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1−2 異世界生活の始まりは戦闘訓練にエルフメイドとの甘い一時を添えて




 異世界で目覚めてから2週間が過ぎた。


 何の準備もなく始まったこの異世界生活なわけだけど、そのスタートはとても順調といえるものだった。


 慣れない異世界での生活にもっと苦労するかと思ってたんだけど、大切なゲストとして扱われていることもあって不自由らしい不自由はしていない。


 熱くも寒くもない気候はちょうど良い感じだし、地球と同じく1日が24時間で、太陽……というか恒星は一つだ。奇しくも28日ほどを1月として、1年12ヶ月制がしかれており、僕が召喚されたこの国──アリシュテルト神聖皇国には、程よい四季まであるそうだ。


 科学レベルは地球のそれには全く及ばないけれど、その分魔法文化が発達している。トイレなんかも魔法洗浄式の清潔なものだし、僕が住む皇城のそこかしこにも魔法を利用した便利装置が設置されている。


 一番心配だった食事もしっかり香辛料と調味料が使われている十分に美味しいものだった。元の世界の高級料理とまでは言わないけれど、僕が常食にしていたチェーン店やコンビニ弁当のレベルには十分に達していると言えた。


 それでいて異世界らしさってのも忘れてはいない。


 窓から外を眺めれば、天を突くような高い塔が聳え立っているのが見える。先っぽを視認することができないその高さからは前世の『バベルの塔』って言葉が思い起こされるけど、あれは『天至の聖塔』っていうれっきとした難関ダンジョンなんだそうな。【職業】や《スキル》を得た暁には、僕もあそこに挑戦することになるのだろう。


 異世界って場所は、どうにも僕の心をくすぐってくれる不思議に満ち溢れているようだった。






 目覚めた当初はめちゃくちゃ重くて心配だった身体の方だけど、起きてから3日も過ぎたあとには完全に以前の世界と同じ感覚に戻った。


 いや、同じ感覚で普通に動けるってだけで、全く同じってわけではない。


 その違いに馴染むためにこうして訓練を受けているわけだけど……


「──チェストォォォッッッッ!!!」


 身体の奥底に響くような声を上げ、目の前のに立つ大柄な騎士が大剣を振り下ろしてくる。


 2週間前の僕だったらそれに対処することなんてできなかっただろう。もしかしたら腰を抜かしてそのままちびっていたかもしれない。


 でも、今の僕なら……


──キィンッ


 さっと頭上に掲げた剣でそれをたやすく受け止めることができる。


 その衝撃は、とてもあの大柄な騎士の大きな剣での攻撃を受け止めたとは思えないほどに軽いもの。


「はぁっっっ!!!」


 僕は気合を入れながら受け止めた大剣をぐっと押し返す。


「ふぬぅぅっっ!!」


 ちょっと押しただだけだというのに、目の前の男は簡単に吹き飛ばされ、ずざぁっっと地面を滑っていく。


 僕は滑って体勢を崩しかけている彼の方向に向けて、地面を軽く蹴る。


 軽く蹴っただけだというのに、僕の身体は一瞬で彼の元へとたどり着く。


「ふぅぁっ!!」


 彼の上半身を袈裟斬りにすべく、僕は剣を振り下ろす。


 もちろん彼はその斬撃が来るのを予測していたのだろう。


──ガンッ


 彼の持ち上げた大剣と僕の剣がぶつかる重い音が響いた後、彼の持った大剣が大きく弾きあげられる。


 つまりは、チャンス。


「もらったぁっ!!」


 僕はそのまま隙だらけの男の首筋に向けて剣を振るう。


 僕の動きをなんとか目で追っている男だけど、僕が彼の首の寸前でぴたりと止めた剣に対応することまではできなかった。


「ふう……今回は、僕の勝ちだね……」

「……降参だ。ははっ、さすがはアキトだな」

「ありがとう。とは言っても、ロダンは《スキル》を使ってないわけだからね……」


 神聖皇国騎士団長のロダンは、そのレア職業【パラディン・マスター】に相応しいだけの強力な聖属性スキルを幾つも備えている。


 彼がそれを使っていたとすれば、この試合の結果は違ったものになっていたことだろう。


「そうだな。だが、俺が《スキル》を使ったとしても、後1週間もすればアキトなら対応できるようになるかもしれないぞ……そのくらい、お前のステータスは規格外のものって言っていい」

「そう、かな……?」


 ロダンはそうは言うけれど、この世界での《スキル》ってのはかなり強力なものだ。


 事故を避けるために、訓練では使われることはほとんどないくらい。


「それに……アキト、お前だってこれから【職業】と《スキル》を得ることになるわけだしなっ」

「はは、それはそうだね。良い【職業】と《スキル》が得られるといいんだけどねー」

「勇者様が授かる【職業】に《スキル》ってのは、いかなる場合でも強力なものっていうぜ。俺らのような一般人が【職業】・《スキル》を授かるときのような当たり外れはねーっていうし……アキトが心配する必要はねーだろうよっ。むしろバケモンになっちまうことを心配したほうがいいぞっ……」


