第十四話 コボルトと
第十四話 コボルトと
───時は少し遡る。
当面の目標に『レベル上げ』も追加された、翌日。自分達は早速近場のダンジョンに来ていた。
月曜の放課後だけあって気だるさはあったが、ダンジョンストアに着く頃には気持ちもリセットされている。
というか隣とイヤリングから聞こえるマシンガントークのせいで、学校でのテンションから強制的に上書きされているだけだが。
そんな漫画に出てくる一流の兵士みたいに、自力でメンタルコントロール出来たら苦労はしない。というかコミュ障にもなっていない。
何はともあれ、辿り着いたダンジョンは『コボルト』のダンジョンだ。
『コボルト』
冒険者試験で戦ったゾンビコボルトの、上位……というより、本来の姿。
ゾンビ化していない分、毛皮はしっかりと防具の役割を果たし、なおかつ武器を使う知能もある。『Eランク』に相応しいモンスターだ。
しっかりと準備を整え、ゲート室に。
白い扉を前に、深呼吸を1回。装備の最終チェックを行う。アイラさんとの通信も良好。エリナさんと頷き合い、彼女が自分の肩に手を乗せたのを確認しゲートを潜った。
一瞬の違和感。浮遊感がないのに足場が消えた様な、気色の悪い感覚の後、足裏に硬い地面が触れた。
剥き出しの岩肌が、人工の光で照らされる。手作業で掘られたと思しき坑道は古い木材で補強され、壁には自衛隊のライトが固定されていた。
スケルトンのダンジョンと違い、こちらでは照明が破壊される事は無い。コボルト達もまた、明かりに頼るのである。元々は光る謎の鉱石が飾ってあったらしいが、自衛隊が回収したとか。
「エリナさん、警戒をお願い」
「合点」
彼女に一声かけてから、白蓮を取り出し地面に置く。そのままゴーレムボディを錬成し、コボルトの写真を見せ指示を出した。
これにて準備は完了。探索を始められる。
「アイラさん、ナビをお願いします」
『うむ。くれぐれも油断しない様に。2人とも気を付けるんだよ』
「はい」
「おっす!」
ゾンビコボルトの時と違い、このダンジョンの空気はどこか乾いていた。
岩肌もどこかザラザラとした印象があり、白蓮の重い足音が響く。
そうして進んでいくと、エリナさんが声を上げた。
「前の方から足音が向かって来ているよ。数は2体」
「了解」
右手の片手半剣を握り直し、左手をナイフに伸ばす。
このダンジョンは、通路がとても広い。幅も高さも4メートル近いのではないか。
コボルトには適さない大きさである。彼らが掘ったわけではないのか、はたまた別の理由か。
だがその辺りの事情はどうでもいい。自分には、剣を問題なく振るえる事が大事だ。
『ヴォ!ヴォ!』
犬の様な鳴き声と共に、タッタッという小さな足音をたてて犬面の怪物達が姿を現す。
身長160センチほどの、二足歩行の犬。手には鉄の警棒を持ち、ギラギラと目を光らせ毛を逆立てていた。
コボルト。その眼光は、ゾンビの時よりも圧がある。
射程距離に入るなり、投擲。小型ナイフと棒手裏剣が飛んでいき、右側の個体に迫る。
そのコボルトは警棒を盾代わりに掲げると、棒手裏剣を防いでみせた。ナイフが左肩を浅く抉るのも無視し、こちらへ向かってくる。
『ヴァ!!』
雄叫びと共に、右の個体が警棒を振り上げて襲い掛かってくる。
だが、遅い。逆袈裟に振るった剣で右脇腹から左肩にかけて切り裂き、素早く刃を翻して首を裂いた。
これまでと違い、血も肉もある存在を斬った感触。お世辞にも心地よいとは言えないそれに、顔をしかめそうになる。
ゴボリ、と血を溢れさせて倒れた個体に剣を向けたまま、視線をもう1体に向ける。
白蓮と相対する方は無茶苦茶に警棒を振るうも、それを岩の両腕でガードされている様だ。
決定打を出せぬそのコボルトの片目に棒手裏剣が突き刺さり、短い悲鳴が上がる。
次の瞬間には白蓮の脇から細い腕が伸び、忍者刀が怪物の喉を貫いた。かと思えば素早く刀身が捻られ、引き抜かれる。ぶしゃりと血が噴き出し、コボルトは仰向けに倒れた。
