第百三十二話 親子
今話は少し長めかもしれません。分割も考えましたが、あえて1つに纏めさせていただきました。ご了承ください。
第百三十二話 親子
毒島夫妻の登場に、場の空気が凍った様な気がする。
それに気づいているだろうに、夫妻はニコニコと人の良さそうな顔で怯む事なく近づいてきた。
「こうしてちゃんと話すのは久しぶりだな、愛花。体調は問題ないか?」
「お父さんも私も忙しかったから。ごめんね?学校では上手くやれてる?」
「……ええ。問題ありません」
渋い顔をしながらも、愛花さんが淡々とした声で答える。
それに対して顔色1つ変えず、毒島夫妻は視線を自分達の方へと向けた。
「そちらは娘のお友達かな?いやぁ、この子がいつもお世話になっています」
「うちの娘は時々変なポエムを言う時があるんですけど、御迷惑をおかけしていませんか?」
「いいえ。私達の方こそ、いつも愛花さんにはお世話になっております。冷静でいて友情にも厚い方で、とても信頼のおける友人です」
エリナさんが雫さんと毒島夫妻を遮る様に、1歩前に出た。
お嬢様モードの彼女に、夫妻が笑みを深める。
だが、ううん……?なんか、警戒されているような……?
「そうでしたか!いやぁ、娘がそんなにも友情を深められているとは、親として安心しました」
「それは良かった。ああ、申し遅れました。私、愛花さんの友人をさせて頂いている林崎エリナと申します」
「おお、これはご丁寧に。私は愛花の父親の、毒島竜彦です」
「母の毒島花江です」
「竜彦さんに花江さん。こうしてお会いできて光栄です。しかし、残念ですね」
穏やかな笑みから一転、エリナさんが困った様な顔をする。
その変化に、夫妻の肩が僅かに跳ねた。
「私達のクラスの催しは先ほど終了してしまったばかりでして。せっかくなら、お2人にも楽しんでもらいたかったのですが」
「あ、ああ。その事でしたか」
「私達も非常に残念ではありますが、親だからと言って特別待遇は期待できませんから。来年を楽しみにする事にいたします!」
───んん?
「そう言っていただけて安心しました。ぜひ、来年の文化祭もお越しくださいね」
「ええ!勿論ですとも!」
表面上は和やかな雰囲気で話す3人だが、雫さんはエリナさんの後ろでその三白眼をいつも以上に吊り上げ、愛花さんはその瞳をどんよりと濁していた。
なに、この空気……。
「……お父さん。お母さん。皆、出し物が終わったばかりで疲れています。今日はこの辺りで」
「あ、ああ。その方が良いかもな。では、せめてこれを」
そう言って、愛花さんのお父さん……竜彦さんが、懐から封筒を取り出した。
「こちらは?」
「いやぁ。実は我が社も、最近は冒険者用の製品を取り扱う様になりまして」
「お父さん……?」
「───なるほど。拝見させていただきます」
何かを察したのか、信じられないものを見る目でお父さんを見る愛花さん。対して、エリナさんはやはりというか、表面上は一切動揺した様子もなく封筒の中身を取り出した。
斜め後ろから覗き込むと、それはダンジョン探索で使う道具のチラシであった。
「ダンジョン被害が多発する昨今。私共もどうにか社会貢献できないかと、苦心した次第でして。そこで、冒険者の皆さんのお力になれないかと」
「様々な冒険者の方々から意見をお聞きして、それを参考に様々な商品を作ってみたんです。どうでしょうか?娘が日頃お世話になっているお礼として、ここに書かれている物をプレゼントさせて頂きたいのですが」
「勿論、それだけではお礼として不十分だとわかっています。後日、他の」
「いい加減にして!」
畳みかけるような勢いで喋る毒島夫妻を、愛花さんの大声が遮った。
普段落ち着いた雰囲気の彼女からは想像もできない、荒々しい気配。目尻に薄っすらと涙さえ浮かべ、愛花さんが実の両親を強く睨みつけた。
「あ、愛花?」
「……落ち着きなさい。今、父さん達はお前の友達と」
「『インビジブルニンジャーズ』、でしょ。私の友達じゃなくって」
「そ、それは……」
愛花さんの怒気か、あるいは無意識に出ているのだろう魔力にか。気圧された様子で、夫妻が1歩後ずさる。
それはそうと、シリアスな空気でその名前出されるとリアクションに困るんですが。やっぱ改名しない?
