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第百七話 隔離

第百七話 隔離





 グリーンマンのダンジョンを探索した翌日の夜。


 夏休みが終わる目前の今、自分が何をしているかと言えば。


『うおおおお!私こそがトップだぁああ!』


『させないよパイセン!私こそがナンバーワン忍者なんだからね!』


「いや忍者関係ないだろう」


 部屋で『松尾レース』していた。平安京都を舞台に牛車を走らせ、コース上にあるアイテムやショートカットを使い、1位を目指すゲームである。


 画面がどう見ても『マリ●カート』のパクリ?ちょっと何言っているかわかんねーや。


「というか、なんで昨日あんだけゲームやったのに今日もやっているんでしょうね、僕ら」


『昨日は『松尾海戦』と『大江山大乱闘』だったじゃないか。別ゲーだからノーカンだよノーカン』


「だいぶ無理がある……」


 昨日は大変だった。晩御飯に招かれたわけだが、有栖川邸についた時間が中途半端だったので、丁度いい時間までひたすらゲームに付き合わされたのである。


 更には食後も片付けが終わった瞬間対戦させられ、危うくお泊りになりかけた。


 ……帰宅した途端、『ヘタレ』などと言って舌打ちした母さんには流石にショックだったが。優しく『泊まっていっても良いのですよ?』と言ってくれた教授を見習ってほしい。


 もしかしたら、母さんは自分がアイラさん達の誰かと交際していると勘違いしているのかもしれない。だが、残念な事にそんな事実はないのである。


 だと言うのに彼女らの家に泊まって何か間違いがあったら、どうする気なのか。自分はまだ刑務所に入りたくはない。


 これ以上僕の理性に耐久テストをしてみろ。いくらオリハルコン製とは言え壊れるぞ?


『ほら、チキンカレーとポークカレーとビーフカレーは別の食べ物と言うだろう?それと同じだと考えたまえ』


「言わねぇよ。全てカレーだよ」


『そうしてツッコミながらでもゲームに付き合ってくれる京ちゃん君が、私は大好きだZO☆』


「ちょうど良い位置にいるので牛糞投げますね」


『今最悪の振られ方したか私!?』


『うおおおお!京ちゃん!私と一緒に忍の里を作ろうね!というわけで先に行くぞ!!』


「もう1個牛糞出たので投げるわ」


『ぬあああああ!?』


 残念美女2名を華麗にダートへ送りこみ、悠々と先頭に躍り出る。決して、冗談とわかっていても『大好き』という言葉に照れて攻撃したわけではない。


 いやエリナさんの方はそもそも照れる要素ねぇわ。いつものトンチキだよ。


『おのれ京ちゃん君!この恨み晴らさずにいられるか!エリナ君、2人がかりで京ちゃん君の足を引っ張るぞ!』


「性格が悪い」


『あ、ごめんパイセン。『鬼車(きしゃ)』でたから先行くね』


『エリナくぅん!?私を置いていかないでくれエリナくぅん!』


 エリナさんの牛車が鬼の頭に変化し、他のプレイヤーの牛車を蹴散らして順位を一気に上げる。


 え?『その効果キラ●じゃね』って?すみません、外国語はちょっと苦手で。


『うおおお!京ちゃんに届け!この思い!』


「その思い殺意って言わない?」


『ちょっと次のジャンプ台で突き落とすだけだよ!殺す気はないよ!』


「その思い受け取り拒否できない?」


『着払いアタァック!』


「シンプルに迷惑!」


 エリナさんのキャラがこちらの牛車に牛糞を投げるも、防御アイテムがなかった故にジャンプ中撃墜されてしまった。


 落下してデフォルメされた安倍晴明に引き上げられた頃には、順位は真ん中ほどに。


「うっわめっちゃ抜かされた」


『ふーっはっはっは!これが忍術だよ京ちゃん!』


「いやだよそんな牛糞臭い忍術」


『おいおいおい。おいのおい。誰か忘れてはいないかね?』


「あ、そう言えばミーアさんは?」


『先輩ならお部屋で勉強中だよー』


「あの人、もう借りている家よりそっちにいる時間の方が長くない……?」


『私を忘れるなよぉぉ!泣くぞ!?』


「黙れビリ」


『パイセン!まず最下位から抜け出そうね!』


『君ら後で覚えてろよ!?絶対に格ゲーでボコるからな!?』


 この後3人で最下位争いする事になった。足の引っ張り合いって……不毛だね!


