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第九十六話 自称忍者は色々ずるい

第九十六話 自称忍者は色々ずるい





「──追います!!」


「こっちは任せて!」


 意思疎通はこれで十分。『魔装』を展開し、『精霊眼』で走って行くワンボックスカーを捉えながら走り出す。


 状況はまだ良く分からないが、エリックさんが攫われたという事はわかる。


 事件は警察に任せるスタンスだが、目の前で友人の家族が連れ去られたとなれば別だ!


 人が少ないのが幸いし、歩道を全力で走ってもぶつかる心配がない。風を後ろへ放出し、加速。一息に目標の車と並ぶ。


 そのタイミングで、車が左の横道に入った。車がすれ違えるかどうかの、細い道。


 反対側の歩道まで約12メートル。片足で90度方向転換しながら、もう片方の足で地面を蹴った。


 浮き上がる身体。道路を跳び越え、爪先がアスファルトの地面につくと同時に再度駆けだす。


 見つけた。白いワンボックスカーの背中を捉え、加速して再び跳躍。車の進行方向に着地し、体をそちらに向ける。


 ……さて、どう止めたものか。


 走行中の車両の正面に立つなど初めてで、その威圧感に一瞬気押される。


 あいにく熟考している時間はない。体当たりで止めようとすれば中の人間が無事では済まない以上、『工夫』が必要だ。


 姿勢を低くしながら、衝突の瞬間に風で体を後ろに押す。出来るだけ相対速度を合わせながら、両手を車の下にさし込んだ。


 そのまま、全力で持ち上げる。


「ふん、ぬおおおおおお!?」


 おっっっ……も!?


 衝撃で後ろに追いやられながら、たたらを踏んで転倒を回避。風で上体を支え、どうにか姿勢を維持する。


 やばい。車って、こんな重いのか……!動画で力自慢の覚醒者が持ち上げているのを見た事があるが、これはきつい!


 未だ高速で回転するタイヤに、伝わってくるエンジンの振動。バンパーが多少ひしゃげたが、走行には問題ないらしい。このまま地面に下ろせば、そのままこっちに突っ込んでくる。


 そうなったら、エリックさんが危ない。


「今から横に倒す!受け身の準備を!」


 聞こえているかわからないが、車内にそう叫んでから車を横に傾けた。


 慎重に……!慎重に……!


 サイドミラーと窓ガラスが壊れるが、知った事ではない。ガラスの割れる硬質な音と、ズシリという重い音が響く。


 車が、横転する様な形で地面に横たわった。


「ふぅ……」


 どうにか、綺麗に下ろす事ができた。


 これで逃げる事はできない。そう安心して、顔を上げ様とした瞬間。



『精霊眼』が、自分に向けられた銃口を予知した。



「へ?」


 理解が、追いつかない。固有スキルの影響で加速した思考の中、あまりにも見慣れぬ物体に困惑しか浮かんでこなかった。


 顔を上げた先。そこでは、予知の通り助手席の窓から身を乗り出した男が、サブマシンガンをこちらに構えている姿があった。


 ……え、サブマシンガン?ここ、日本だぞ?


 黒光りする銃口を、ぽかんと眺めて。それでも本能的に腕で頭を庇う。


 そこまで出来たのに、足が縫い付けられた様に動かなかった。唯一露出している男の両目が血走り、強い殺意を放っている。


 あ、これ殺されるやつだ。


 理性がそう、判断した。してしまった。


 モンスター相手には幾度も死線を潜り抜けてきたのに、人間相手には、こんなにも。


 恐い。


 引き金が、絞られる。


「うっ」


 喉が震え、悲鳴が漏れ出る。だが、そんなものかき消す銃声が……!



 ───カカカカカカカカカカカカッ!



「うわあああああああぁぁぁぁ……あ?」


 しなかった。


 空気が吐き出される音。そして、軽い衝撃と共にぶつかってくる鉄球。


 籠手どころか肩の厚い布しかない部分すら貫通せず、地面に落ちていく弾丸。というか、これって。


「エアガンじゃねぇか!?」


 びびって損したわ!?


 20発ぐらい鉄球を吐き出したエアガンを構え、呆然とする黒づくめの男。そいつが、驚いた様子でこちらを見ている。


 ……いや驚きたいのはこっちなんだが?


