2−1 異世界冒険者奴隷のお仕事はS級美女パーティーへの奉仕活動
王城を追放されS級冒険者グループ『アマゾネス』をサポートする冒険者奴隷となってしまった僕。
そんな僕が今日何をしていたのかといえば、皇都アリアにあるダンジョン『天至の聖塔』の探索だ。
とは言っても、僕がしていたのは戦闘とかではなくて荷物運びやドロップアイテムの回収だけ。実際にモンスターを倒しながらダンジョン攻略に取り組んでいたのは、『アマゾネス』のチームメンバーである美女冒険者たちだ。
そして、そんな1日の仕事を終えたばかりの彼女たちの疲れを癒やすことこそが、冒険者奴隷である僕にとっての一番大切な仕事、ってことになるのかもしれない。
というわけで……
「みなさんっ、お待たせいたしましたっ! ご夕食の用意が整いましたっ!」
そんな僕の言葉を受けて、リビングルームのソファーでくつろいでいた青髪ショートカットの美少女、長身の褐色美人、ガッチリと筋肉質な身体が特徴的な美女、そして魔導師のようなローブに身を包む妖艶な美女がダイニングキッチンへとやってくる。
彼女たちこそがS級冒険者グループ『アマゾネス』のチームメンバーなわけだけど、4人は全員分の料理を準備した僕の方を一瞥することもなく、黙々と食事を食べ始める。
やがて、準備しておいた食事の全てを平らげた4人が、ようやく僕の方に向き直る。
「ふーん、今日のはなかなか美味しかったじゃん。少しは料理の腕も成長してきたみたいだねーっ。今日はご飯の準備へのお仕置きはなしで良さそうだねっ!」
「あ、ありがとうございますっ、クリーシュラ様っ!」
そう言うのは比較的小柄な青髪の美少女、職業【プリースト・マスター】を持つクリーシュラ様。
S級冒険者チーム『アマゾネス』で後衛を務める彼女は、比較的さっぱりとした味付けに野菜中心のメニューを好む。今日彼女のためだけに準備しておいた料理は、幸いなことに彼女のお眼鏡にかなったようだ。
ちなみにお眼鏡にかなわなかった場合……彼女の言った通りに様々なお仕置きをされることになってしまう。
こんな可愛らしい美少女のお仕置きなら大したことがないはずって?
そんなことはもちろんない。
その可憐な見た目に騙されてしまいたくはなるけれど、S級冒険者である彼女の本質は美少女の顔をかぶった化け物だ。
彼女が本気で僕の頭を蹴っ飛ばしたりしたら、僕の頭は破裂しながらどこかに飛んでいってしまうはずだ。
前回はそんな彼女の足裏のかるーい一撃を顔面に頂戴することになってしまったわけだけど……あっさり気絶してしまった僕はそのまま朝まで目覚めることはなかった。
「ああ、今日はあたしのもなかなかよかったぜっ! このくらいパンチの効いた味付けじゃ無いと食べたって感じがしないからねっ!」
「ありがとうございます、アマンダ様っ!」
そう言うのは長身の体躯が特徴的な褐色美女、【ソード・エキスパート】の職業を持つアマンダさんだ。
チームの前衛を務める彼女。1日の運動量が多いせいか、香辛料をふんだんに使い塩もかなり多めに効かせた味付けを好んでいる。
彼女のお仕置きは厳しい暴力的なものがほとんどなので、彼女に満足してもらうことは僕の命を守る上でとても重要なことだったりする。
「……ん。悪くない。肉が多い」
「ありがとうございます、サフィナ様っ!」
筋肉質なサフィナ様はチームのタンク役であり【シールド・スペリアー】の職業を持っている。
その筋肉を支えるためか、彼女の食事はタンパク質が中心でなければいけない。味付けにはさほどうるさくないのだけど、タンパク質の量が足りなかったりするとお仕置きが待っている。
その筋肉質な体の割に暴力的なことはしてこない彼女だけど……夜の奴隷奉仕活動を求められた時のお仕置きがひどいことになるので、下手をすると単純に暴力を振るわれるよりも厳しい結果が待っていることもある。
「……私のは、今日はイマイチね〜」
「も、申し訳ありませんでしたっ、ダリア様っ!」
【マジック・エキスパート】のダリア様は、正直なところ一番対応が難しいチームメンバーだ。
彼女はかなりの気分屋なので、今日気に入ったものが明日も気に入るとは限らない。その日の彼女の様子をこっそりと伺いながら、お出しするメニューを考えておかなければいけないということになる。
まあ、それは残り3人にしても一緒のことではある。彼女たちのその日の気分がすぐれなければ、冒険者奴隷である僕はその苛立ちの捌け口にされてしまうことになるのだから。
ともあれ、苛立てば魔法スキルをぶっ放してくるダリア様の怒りを買うわけにはいかない。
僕は彼女に向けて土下座し、額を地面に擦り付けながら謝る。
「……まあ、いいわ〜……今日は夜の奴隷活動の方で、いっぱいお仕置きするからね〜」
「は、はいっ……わかりましたっ」
お仕置きが先延ばしになったことにほっとするべきなのか、後から確実にやってくるお仕置きを恐れるべきなのか。
いずれにしろ、今日はこれからダリア様からのお仕置きを受けることが決まってしまったようだった。
