第百十九話 巨人VS
第百十九話 巨人VS
『■■■■■■───ッ!!』
乱れ撃ちされる氷弾の中をバレルロールと三角跳びをしながら掻い潜り、敵集団へ肉薄。
一息に間合いを詰める自分に対し、機関砲のごとき攻撃をしていたヨトゥン達が後退する。代わりに剣や槍などを持った近接用意済みの巨人達が前に出てきた。
どうやら、知能は高いらしい!
『■■、■■■■■───ッ!』
突き出された槍を下方向に避けた直後に迫る、別の槍。それを左方向に回避すれば、そこにはビルのガラス窓が。
人は、いない。なら!
体当たりでガラスを粉砕し、どこかのオフィスに侵入。パソコンや書類が置かれたデスクが並ぶ室内を駆ければ、追撃とばかりに巨剣が突き込まれた。
そのまま薙ぎ払われる刃を背に、疾走。机を跳び越え、書類の山を避けて踏みつけ加速する。
眼前まで迫ったコンクリートの壁を蹴りつけ強引に方向転換し、ガラス窓へ直進。剣が振り切られるより先に、再び外へと飛び出した。
同時にフリューゲルを引っ張り、全身を覆い隠す。
大山さんがこれに仕込んだ素材は、自分の物だけではない。
『透明化』
ほんの一瞬姿が隠れれば良い。ガラスが飛び散る中、自分を捉えようとしていた巨人の剣が空を裂いた。
懐に飛び込めば、後はこちらのもの!
透明化の解除と共にフリューゲルのリソースを全て加速に回す。突撃の勢いそのままヨトゥンの首へと剣をねじ込み、炎風を流し込んだ。
巨大な肩を蹴り加速して、剣を振りぬく。背後で起きる魔力の爆発を利用して更に速度を上げながら、別の個体へと切りかかった。
『■■■■■■……!』
相手の判断も早い。構えていた剣を引き戻し、首から上の防御を固める。
だが動きが遅い。風を『概念干渉』で蹴りつけ、僅かに方向転換。柄を握る指を切り飛ばし、螺旋を描きながら降下する。その最中に脇腹と膝裏を切り裂き、アスファルトの地面に足裏を滑らせながら再度高度を上げた。
悲鳴をあげる同胞を押しのけ、こちらの背に槍を突き出すヨトゥン。見ずとも『視える』。それをバレルロールで回避し、後退した機関砲部隊に。
氷の茨を構えるが、射線上に味方がいるぞ!
『■■■■■■!!』
「撃ってくるか!」
フレンドリーファイアを無視した連射に、マントを盾にして対応。一瞬だけ振り返った背後では、指を失い負傷した個体が別個体の盾にされていた。
合理的だが、好みじゃない事をする。
強引に間合いを詰めた自分に、剣を抜くのでは遅いと素手で掴みかかりにくるヨトゥン達。
それらを掻い潜り、敵集団の中心に潜り込んだ。四方八方見えるのは敵のみ。青い肌の巨人どもが一斉にこちらを見る中、腰だめに剣を握る。
「雄々……!」
全魔力を刀身と、『炎馬の指輪』に……!
一瞬だけ球状に膨れ上がる、刀身を覆った炎。氷の爪を伸ばした巨腕が全方位から繰り出される中、全身を捻りながら剣を振るう。
───ギィィィィィッ!!
