閑話 動き出す大人達
閑話 動き出す大人達
サイド なし
とある在日米軍基地。
その中にある、窓の無い一室。
大して広くないその部屋に、数人の男達が難しい顔で集まっている。
もしも軍事に詳しい人間が見れば、彼らの軍服についた星と線の数に驚いたかもしれない。なにせ、この場には佐官以上の者しかいないのだから。
『我が軍の覚醒者率はやはり高くないな。中隊に1人いるかいないかだ』
スキンヘッドの大佐が、バサリと手に持っていた紙の束を机に置いた。
電子化が進む現代では、紙の資料の方が漏洩しにくい場合もある。それは、在日米軍でも同じであった。
無論、全てがそうではない。だがこの資料に関しては、会議終了後に即焼却する事が決まっている。
『やはり、日本にいた期間が長い兵士ほど覚醒の割合が多いな』
『学者はなんと?』
『御用学者に聞いても首を斜めに捻るか、長々と中身のない事を喋るだけだ。奴ら、『わからない』という言葉すらわからないらしい』
『シャーマン連中からは、この土地の地脈との親和性が関係しているそうだ』
『それは覚醒者のシャーマンか?』
『無論だ。従来のシャーマンどもの知識は、半分も使い物にならん』
『だが、まさかシャーマンの言う事を、我ら米軍が大真面目に耳を傾けねばならん日が来るとはな……。今は21世紀だぞ』
苦笑ともため息とも取れるものが、室内を満たす。
『これからの時代、覚醒者の兵士は必要だ。特に陸戦に関してはな』
『空の事も忘れてくれるなよ。頑丈さが取り柄の覚醒者を乗せた戦闘機が、マッハ23でパレード用の曲芸飛行を成功させたんだ』
『海での戦闘でも変わってくる。覚醒者の中には水中に完全適応した者もいるらしい。まだその辺りの人材確保が進んでいないので詳しいデータはないが、潜水艦と並んで泳げる者もいる可能性がある』
一瞬、集まった佐官達の視線がぶつかり合う。
『……何にせよ、覚醒者の数が増えんと話にならんな』
『例の日本に作らせた覚醒支援施設とやらの状況は?』
『あまり芳しくありませんな。かき集めた霊薬の投与。魔道具の強制使用。魔法の付与……色々試していますが、どれも望んでいたほどの効果は出ていません。特に、覚醒者が血縁にいない者だと成功の割合も大きく落ちます』
『今のところ一番成果を出しているのは、魔道具を使わせてモンスターを倒した場合ですね』
『非覚醒者に魔道具を起動させるのは、中々にコストがかかるのだがな……』
ズラリと並んだ『0』の数を思い出したのか、一部の佐官が苦い顔で眉間を押さえる。
『日本から出させるのも限界がある。多少はこちらの予算も割かんとならん』
『そうだな。しかし、やはり打開策はほしい。ドクター・テスラは、いつこちらにやって来る』
とある将校の問いかけに、傍に控えていた少佐が手元の資料を見ながら答える。
『予定では1週間後ですが、あちらの状況次第では前後する可能性もあると』
『まったく……あのオカルト博士が、こんなVIPになるとはな』
『仕方あるまい。彼は資料室の奥底で埃を被っていたあの設計図を見つけ出し、形にしたのだからな』
彼らが持つ資料の束。その一番上に書かれた文字。
ただ短く、素っ気ない書き方でこの様に記されている。
『プロジェクト・テスラ』
テスラ博士……現代に生きて、そう呼ばれている老人ではなく。1943年に亡くなった、あの天才科学者の名を関した計画。
あの老人がその名で呼ばれるのも、彼の遺した設計図を読み解いた者だからこそであった。
全ては───たった1人の天才が遺した、1枚の紙きれから始まった。
会議が進む中、1人の佐官が手をあげる。
『非覚醒者に魔道具を使わせる件だが……たしか、『錬金同好会』だったか?あの変態どもが面白い発明をしたと聞いたぞ』
その佐官が、フレームの細い眼鏡を軽くあげる。