 レースを終え、小さく息を吐く。


『そう言えば京ちゃん君。もう明日から学校が再開するが、こんな所で油を売っていていいのかね?』


「どの口がほざきやがりますか」


『この愛らしくもセクシーな御口だが?』


「うっっぜ」


 イヤリング越しなんだから、その大層なお口は見えねぇよちくしょう。


『京ちゃんパイセンのお口みたいの?後で口開けて寝ている写真送るね!』


『なぜそんな写真がこの世に!?』


『ソファーで寝落ちしている時に撮った!』


「でかした。後でミーアさんに高値で売ろう」


『やーめーたーまーえーよー!』


『売るのは無理だよ?先輩私と一緒にバズーカみたいなカメラで撮影していたから』


『えっ』


「お、おう」


 僕にはもう、ミーアさんがわからないよ……。


 あの人を数少ない常識人枠にいれたい反面、アレな部分から目を逸らすのも限界が近い。間違いなくアイラさんの妹である。


 もしや有栖川一族でまともなのは、教授とエリックさんだけなのでは……?


『おっほん!話を戻すが、どうなのだね。学校の準備は』


「まあ、おかげ様で宿題は全部終わっていますし、支度も出来ていますけど……」


『夏休み明け……皆が次々と知らない宿題を提出し始める朝……』


「やめて!?」


 下手な怪談より余程恐い話を不意打ちでしないでほしい。想像しただけで泣きそうなんだが。


 不安になり、鞄の中身をチェックしようとゲーム機を置く。忘れ物とか、やってない宿題とかないよね……?