解放された炎が、熱線となって周囲を引き裂いた。深紅の刃は氷の爪を溶断し、巨人どもの体を溶断してその先にあるビルのカーテンウォールを溶かす。
半瞬遅れて火だるまに変わったヨトゥン達が、ゆっくりと胴を泣き別れさせながら崩れ落ちた。
すぐに残る敵部隊が剣や槍から氷の茨に得物を変え攻撃してくるも、無視して前進する。
フリューゲルが放出する風で飛行しながら、『精霊眼』で背後からの攻撃を予知。ステップで左右や上下に体を逃し、追撃を回避してヨトゥン達を引きはがした。
数が減れば当然弾幕の密度も落ちる。随分と広くなった隙間を縫い、目的地へと飛翔した。
「アイラさん!イヤリングからですが、現在地はわかりますか!」
『わかるか、と言いたいがこれでも天才でね!そのままビルの間を通って直進!歩道橋が見えるはずだから、そこを右に曲がれ!』
「了解!」
高度を上げ過ぎるとまた狙い撃ちにされる。
視界の端で、どこかのテレビ局か。それとも避難しようとしたのか。ヘリが氷の砲弾で撃墜されるのを目撃する。
救助は……間に合わない。そもそも着弾時に中の人達は……。
「っ……!」
『今更だが、無茶はしてくれるなよ。君の腕は2本で、頭は1つだ。全てを救えると思うな』
「わかっています……!」
奥歯を噛み締めながら、加速。
歩道橋を発見し、その十字路で風を蹴り右に曲がる。
瞬間、道路脇に止められた大量の車と、人で埋め尽くされた道路が視界に飛び込んできた。
「なっ……!」
よく考えずとも、今は本来なら夏休み期間中。街に人が多いのは当たり前であり、それが東京となればなおの事。
少し前に都内でも氾濫で大きな被害が出たが、それでも他県とは元々の人数が違うのだ。
だが、それが視覚化された事で圧倒されてしまう。これだけの人数が、まだ避難できていないのか……!?
彼らの上空を飛びながら、下から視線を多く感じる。
偶然上を見た者もいれば、縋る様に見上げる者。その中には、まだ親に抱かれる様な年齢の子供もいた。
「っ……!アイラさん、自衛隊はっ」
『無論各基地から応援に向かっているが、市街地でドンパチやるのは難しい。どこで戦っているかもわからん』
「そう、ですか」
消防や警察が誘導しているようだが、あまりに遅い。これではただの狩場だ。
案の定、避難中の市民達から悲鳴が上がる。ビルの屋上にヨトゥン達が現れたのだ。
『■■■■■■───ッ!』
雄叫びをあげて、氷の茨を避難中の住民達に向ける巨人。その先には杖をついた老人も、母親に背負われた赤子もいる。
「くそがっ!」
射線上に飛び込み、炎と風で迎撃。横薙ぎで降り注ぐ氷弾を纏めて薙ぎ払い、巨人どもへ飛翔した。
『優先順位を変える気かね』
「ついでです!」
あいにくと、自分は即断で割り切れるほど場数を踏んだわけでも理性的でもない。
平静を保ったふりをしたまま、狂っているだけだ!素面でこんな鉄火場に来られるものかよ!
迎撃に降り注ぐ氷弾を外れた分まで焼き払いながら高度を上げ、射角を強引に上げさせる。
暗くなり始めた空を背に、急降下。剣が纏う炎も推進力に変え、氷の弾雨を強行突破する。
「ガアアアアアアアッ!」
獣の様な咆哮が、喉から溢れ出た。
氷の砲弾が兜をかすめ、肩をかすめ、直撃弾のみを最低限の動きでぶれる様に回避。落下の様な降下の勢いをのせて、兜割にてヨトゥンの頭蓋を叩き切る。
股下まで降りぬいた刃。横合いから放たれた別個体の攻撃を斜め上への移動で避け、塩に変わり始めた先の巨人を盾にする軌道で旋回する。
一瞬だけ途切れる射線と視線。崩れ落ちる塩の中を、最大出力で突破した。
すぐさま再開される氷弾の斉射だが、コンマ2秒遅い。
「のろまがぁ!」
勢いそのまま刺突を眼球にねじ込み、風と炎を残して捻りながら引き抜く。
間髪入れずに眉の辺りを蹴りつけて方向転換と加速をし、次の獲物へ飛び込んだ。接近戦になると剣を抜いたその個体へ、こちらも剣を振りかぶる。
衝突する2振りの刃。轟音が響く中、衝撃に耐えきれず奴の足元が崩れた。
『■■、■■■■ッ!?』
片足を下の階に沈めたヨトゥンの顎を足蹴にして上を向かせ、喉仏に切っ先を突き立てる。
皮も肉も裂いて、その先の管に炎と風を流し込んだ。
剣を抜く間も惜しい。柄頭を踏みつけて上昇したのと、ヨトゥンの首が爆発したのがほぼ同時。