『なんでも、マギバッテリーの改良型。非覚醒者でもボタン操作で貯蔵されている魔力を使う事ができるらしい』
『ほう、そいつは何とも素晴らしい』
『是非我々に協力してほしいものだ。アメリカと日本の未来の為にも』
ギラリ、と。彼らの瞳に剣呑な光が宿る。
それが向けられるのは、お互いに対してだった。
祖国から離れたこの地に集まり、同じ国の同じ軍人としてシンパシーを感じないわけではない。
だが、予算も人員も、何より『椅子』の数も有限だ。仲良しこよしだけの者など、この場にはいない。
既に、覚醒支援施設ではパイの取り合いになっている。『多少強引な手段』を使ってでも、強力な覚醒者は自分の派閥の所有物にしようと互いの足を机の下で踏み合っていた。
『それで。その道具は現在どこで、どの様に使われているんだ?』
『ラブドールの充電だ』
『なんて?』
この時、この瞬間だけ。
『ラブドール型ゴーレムの、エネルギー補給に使われている』
『ク、クレイジー……!!』
彼らの心は、1つになった。
* * *
千葉県、某所。
東京からは少し距離がある、南側の人気のない集落近く。そこに、とある工場が建っていた。
道路などのアクセスは異様なまでに整えられているのに、車の通りはほとんどない。そのうえ、工場周辺には軍事施設かと見紛うほどの警戒網が敷かれている。
その中の、数十人が入れそうな一室。そこに、20人ほどの男女が集まっていた。
全身を黒いローブと頭巾で覆い、肌の露出は一切ない。その異様な雰囲気は、何かしらの邪教に関わる集団に思えた。
「諸君」
その中で、上座に立つ男。彼が、手に持ったグラスを高々と掲げる。
血の様に赤いワインが、小さく揺れた。
「『ホムンクルス嫁』へ至る、大いなる道の1歩目を踏み出した事を祝して、乾杯!!」
「「「乾杯!!」」」
ある意味邪教のボスが高らかに宣言し、それにメンバー達もグラスを掲げて答える。
『錬金同好会』がそれぞれ資金とコネを出し合って作り出した、大規模な工場である工房。
それが作り出すのは、ただ1つ。
「いやー、まさかラブドールの工場を作るのがこんなにも大変だとはなー」
「ま、一番大変だったのは表向きにこの会社の社長を誰にするか決める事だったけどな!」
頭巾の上からでもわかるぐらい、彼らは満面の笑みで語り合う。
その頭巾を上にずらし、酒を飲むメンバー達。彼らはその錬金術の豊富な知識を用い、ラブドールの生産と販売に着手したのである。
販売予定のドールの値段は、税込みで100万円。
かなりの高額であるが、販売前であるにも関わらず既に予約が殺到していた。
というのも。
「これはまだ第一歩に過ぎない。理想のホムンクルス嫁を作り出し、それと共に公然と街中を歩いて良い社会への……!」
「我々が売るのはただのラブドールではない。『動くラブドール』……『ホムンクルスもどき』搭載の、ゴーレムなのだからな」
立つ。歩く。表情を数パターンながら変更可能。簡単な動作なら学習可能。
身体能力は、成人男性を『10』としたのなら『8』や『7』程度と非力ながら、日常生活には問題ない。それこそ、お湯を沸かしたり洗濯物を畳む程度なら可能な判断力さえ持つ。
更には有料のオプションパーツで、人工音声とスピーカーも搭載可能。パターン化した言葉しか喋る事は出来ないが、声つきで『プレイ』に興じられる。
世界中の男達が、一部の女達も、この情報が公開された瞬間から発売日を待ち望んでいた。
それこそ、クリスマスを待つ幼子の様な瞳で。
なお、『お前らそれ、ラブドールじゃなくって家事手伝いロボ的な物として売れば?』というツッコミは無粋である。
実際『ウォーカーズ』の山下からそう言われた際、副会長は全ての同好会メンバーの声を代弁しこう答えた。
『ラブドールって言った方が……エッチじゃん……!』と。
