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4−9 ゾンビマスターは異世界勇者と出会う





 僕の目の前にいたのは艷やかな黒髪を腰まで伸ばすクール系の美少女、ぴっちりしたこっちの世界の戦闘服に身を包んでいるけれど、その胸元だけははちきれそうにぱつぱつと膨れ上がっている。


 つまりは──


「ま、愛奈っ……なんで君がっ、こんなところにっっ!? ……っっくぅっ!」


 ぶんっと凄まじい速度で振るわれた光の剣を、僕は転がって避ける。いくら彼女が勇者であるからって、僕とはだいぶステータス差があるはずだから受けても大丈夫なはず。


 だけど、あの光の剣は受けるとやばいってことを、第六感みたいなものでびんびんと感じてもいる。


「って、僕だよ愛奈っ、わかるでしょっ!? っくぅっ、あぶなっ、くぁっ!」


 話しかけてみても、愛奈から返ってくるのは鋭い剣線ばかり。


 あの愛らしい大きな目には彼女の高潔な意志が感じられず、何も考えていないようですらある。


 僕はステータスでぶっちぎって愛奈の後ろに周り、その柔らかな身体をぎゅっと抱きしめる。


「愛奈っ、止まって、僕だよっっ、幼馴染のっ、秋人だよっ!!」

「……ぐっ、ぐぁぁぁぁっっっ!!!」


 何かを我慢するように頭を押さえた愛奈が、叫び声を上げながら暴れ回り白く眩い光を放つ。


「うわぁぁぁぁっ!!」


 愛奈からほとばしった光が、不思議なエネルギーで僕を吹き飛ばす。


 勢いで壁まで吹き飛ばされた僕は、半分壁にめりこんでしまう。


「つっ、いててっ……」


 大したダメージを喰らったわけじゃないけれど、この白い光は僕、というかたぶん腐族にとりわけ効果があるもののようだ。


 こんなスキルを使われてしまうんじゃ、愛奈を抑え続けることは難しい。


「ふふふっ、あなたを抑えることを意識して召喚した勇者でしたが、まさか知り合いでしたかっ! これも勇者の天運っ! あなたが彼女を攻撃できないというのであれば、より都合が良いですねっ。マナッ! そのままやってしまいなさいっ!」

「はい」


 愛奈が機械的な声でだけど、ベルティアナにだけは返答する。


 愛奈は命じられるままに僕への攻撃を再開する。


 何かが可笑しい……愛奈であるならば、一目で僕のことを理解してくれるはず……


 そんな愛奈が僕を認識できない理由……


「……愛奈。その指輪……ベルティアナ、お前っ、まさかっ!!!」

「そうです。あなたの時に使った指輪の力程度では、召喚失敗であったときに確実に葬ることができませんからね。彼女は召喚直後に、少し心が素直になっていただける特級魔道具をつけておいたのです。これでしたら間違いは起こりようがありませんから……」