2体とも塩に変わるのを見届け、小さく息を吐く。
スケルトンより速いが、力はそれほどでもない。毛皮と肉の分少しだけ頑丈だが、こいつもレッサートレント程ではなかった。
……むしろ、レッサートレントがランク詐欺に思えてくる。アレの方が個人的には厄介だ。
そんな事を考えつつ、コインを回収。エリナさんに振り返る。
『2人とも、無事な様で何より』
「はい」
「うん。楽勝快勝圧勝だね!ドヤッ!」
ドヤ顔で胸を張るエリナさんに、コインを手渡す。
……あまり、胸を張らないで欲しい。つい小さく揺れる巨乳に視線が行きそうになる。理性を総動員して、耐えたが。
『コボルト相手でも問題なさそうかな?』
「たぶん、ですけど……」
「私も大丈夫だよー」
『よろしい。ではいつも通り、探索をしていこうか』
短くアイラさんに答え、移動を再開。自衛隊のペイントを頼りに進んでいれば、再びエリナさんが声を上げる。
「京ちゃん、向こうの角からこっちにコボルトが来るよ。数は3体」
「わかった」
十字路に差し掛かった所だったので、少し後退。右側の通路の方に意識を向ける。
それから数秒後、角から勢いよくコボルトが姿を現した。
認識すると同時に、ナイフを投擲。その個体の脇腹に突き刺さり、棒手裏剣が眼球を抉った。
『ギャッ!』
ふらつきながらこちらを向こうとしたコボルトの顔面に、再び棒手裏剣が飛ぶ。口腔に飛び込んだソレは、喉奥へと消えた。
それによって倒れる先頭。無残な死を遂げた同胞を一瞥する事もなく、獰猛な顔をした後続2体が自分達へ得物を振り上げて来た。
片手半剣を両手で握りながら、前へ。
前回、2回振るうとその後に隙が出来ると指摘された。なら……。
魔力の風を纏わせた剣を、一閃。2体まとめて壁と挟む様に振り抜いた。
『ゴッ』
『ヴォ!』
呻きながらバランスを崩すコボルト達。流石に1撃で仕留める事は出来なかったし、毛皮の分2発でも倒しきれないだろう。
だが好機だ。ふらつくコボルトに斬りかかり、相手が警棒で防ぐ間もなく首を斬り裂く。
隣の個体は慌てて得物を構え直すも、迫って来た白蓮にどちらを攻撃するか迷うそぶりを見せた。
その隙に左腕を切り落とし、顔面に拳を叩き込む。勢いよく飛んだコボルトは、壁に叩きつけられて『ぐしゃり』と嫌な音をたてた。
動かなくなり、塩となったコボルト達。それを確認し、コインを拾い上げる。
『……今更だが、見た目は犬に近いモンスター相手だ。罪悪感とか、吐き気とか。もしあったらすぐに言ってくれ』
「いえ……わりと大丈夫です。良い気分ではないですけど」
「私は犬追物みたいでテンションが上がる!!」
「えぇ……」
それはそれでどうなのかと、ちょっとエリナさんに引く。
まあ、斬り殺している自分がとやかく言う事でもないけど。
「見た目が明らかに普通の犬じゃないですし、モンスターって割り切っているので」
『そうかね。ちなみに犬好きな私は地味にダメージを受けているよ……』
「貴女が吐きそうなのかよ……」
大丈夫かほんと。
『安心したまえ。後で可愛い子犬動画で癒される予定だ』
「そうですか……」
『何より、君達にこういう仕事を回しているのは私だ。弱音は偶にしか吐かないよ』
「……はい」
『そして酒を飲んだ後も吐かない』
「オチをつけようとして失敗しました?」
『指摘しないでくれ。私の芸人魂がボケろと叫んだのだ……!』
「いや芸人じゃないでしょ」
『!?』
「すみません、それもうエリナさんがやったんで」
『なん、だと……!?』
「ドヤさ!」
だから胸を張るな巨乳忍者。煩悩が刺激される。
美貌にバカみたいなドヤ顔を浮かべるくせに、スタイル抜群過ぎて脳がバグりそうだ。そっと顔ごと視線を逸らしながら、コインをエリナさんに渡す。
「これ、お願いします」
「あいよ京ちゃん。あとなんで顔そむけてるの?」
「いえ、周囲の警戒を」
「むー。また敬語に戻ってる」
「……気を付けるよ」
