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第百十一話 説明会は恙なく

第百十一話 説明会は恙なく





 個性的という言葉を煮詰めた様な集団が静かになった所で、赤坂部長が喋り始めた。


「皆さん。本日はお忙しいところ足を運んでいただき、ありがとうございます。ただいまより、『Bランク冒険者』の試験導入に関する説明会を開催いたします」


 彼はそう言って一礼し、ニッコリと笑みを浮かべた。


「早速ですが、本日のプログラムを簡単に説明いたします。まず一般公開される予定の『Bランクダンジョン』の概要等について説明させていただき、次にモンスターの討伐報酬やドロップ品の扱いについて。そして、実際に『Bランクダンジョン』で戦っていた自衛隊員から預かっているビデオをご覧になっていただきます」


 封筒に書いてあった通りの流れだ。机の上には、その話に関するのだろう紙の束が置かれている。


「また、事前にご連絡させていただいた通りこの場での会話をSNSや報道機関等、外部へ流す事はお控えください。強制ではありませんが、守っていただけると幸いです」


 そこまで言って、赤坂部長が小さく咳払いをした。


「ここまでの説明は、約2時間を予定しております。その後、30分の質問時間を取らせていただきますので、疑問等はその時に纏めてお願いいたします。トイレはこの部屋を出て左に。喉が渇いた場合は自販機がエレベーター前にございます。ご自由にお使いください」


 彼が手元のリモコンを操作すると、会議室の前にある壁にスクリーンが降りてきた。


 パチリと部屋の明かりも落とされ、スクリーンの白い光が室内を薄っすらと照らす。


「それでは、『Bランクダンジョンの概要』について説明をさせていただきます。お手元の資料をご確認ください」


 そうして、説明会が始まった。


 ───内容を大雑把に纏めると、以下の通りになる。



・自分達が行く『Bランクダンジョン』は、それぞれのパーティーで相性が良い物を選びダンジョン庁に申請する事で決められる。


・公開されるダンジョンは全部で30カ所。試験期間中、交通費は領収書等を各ストアに持って行けば政府がもってくれる。


・討伐報酬は一律に1体2万円。『Cランク』以下を考えると、かなり多い。危険度に合うかは別だが。ヒグマより安い。


・だがその分、ドロップ品は全てこちらの自由にして良い。これまでのランクと比べて強力な魔力を帯びた物品もあるが、売るも使うも権利は自分達側にある。


・今回の探索中は『錬金同好会』より寄付された魔道具が配られ、いざという時はそれを使う事ですぐに自衛隊へ救難要請を出す事が可能。


・この試験導入に関して、参加する冒険者に給与等は出ない。


・この説明会に呼ばれなかった者でも、候補者はダンジョン庁に推薦し許可が下りれば『Bランクダンジョン』への同行が可能。ただし、最低でも『LV:30』以上の冒険者が条件。


・『Bランクダンジョン』内部を撮影する事は許可されているが、ネットにアップするのは控えてほしいとの事。強制ではないらしい。



 だいたい、こんな所か。


 ぶっちゃけると、『Bランク冒険者』になるよりどこかの企業や国に雇われた方が純粋な金銭は儲かる。


 だが、『レベル』と『素材』という点で見れば圧倒的メリットが存在した。


 自分を始め、きっとここに来た者達は既にレベルの伸び悩みに頭を痛めているはず。強くなりたい理由はそれぞれだろうが、『Cランク冒険者』になる者は基本的にレベル上げをしたがっているはずだ。でなければ、『Dランク』に留まっている。