彼らはバカだった。頭の良い努力家なバカだった。
「しかし、ただラブドールを売るだけでは顰蹙を買い過ぎる」
「だからこその、医療関係への技術提供だからな」
同好会は理想のホムンクルス嫁を作る過程で、内臓の再現や人工筋肉に関する造詣を深めている。
研究中に発見、あるいは作り上げた道具を医療系の大学や研究機関へ『寄付』したのだ。
「実際に患者へ魔法やそれに類する物を使う事はできない」
「だが、医者の卵が非常に精巧な人形で練習するのは自由だし、工学技術100%の義肢を作る上でも『どこをどうやって動かす』かのデータや見本は大事だからなぁ」
頭巾の下でいやらしい笑みを浮かべる変態達。
やっている事は間違いなく立派なのだが、その動機は下心オンリーである。こういった社会的な貢献をしているのだとアピールし、世間からのバッシングを減らす算段であった。
何がアレって、法的にも倫理的にも間違いなく善行ではあるのが始末に負えなかった。
「副会長。各地に作る予定の『マギスタンド』の建設は?」
「全国56カ所、全て滞りなく」
会長の問いかけに、副会長が大仰にお辞儀をしながら答える。
「よろしい。非常によろしい。我々が心血を注いだこの計画。絶対に成功させなければならない」
『マギスタンド』
ようは、魔力のガソリンスタンドであった。
販売したラブドール型ゴーレムは、当然魔力で稼働する。出力をかなり下げる事で小型マギバッテリーでもある程度稼働する事は出来るが、いつかはエネルギー切れが起きるのは当たり前だ。
しかし、購入者には非覚醒者もいる。
未だ日本人の大半は非覚醒者であり、社会を形作っているのは彼らだ。それを蔑ろにしては、同好会の目標は達成されない。
故に、非覚醒者でも魔力を補給できる場所と道具を作った。
非覚醒者でもパネルを操作するだけで、誰の色にも染まっていない魔力を地脈から供給。それによってゴーレムを起動させる。
基本的にゴーレムは『魔力を流し込んだ者』の命令を聞くものであり、この場合パネルを通して非覚醒者でも無自覚に発している魔力を覚えさせる事ができるのだ。
ワインに一滴泥水を垂らせば、それはもう泥水である……などと言う事があるが、魔力においてもそれは同じ。誰かが干渉した段階で、その魔力の『色』は変わる。
それを利用し、非覚醒者でも自分の命令だけを聞くラブドール型ゴーレムを手に入れられるのだ。
「まあ、自衛隊と米軍。両方から『おい。お前らおい。なんだこの技術おい』と真顔でがん詰めされましたが」
「その辺は全て山下君に任せるから問題ないな!」
「異議なし!」
「ありがとう『ウォーカーズ』」
「フォーエバー『ウォーカーズ』」
とある猫耳な青年の10円ハゲが500円ハゲにランクアップしたが、後日副会長が毛生え薬を差し入れするので問題ない。
この薬に関しても一波乱あるが、それはまた別の話である。
「しかし、医療技術の協力に関して『米国』と契約を結ばねばならなかったのは痛手でしたな」
「うむ……」
「どうしてですか?あの国と日本って、仲良いじゃないですか。ダンジョン災害について、一番支援してくれている所ですし」
「まあ……」
「そうなんだがな……」
メンバーの問いかけに、会長と副会長は言葉を濁す。
彼らの表向きの立場でも、微かにしか聞こえない噂。それを統合して考えると、米国に同好会が関わるのは非常にリスクが高い。
場合によっては、噂に聞く『中東の結界師』の様な事になる。
「だが、その辺は赤坂君に考えがあるらしいな……」
「ええ。しかし、彼もまた随分と酷い親ですよ」
会長の言葉に、副会長は大きく肩をすくめた。
「まさか、実の娘を同好会の末席に加えたあげく、米国の……真っ黒な腹の底に放り込もうと言うのですから」
* * *
東京霞ヶ関。中央合同庁舎に入っている、ダンジョン庁。