「で、あるか!!」
相変わらず声がでけぇ。
『京ちゃん君』
「何ですか?」
『エッチな妄想は、ほどほどにね!』
「仕事に集中しろ残念女子大生」
『はーっはっはっは!』
お願いだから思春期の柔い部分を攻撃しないでほしい。引き籠るぞ、マジで。
兜の下で眉間の皺を深くしながら、探索を続ける。ダンジョンに入って20分ほど。入り組んでいる分距離もあり、ようやく出口に到着する。
壁にマーキングをし、再びダンジョン内を歩き始めた。
道中、何度かコボルトと交戦するも特に苦戦する事もなく撃破。ドロップ品がコインのみな事に落胆しつつも進んでいき、大きな部屋にたどり着いた。
ゾンビコボルトのダンジョンにもあった、古びた長椅子や机が並ぶ部屋。しかしあそこのよりこちらの方が広く、そして崩れている箇所が多い。
机はどれも腐り果て床に散らばり、椅子も大半が原形を辛うじて保っている程度。部屋の両サイドには木製の棚が並んでいるのだが、そちらもボロボロだ。
更に部屋の奥にはカウンターの様な物があるので、ここは食堂だったのだろう。コボルトが使っていたとも思えない。机や椅子の高さが合わないのである。
本当に、何があったのやら……。
内心の疑問を表に出すでもなく、部屋の隅で散らばる木片をどけてスペースを作った。
「じゃっ、実験を開始します。メス!」
「え?えっと……」
『ジョークだから真に受けないでくれたまえ、京ちゃん君』
「ふふん。京ちゃんもまだまだ修行が足りないね!」
いっぺん頭ぶっ叩こうかこの自称忍者。
「分かり辛いボケはやめて……」
「分かり易いボケならいいのか!いいんだ!!」
「いやまずダンジョンだから。ダンジョンでふざけちゃダメだから」
「はーい、せんせー」
『せんせー!友達はどうやったら作れますかー!』
「それはね。先生も知りたいです」
小さく首を振りながら、ガスバーナーやトンカチをアイテムボックスから取り出すエリナさんを背に、白蓮と見張りを始めた。
ダンジョンには、ゲームみたいに安全地帯はない。道中で見つけた敵はレベル上げの為にも全て倒したが、この先にも通路はあるのだ。そっちから来るかもしれない。
白蓮に向こうの扉を見させ、自分は全体に目を向ける。
幸い、椅子も机もほぼ壊れているからコボルトが隠れる場所はない。隠れても、魔力の流れでわかる。
こういう時こそこの『眼』の使い所だと、張り切って見張りをする事30分ほど。
「ん?」
アイラさんの指示でコインを何かの溶液に浸けていたエリナさんが、小さく声を上げた。
『どうかしたのかね、エリナ君』
「なんか悲鳴が聞こえた気がした」
「悲鳴?」
視線を食堂内に向けたまま、背後に問いかける。
「うん。あ、また聞こえた。段々こっちに来てる」
「……別のパーティーでしょうか」
『かもしれないね。2人とも、念のため戦闘準備を』
「はい」
「戦じゃー!」
エリナさんが機材をしまう間、剣を握り直しより一層周囲を警戒する。
「片付けたよ!じゃ、いこっか!」
「うん……いや、その、どっちに?」
見捨てるか、帰るか。
その判断がつかず、エリナさんに振り返る。
『そうだな。普通に考えれば助ける義理はな』
「取りあえず様子を見てから考えよう!」
『うん、言うと思った』
イヤリングからは、苦笑まじりの声がする。
『京ちゃん君はどうしたい?』
「……同じ意見です」
『わかった。でも無理はしないようにね」
「はい」
「オッス!忍法、隠形の術!!」
だからでけぇって。
無駄に印を結び『透明化』を発動したエリナさんに続き、自分達が来たのとは反対の扉を潜る。
少し行った先で、直線の通路をこっちに向かって走って来る人達を見つけた。
「誰か、誰かぁあああ!」
「ひいいいいい!!」
血相変えた男女が4人。うち1人は中世の兵士みたいな魔装を着た男性に背負われている。
4人パーティーとは珍しい……のか?確かわりと珍しいはず。
兎に角、数体のコボルトに追われている様だ。それだけならまだしも、その奥に一際大きな影がいる。