「はぁ……はぁ……」
腰の鞘に片手半剣を再構築し、抜剣。右手に武器を握り直しながら、乱れた息を整える。
体力の消費に、回復が追い付いていない。敵の強さ、慣れない空戦。何よりフリューゲルの影響か。
便利だが、随分と大食いらしい。その分の働きはしてくれているが、ちょっときついな。
「すみません、この後のルートを……!」
『謝るな。私は君のそういう所をちょっとだけ気に入っている。ちょうどその避難民の逃げ先が、合同庁舎の方角だ。彼らの流れに沿って飛べばいい』
「はいっ」
『だが忘れるな。私は顔も知らん奴らより君が大事だ。その辺の他人を助けて死ぬなんて真似、許さんぞ。絶対に祟ってやる』
「了解……」
乱れていた息が整い、小さく笑う。
変人ではた迷惑で色々残念な人だが……良い女だよ、貴女は。
その事実を再認識しながら再度飛行しようとした刹那、避難民の群れに突っ込んでいく乗用車を発見する。
何事かと目を見開けば、その車を追いかけてくる1体のヨトゥンを発見。避難中の住民達も気づいたのか、再び悲鳴が響きわたった。
「ああ、もう……!」
巨人が立ち止まり、右腕を氷の茨で包み込む。そこから連射された氷弾が乗用車の右後輪を破壊し、車は火花を散らしてガードレールに衝突した。
ヨトゥンの攻撃はそれで止まらない。機関砲をばらまきながら、腕の向きを避難民へと向ける。
「させるかぁ!」
氷塊が最後尾に飛来する寸前で割って入り、風と炎で吹き飛ばす。そのまま両腕に魔力を全力で回し、燃え盛る竜巻を敵へと伸ばした。
『■■■■■■───ッ!?』
炎に飲まれ、もがく様に腕を振り回すヨトゥン。そこへ一息に接近し、鳩尾を剣で突き刺した。
そのまま斜め上へと切り払い、盛大な血飛沫と共に巨体が仰向けに倒れる。青い肌が比喩なしに白くなっていくのを見て、小さく息を吐いた。
「どれだけいるんだ、こいつら……!」
顎から垂れた汗を掌で拭うが、籠手のせいで余計不愉快になる。頭を振って思考をリセットし、ガードレールに突っ込んだ車へと駆け出した。
消防や警察もいるが、避難誘導で手一杯に見える。住民も、他人を助けている暇がなさそうだ。
こんな事をしている時間はないのに……!
「大丈夫ですか!?今扉を開けます!」
焦りで声を荒げてしまわないよう注意しながら、急いで運転席に回って……あ、逆側か。これ、外車っぽい。
左側に運転席がある様で、そちらから黒服の大男が降りてくる。移動しながらチラチラとこっちを見ていた避難民達が更に距離をとるぐらいには、強面の男だ。
黒スーツにグラサンといういかにもな、茶髪の男。だが、チンピラというには髪も服装もきっちりしていた。
若干気圧されている自分に、彼が少し発音の怪しい日本語で喋りかけてくる。
「救援に感謝、しまス。貴方は、『Cランク冒険者』ですカ?」
「え、はい。一応」
『Bランク候補』ではあるが、書類上はまだ『Cランク』だ。嘘ではない。
というか、なんでこの状況でそんな事を?こちらは急いでいるのだが。男性に答えながら、視線を車内に向けようとする。
だが、その大柄な体で阻まれてしまった。何故?まさかよからぬ物でも運んでいるのか?
「貴方に、護衛を頼みたイ」
「無理です。警察を頼ってください」
「報酬は払いまス。3億で、どうですカ」
「知らねぇよ。後ろに乗っているのは、女性とご老人ですか。お爺さん、歩けますか?」
こちらの問いかけに、サングラス越しに男性が動揺したのを感じる。視界を塞がれようが、魔力の流れまでは誤魔化せない。
強引に後部座席のドアを引っぺがす。普段ならこんな事しないが、緊急事態だ。
本当なら他人の事より、両親を助けに行きたい。その後は、仲間と合流して脱出しないと……。考えれば考えるほど、こいつらに構っている時間はないと焦りが浮かぶ。
「事情はわかりませんが、今は避難を。警察に保護して」
『W■■s!■■■■!Fa■■kⅰ■■■■■■■■!』
「なんて?」
神経質そうな老人はこちらを見るなり何やら怒鳴っており、もう1人のやけに色っぽい女の人はこちらを見て口をパクパクさせて呆けていた。
なんだ、この映画に出てきそうな悪い科学者とその秘書。
老人の方からは苛立ちと敵意。女性の方からは恐怖を感じ取る。いや、だから何故?僕助けた側ですけど?
