲームをしたり、蛇口を捻れば清潔な水が出てくる生活を捨てるとか、無理だ。


 異世界どころか、アマゾンの奥地とかでも同じ理由で嫌である。あと、虫とか蛇とか現代日本より多そうだし。


「逆に、アイラさんはどうなんです?現代文明と好奇心、どっちを取りますか?」


『……魔道具と現代機器満載のキャンピングカーと、強力な基地局でインフラを確保しながら現地調査とか、したいなーって』


「二兎追う者はってことわざ知ってます?」


『ついでに護衛として京ちゃん君達も欲しいな……!知らない人達に護衛されながら調査とか、緊張で吐きそう』


「二兎どころじゃなかった」


 そんな会話をしていたら、エリナさん達の準備も終わったらしい。更衣室から2人が出て来た。


「お待たせ~。何の話~?」


「異世界に行きたいか否かって話」


「なるほど。私はまず日本に忍の里を作ってからだね!異世界にもこの『インビジブルニンジャーズ』の名を轟かすのはそのあ」


「ミーアさんはどうですか?」


「聞いて~ん」


 グネグネするな自称忍者。日本国内にその名が広まっている段階で、こっちのメンタルは削られてんだよ。


 あと文化祭の恨みはまだ消えていないからな……!


「私ですか?そうですね……」


 細い顎に人差し指をあてて、ミーアさんが瞳を閉じて考え込む。


 相変わらず、美人でスタイルが良いから何をしても絵になるな。


「姉さんやエリナさん。京太君が行くのなら行く。行かないのなら行かないって、所ですね。特に姉さん」


『おいおい、ミーアは甘えん坊だな。もう少し主体性を持ちたまえよ』


「主体的に動いて良いんですか!?」


『はっはっはっは。どうしよう、最近妹が凄く怖い』


 相変わらず残念美人だなぁ……!


 ブレーキの壊れた悲しき生命体から、そっと目を逸らす。何故かこっちにも視線が向いたが、気のせいに違いない。


 冗談はこれぐらいにして、ゲート室へと足を向ける。


「じゃあ、そろそろ行きましょうか」


「あ、はい。そうですね」


「ほーい」


『うむ。そうしよう。この話はここまでにしよう……!』


 若干震える声がイヤリングから聞こえるが、そっちも気のせいって事にした。


 強く生きろ、アイラさん……!安全な場所から見守っていますからね……!


 正直巨乳爆乳美人姉妹のからみとか、凄く見たい。何なら異世界調査とかの100倍興味がある。


『あ、そうそう京ちゃん君』


「はい?なんでしょう」


『例の『トゥロホース』の残党。案外早いうちに片が付くかもしれんぞ?』


 アイラさんの言葉に、思わず立ち止まる。


「……何かあったんですか?」


『ネットの噂レベルの話だ。自信満々に語って、後で見当外れだったとなると恥ずかしい。今はそれ以上の事は言えんよ。さ、ダンジョン探索に向かってくれ』


「……了解」


 深呼吸を1回してから、受付を通る。


 世間では色々ある様だが、今は思考をダンジョンへと切り替える時だ。


 白いゲートの前で『魔装』を展開し、『白蓮』を起動。ゴーレムに武装させた後、自分もフリューゲルを羽織る。


 念のため手で軽く触れて確認。視線で仲間2人にも問いかければ、小さな頷きが返ってきた。


「アイラさん。準備が終わりましたので、これよりゲートに入ります」


『うむ。気を付けてくれたまえ』


 エリナさん達が自分の肩に手を置き、ゴーレム達もどこかしら接触しているのを目視で確認。


 もう1度、深呼吸を挟んでから。


「行きます」


 白い扉の先へと、足を踏み入れた。


 ───異世界。


 よく考えたら、このダンジョン探索も異世界転移と言えなくもないのか。


 そんな事を考えながら、硬い岩の地面をブーツ越しに確かめる。


 自衛隊の照明はない。腰の剣帯に下げたLEDランタンと、ゴーレム達に取り付けたライトで周囲を照らす。


 ぽっかりと、円形にくり抜かれた様な洞窟。まるで何か巨大な管の様にさえ感じるそこは、じっとりとした空気が奥の方から流れていた。


 まるで生き物の中にいる様な錯覚を覚える、不気味なダンジョン。


 片手半剣を鞘から抜き、柄を強く握る。


「ダンジョンに入りました。これより探索を開始します」


『うむ。と言っても、今回私の仕事は碌にないがね』


「1本道ですからね。ですが、いざと言う時の救援要請とか、お願いしますよ」


『無論だとも。3人とも、安全第一で頼むよ』


「了解」


「はい!」


「おっす!」


 タワーシールドとバトルアックスを手にした白蓮が先頭に立ち、その斜め後ろに自分がつく。


 緩やかな下り坂となっている洞窟の中を、ゆっくりと歩き出した。


 天井から、1滴の雫が落ちる。それが地面にぶつかり、小さく音をたてた。






読んでいただきありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。励みになっております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


Q.京太、ミーアさん関連の事は察せないの?

A.そんなの有栖川塾の範囲外だよ……!


教授

「孫のこの成長……成長?は予想外過ぎました」


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― 新着の感想 ―
感想書いて送信したと思ったらどうも送信せずに消したっぽい。やっちまったぜ。 >なんか、大変な事になった。 対岸の大火事。それに反応する世論は相変わらず手のひらクルクルよく回りますねえ。 >今日もま…
ミーアさんこれでも自重してるんすね…主体的に動いたら何するつもりなんだろうか?怖や怖や
そっかぁ異世界へ行きたくないかぁ。でも、例の海上ダンジョン以外もダンジョンてみんな向こう側の入り口を塞がれているだけで異世界と繋がっているんですよね?そんな事を言っているとシナリオ部長がちょっと本気を…
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