『ヴオオオオオオッ!』
雄叫びをあげるその怪物は、身長2メートルを超えていた。
全身を黒い体毛で覆っているが、所々に鱗の様な物が生えている。そして、頭には鋭い1本角。
シルエットはコボルトに似ているが、明らかに異なる姿。片手にメイスを掲げたこの怪物は『コボルトロード』。
このダンジョンの、ボスモンスターである。
「っ!?」
先頭を走っている、弓を背負った猫耳の女性がこちらに気づく。エリナさんは見えていない様で、その奥にいる自分と目が合った。
「に、逃げ、逃げて!」
そう言いながらも、4人はこちらに向かって来ていた。まあ、道が一直線なのだから仕方がないのだけれど。
というか、のんびり見ている余裕もない。食堂に退きながら、イヤリングに声をかけた。
「アイラさん。コボルトロードのステータスは、僕より高いですか?」
『いいや。総合的に見て君の方が強い。だが、やる気かね?』
「……どうしましょう」
逃げるか、戦うか。
どちらかすぐに選ぶべきなのだが、冷や汗が出るばかりで答えを決められない。
これ、自分達が逃げたらあの人達はどうなるの?自衛隊のいる所まで走れそう?でも追いつかれそうだったよな……。
じゃあ戦うか?でも相手はボスモンスターだぞ。他人の為に、そんなリスク……。
「京ちゃん、迷ってる?」
「え、うん……」
「ならさ!」
決めあぐねていた自分の正面に回り込み、エリナさんがロープの端を渡してきた。
「私に付き合ってほしいな!助けようよ!」
「───わかった」
思考停止しかけていた頭に、彼女の言葉がスッと入る。我ながら情けないが、誰かに答えを貰えてホッとしてしまった。
正直、自分で考えるより指示に従う方が性に合っている。
そそくさと扉の影に隠れ、エリナさんと向かい合った。
開けっ放しの戸を4人組が駆け抜けた直後、持っていたロープを『ピン』と張る。
『ヴォ!?』
もう少しで捕らえられる獲物を前に、視野が狭くなっていたのか。5体のコボルトは先頭が躓くなり纏めて倒れ伏した。
「とう!」
すかさず、エリナさんが網を投げる。そんな物まで持ち込んでいたのかと、目を丸くした。
だが、驚いている暇などない。彼女が忍者刀をコボルト達に向けるのを見て、自分も片手半剣を突き立てる。
碌な抵抗も出来ず、2体が死亡。続けてもう1体の胸を貫いた所で、力強い雄叫びと共にコボルトロードが部屋に入って来た。
慌てて飛び退くと同時に、ロードがこちらを睨みつけて鉄塊めいたメイスを構える。
『ヴルルル……!!』
血走った目は、通常のコボルトと同じ。だが、まるでテレビで見た警察犬の様な知性も感じられた。
その視線に、背中を冷たい汗が伝う。
……早まったかもしれねぇ。
後悔してももう遅い。下手に背中を向ける方が危ないと、硬い唾を飲みながら剣を構えた。
投網から這い出て来た残る2体のコボルト達に、死角から棒手裏剣が飛ぶ。
『ギャッ!』
『ヴァ!?』
どうやら、コボルト達にエリナさんは見えていないらしい。『透明化』は有効か。
混乱する奴らに白蓮がのそのそと近づき、注意がそちらに向く。
だが、コボルトロードは自分だけを見ていた。メイスを両手で握り、雄叫びを上げる。
『ヴァアアアアッ!!』
大上段に振り上げられたメイス。リーチはあちらが圧倒的に上。その上動きも素早い。
先にロードの攻撃が届く。
だが、
「ふぅぅ……!」
この『眼』には、遅すぎる。
振り下ろされるメイスを横に避け、岩肌の地面と鉄塊がぶつかった瞬間に奴の腕へと剣を振るった。
右手の親指を、切断する。風で加速した剣は思いのほか簡単に肉も骨も斬り裂いた。
『ガ、ァァアアアアアアッ!!』
悲鳴とも咆哮ともとれる声を上げ、コボルトロードが左手でメイスを横薙ぎに振るってきた。
それを屈んで避けながら、懐に飛び込む。
勢いそのまま剣を突き込めば、ロードの脇腹を容易く貫いた。
が、
「っ!?」
抜けない。腹筋が強い!