『ほえ?同じクラスの友達と宿題やっていたら、そういう事起きなくない?』


「どうしてそんな事言うの……?」


『やめてくれエリナ君。その術は私に効く』


『う、うん?ごめんね?』


 我ながら、かなり深いため息がでる。


「まあ、夏休み明けで1番不安なのは教室の事なんですけどね……」


『ちゃんと直ってると思うよ?少なくとも、突然崩れるとかはないと思うな』


「いや建物の事ではなく」


 デーモンのせいでボロボロになった校舎だが、1カ月でどうにか授業を再開できるまでになったのは正直驚いた。


 まだ生徒の立ち入りが禁止されている教室もあるそうだが、普通に使う分には問題ないとの事である。この前、母さんが保護者説明会でその様に聞いたと教えてくれた。


「なんというか、その……」


『夏休み前に京ちゃん君が僕TUEEE!したのを引かれていないか、という事だね?』


「言い方に棘を感じますが、だいたい合ってます。折れろ」


『どこを!?』


 鞄の中身をチェックし終え、しっかりチャックをしめる。


『えー?でも京ちゃん沢山の人を助けたじゃん。ヒーローだよ?むしろ感謝されると思うけど』


「世の中、そんな都合よくいくもんかなぁ……」


 むしろ、危険物として扱われる気しかしない。


 素手で鉄筋コンクリートの壁を砕ける存在が教室にいたら、普通は全力で関わらない様にするものだ。


 少なくとも、自分なら距離を取って絶対に目を合わせない様にする。万が一目をつけられたら、死ぬかもしれないという恐怖から。


『ふむ。まあ『トゥロホース事件』もあったからな。非覚醒者と覚醒者の間にある溝が深まったのは、間違いない』


「ですよねー」


 本当に、あの集団も厄介な事をしてくれたものだ。


 山下さん達のおかげで致命傷こそ避けられたものの、やはりお互い『非覚醒者のくせに』『覚醒者は野蛮』って考えが頭の片隅に植え付けられてしまったと思う。


 覚醒者は非覚醒者を見下し、非覚醒者は覚醒者を恐れ……その恐怖が敵意に変わろうとしていた。


 第二、第三の『トゥロホース』が出てきてもおかしくない。何なら、自分が知らないだけでもう現れている可能性もある。


 行政や『ウォーカーズ』には、今後も頑張ってほしいものだ。


 閑話休題。今は社会の事より、教室の事である。


『考えすぎじゃないかなぁ。案外、皆受け入れてくれるんじゃない?』


「そうかなぁ」


『だってさ、人の感情だっていつかガス欠するよね?ずっと燃料が供給されていないと、1つの事を思い続けるなんて無理だよ』


 まあ、確かに人は慣れる生き物であり、忘れる生き物でもあるが……。


『だから、京ちゃんの事を恐いって思っていた人も、夏休みの間にもう忘れているんじゃないかな?』


「そうだと良いけど……」


『まあ!恐れがなくなったら今度は迫害に走りそうだがね!』


「この残念女子大生、人を不安にさせるのがそんなに楽しいか……!」


『うむ!高校生の青春を奪う。これ以上の肴はあるまい!』


 ───カシュッ。


「ちょっと待て。今それ何杯目ですか」


『君は今まで食べたパンの枚数を覚えているのかね?ちなみに今足元にある空き缶はちょうど20だ!』


「エリナさん」


『お婆ちゃま呼んでくるね!』


『MATTE!?』


 しかし、まあ。実際に学校へ行ってみなければ結果はわからない。自室でうだうだ悩んでも始まらないのは事実である。


 ……その考えで行って、嫌な思いをしたくはないが。本音を言うと、もう学校に行きたくない。冒険者一本で食っていきたい。


 だが、両親を心配させたくないし、何より世の中何が起きるかわからないのだ。高校ぐらいは出ておかないと、この先冒険者業がなくなったら未来は真っ暗である。


 クラスに友達が出来るなどと高望みはしないから、せめて静かな学校生活を送りたいものだ……。


『あ、そうそう京ちゃん!』


「はい?」


『生徒の数がだいぶ減っちゃったよね』


「まあ、うん」


 自分とエリナさんのクラスはどうにか全員生還したが、親御さんが亡くなった人もいる。


 何より、学校全体で見ればデーモンに殺された生徒も少なくない。更にはトラウマから転校と引越しをしてしまった人も多いと、母さんから聞いた。


 まあ、そもそもトラウマ以前に『Cランクダンジョン』が比較的近くにあるという段階で、この街にいたくないという人達も結構な数いるのは当たり前である。


『それでね、クラスの再編とかもあるんだって!一緒のクラスになれると良いね!』


「えー……」


『嫌そう!?』


 エリナさんの事は好きだが、一緒のクラスだと平穏で静かな学校生活と真逆の事になりそうなのだが。


 というか、この人毒島さん達以外のクラスメイトから恐がられていたはず。『人の常識が通じない虎』みたいな感じで。


 こう言うとあれだが、自分まで必要以上に恐がられてしまいそうで不安だった。



 翌日。



「今日から一緒のクラスだね!よろしく京ちゃん!」


 どうしてこうなった。


 自分含めて4人しかいない教室で、そっと顔を覆う。


 そこまで恐がる事ないじゃん……!





読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
ビーフカレー 牛糞(゜∀゜)キタコレ!!
劣等感のせいでダメ人間以外まとも付き合えない残念エルフな孫の相手としてハイスペックなダメ人間の京ちゃんは完璧すぎる。お婆ちゃんが本気でくっつけようと動くのもしょうがない。
ここで手を出してるようならもっと前に手を出してると思うんだ 時間掛けすぎるとドワーフとかサキュバス風味な子に横取りされますぞ
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