 何はともあれ、玩具であるのなら恐くない。横倒しとなった車に飛び乗り、エアガン男の手から得物を蹴り飛ばす。


 あっさりと壊れたが、妙な感触があった。一瞬だけ断面を見たが、銃身に金属を使っているらしい。


 それと、この時期だというのにマガジンの辺りに何故かカイロがくっついていた。いや、マジでなんで?


 疑問は尽きないが、取りあえず。


「驚かせやがってこの野郎!」


「ひ、ひいいいいい!?」


 襟首を掴んで持ち上げ、そのまま少しだけ勢いをつけて下に落とす。運転席にいたもう1人を押しつぶす形となり、車両の中へ戻ったエアガン男。


「大人しくしてろ!じゃなきゃ、その……殴るぞ!」


「あ、あああ……!?」


 やけに怯えた目を向けてくる、運転手とエアガン男。あんな玩具を使うぐらいだし、きっと荒事に慣れていないのだろう。


 取りあえずこれで安心──じゃない!


 慌てて車からおり、後ろへ回り込もうとする。だが、一手遅かった。


「動くなぁ!」


 怒声が響き、バックドアから出てくる黒づくめの男。その左腕はガムテープで拘束されたエリックさんの首に回され、右手にはナイフが握られていた。


 更にその後ろからもう1人の男が現れ、こちらはスタンガンを構えている。


「くっ……!」


「動くんじゃねぇぞこの野郎!このオッサンがどうなってもいいのか!」


「むー!むー!」


「騒ぐんじゃねぇ!」


「っ……!」


 顔に近づけられた切っ先に、エリックさんが顔を青くする。


 どうする、突っ込んで制圧できるか!?ナイフが彼に致命傷を与える前に……!


 たぶん、できる。だが、実行に移す踏ん切りがつかない。


 まともに人間と戦うのなんて初めての事だ。ましてや人質付きなんて、そんな経験ない。


 男の血走った目がこちらを向く。くっ、いったいどんな要求を……!


「脱げぇ!」


「いやなんで!?」


「武器を捨てろぉ!」


「あ、そういう事か」


 びっくりした。一瞬ストリップを要求されたのかと。


 ……いや、剣もナイフも実体化させてないんだが。


「ま、待ってください。武器は持ってないです!」


「つうか全部脱げ!」


「だからなんで!?」


「全裸になって俺に詫びろぉ!」


「どっから出てきたその発想!?」


 いけない。犯人は明らかに錯乱している。


 だって隣のスタンガン男も。


「ケケケケケケッ!ケーヒッヒッヒ!レロレロレロレロ」


 なんかスタンガンのグリップ舐めてるし!


 なに!?なんなのぉ!?恐いよぉ!


 わざわざ目出し帽の口元をめくり上げて、やる事がそれなのか。いや本当になんで?