 素材、というかドロップ品は売るも良し。自身や仲間の強化に使うも良し。ただ金を貰うより、自由度がある。


 ついでに、自分達の場合『撮影の許可』も嬉しい。『Bランクダンジョン』の内部映像など、教授が高く買い取ってくれるだろう。


 元々乗り気だったが、説明会を受けて俄然やる気がでてきた。


 だが心配なのは、やはり『安全性』だ。冒険者になんぞなっておいて、何を今更と言われるかもしれない。


 だが、最初こそ金稼ぎがメインだったが今は『自衛能力』を第一目標として、自分はダンジョンに潜っている。


 いつ格上のモンスターや、高レベル覚醒者の悪漢に襲われるかもわからない世の中だ。レベル上げを疎かには出来ない。


 入るダンジョンは、慎重に選ぶべきだろう。相性次第では、比較的安全に戦えるはずだ。『レイ・クエレブレ』や『ミノタウロス』の時みたいな死闘は、二度としたくない。


 説明会は、特にこれと言った問題もなく行われた。


 集められた彼ら彼女らにも、最低限の良識があった……だけ、ではない。


 一番後ろの席に座った、例の3人組。彼女らの存在に、皆が圧倒されていたのだ。


 事前に見たPVで。そして、直接相対して感じたプレッシャーで。


 彼女達はこの中でも頭1つ抜けた実力者である。そんな彼女らが、無言でお行儀よく赤坂部長の話を聞いているのだ。いくら奇人変人ばかりの候補者達とて、自然と背筋が伸びる。


 かく言う自分も背筋ピーンだ。僕の本能が告げている。


『あいつら、一度火が付いたら何をしでかすかわからんぞ』と。


 彼女らから、敵意はないのに魔力のうねりを感じる。威嚇、なのだろうか。この場で、いいやこの街で何かしでかした瞬間、何らかの報復が行われる。


 ここは、あの子達の縄張りなのだ。そんな『理性的な猛獣』とも言える彼女らを手なずけているのは、


「では、質問時間に移らせていただきます。疑問に感じた事がございましたら、何でもお聞きください」


 ダンジョン庁。赤坂部長に他ならない。


 やはりというか。自衛隊以外にも強い覚醒者を政府は確保済みらしい。


 だが、参加者達も委縮しっぱなしではない様だ。次々と手が上がり、質問が出されていく。


 重箱の隅をつつく様なものから、盲点だったと驚く様なものまで。


 そもそもの話、自分以外の『Cランク冒険者』は変わり者ばかりだ。彼女らの魔力に気圧されたとしても、それ以上に対抗意識を燃やすか、我関せずと受け流せる。


 良くも悪くも、『我が道を行く』な者ばかり。この程度で立ち止まる奴らなら、合同庁舎にあんな格好で来はしない。



 ……いや立ち止まれよ。そして鏡を見ろ。親御さんきっと泣いているぞ。



 左に座るエリナさんとは反対側。自分の右隣に座っている人とか、やたら全身にベルトを巻いた黒いロングコートだし。


 今7月だぞ、というツッコミはしないが、偶に『くっ、我が魔眼がうずく』とか呻かないでほしい。一瞬スキルの暴走かと思ったが、魔力の流れからして普通の眼球だ。紛らわしい。


 信じられるだろうか。隣の彼程度なら、この中だとまだ常識の範囲内に見えるのだと。


 何はともあれ。こうして説明会は無事に終了した。


 まだ質問をし足りないのか、赤坂部長のもとへ行く者。


 和解が成立したのか、肩を組んで歩いていくアフロとリーゼントとモヒカン。


 上下逆転し、四つん這いになって鼻息を荒げながら進む猫耳男装執事と、その背に跨った目隠しとボールギャグと手錠を装備した金髪縦ロールお嬢様。


 やけにピッチリとした衣装を身に纏った、恋人つなぎで手を握る男の娘コンビ。それをストーキングする様に見守るエルフの女性。


 硬く握手を交わした後、いそいそと服を着始めた星条旗ブーメランオヤジと赤褌ジジイ。なお、彼らの服がパンツと褌から出てきた瞬間は見たくなかったが見えてしまった。目の良さが命取りな事って、あるんだ……。


 その他、ビキニアーマー姿のケツ毛が凄いオッサンとか、サンバ衣装のムキムキな女の人とか、最後まで周囲にバトルを挑んでいた迷惑カードゲーマーとか。


 色々な者(百鬼夜行)達が帰路につく。


 ……8割ぐらい職質されるんじゃねぇかな。あと髪型同盟はアフロとモヒカンが天井に擦れるのでは?


 そう思っていたら、髪型同盟は3人とも腰を折り曲げ昭和のヤンキースタイルで歩き出した。なるほど、あれなら天井で髪の毛が潰れない。


 ……まさかあいつら、ダンジョンでもあの歩き方じゃないよね?あとリーゼントの人はその姿勢になる意味なくない?