「それでかっ……やっぱりクソだなっ、ベルティアナっ!!」


 よく言えば手段を選ばない有能、悪く言えばただのクソ野郎。


 やはりこの世界で最後に僕の前に立ちはだかるのは、彼女ってことなんだろう。


 だったら、どうすればいい? ……愛奈を攻撃するわけにはいかない。


 ルーナたちに拘束を手伝ってもらうのもいいかもしれないけど、あの光の剣はやばい。


 高ステータスのルーナですら、あの剣は受けるべきじゃないってのがわかる。


 いくら愛奈のためとはいえ、ルーナやマリーたちを危険な目にあわせるわけにはいかない。


「ふふ、真のミディラヌ様の勇者であるマナの光のスキル……素晴らしいですね。その光の剣で、『穢れもの』たちを消滅させるのです」


 一人で楽しそうに語っているベルティアナはむかつくけれど、僕は愛奈の相手をすることに集中しなければいけない。


「どうすればいいんだ……《パーシャルターンアンデッド》! ……だめか」


 愛奈の足に向けてスキルを放ってみるけれど、それはあっさりと無効化されてしまったようだ。


 愛奈ってチート主人公系キャラっぽいところがあるし、きっとスキル無効化とかなんともチートなスキルでも持ってるんだろう。


 なんてことを考えていると……


「くっ、その光の斬撃っ、飛ぶのかよっ、くぁっ……」


 彼女が振るう剣から光の斬撃が飛んでくる。


 いかにもな主人公の技、さすがは天に愛されて生まれてきた女としかいいようがない。


 とはいえ、そんな凄まじい速度の斬撃だけど、今の僕のステータスならかわすだけなら問題がない。


 飛び続ける彼女の斬撃をかわしながら、打開策を必死で考えていく。


「くそ、他に何ができるんだ、僕は? サモンゾンビで、ゾンビを……召喚する?」


 いや、愛奈を傷つけるわけにはいかないんだ。それに、愛奈のスキルはどうみてもゾンビ系にはばりばり効きそうなスキル。


 マリーたち幹部ではなくとも、仲間のゾンビたちに危険を冒させたくはない。


 それは却下だ。


「くぅっ、結局僕って、ステータスが高いだけで、他には得にできることがないんだよなっ」


 僕はゾンビ相手ならどこまでもチートだけど、それ以外にはステータスが高いってだけ。


「待てよ……」


 ステータス……か。


 ん……何かを思い出しそうな……


「……そうだ。限界に近づいてる……だっけ……」


 どこかの森の中で出会った不思議な少女が言っていた言葉。


 その言葉に導かれるように僕の左手の薬指にはまっている指輪を見る。


 それは僕のレベルを1に制限し、そしてステータスを制限しているもの。


 それが今は──


「あれ……これ、ひび割れてる……? もしかして……」


 僕はその指輪を右手の指先で掴むと、そこにぐっと力を入れていく。


 少しずつ指輪から溢れ出てくる光。


 その光が目も眩むほどに光り輝いた瞬間。


──パリィィィィィィンッ


 指輪は崩壊すると、まるで砂のように地へと流れ落ちていく。


「これ、は……」


──……

──……

──蓄積された経験値によるレベルアップを行います

──レベルが上がりました

──レベルが上がりました

──レベルが上がりました

──レベルが上がりました

──レベルが上がりました


……


──レベルが上がりました

──レベルが上がりました

──……


 頭の中に流れ続けるレベルアップの音声は止まることがない。


 それもそうだろう……僕の中にはあのファルメントドラゴンキングを倒した経験値を筆頭に、凄まじい総量の経験値が溜め込まれているのだから。


 そして、まだまだレベルは上がり続けるみたいだけど……もしかしたら、これ以上レベルを上げる必要はないのかもしれない。


「これが、ステータスの暴力ってやつなんだろうなあ……」


 目の前に飛んできた愛奈の白い光の斬撃──僕はそれにもはや脅威を感じていなかった。


 手のひらを前に出すと、その斬撃を掴み取り握りつぶす。


 そのまま僕は愛奈へと駆け寄り、彼女の身体を優しく抱き止める。


「愛奈っ、今そのいまいましい指輪を、処理してあげるからねっ……」


 僕は彼女の手を取ると、彼女の指にはまった指輪を掴んで力を入れていく。


 もしかしたら破壊不能属性でもついた呪いの指輪なのかもしれないけど、そんなのは今の僕のステータスを前にすれば関係のないことだった。


「ふんっっっ!!」


 指輪がぶちっと壊れた瞬間──愛奈の身体から力が抜け、その瞳に彼女の意志が戻ってくる。


「ぁっ、あっ、あっ、秋人くんっ、秋人くん秋人くん秋人くん秋人くん秋人くん秋人くん秋人くん秋人くん秋人くんっっっ!! ぁあっ、ぁあああっ、ぁぁぁぁぁぁあああああああっっっっっ!!!!!」


 僕の名前を連呼した後で、ぎゅっと僕を抱きしめて泣きながら咆哮をあげる愛奈。


「うん、愛奈。大丈夫だよ。もう大丈夫なんだ……」


 そんな愛奈を、僕は優しく抱きしめ続けたのだった。





 泣き叫んだ後で気絶してしまった愛奈を僕はルーナに預け、ベルティアナへと向き直る。


「ひっ、ひぃっ……ミディラヌ様っ、お救いくださいっっ」


 ベルティアナがそんな声をあげた駆け出した瞬間だった──ぐらっと崩れ落ちたミディラヌ教の巨大な女神像が崩れ落ちる。


 そのまま、まるで狙ったかの様にベルティアナの真上に落ちてくる巨大な女神像。


 戦う力を持たないベルティアナがあんなのをくらったら……


 天井を見上げ腰を抜かしたベルの目が大きく見開かれる。


「ぃ、ぃやぁぁぁあっっ!!!!!!」


 ベルティアナの叫び声が響き渡ったその直後──


──どごぉぉぉんんっ


 落下した女神像が轟音を立てながらバラバラに崩れ落ちる。


 ベルティアナはその真下でぺっちゃんこに潰された──


「な、なんで……」


 はずだった……僕が彼女の上に覆いかぶさって守っていなければだけど。


「なんで、だろうね……そのままでもいいと頭では思ってたんだけど、身体が動いてた……理由はわからないや」


 本当に理由はわからない。彼女には迷惑しかかけられてないし、あのまま死んでも別にいいと思っていた。


 だけど、自分でも理解できない理由で……身体が勝手に動いてしまっていた。


「そう、ですか……あ、ありがとう、ござい、ます?」

「なんで疑問系なのさ……ま、もっとも、君にとっては死んだ方が楽な世界が残ってるんだから、君の神様とやらは本当にベルティアナのことを救おうと思って女神像を落とそうとしたのかもしれないけどね……」


 彼女がゾンビ化するにしろしないにしろ、この先にこの人族領に待っているのはゾンビで溢れる世界だ。


 彼女がその中で暮らすことを選択するにせよ、魔族や他の種族の元に降ることを選ぶにしろ、決して楽な生活が待っていることはないだろう。


「はい……」


 虚な瞳でただ応えを返してきたベルティアナ。


 彼女の瞳には、もはや僕と争うだけの意志の力は残されてはいなかったのだ。






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