テーブルを片付け皿洗いまで完璧に仕上げたあとで、そのダリア様が彼女の個室へと手招きしてくる。
もちろん冒険者奴隷たる僕は、それに逆らうことなんてできない。
「……ただいま参りますっ、ダリア様!」
「私すっごく疲れてるんだから〜……しっかり奉仕してよね〜」
「もちろんですっ!」
妖艶な美女であるダリア様の寝室に招かれる僕。
まさかそんなことを喜べない日が来るだなんて、前世の時には想像することもできなかった。
彼女の部屋の中に入りドアを閉めようとする僕の背中に、残りの3人からの声が飛んでくる。
「今日ちょっと足裏が疲れちゃってるんだー……ダリアちゃんが終わったら、僕の足洗いと、足裏マッサージにきてよねっ」
「ダリアとクリーシュラが終わったら、あたしの部屋にも来なっ! 今日は全身のマッサージをしてもらうよっ!」
「……俺は、最後でいい……奉仕活動、任せる……」
そんな3人の言葉に、僕はもちろん否と言うことなど許されてはいなかったのだ。
そんな4人への奉仕活動を済ませれば、時刻はもう深夜に近づいてきている。
つまりは、僕の暮らしている冒険者ギルドの門限がすぐそこにまで迫ってきているということ。
冒険者奴隷である僕にギルドの門限を破るなんてことが許されるわけはないので、急いで冒険者ギルドに戻る必要がある。
たとえそれにどんな理由があろうとも、門限を破ってしまった日には冒険者ギルドからの厳しい懲罰が待っているのだ。
僕は大急ぎで冒険者ギルドの建物まで駆け戻り、その中へと飛び込む。
「な、なんとか間に合ったかっ……」
なんとか門限時間を破ることなく冒険者ギルドの建物に駆け込んだ僕は、そのまま自分の部屋へと戻ってベッドへと身体を投げ出す。
「はあ……今日も、疲れたなあ……」
荷物運びとしての昼間の仕事。直接戦闘にこそ関わってはいないものの、モンスターへの警戒は怠ることはできないし、そもそもにしてダンジョン内での1日の移動量がかなり多い。
レベル1のままステータスが固定されている僕にとっては、それだけでもきつい労働。
そして、そんな僕の疲れを知ってか知らずか、絶え間なくモンスターを切り倒し続けるアマゾネスのメンバーたち。
もちろん僕は絶え間なくドロップする魔石や必要な素材を回収し続ける必要がある。腰を曲げながら地面に落ちたものを拾い続ける作業は、半日も続けているとかなりの重労働になる。
最近では少しずつそうした作業に慣れてきた感じもあるけど……
「やっぱりこの冒険者奴隷生活、きつすぎるよなー。もう一ヶ月は超えてるよね? もしかして二ヶ月いってる? いつまで続くんだろ、これ……もしかして僕って一生このまま奴隷のままなの? せめて昼だけだったらなんとかできるかもしれないけど、夜もきついからなあ……」
朝から昼にかけてダンジョンに潜っているだけでもきついってのに、それに加えて夕方から夜にかけては『アマゾネス』のメンバーへの様々な奉仕作業まで課されている。
美人冒険者グループへの奉仕作業って言葉だけを聞けば、そう聞こえが悪いもんじゃない。
だけど、ハッキリ言ってその実態は重度の肉体労働であり、何かに失敗すれば酷いお仕置きをされるっていうプレッシャーもある。
「逃げ出せるものなら逃げ出したいとは思うけどさー……」
彼女たちと1日行動を共にしていれば、夜に残っている体力なんてほとんどない。そんな状態でS級冒険者チームの目を盗んで逃げ出すなんてこと、できるわけはない。
この冒険者ギルドの宿舎にもしっかりと見張りが付いているし、夜の間にこっそりここから逃げ出すことだって難しいだろう。
ついでに僕のステータスじゃ、逃げ出すことに成功したとしてもその先で何かできることがあるわけでもない。
厳しい異世界に一人解き放たれて野垂れ死ぬくらいなら、この冒険者奴隷生活を続けていくほうがマシなのかもしれない……だけど、いつかはこんな辛い生活を終えて、普通の生活に戻れるようになりたいものだ。
「……普通に疲れるってのもそうなんだけどさ、それだけじゃないんだよな。あの人たちが変な目で見てくるから、余計に気を使う必要があるんだよね……」
ダンジョン探索中に、時折感じる『アマゾネス』のパーティーメンバーたちからの妙な視線。
冒険者ギルドに連行されたあの日にリリーに言われた言葉もあり、ダンジョン探索に行くときには彼女達のそういう微妙な視線が妙に気になってしまうもの。
そんな視線に気をつけながら彼女たちの後を追っているわけだけど、そういう視線に気をつけていた日に限って、イライラしたような彼女たちから厳しいお仕置きが待っていたりする。
彼女たちが何かしらを狙っているのは間違いないと思うし、それはきっと僕にとって何かしら良くないことなんだろう。
「……とは言っても、今の僕にできることなんてないからね。考えすぎてもしょうがないし、はあ……寝よ寝よ……」
明日に備えて少しだけでも体力を回復しておくため、僕は硬いベッドの上で目を瞑る。
疲れ果てていた僕の意識は、一瞬で闇へと落ちていくのだった。