「いつも、私の事はいないもの扱いのくせに……!世間で『インビジブルニンジャーズ』が話題になって、それが私の友達だって知った途端これなの?あんまり……情けない所を見せないでよ……!」
「な、情けないとはなんだ!親に食わせてもらっている立場のくせに!」
「私はもう1人で生きていける!2人とは関係ない!」
「あ、愛花。落ち着いて。私達は別に、『インビジブルニンジャーズ』だから林崎さんに話しかけたわけじゃなくってね?」
「『インビジブルニンジャーズ』じゃなかったらなに!?エリナさんのご両親が貿易会社をしているから?それとも彼女のお婆さんが元は英国の貴族だから?どっちにしろ、私を出しにお金儲けしたいだけじゃない!」
「いい加減にしないか!お前は、今世間でどれだけ『インビジブルニンジャーズ』が重い存在になっているのか知らないからそんな事が言える!」
「やっぱり、『インビジブルニンジャーズ』目当てじゃない!娘の事を、なんだと思っているのよ!」
「この、さっきは『関係ない』と言っておきながら!だいたい『インビジブルニンジャーズ』はだなぁ!」
あのぉ。『インビジブルニンジャーズ』と連呼するのやめません?
寒暖差が酷いのよ。シリアスな話の中にアホみてぇな名前が混ざるせいで、真面目になりきれないのよどうしても。
え?突然親子喧嘩に巻き込まれてよく冷静でいられるなって?
……有栖川家のドロドロを聞いた後だと、大概の親子喧嘩じゃ動じなくなりますよ。
「もういい!私達は『インビジブルニンジャーズ』と話している。愛花は下がっていなさい!話なら後で聞く!」
「ああそう!そんなに『インビジブルニンジャーズ』と話していたいのなら、私の名前を使わないで!貴方達なんか、親なんかじゃ───」
あっ。
「あのっ!」
咄嗟に、愛花さんの言葉を強引に遮る。
自分で思ったよりも大きな声が出た様で、その場にいた全員の視線がこちらを向いた。
たらり、と。額から汗が流れる。文化祭の喧騒が、どこか遠くに思えた。
「な、なにかな?えっと、君は……」
「あ、ど、どうも。矢川京太と申します。その、愛花さんとは友達で……」
「矢川……まさか、あの『インビジブルニンジャーズのエース』と有名な!?」
なにそれ。すっげぇ否定したい。
話がややこしくなりそうなので、曖昧な笑みを浮かべて誤魔化す。まあ、面頬でわからないかもしれないが。
「この様な格好で申し訳ありません。出し物の一環で、女装する事になりまして」
「な、なるほど。それは失礼をしました」
「てっきり、無関係なモデルさんかと……」
いや無関係のモデルが何でこの場にいるんだよ。さては混乱しているな?毒島夫妻。
……ああ、うん。確かに、この2人は混乱している。
じっと、『精霊眼』で彼らの魔力を見つめながら。ゆっくりと言葉を選ぶ。
「あの、まず言わせてほしいのですが」
「は、はい。何でしょうか」
面頬の下で、ゆっくり深呼吸をして。
「娘さんが『危ない組織の近くにいて不安』だと思うのなら、最初からそう言っていただけると、手っ取り早く誤解を解けて良いのですが……」
「え?」
予想外の事を言われたと、唖然とする愛花さん。
そんな彼女の横で、ほんの一瞬だけ動揺した様子で頬を引きつらせた夫妻を自分は見逃さなかった。
こちらは黒歴史覚悟で女装してまで、文化祭に挑んでいる。他のクラスの出し物も回りたいので、長々と付き合いたくはない。
手短に、巻きでいこう。巻きで。
恐らく全てをとっくに察しているのだろう自称忍者は、ニコニコと笑いながら腕まくりをしている雫さんの肩を押さえるだけ。
どうやら、自分に対応させる気らしい。いったい何を考えているんだか。
小さくため息を吐きながら、とりあえず話を進める。
「な、なにを。私達は決して『インビジブルニンジャーズ』を」
「ネットで色々と陰謀論が騒がれていますが、まずアレらは全くの事実無根です。勿論、あなた方がネットの知識だけでそんな考えに至ったとは、思っておりません」
失礼を承知で、強引に話を進める。