「どうしたの京ちゃん。皆が帰っちゃって寂しい?」


「それはない」


 隣で世迷言をほざく自称忍者にそう返し、鞄に今日もらった資料をしまう。


 赤坂部長の話では、何か新しく質問したい事が出来たらいつでもダンジョン庁に質問していいそうだ。帰ったら、アイラさんや教授も交えて今日の事を振り返るとしよう。


 そして変態どもの姿は記憶から消そう。特にブーメランパンツと褌とケツ毛アーマー。


「帰りましょうか……」


「そうですね……」


「えー!最後に何か遊んでいこうよー!」


「いや。帰りの新幹線とかあるでしょうに」


「待って!そこは私の転移で……!」


「貴女の転移、距離によって魔力消費変わるでしょうが。諦めなさい」


「ちぇー」


 一瞬だけ、視線を例の3人組に向ける。


 他2人は別として、ツーサイドアップの子もこちらを見ていたらしい。僅かな時間、視線がぶつかる。


 他の参加者が帰るまで、この部屋にいるつもりらしい。やはり赤坂部長とは今回の話以外でも協力関係なのだろう。


 まあ、自分には関係のない事だ。気にする必要はないと、視線を切る。


「そうだ!東京駅でお土産買おう!」


「え゛っ」


「良いですね!どういうのが良いですか、姉さん!」


『何か面白い物を頼むよ。ふっふっふ。君達のセンスを私が見定めてあげようじゃないか』


「わかったよパイセン!凄いの買って帰るから、楽しみにしていてね!絶対使ってよ!」


『待ってくれ。何だか嫌な予感がしてきたから、前言撤回してもいいかい?』


「ね、姉さん……!なんて破廉恥な……!わかりました。姉さんが望むのなら、買っていきます!」


『ミーア。何を買おうとしているのか教えてくれ。サプライズとか良いから。頼むから君を止める機会を私にくれ』


 あの人工迷宮とでも言うべき、魔の領域でショッピングに興じるのか……。マジかぁ。


『おい京ちゃん君!ぼうっとしていないで2人を止めてくれ!ツッコミは君の役目だろう!?』


 はたして、僕は生きて帰る事ができるのだろうか……!


『でぇい聞こえていないのか!このコミュ障童貞!年齢=彼女いない歴更新中!オッパイ中毒者!脳みそ下半身!』


「ハゲかつらと鼻眼鏡買って帰るので、覚悟してくださいね」


『おかしいな……明らかにいらないお土産なのに、他2人のせいで安牌に思えてならん』


「身から出た錆です。諦めてください」


『こ、こんなはずではぁ……!ち、ちくしょぉおおおおおお!!』


 アイラさんへのお土産を購入する2人を見て、どうやら説明会の面々を見た結果悪い影響を彼女らが受けてしまった事を痛感した。


 残念女子大生……どうか、安らかに眠ってください……。あと出来れば暫く被害担当お願いします……。



*     *     *



 奇人変人が一カ所に密集した、『Bランク冒険者』の説明会。


 それが意外なほど平和に終わった日。世界では、とある大事件が発生していた。


『今こそ立ち上がれ、踏みにじられてきた民達よ!我らは今、真の平等の為に戦わねばならぬ時代にいるのだ!』


 その男の叫びは、この様に和訳されテレビに表示された。画面上部のテロップには、こう書かれている。



 ───中東にいた『覚醒者を擁する』傭兵組織が、新国家の立ち上げを宣言したのだと……。








読んでいただきありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みになっております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
ミーアさん、キャラ絵がついたりしたら イラストやグッズ等で破廉恥な目にあいそうw ご覧ください、ミーアさんの初登場から 匠(アイラさん)の手によって こんなにも(おもしれー奴に)変わりましたよw …
それをストーキングする様に見守るエルフの女性。 あれ これミーアさんじゃないですよね!!
百鬼夜行がSNSで拡散されたらパニックだからしょうがないね 変態だらけの中でまともそうな集団がいたら注目しちゃうよね
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