 困惑で固まる自分に、しびれをきらしたのかナイフ男がエリックさんに刃を振るった。


 ──プツン。


「むー……!」


「早く脱げぇ!さもなきゃ先に俺とこいつが全裸になるぞ!!」


「わけがわからないよ」


 自分がキレた音かと思った?残念、エリックさんの胸元のボタンが取られた音だよ。


 わかるわけないよね。僕もわからない。


 だが、刃が彼の胸元にあるのが問題だ。これ以上刺激するわけにはいかない。


「いいのかぁ。こいつの胸毛で花占いを始めてもいいんだぜぇ!?」


「レロレロレロレロレロレロ」


「そら、俺の相棒もこのおっさんの乳首でラテアートしてやるつってんぞ!」


「わ、わかった。わかりましたから、落ち着いて」


 さっぱりわからないが、わかった事にしておこう。


『魔装』を解除し、上着を脱いだ。


 まあ、自分が何をするでもなくこの犯人たちは捕らえられる。そう確信する理由が『視えた』ので、どうにか精神を落ち着かせる事ができた。


「全裸だ全裸ぁ!お手本をみせてやろうかぁ!」


「ケーヒッヒッヒ!レロレロレロレロ」


「待てよ兄弟!冷や麦はちょっと早いぜ!」


 なんなのこいつら。


 そう思いながら、こちらを不安そうに見るエリックさんと視線を合わせる。


 安心させるために、小さく頷いた瞬間。



「当て身!!」


「ほげぇ!?」



 透明化したエリナさんが、ナイフ男の脇腹に貫手を叩き込んだ。


 指先がめりこみ、肋骨の隙間から肺を刺激したらしい。出血はないが、男は一瞬で気を失った。


「……いや当て身ではないよね!?」


「レロレロレロー!?」


「それ鳴き声か何かなの!?」


「それでも当て身!」


「認めないつもりか!?」


 スタンガン男の方にも貫手が刺さり、肺に直接衝撃が加えられる。あれ、大丈夫なのかな……。


 生存が不安になるも、2人とも呼吸はしているっぽい。地面に横たわって痙攣しているけど。


 ……まあ、死んでないならいいか。


「お待たせパパ!京ちゃん!」


「いえ、ナイスタイミング」


「NTRの気配がしたわ!!」


「あ、里奈さんも来たんですね」


「だって1人にするのは心配だったし」


「確かに」


 エリナさんの言葉に頷く。あのお店のガードマンさん達、自分以上にポカンとしていたからな。ちょっとこの人を預けるのは不安である。ないと思うが、他にも誘拐犯の仲間がいないとも限らないし。


 それはそれとして、エリックさんの拘束を解いていく。


「ぷはっ!た、助かったよ京太君。エリナ。死ぬかと思った……!」


「無事で良かったわ、あなた……!」


「里奈。心配かけてすまない……」


「あなたの貞操が犯人たちに奪われるんじゃないかって……!」


「そっちぃ!?」


「ボケなきゃ会話できねぇのか!?」


「なによ!だってエリックの服が乱れているし、『全裸』とか聞こえてきたし!間違っていないでしょう!?」


「……ぐぅ!」


「ぐぅの音は出すのかね……」


 エリックさん、こっちへのツッコミは良いから。


 里奈さんの言う通り、ちょっと犯人たちの行動が予想できな過ぎて否定できない。


「ああ、ちゃんと警察には通報しておいたから安心して」


「あ、それはどうも」


 何はともあれ、これで一件落着……?


 聞こえてきた走行音に、そちらを向く。1台の車が、猛スピードでこちらに接近していた。


 まさか犯人の仲間かと思い『魔装』を展開するが、エリナさんは構えない。


 どういう事かと疑問符を浮かべていると、自分にもフロントガラスから運転手の顔が見えた。


 ……え、なんでいるの?


 自分達の目の前で急停止した車から、見知った顔が降りてくる。


「全員無事か!?」


「お、落ち着いてください姉さん!」


 駅前でわかれたはずのアイラさんと、それを宥めるミーアさんがいた。


 ……どうしてここに?


 首を捻る自分をよそに、サイレンの音が近付いてくる。


 良く分からないが、取りあえず一件落着ではあるらしい。



*     *     *



 警察がやってきて、犯人たちは無事逮捕された。


 そして当然こちらも事情聴取をされたわけだが、自分達は正直何も知らない。直接の被害者であるエリックさんと、彼の交友関係に詳しい里奈さんだけ未だお巡りさんとお話し中である。