こっちは大事な高校生活初の文化祭を邪魔されたのだ。これぐらいの意趣返しは、許されると思いたい。
「純粋な状況証拠と……この出し物。実は、変装して入場していましたよね?確かに高校の文化祭で、空間捻じ曲げてゴーレムに襲わせるのはやり過ぎに思えます。普通の覚醒者じゃない、と思うかもしれません」
途中から1組ずつではなく、複数組ずつ中を案内していたので、顔見知り以外は誰がいつ来たかなんて覚えていない。
しかし、エリナさんとの会話中に毒島夫妻から『嘘』の気配を感じた。恐らく、この2人は付け髭やらカツラやらで変装して体験ツアーを受けている。
そんな雑な変装で、と侮る事なかれ。人間、そんな雑な変装でも意外と騙せてしまうものだ。案の定、こちらの言葉にまた夫妻の魔力が揺れる。
こうしてわかるのも、『スキルの習熟度が上がった』と言うやつか。
「こちらも安全対策はしてありましたが……。これを見て、少しでも『あの噂は本当かも』と思ったのでしょうね。それで、慌てて『娘の交友関係を利用しようとする親』を演じる事にした」
「京太君……?あの、いったい」
「まあ、聞いてください」
困惑する愛花さんに、ニッコリと営業スマイルを向ける。
そう、営業スマイル。初対面の大人達に素面で話しかけるとか、無理。先ほどまで接客をしていたのだ。このまま仕事モードで押し切る。
「これはあくまで僕の想像ですが、あなた方は『娘が何やら怪しい噂のある武装集団とつるんでいる』『不安だが合法の集団でもあるから、一度確認してからの方が良い』。そして、この出し物を見て僅かでも『噂は本当だったかも』と思ったのかもしれません」
実際、この出し物はやり過ぎた。
エリナさんが『どうせだから派手にやろう』と言い出して、自分達も段々と悪ノリしてしまったのである。女装以外。そこだけは最後まで抵抗したが。
しかしまあ、高校の出し物として相応しいかと言うと……少し、羽目を外し過ぎたかもしれない。
あまり覚醒者としての力をこういうイベントで使うべきではないと、反省する。
「これまでの常識を覆し、噂の『アトランティス』と似た様な事をしてみせる集団。まだ噂の全てを信じているわけではないけれど、それでも出来れば娘には『インビジブルニンジャーズ』から距離をとってほしい」
言葉を選ばず言うと、愛花さんのお父さんは所謂成金。そして、子供達への教育にはかなり力を入れているらしい。
これだけで判断する事ではないが、思考が『守り』に移っているのだろう。今の彼は、きっと若い頃よりも安全策を好む様になったのだ。触らぬ神に、という風に。
面頬の前で、人差し指をたてる。
「そこでご夫妻はこう考えたのではありませんか?『そうだ。鬱陶しい親を演じて、彼らに娘との関係を続けるのは面倒だと思わせよう』と。たとえ失敗して娘が『インビジブルニンジャーズ』により心酔しても、自分達は体よく利用できる存在と売り込めれば怪しい部分を探れる」
「……」
「そして……流石に、暗殺とかまでは頭が回っていなかったんでしょうね。モンスターとか『トゥロホース』とか以外では、平和な日本での事ですし」
「……!?」
『暗殺』の2文字が出た瞬間、夫妻と愛花さん。そして雫さんからギョッとした視線を向けられる。
いや、僕だってやらねぇよ。そもそも『インビジブルニンジャーズ』は秘密結社じゃねぇし。
こんなアホ丸出しの名前をした、ガチの秘密結社がいてたまるか。
「とにかく!そういう心配をあなた方がしていると、僕は勝手に推察しました。その上で言います。我々は、ただの冒険者パーティーです。心配なされている様な後ろ暗い繋がりはありませんし、人間相手の荒事なんてした事ありませんから」
誘拐犯の車を受け止めた事はあるが、アレは相手もエアガン振り回すだけの奴らだったし。
変態ではあったけど。
「以上。僕の話はここまでです。後は親子できちんと話し合ってください」
そう締めくくり、着替えに向かおうとする。
……あ。そう言えば制服ってエリナさんに預けていたんだっけ?