そこの普段使われない小さな部屋で、赤坂部長と部下の女性が2人で向かい合っている。
片やあからさまに胡散臭い笑顔。片や絵に描いたような無表情。
当然昼ドラに出てくる様な展開も雰囲気もなく、しかし2人は本来の職務とは関係ない話を始めた。
「冴島君。君、英語は得意だったよね?」
「ええ。日常会話でしたら問題なく」
「単刀直入に言おう。来週からアメリカに行ってほしい」
赤坂部長が差し出した紙の束。その一番上には、クリップで航空券が添えられていた。
受け取った、普段ノートパソコンを抱えている女性職員。冴島武子は、眉間に小さく皺をよせる。
「お言葉ですが、私が今日本を離れるのは難しいかと」
「ダンジョン庁での仕事に関しては、かなり厳しいが何とかする。他の職員達も、事情を全て話す事はできないのに協力してくれると約束してくれた」
「そちらもありますが、『瓶コーラ』の事もです」
それは、赤坂部長と冴島。そしてもう1人の職員のみが知っている呼称。
米国に、そして日本の公安からもひた隠しにしている『クリス・マッケンジー元駐日大使』の事だった。
「そちらに関しても、問題ない。彼は再び顔と名前を変え、『ウォーカーズ』の一般職員として住み込みで働いているよ」
「……大丈夫なのですか?彼らは素人な上に、多くの目で見張られています」
「だからこそだ。複数の国家が睨んでいる場所だからこそ、米国も公安も不要に手出しをできない。それに、『トゥロホース事件』で何十人もあそこに保護されたのが良い隠れ蓑になる。山下代表が彼らの今後の生活まで面倒見ると、大々的に宣言してくれたおかげだ」
とんでもない厄ネタをお上から押し付けられ、某猫耳の青年の胃壁がまた削れたが問題ない。後日赤坂部長お勧めの胃薬とエナドリが届く予定である。
覚醒者の身体は頑丈だ。普通の人間なら倒れる状況でも、死んだ魚の様な目で動き続けられる。
「君には、私の娘の引率としてアメリカに行ってほしいんだ」
「……娘さんが大切ではないのですか?」
「大切だとも。だからこそ、君に同行を頼んでいる」
「私が同行するという事は、そういう事だと理解していますが」
冴島の瞳に、尊敬する上司に対して初めて敵意が浮かぶ。
それにむしろ安堵したかの様に、赤坂は肩をすくめた。
「軽蔑してくれて構わない。私は愛妻家であり親バカと自負しているが、それでもなお国を選ぶと決めている。何より、あの子の方から斜め上の『成果』と『志願』の意思を私に見せてきた。ならば……使わせてもらう」
彼の言葉に、数秒の沈黙が狭い室内に流れた。
「……わかりました。私も、恐らく同じ判断をします」
「ああ。どうか娘を頼むよ。あの子の能力は……こういった場所でこそ、輝くだろうから。上手く使ってやってくれ」
冴島は資料をめくり、赤坂部長の娘。『赤坂勇音』のステータスを確認する。
『赤坂勇音』
LV:22 種族:人間・覚醒者
筋力:41
耐久:40
敏捷:42
魔力:41
スキル
『念話・読心』
『念話・誘導』
『動物変化』
「これは……!」
『覚醒の日』以降、様々な手段で集められた覚醒者のステータスが日本には保管されている。
だが、その膨大な数ゆえに一部の頭角を現した冒険者のデータしか、一般職員は把握できていない。
初めて見た赤坂勇音のステータスに、冴島は瞠目する。
もしもこの場に、どこぞの残念美人な女子大生がいたらこう言ったに違いない。
『シティシナリオでこそ輝く、輝きすぎるジョーカー』だと。
赤坂勇音の冒険者としてのランクは『D』。レベルと本人の素養を考えれば、『C』の下位にいてもおかしくはないというのに。
それは偏に、彼女のスキルが冒険者という職業に向いていないからだった。