 ロダンはカカカっと楽しそうに笑う。


「はは、流石に化け物にはならないだろうけど……うん、僕も心配ってよりは期待してるかな。それじゃあ、今日の訓練は終わりでいい?」

「もちろんっ、俺もクタクタだしなっ……と言いたいところだが、アリーシュのやつは文句がありそーだなっ……」

「はいっ、アキト殿っ……ぜひ私にも稽古をつけてくださいっ! お願いしますっ!」


 ぐっと身を乗り出してくるのは、神聖皇国騎士団に所属する女騎士だ。


 最初の数日は僕の剣の振り方なんかを指導してくれていた彼女だけど、今ではこうして僕との訓練を求めてしょっちゅうすり寄ってくる。


 せっかくのめちゃくちゃ美人で格好いい女騎士だって言うのに、彼女は訓練バカなところがあるのだ。


 さっきまで一人で素振りを続けていたせいか、彼女からは健康な年頃の女性らしい甘酸っぱい汗の香りが漂ってくる。


 思わず変なところの血流が良くなってしまいそうになるのを堪え、僕は彼女の提案に応える。


「もちろんだよ、アリーシュ。君との訓練は僕にとってもすごく勉強になるからね」

「ありがたいお言葉です。では、参りますっ!」


 そう言うと彼女は剣を構える。


「ああ、来いっ」


 美人女騎士である彼女と剣を交える時間は素直に楽しいもの。


 僕はアリーシュの体力が尽きるまで、彼女との訓練を続けていくのだった。




 ♢   ♢   ♢




「ありがとうございました、アキト殿っ」


 汗だくの身体で頭を下げるアリーシュにひらひらと手を振り、僕は訓練所から自分にあてがわれた部屋へと戻る。


「おかえりなさいませ、アキト様」

「ああ、今帰ったよ、リリー」


 部屋で僕を待っていたのは、さらさらロングのグリーンブロンドヘアをなびかせる美女メイド。


 ささっと近づいてきた彼女は、汗に濡れる僕の運動服を脱がせてくれる。


 そのまま僕の全身を甲斐甲斐しく濡れタオルで拭ってくれる美女メイド。


 リリーが僕の清拭(せいしき)を済ませると、僕は彼女にまっすぐに向き直り問いかける。


「……アリーシュとの戦闘訓練で後で気持ちが昂っちゃってるんだけど……いいかな?」

「……はい。かしこまりました」


 もちろん僕の専属メイドたる彼女に否やはない。


 彼女はほとんど奴隷契約に近い形で雇われているメイドなので、僕の言うことには何でも従う必要がある。


 僕はリリーと二人寝室へと向かったのだった。




 ♢   ♢   ♢




 1時間後。


「ねえ、リリーも《スキル》って持ってるの?」


 何事もなかったかのように淡々と食事の準備を続けているリリーに、僕は質問する。


「はい、もちろん持っておりますが……」

「なんのスキルか聞いてもいい?」


 それはこのエルフ族のとんでもない美少女が、なんでまたこの奴隷に近い条件のメイドなんてやっているのか、っていう単純な疑問からの質問だった。


「……私の固有スキルは《メタルカース》というものでございます」

「金属の、呪い? 金属をだめにするってこと? 僕の持ってる剣とかもだめになっちゃうってこと?」

「はい。その通りです。常時発動方のパッシブスキルなわけですが、どうかご安心くださいませ。一番私の身体のコアに近いところにある金属から劣化させるスキルですので、その部分に耐性の高い特殊金属を装着し、周囲の他の金属には影響がでないようにしております」


 薄っすらと顔を紅く染めてそんなことを言う。


 コアに近い部分って……ああ、もしかしたら彼女の恥ずかしい部分に近い場所、ってことなのか。


「……その特殊金属ってのは高いの?」

「……はい、とても。それも一つの原因で、《メタルカース》はいわゆる《外れスキル》とされております。金属を駄目にしてしまう特性上レベル上げもしにくく、他のスキルを授かることもなかなかできませんので」

「なるほどねえ……使いみちは無い感じなのかな?」

「そうですね。廃材処理などに使えないこともないスキルなのですが。そこまで珍しいタイプのスキルでもございませんので……ですが、こうして対処法がわかっているだけまだ良いのです。《禁忌スキル》のように迫害を受けてしまう、というわけではございませんから……」


 つまりは彼女はその特殊金属の代金を賄うために、給料条件が良い身体を張ったメイドの仕事をしているってことなのかな。


「ふーん……大変なんだねー……」


 だからといって僕が彼女を利用できる役得を使わないってわけではないけれど、勇者となった後も僕のこの待遇が続くようであれば《外れスキル》に苦しむ彼女を僕専属にしてあげてもいいかもしれない。


 彼女の容姿にも献身性にも、それだけの価値があると思うから。


 僕はそんなことを考えながら、リリーが配膳してくれた食事に手をつけていくのだった。







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