 そんな中、アイラさん達はと言うと。


『私達は無関係だな!帰る!』


『ちょ、姉さん!?エリックさん達の無事とか、確認しなくて良いんですか!?』


『会いたくない!気になるならミーアが聞いてくれ!』


『私だって無理ですよ!待ってくださーい!』


 と、慌ただしく帰ってしまった。


「パイセン達、パパがレンタカーを出した辺りからずっと後ろを走っていたんだよね」


「え、そうだったの?」


「うん!たぶん、心配してくれていたんだと思う。最近物騒なのは本当だし」


「なるほど……」


 実際に誘拐事件が起きてしまった以上、警戒のし過ぎとは言えない。


 むしろ、自分が気を抜き過ぎていた。仮にも護衛役として同行していたのに、あっさりとエリックさんを攫われてしまって……。


 もしも犯人たちの目的が『誘拐』ではなく『殺害』だったのなら、あの段階で終わっていた。


 そう思うと、背筋がゾッとする。


「気にしないでよ京ちゃん。パパの場合が特殊なだけで、流石にこういうのが普通じゃないんだからさ!」


「そう、だけど……」


 そんな事を話していると、エリックさん達の方も一区切りついたらしい。


 彼らがこちらに歩いて来たので、背筋を伸ばす。


「やあ、待たせてすまないね」


「いえ、そんな」


「それと……申し訳ないが、これから警察でより詳しく事情を話さないといけないし、その後はすぐに会社へ向かわないといけなくなった。だから、その……」


 エリックさんが、気まずそうにエリナさんの方を見る。


「今日はもう、ここまでだ。2人は家に帰りなさい」


「ごめんね、エリナ。今日と明日は、貴女と一緒に過ごす予定だったのに……」


 ご両親の言葉に、彼女は。


「うん!事件が起きたのなら仕方ないね!でもテレビ電話とかは時間が空いたらしてね?」


 いつもの、太陽みたいな笑顔で答えた。


「勿論だ。必ず後で連絡する」


「京太君もごめんなさいね。こんな事に巻き込んで」


「いえ、そんな。エリックさん達が悪いわけではないんですし……」


「いいや。それでも『まだ』部外者である君を危険な目に合わせてしまった。本当に申し訳ない」


 そう言って頭を下げてくるエリックさん達に、こちらの方が慌ててしまう。


「き、気にしないでください!ほら、犯人が持っていたのも玩具のエアガンでしたし!」


「え?あれは改造されたガスのエアガンだったらしいんだが……」


「……?何か違うんですか?」


「いや、私も詳しくないんだが、ガスが普通のガスではないと警察の人が言っていたよ」


「え、毒ガスですか!?」


「そういうわけじゃないらしい。私もエアガンを扱った事はないからさっぱりだが、危険な物らしいよ」


「はあ……」


 そりゃあ、エアガンだって目に当たれば失明のリスクがある。人に向けて撃って良いものではない。


 だがエアガンはエアガンだ。前に自動車の窓ガラスを割ったとかのニュースは見た事があるが、その程度だろう。


 ガスが特殊なのかもしれないが、実際自分の鎧どころか纏っていた布すら貫けない威力だったし。


「まあ、ナイフは恐かったですけど……」


 なんせ、モンスターにならともかく人に凶器を向けられた事などない。


 あの時は犯人の言動が変過ぎてマヒしていたが、冷静になると結構な恐怖体験である。


「そうだね……本当にごめんよ……!」


「あ、いえ。だからエリックさんが気にする事では……」


「そうね。ここはごめんなさいより、ありがとうと言うべきだったわ!ありがとう京太君。流石エリナのボーイフレンドね!」


 バシバシと里奈さんがこちらの背中を叩いてくる。


 痛くはないが、衝撃が凄い。


「貴方がいるんだったら、エリナは大丈夫そうね。でも」


 そう区切って、彼女はエリナさんを抱きしめた。


 既に『魔装』から元の服装に戻っていたエリナさんが、目をパチクリとさせる。


「どうしたの?ママ」


「エリナ。寂しい時は、いつでも電話しなさい。友達には言いづらい悩みが出来たら、私達を頼って。それと、京太君と仲良くするのよ?お義母様……お婆様の言う事もよく聞いて、無茶はなるべくしないでね」


「最後の以外はOK!無茶云々は善処だけするね!」


「相変わらず素直ねぇ」


 カラカラと笑った後、里奈さんがエリナさんから離れる。


 そして、夫妻は改めてこちらと向き直った。


「京太君。エリナ。今日はありがとう」


「2人とも元気でね!また会える日を楽しみにしているわ!」


 そうして、エリックさん達は警察の人達と去っていった。


 ……後でエリナさんから聞いたのだが、この事件はライバル企業の差し金である可能性が高いらしい。現在の日本なら、荒事が起きても不自然ではなく隠蔽できると考えたのだろう。


 あのナイフ男とスタンガン男はああ見えて覚醒者であり、『魔装』は顔が露出するタイプだったから纏わなかっただけだそうな。もしも彼らがもう少しレベルが高かったり、強力なスキルを持っていたらもっと大事になっていた事だろう。