対モンスター、対覚醒者との戦闘で、直接的な効果を発揮するのは『動物変化』のみ。その力も、まともに戦闘向きのスキルを持つ覚醒者の方が強いだろう。2種の『ある方向性に特化した念話』は、同格以上の覚醒者や、人間とは別の思考と意思を持つモンスターにほとんど効果をもたない。
だが、『非覚醒者』を相手にした場合の凶悪さは別だ。
赤坂勇音が、政府すら手を出すのに躊躇う『トゥロホース』の悪事を全て暴く事が出来たのには、理由がある。
現代社会を形作る者の大半は非覚醒者。それは、覚醒者ばかりの組織だろうと簡単には変えられないし、関わる事をやめる事も出来ない。
既存の防諜手段では、彼女を止めるのは至難の業だ。
「それと。君と娘だけでは直接的な暴力が必要になった時不安だ。故に、もう1人同行者がいる」
赤坂部長がそう告げたタイミングで、ノック音が響いた。
「入ってくれ」
「失礼します」
そうして姿を現したのは、美しい女性だった。
白いスーツを見事に着こなした、泣き黒子が特徴的な美女。長い黒髪を夜会巻にし、豊かな胸元に手袋で包まれた細い指をあてて慇懃無礼に一礼する。
まるで舞台の上からやってきた様な人物の顔に、冴島は覚えがあった。
この前はその顔を仮面で隠していたが、そもそも『有力な覚醒者のデータ』は彼女も記憶している。それこそ、免許取得時の顔写真なども。
「貴女は……」
「初めまして、レディ。自己紹介の前に、これだけは聞いておきたい」
そう言って、女性は懐から紙の束を取り出した。
赤坂部長や冴島が持っているのとは違う、比較的小さな紙の束。
「カードゲームはお好きかな?」
『Bランク候補』の1人。国内でも指折りの実力を持つ冒険者。
やろうと思えば、単騎でこの建物にいる人間全てを皆殺しに出来る強者が、笑顔で目の前に立っていた。
「……いえ。特には」
それに対し、冴島は表向き冷や汗を引っ込め冷静に対応する。
こちらが断ったからと言って、この人物が暴力に訴える事はないと数々の通報から知っていた。最悪、1時間ぐらい付きまとってカードゲームの楽しさを布教してくるだけ。
「ほう。ならば後で私の持っているデッキを1つ、いいや2つお譲りしましょう。初心者にはたっっっぷりと、カードゲームの楽しさをお教えしなくては……!」
何やら興奮しだした女性に、赤坂部長が小さく咳払いをする。
「彼女は娘の友人の姉の友人らしくてね。今回、協力を打診したところ快諾してくれた」
「……それは他人と言うのでは?」
「ああ。だが、勇音ちゃん達が助けてくれた彼女は……私の親友だ。命を懸けるに値する恩がある。彼女が『トゥロホース』に囚われていた事すら掴めなかった私なりの、贖罪でもあるのだ」
冴島の手にやや強引にデッキを握らせながら、女性は真剣な瞳で告げる。
「我が魂のデッキを貴女に預けても良い。それだけの覚悟がある」
「は、はあ……」
困惑しながらも、冴島は背筋を伸ばした。
「……冴島武子です。よろしくお願いします」
「ええ。こちらこそよろしく」
デッキを握らされた方とは逆の手を差し出した冴島に、女性も手を伸ばした。
「私は桜庭桜子。どうか気軽に、『桜ちゃん』と呼んでいただきたい」
硬く握手をする2人に、赤坂部長が小さく手を叩く。
「さて」
彼の顔には、人の良さそうな笑みが浮かんでいた。
だが、冴島にはわかる。赤坂部長の目に、強い怒りの炎が揺れている。普段部下にすら本心を隠す彼が、あからさまに怒り狂っていた。
その矛先は、海の向こう。
「救出作戦の概要を、話させてもらおうか」
大人達が、動き出す。
読んでいただきありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。励みになっております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。
その頃の山下さん
「 」
幼馴染の省吾さん
「白目むいたまま動いてる……こわ」