動かない剣に焦る自分へと、コボルトロードは歯を食いしばりながら指の欠けた右腕で掴みかかってくる。
慌てて、その腕を左手で掴んで止めた。反射的な行動だったが、風の助力もあって普通に押さえ込める。
続けて刀身に纏わせていた風を放出。傷口の血肉を押し広げれば、頭の上から苦悶の声が響く。
間髪入れず、剣を捻り上へと全力で振り抜いた。盛大に血飛沫が上がるも、身体に纏った風が全て弾く。
脱力し目の前で両膝をついたコボルトロードの首に、一閃。太い首を断ち切り、ごとり、と頭を地面に落とした。
初めての『対ボスモンスター』。それは、結果だけ見ればあっさりと終了する。
だが、内心は穏やかではない。というか今になって心臓がバクバクと自己主張し始めた。
あっっ……ぶねぇ。剣が抜けないなんて、レッサートレントの時も経験したのに……。
冷や汗をダラダラと掻きながら、視線を白蓮とエリナさんの方に。丁度、残る2体も塩になった所だった。
ほっと息を吐き、剣を下ろす。
……咄嗟に従っちゃったけど、凄い事をした気がするのだが。
ボスモンスター、倒しちゃったよ。講習で散々『見かけたら逃げろ』って言われていたのに。
遅れてやってきた恐怖と興奮に再びフリーズしていると、エリナさんがトテトテとやってくる。
「京ちゃん、無事ー?」
「え、あ、うん。そっちは?」
「一切問題なし!」
Vサインをするエリナさんに、思わず苦笑する。
「でも京ちゃん。突きはね、必殺技だよ!決める時以外ダメ!」
何やら虚空に正拳突きをしながら言ってくる自称忍者。
いや拳の突きと剣の突きはだいぶ違くない……?そう思うも、言っている事はもっともである。というか、痛感した。
「以後気を付けます……」
「ならばよし!」
『いやぁ。ヒヤヒヤ……は、する暇もなく終わったが、2人とも大丈夫そうで何よりだよ』
イヤリングからの声に、返事をしようとした時。
「あ、あのぉ」
「え?」
背後からかけられた声に、ビックリして振り返る。
そこには、中世の兵士っぽい恰好の人と他3人の冒険者がいた。
……ロードを前にした辺りで、この人達のこと忘れてたわ。
「あ、どうも」
「え、はい。どうも……」
何とも気まずい思いのまま取りあえず会釈したら、思わずという様子で兵士っぽい恰好の人も会釈してきた。
彼含め4人とも、気の抜けた様な、いまいち状況が把握できていない様子で呆けている。漫画なら『ポカーン』と擬音がつきそうだ。
……どうしよう、この空気。
床に散らばる大量の塩の中で、目を泳がせた。相手は呆けた様子の見知らぬ大人達。こちらには自称忍者と残念女子大生、そして自分。
……誰か、助けてください。
読んでいただきありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。いつもありがとうございます。どうか今後ともよろしくお願いいたします。