 何にせよ、これ以降の事は自分に介入する術はないし、する気もない。


 大きな会社だとは聞いていたが、色々と陰謀が渦巻いている様だ。


「ごめんね京ちゃん。大変だったね」


「いや。別に」


 彼らを見送った後、エリナさんがこちらを向く。


 その笑顔は、いつも通りだったけど。


「やっぱり、寂しい?」


 瞳だけは、少しだけ潤んでいた気がした。


「うん。電話とかで普通に喋れるのに、なんでかな?よくわかんないや」


「別におかしな話じゃないでしょう。直接会って話すのは、きっと特別だろうから」


 普段から家で両親に会える自分には、よくわからない事だけれど。


 エリックさん達は、昔から仕事の都合で海外を飛び回っていると聞いた。恐らく、エリナさんがまだ小さい頃も。


 なら、家族と遊園地に行ったり、映画館に行ったり。そういう思い出は、きっと貴重になるんだと思う。


 それをこんな形で邪魔されたのだ。泣きたくもなる。


 彼女だって、まだ15歳の少女なのだから。……同い年の自分が、あまり上から目線で言える事ではないけれど。


「……次は、もっと長くいられたら良いね」


「うん。今度は私の誕生日に来てくれる予定だけど、どうかなぁ」


 そう言って、エリナさんが自身の帽子に軽く触れる。


 ……誕生日と言えば。


「エリナさんって、誕生日いつだっけ?」


「10月だよ!10月の26日!」


「10月26日……わかった」


「祝ってくれるの!?」


「え、まあ……覚えてたら」


 やけに目をキラキラとさせて、エリナさんがこちらの手を握ってくる。


 ちょ、近いし掌の柔らかさと熱が……!


「絶対忘れないでね!1カ月前ぐらいからずっと耳元で言うから!」


「それは勘弁して」


「その時も一緒にパパママと遊ぼうね!」


「えー……」


「凄く嫌そう!?」


「だって大変だし……緊張するし……」


「まあまあまあ!」


「いや」


「まあまあまあまあ!」


「………」


「まあまあまあまあまあまあまあまあ!」


「……うっす」


「勝った!」


 ガッツポーズを取るエリナさん。分かったから、もう片方の手で握っているこちらの手を離してほしい。


 横転した車を見ている警察の人達が、こっちをチラチラ睨みつけているし。邪魔してすみません。


「あ、そうだ!京ちゃんの誕生日は!?」


「この場では言いたくない……!」


「えー?なんでー?」


「何でもいいから、移動しよう」


「あ、じゃあパパ達と行く予定だった場所を回ろうよ!一緒に遊び倒そう!」


「はあ!?家に帰れって言われたでしょうに。無いと思うけど、警戒して自宅に待機した方が──」


 エリナさんの提案を否定しようとしたが、言葉が途切れてしまう。


「……やっぱり、だめ?」


 帽子で表情こそ見えないが、こちらの手を握る力がいつもと比べてあまりにも弱々しい。


 ……これは、卑怯だろう。


「……ちょっとだけ、なら」


「本当!?やったー!」


 いつもの太陽みたいな笑みを浮かべて、エリナさんが走り出した。


 未だ手を繋いだままな以上、当然自分も引っ張られる。


「ちょ、まっ」


「あんまり歩道を全力疾走は駄目だから、普通ぐらいの速度でね!それで、途中タクシーに乗ろう!大丈夫、今日は私が出すから!」


「いや、そういうの良いから!それより手!手ぇ!」


「だいぶ時間をロスしちゃったから、少し急ごうね!時は金なりだよ、京ちゃん!」


「タクシー代とかは僕も出すから!いったん手を離して!」


「今日はめいっぱい楽しもーう!」


「聞けやこの自称忍者ぁ!」


 この後、マジで1日付き合わされた。家に帰ったのは日が暮れた後である。


 一応両親達にはメールしておいたが、当然有栖川教授にはエリナさん諸共『なぜあんな事があったのに外を出歩いていたのか』と叱られたし、ミーアさんにも心配された。


 ついでにアイラさんからは『やーい怒られてやんのー!』と煽られた。


 あの残念女子大生は後でゲーム内リンチをするとして、とんだとばっちりである。


 だから文句の1つも言ってやりたかったのだが……。



『今日も楽しかったね、京ちゃん!』



 別れ際に笑顔でそんな事を言われたら、浮かんでいた言葉も引っ込んでしまう。しかも、楽しかったのは事実なので否定もできないおまけつき。


 自称忍者は、色々ずるい。





読んでいただきありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。本当に励みになっておりますので、どうか今後ともよろしくお願いいたします。


京太

「あの笑顔は、ずるい……!」

誘拐犯たち

「透明化からのアンブッシュはずるい……!」

「け、ケヒッ……!」


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― 新着の感想 ―
大変な変態だ!
追いついてしまった!!! 改造したエアガン(ガスガン)は下手な実銃よりもヤバいっていうか、そもそも火薬式だって最終的には燃焼ガスで押し出すわけだからあんまり変わらんのよね。素人の玩具違法改造品程度で…
いつも楽しい物語に感謝です。 車正面から捕まえたり、亜音速の鋼鉄の弾を防いだり。京ちゃん自分が人外になってる自覚無さすぎ。 そして痛覚なかったニンジャ強すぎ。特に京ちゃん専用くノ一能力に強すぎ。
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