『■■■■■■!D■■■■■ッ!!』
「アイラさん、この人はなんと?」
『めちゃくちゃ偉そうに、自分はドクター・テスラだと名乗っているね』
「は?テスラコイルの?」
『その正統後継者とか言っているな』
「そっすか。外傷がないのなら、警察か消防、近い方に預けます」
後部座席に体をねじ込み、爺と秘書っぽい女性を脇に抱える。
何やらわめいているが、無視だ。そのまま移動しようとしたら、黒服の男が肩を掴んできた。
更に、胸甲の隙間に硬い物が押し付けられる。
「なんですか」
「その人物は、VIPでス。国際問題にしたくなければ、指示に従いなさイ」
「知らねぇと言ったはずですが?」
これ、たぶん拳銃だ。でもどうせまたエアガンだろう。
だってこの人、焦りを隠せていない。場数を踏んでいるとは思えないぐらい、精神が追い詰められているのだ。
立ち姿がエリナさんと少し似ているので、武道の有段者とは思う。だが今時チンピラにだってボクサー崩れはいるとテレビで見た。
モンスター相手にドンパチやっていて、今更そんなもんを怖がるつもりはない。何より、こっちは両親を助けないといけない。運び屋か何か知らないが、こいつらにこれ以上時間は使えない。
つうか何が『VIP』だの『国際問題』だよ。嘘をつくならもう少しマシな嘘をつけ。
そう思って無理やり歩き出した瞬間、また『精霊眼』に反応があった。
「次から次へと!」
右手に抱えていた女性を申し訳ないが放り捨て、剣を構える。切っ先を向けた先で悲鳴が上がるが、自分に対してじゃない。
ビルとビルの間を、1体のヨトゥンが走ってきているのだ。そいつが雄叫びをあげ、武器を振りかぶっている。
それを見て悲鳴をあげる爺と黒服。何やらアンモニア臭をさせ始めた女性。ああ、もう!いい加減邪魔くさい!
避難民を跳び越えて巨人に切りかかろうとした直後、別の魔力が振り下ろされた刃を止めた。
「ぬぅぅん!」
真っ黒なフルプレートアーマー。それが構えるタワーシールドが、見事巨人の剣を受け止めたのだ。
「『ソードブレイク』!」
魔力が不自然に逆巻いた瞬間、盾と接触していた箇所を基点にヨトゥンの剣がバラバラに砕け散る。
バランスを崩した巨人の肩に、別の覚醒者がいつの間にか飛び乗っていた。白い着物に、黒い袴姿。そして腰だめに構える日本刀。
「秘剣……『カミキリムシ』!」
高速で振るわれた刃。この眼でも追うのがやっとの2連撃が、巨人の首を切り落とした。
1撃目で肉を断ち、間髪入れずに振るわれた2撃目が正確に骨の隙間を切り裂いた……のだと思う。
なんという剣士、いや侍だ。あの盾使いといい、強いぞこの2人……!