そう思い小声で話しかけるが、ガン無視された。ちょっと?
「……その、本当なんですか。今の」
「……そうだ」
気まずそうに竜彦さんが答えると、愛花さんが大きくため息を吐いた。
「これまで、呪いがどうのと怖がっていたくせに」
「それは……すまなかった。私達も気が動転していて……」
「冷静になって、貴女はそんな事しないってわかって……でも、今更なんて声をかけていいか……」
「それで、やった事が勘違いで人の友情を引き裂く、ですか。なんですか、そのありがた迷惑」
「すまん。だがな、これはお前を思って」
「それが迷惑なんです。そういうのはもっと、事前に話してください。……親子、なんですから」
「……そうね」
未だ気まずい空気が流れるが、先ほどまでの一触即発な雰囲気は霧散した。
雫さんも腕まくりしていた裾を戻し、静観している。それはそうとエリナさん。僕の服は?
「───私は、普段両親と話す事ができません」
「エリナさん?」
お嬢様モードのまま、彼女が1歩毒島親子に近づいた。
「仕事で忙しいからとわかっていても、寂しいと思っています。理性も理屈も、こういう事には関係ない。家族との時間は、かけがえのないものなのです」
「……はい」
神妙な面持ちで、毒島夫妻が頷く。
こいつ、一番良い所だけ持っていきやがった……!なぜ、僕がこうもスラスラと夫妻の思惑を見抜けたと思っている。
全部、有栖川塾でやったところだ!ってなったからだよ!
教授が、『社会に出た時に役立つから』と、相手の視点で物事を考える時のコツとかを教えてくれたのである。自分はまだまだ未熟だが、付け焼刃の状態でもここまでわかったのだ。
昔から教えを受けているエリナさんが、わからねぇはずがねぇ……!面倒な所だけ押し付けやがったな!?
「なので」
エリナさんが、1度静かに瞼を閉じて。
「これから全員で文化祭回りましょう!そうしましょう!!」
「へっ」
突然素に戻った彼女に、毒島夫妻が気の抜けた声をあげた。
「そうと決まったら善は急げ!時はマネー!忍者は迅速!忍者走りで私につづけぇ!!」
「あ、ええっと?」
「2人とも。これが、私の友人です。エリナさんの素はコレです」
「こ、これがあの『インビジブルニンジャーズ』……?」
驚く必要はないでしょう。そんなアホな名前の組織の構成員ぞ?
ガチで走り出そうとするエリナさんの前に出て、両手を広げる。
「待って。お願いだから待って。その前に服を。僕の服をだね」
「そんな時間はないよ京ちゃん!このままじゃ碌に他の所回れないよ!」
「すぐに着替えるから。40秒で支度するから。だからお慈悲を……!」
「早速焼きそば屋さんに向かう!後に続け、『インビジブルニンジャーズ』!」
「おー」
「えぇ!?」
なにさらっと手を挙げているんですか雫さん!?貴女べつにうちのパーティーじゃないでしょ!?目が笑ってんぞセクハラドワーフ!
