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2−3 異世界ゾンビは最強?最弱?






「うわぁっっ!」


 急に感じたのは浮遊感、そして抗うことのできない重力だった。


 その力に引かれ、僕の身体は地面へと落下していく。


──ドスッ


 っと足元に衝撃を感じつつも、なんとか受け身を取りながら地面に転がり衝撃を逃がす。


「……あいててててぇっ」


 地面にぶつけてしまった足と頭が少し痛むけれど、幸い関節や骨は無事なようだ。


「……って、ここは?」


 身体を起こし周囲を見渡してみると、僕がいるのは薄暗い石造りの通路の真ん中だった。


 見た感じではさほどこのダンジョンの上層と変わることはなく、真四角にくり抜かれたいかにもなダンジョン、という雰囲気の通路が前後へと伸びている。


「何も……いないのかな……」


 ぴちょんっ、ぴちょんっ、と水が垂れ落ちる音こそ聞こえるけれど、とりあえず周囲で何かが動いているような気配はない。


「下層に飛ばされる、とは言ってたけど……この転送された場所は、ひとまず安全、ってことなのか……?」


 きょろきょろと周囲を確認してみても、見える範囲で動いている存在は見当たらなかった。


 とりあえずここが安全だとなると……


「くっそーっ! 『アマゾネス』のやつらめーっ! ちょっと顔がよくて、ちょっとスタイルが良くて、ちょっと高ランク冒険者だからって……人としてやっていいことと悪いことってのがあるってもんだろうさっ!!」


 ふつふつと『アマゾネス』の元パーティーメンバーたちへの怒りがこみ上げてくる。


 一見性格良さげな美少女にも見えた僕っ娘クリーシュラ。


 ガサツだけどごく稀にいいところもある気がしていたアマンダ。


 無口だけどたまーに人に気を使ってくれるところもあると思ってたサフィナ。


 その時の気分さえ良ければ僕に優しくしてくれることもあったダリア。


 そんなちょっとだけの良いところすら全ては偽り──僕はまた騙されていたのだ。


 彼女たちはその取り繕った美しい仮面の下で、虎視眈々と僕のことをはめようと画策を続けていたということ。


「どうりでダンジョン探索の時に妙な視線とか感じることがあったわけだよっ。ああいうときはきっと、その辺りに僕がかかりそうなこういう罠があった……ってことだったんだろうな……」


 エルフメイドのリリーが気をつけろって言ってたのも、結局はそういうことだったってこと……でも、それを警告してくれたってことは、やっぱりリリーだけは僕の味方だった、ってことなんだろうか? 


 リリーへの好感度だけが僕の中で爆上げしていく。


 それに比べて……皇女のベルといい『アマゾネス』の彼女達といい、この世界の女ってのはどうしてこんなのばっかなんだろうか。


「……くそぉっ、あいつらっ、地上に戻ったら、絶対に復讐してやるんだからなっ!!」


 頭の中で並べた4人プラスベルにこれでもかと復讐してやるところを思い浮かべ、ちょっとだけ溜飲を下げる。


「さて、そんな仕返しをしてやるにも、どうにかしてここから出る必要があるんだよなっ。そのためには……」


 ここから動くべきなのか、動かざるべきなのか……


 ってまあ、動くしか無いんだよね。


 『アマゾネス』はもちろん、国や冒険者ギルドからだって助けが来る可能性はゼロ。

 

 この場に留まっていたって良くて餓死。悪ければその前に何かしらのモンスターに見つかって殺されてしまうことになるだろう。


 何もしないで死を待つくらいなら、僕が助かるための何かを探し続ける方がいい。


 ここはダンジョンの下層だ。


 うまいこと宝箱でも見つけられれば、すごい能力のアイテムとか見つかるかもしれない。


 そんななにかが見つかれば、低レベルの僕でもなんとか工夫して生き残れる道はあるかもしれない。


 とりあえずモンスターに見つからないことを願いつつ、この場所を探索してみるしかない。


「よし、こっちにするか……」


 幸いダンジョンの下層なんて言う割には足場もさほど悪くないので、僕は通路の一方向に向けて歩き始める。


 何が飛び出してくるのかと恐る恐る歩くのはかなり神経を使うけど、ひとまず危険なものが出てくることはなかった。


 そのまま500メートルほど警戒しながら前へと進むと、前方に丁字路のような場所が見えてくる。


 その先からは……


「何だこの音……?」


 ずりっ、ずりっ、と何かしらを引きずるような音が聞こえてくる。


 僕は壁に身体をぴったりとくっつけるようにしながら、そっと顔を出して通路の先を覗き込む。


「…………っ!?」


 そこにいたのは、緑色の身体をした人型を取る『何か』だった。


「……っはっ……はー、はーっ……なっ、なんだよ、あいつはっ!!」


 あれはヤバい。


 背筋がゾクっとするような、『アマゾネス』のやつらのような高レベル者を前にした時と同じような萎縮感を感じる。


 しかもその度合は『アマゾネス』のやつらを前にした時よりも、遥かに大きい気がする……


「もしかして、100レベル超えのアマゾネスのやつらよりも、ずっと強いやつらってことなのか……?」


 その緑色の肌色や両手を前に出し足を引きずりながら歩く姿からは、前世での”ゾンビ”って言葉が思い浮かぶ。


 だけど……その身体の方は全然ゾンビらしくない。


 その肉体は隆起した筋肉でムキムキに膨れ上がっており、よくあるゾンビ映画に出てくるような身のこなしが遅いタイプだとはとても思えなかった。

 