驚愕しつつも、状況的に味方だろう。あちらもこちら側に振り返り、視線があった。
……はて?彼らの魔力に見覚えがある気が。
着物の片側をはだけさせ、右肩を出している老剣士の方は顔にも覚えがある。はて、どこで会ったのだったか。
「む。もしや君は、『インビジブルニンジャーズ』か?」
「え、どこでその名前を」
フルプレートアーマーの男性が、面頬をあげこちらを見る。
その恥ずかしいパーティーを知っているという事は、やはりどこかで会った可能性が高い。いや、あの自称忍者がストアで度々叫んでいるから、そっちの可能性もあるが。
「君の仲間が名刺を配っていたので、よく覚えている。強いのに変な奴がまた増えたとな」
「えっ」
……まさか。
「この格好ではわからないか」
「仕方ない。我々は普通過ぎて、あの場では浮いていたしな」
「ちょっ」
こちらが止める間もなく、『魔装』を解除する2人組。
そうして現れたのは───肌色だった。
「あの時と同じ服装なら、わかるかな?」
服を着ろ。
「多少おしゃれをしたのでな。印象に残っているかもしれん」
引き算すればお洒落だと思うな。
片やカウボーイハットにネクタイ、星条旗ブーメランパンツ姿のおっさん。豊かな胸毛を蓄えた厚い胸筋と、その先端を隠す星形のニップレス。
もう片方は、首から上だけなら若い頃さぞや浮名をはせただろうイケ爺。首から下は赤褌と下駄のみの浮浪者。何故かこっちも黒いハート形のニップレスを付けていた。
まさに歩くショッキング映像。思い出した。というか思い出したくなかった。
記憶の奥底に封印し、忘れたふりをしていた怪物の出現に兜の下で真顔になる。
「改めて久しぶりだな、『インビジブルニンジャーズ』」
「あ、はい。どうも。早速ですが、このお爺さんをお願いできますか?」
色々とツッコミたい事はあるが、今はもうなんでもいい。両親が心配だ。
2人の為なら、この無礼な老人がどうなろうと死ぬ以外知った事じゃない。
『Cr■zy!■■■■■!■■■■■!Mons■er!!』
なんて言っているかわからないが、『クレイジー』と『モンスター』だけは聞き取れた。
きっとこの人とは生まれた国が違うけど、この変態どもに対しては共通認識をもてるらしい。ちょっとだけ哀れに思ったが、死ぬよりはマシだと割り切ってもらおう。
「む、どうやら錯乱しているな。任せたまえ。私はこう見えて日米ハーフでね。英語は堪能なのさ」
白い歯をキラリと輝かせる星条旗ブーメランオヤジ。
「お願いします。あと、あっちの方にエアガンを持った黒スーツにグラサンの男と、放心状態の女性もいます」
「なんと。それはすぐに向かわねば。近くに警察の車もあったはずだから、そこに届けるとしよう。そちらの男女も、この状態で混乱しているに違いない」
長い黒髪を頭の後ろで結った、褌爺が深く頷く。
「突然こんな事をお願いしてすみません。両親が東京に来ているんです。探さないと」
「ご両親が……わかった。ここは我々に任せろ!」
「ああ。親孝行な少年だ。武運を祈るぞ」
「ありがとうございます。失礼します」
格好以外はとても紳士的な2人に礼を言い、数歩をほど距離をとってから跳躍。そのままフリューゲルで高度をあげる。
『■■■■■■!■■■■■!Help!Help!!』
「酷く怖がっているな……巨人に襲われた恐怖故か。仕方ない。私の胸に顔をうずめて、周囲を見ない様にすると良い。必要なら乳首も吸ってくれて構わないよ」
「錯乱している男女はあそこか。安心しなさい!もう大丈夫だ!さあ、水でも飲んで落ち着いて。おっと、この玩具は預からせてもらうぞ」
老人の顔を豊かな胸毛にうずめ、赤子でもあやすように揺らす星条旗ブーメラン。褌から取り出した水の入ったペットボトルと、エアガンを一瞬で交換する褌爺。
その光景を一瞥だけして、合同庁舎に飛翔する。
『なあ、京ちゃん君。彼ら』
「優先順位があるので」
『う、うむ』
そう言えば、あの老人はずっとカバンを大事そうに抱えていたが何が入っているのだろうか?……まあ、それもどうでも良いか。
何にせよ、避難民に彼らが合流したのなら護衛は十分だろう。
戦力的な心配はない。最大速度で目的地に向かった。中央合同庁舎が並ぶ場所は、どうやら仮設の避難所になっているらしい。警察が近隣の人達を誘導している。
いや、警察だけではない。
「皆さん、冷静に!落ち着いて避難してください!」
「この避難所は『ウォーカーズ』と自衛隊、そして『Bランク候補者』達に守られています!」
「自衛隊の救援部隊は既に基地を出ていますから、助けはもうすぐ来ますよ!」
『ウォーカーズ』
両親も最近所属した冒険者団体が、警察と一緒に避難を助けていた。
その光景に、張り詰めていた緊張の糸が切れかける。だがまだだ。両親の姿を確認するまで、安心はできない。
視線を必死に巡らせていると……。
「あれは」
見知った顔を発見し、目を見開いた。
トラックの上からメガホンで避難誘導をしている人物に、失礼だが上から近づく。
「山下さん!」
「……えっ」
『ウォーカーズ』のギルドマスター。山下博さんがそこにいた。
読んでいただきありがとうございます。
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