「わかったよ京ちゃん……」
「わ、わかってくれた……!」
「でもね、今日はお祭りだから!」
「この衣装別に法被でも何でもねぇからな!?」
「ほらよく言うだろう京太。祭りの恥はかきすて」
「言わねぇよ!?旅だよそこは!」
「まあ、わりと真面目に。もうだいぶ時間押してんだよ。そこのツルペタ金床厨二病のせいで」
「誰が金床ですかこのどチビ……!?」
「あぁん?言いやがったなおらぁん!どこ中だごらぁ!」
「昭和のヤンキーですか貴女は!」
「よぅし。あそこの輪投げで決着をつけるぞ。勝った方が焼きそば奢りな」
「良いでしょう。白黒ハッキリさせてやりますよ!」
「輪投げか。いつやる。私もどうこ」
「お前は賭けの対象外な」
「エリナさんは京太君と競ってください」
「ソンナー」
「ズボンを……!それがダメなら下着だけでもお返しを……!」
自分の悲痛な声を無視し、移動を開始した3人。それを見て呆然としている毒島夫妻。
2人に、愛花さんが振り返る。
「……その。本当に私達と一緒に回るんですか?」
「……ああ。お友達が良ければ」
「私はもちろんOKだよ!友達の家族は友達!」
「アタシも……まあ、良いっすよ。少し複雑っすけど。それでもあんたら親子は、もっと話し合った方が良いって思ったんで」
「……うっす。僕も同意見っす」
本当は気まずいので勘弁願いたいが、流石に言い出せる雰囲気ではない。
これが、民主主義……!
「じゃあ出っっぱぁつ!」
「なあ愛花。この人は本当にいつもこのテンションなのか……?」
「はい。だいたいこんな感じです」
そうして、本当に6人で文化祭を回る事になった。
自分達の出し物がだいぶお客さんを独占していたのか、もう午後の部だというのに人の流れは収まる気配はない。
何なら、グラウンドの方では例のイベントテントの前で担任の先生が必死に『本日の体験ツアーは終了しましたー!来年、来年をお楽しみにー!』と叫んでいる。……後で、お礼に行った方が良いかもしれない。
輪投げで一喜一憂したり。ベチャっとした焼きそばをやけに美味しく思ったり。手品部の舞台を見に行ったら何故か漫才を見るはめになったり。射的コーナーに行ったら既に景品がなくなっていたり。
そうして遊び歩いている間に、少しだけ……本当に少しだけだが。毒島親子の距離は縮まった気がした。
きっと一朝一夕で解決する問題ではない。それに愛花さんには兄や姉もいたはずなので、そっちとの話し合いも必要だろう。
それでも……最後にどうせだからと皆で撮った写真を、あの親子は愛おしそうに見ていた気がした。
あいにくと、嘘か真か以外はこの眼でもわからない。だから、勝手に彼女らは1歩進めたのだと思っておく。
それはそれとして。
「いやぁ、楽しかったね!」
「そうだね。時に、エリナさん」
「うん?ああ、これからテントの片づけだよね!わかってるよ京ちゃん!」
「いや、その前にこれは伝えとこうかと」
がっちりと、彼女の肩を掴む。
華奢で細い肩に、普段ならトキメキを感じるところだが。今はそれ以上の感情がある。
「お前、後で覚えておけよ……!」
「ピェ」
今日1日、女装させられた者の怒りを知るが良い。
散々道中で写真を撮られ、ナンパされ、謎のサムズアップを女装男子どもにされ。
こちらのメンタルは音をたてて削られたのである。この恨みはらさでおくべきか……!
「ご、ごめんって京ちゃ~ん!私もね?お祭りなんだし京ちゃんと周りの距離をね?」
「問答無用。後で何かしらの報復をするので覚悟していてください」
「敬語ぉ!?敬語はやめてよぉ!」
「何やってんだ、お前ら」
「あはは……まあ、仲が良いのは良い事ですから」
そこの女子2名も他人事みたいな面しているが、こっちは共犯認定しているからな……!
女装の恨みを晴らすべく、怒りの炎を胸の内で燃やしながらイベントテントへと片付けに向かった。あと着替え。
こうして、長い1日は幕を下ろす。楽しくもあり、苦労もあり、恨みもありの忙しい1日。
得た物も失った物もあったこの日は、何だかんだ良い思い出に将来はなるのだろう。
だが、しかし。この日を思い出す度に、とある『記録』も関連付けてしまう事になる。
───翌日。まだ文化祭の熱が冷めやらぬ中。
『異世界への自衛隊派遣計画』
総理大臣の口から告げられた計画に、世間は良くも悪くも沸き立つ事となった。
世界は、自分達の事などお構いなしに回っていく。歯車が止まる事は、ない。
読んでいただきありがとうございます。
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