 何にしても、レベル1の僕じゃどうあがいたって勝てるわけがない……


「こ、ここは引き返して、逆方向を探るしかないよなっ……」

 

 しょうがないので僕は来た道を引き返すことに……


「──ってこっちからももう一匹っ!? 挟まれたっ!? ど、どうすればっ……やばっ、見つかったっ!!」


 しかも、引き返したほうにいるやつは、既に僕の方に視線をむけている。


 僕が気付いたことがきっかけになったのか、そのゾンビの身体が僕へと突っ込んでくる。


「は、はやすぎぃっ!!」


 両手を前に出した不自然な体勢のままだというのに、その迫ってくる速度は異常なものだった。


 僕は真横に必死でジャンプして、その軌道からなんとか身をそらす。


 通り過ぎたゾンビがどうなったかと後ろを振り返ると、ゾンビは既にこちらへと振り返っている。


──ドンッ


 っと音がしたかと思うと、地面の石畳が大きく割れ、その緑色の影が一瞬で姿を消す。


「くぁっ、って上からかよっっ!! くぁあっ!!」


 天井を蹴飛ばし凄まじい速度で降り落ちてくるゾンビの攻撃を、地面をごろごろと転がってかわす。


 これだけでも、レベル1の身体でよくやったって言っていいだろう。


 これまでの異世界での経験がなければそれすらもできなかったはずだ。


 だけど……


 僕にできたのはここまでだった。


「む、無理っ、もう無理だぁあっ!!」


 やつは地面へと飛び降りた直後……


──ズダンッ


 こちらにむけて地面を蹴る。


 転がったまま起き上がれない僕に、迫りくるやつの巨体を避けるすべはなかった。


「……………終わった」


──べしっ


「……短い異世界人生だったけど、せめて一思いに痛みだけはないように……」


──ばしっ


「……って? あれ? ん?」


──すぱんっ

──びしっ

──ばしっ

──ぱすっぱすっ


「………………あ、なんだ? 何の衝撃も……こない……? こんなめちゃくちゃ早い攻撃なのに? こいつ、もしかしてスピード特化型で、それだけのモンスター、ってやつなのか?」


 巨体に組み伏せられた状態で、べしばしと見えないほどの速度の平手打ちやら頭突きやらを貰っているわけだれど、その衝撃は全く僕に伝わってくることはなかった。


「な、なんだよっ……び、びびらせやがって! 図体がでかいだけの雑魚モンかよっ……もうっ、どいてよっ!」


──ドンッ


 っと緑色の身体を押し返してやると、凄まじい勢いでやつは宙を飛んでいく。


 そのまま勢いよく壁にぶつかった緑色の怪物は、地面に崩れ落ちると苦しそうに呻いている。


「って、軽っ! レベル1の僕にやられるってどんだけ防御力が弱いのさっ!? って今がチャンスだっっ!!」


 僕は壁を背負って倒れたままでいるゾンビの顔面に駆け寄り、その顔面に向けて拳を落としていく。


──ズドッ、ガッ、ガゴッ


 僕の拳が奏でたとは到底思えないような衝撃音がやつの顔からは響き、その醜悪な顔が少しずつ潰れていく。


 やがて……


 その身体はほかのモンスターが死ぬときと同じように、煙となって消えてしまった。




──エリートジェネラルゾンビを撃破しました

──経験値を得ました

──レベルはロックされているため上がりません

──レベルはロックされているため上がりません

──レベルはロックされているため上がりません


………

………


──レベルはロックされているため上がりません

──レベルはロックされているため上がりません

──ゾンビタイプモンスターの初撃破を確認しました

──【ゾンビマスター】の派生スキル取得条件1を満たしました

──《パーシャルターンアンデット》を取得しました




「エリートジェネラルゾンビって……なにそれっ、完全に名前負けしてるじゃん。こんな弱っちいのにエリートでジェネラルって、ゾンビ界ってもしかして人手不足なのっ!? 一体どうなってるんだよ……」


 思わずゾンビ界の心配をしてしまった僕だったけど、今の僕の現状を考えればそれは良いこと。


 その後、戦闘音を聞きつけたのかすぐに襲いかかってきたもう一匹のゾンビも、僕は同じように壁のシミに変えてやったのだった。






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