3−12 ゾンビの中ボス・ワイバーン
ゾンビの溢れる世界ってのは、生で見るとこういう感じになるのか……というのがララ村に踏み込んでの、割と素直な感想だった。
ロロ村のほうは村の外壁でゾンビをシャットアウトすることに成功していたので、普段と違っているのは外のゾンビを入れないように村の外門を締め切っている……ということだけだった。
普段だって町の外にはモンスターとかがいるわけだし、門を開けっぱなしにしているわけではない。
だから、そこまで村の中での生活自体には変化はなかったはずなのだ。
「でも、ここはもう完全にゾンビタウンになっちゃってるね……」
ゔぁーゔぁー言いながら、腕をあげて歩いているゾンビたち。
特に目的もなさそうにうろついている彼らだけど、生きている生物──つまりは僕を見つけるとすぐにじりじりと迫ってくる。
低レベルのヒューマンゾンビだから、ちょっと小走りになるだけで逃げ切ることができるし、なんなら捕まえて遠くにぶん投げてやればしばらく戻ってくることもない。
「でもさ、もし僕がゾンビ相手に無敵だってことを知らない状態だったら、かなり怖い光景だったろうね……」
動きが遅いとはいえゾンビの数は大量。
しかも生きた人を見ればじりじりと距離を詰めてくるし、近づけば近づくほどその動きは早くなる。
もし、絶対にゾンビに攻撃をくらってはいけない、なんて状態で追いかけられているとしたら……そのプレッシャーは凄まじいものだったと思う。
たとえその場で殺されることはなかったとしても、感染してしまえば後でゾンビになってしまうわけだし……感染性のゾンビって、改めて考えてみるとかなり厄介な敵なんだよね。
「ま、でもそんな『もしも』は存在しないわけで……そーいっ!」
ひょいひょいと気軽にゾンビをぶん投げながら、僕はマリーの背中を追いかけていく。
村の中は通り沿いにゾンビが徘徊していたり、たまに家からゾンビが急に飛び出してきたりもする。
ゾンビものの映画が好きだった僕としては、不謹慎ながらもちょっとドキドキとしてしまうような光景だった。
村の中を進むにつれてそんなゾンビの姿は少しずつ少なくなっていき、やがて教会らしい尖塔が見えてくる。
「ゔぁー……」
「オーケー、もうすぐワイバーンゾンビがいるところなのね……言われてみれば普通のゾンビがほとんどいなくなってきたね……」
もしかしたらワイバーンゾンビには縄張りみたいなものでもあるのだろうか?
教会の尖塔が近づくに連れ、普通のヒューマンタイプのゾンビを見かける頻度がどんどんと下がっていく。
しつこく追いかけてきていた何匹かの村人ゾンビも、僕を追いかけるのを諦めて村の中心部へと引き返したようだ。
それ自体は都合がいいわけなんだけど、教会周りにいるワイバーンゾンビがよっぽど強いってことなのかもしれない。
ま、ゾンビである以上は、ワイバーンゾンビの強さが僕の問題になることはないわけだけどね。
「……いた。あれか」
教会の屋根の上にとまっている、羽の生えたでかい蜥蜴のような生物。ファルメントドラゴンキング戦で見たワイバーンをちょっと崩したような形をしている──間違いなくあいつこそがワイバーンゾンビってことなのだろう。
「……《ゾンビステータスアナリシス》」
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名前:ガルド
種族:ファルメントワイバーンゾンビ(腐族)
LV:88
HP:335/335
MP:522/522
攻撃力: 150
素早さ: 583
防御力: 359
魔攻力: 325
魔防力: 126
スキル:
《ステータスアップ・ドラゴン》(封)《ファルメントウインド》《ウインドブレス》《ドラゴンクロウ》《ドラゴンスキン》(封)
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「お、おお……これは…………うん、なんとも微妙な、ステータスだな……」
僕の普通のステータスだけでも勝てそうな感じではあるけれど、空を飛ぶ相手ってのはなかなか厄介だとも思う。
空からの魔法攻撃ではめ殺しってことができるんだからね。
もしこいつがゾンビじゃなかったとしたら、かなり苦戦する感じになるだろう。
「ま、ゾンビだからダメージはくらわないわけだけど……マリー、あのワイバーンを落とすことってできる?」
「ゔぁー……」
「羽に攻撃を当てればいけるか……じゃあ、僕が囮になってる間にマリーが後ろから羽に近づいて、って感じで大丈夫かな?」
「ゔぁー……」
「うん、まあ僕が直接カウンターを当てられたらそれでもいいし、遠距離攻撃してくるようならマリーが落とすってことで」
「ゔぁーゔぁゔぁー!」
マリーはそう言うと《気配遮断》を使い存在感を消す。
視認することすら難しくなった彼女は、すっと姿を消す。
仕事の早い彼女のことだし、きっと教会の壁でも登っているんだろう。
「よーっし、ワイバーン、かかってこいっっ!!」
僕は大声を上げながら教会へと近づき、ワイバーンゾンビの注目を集める。
ぶわっと音を立てながら宙へと浮かぶワイバーンゾンビ。
様子見なのか警戒してるのかは知らないけれど、ワイバーンは宙から風魔法っぽい攻撃を放ってくる。
ズババっと僕の周りの地面が抉れていくわけだけど、相変わらず僕自身にはなんの効果もない──と思わせるわけにはいかないので。
「……ぅわぁぁっっ!!」
僕は声を上げながら吹き飛ばされた振りをして転げ回ってみる……
「……ゔぁぐぁぁっ?」
空を飛ぶワイバーンは……こっちを疑わしそうに見ている感じか。
そして、かなり警戒心が強いのか、ワイバーンは僕に近づくことなくそのまま宙からの攻撃を続けてくる。
「ゔぁぐっ! ゔぁぐぁっ! ゔぁぐっっ!」
──ドンっ、ドンっ、ドンっ
っと風の大砲が地面を打つのに合わせて、ごろんごろんと転がりもんどりうつ演技をする。
こんだけやられたふりをすればワイバーンゾンビも地面に降りてくるかな……とは思ったんだけど、やつは相当に慎重な個体のようだ。
宙から僕の方をじっくりと観察し続けているワイバーンゾンビ……だけど、それで十分だった。
──ズサっ、ズサっっ
「ゔぁぐぅぅぅぅぅっ!!!」
二本の短剣がワイバーンゾンビの羽の根本へと突き刺さり、ワイバーンゾンビがふらつきながら高度を下げてくる。
「いまだっっ! はぁぁぁぁっっっ!!!」
僕はそんなワイバーンゾンビに駆け寄る。
それを見て何かをしようと口を開いたワイバーンゾンビだったけど……もう遅いっ!
僕は勢いのままに宙へとジャンプすると、弓のようにしならせた足をワイバーンの顔へと叩き込む。
──ズパンッッ
勢いよく弾け飛ぶワイバーンゾンビの巨大な頭。
そのままワイバーンゾンビの身体は、地面へと墜落するのだった。
「やった……か……」
フラグにでもなりそうなセリフだけど、実際地面に落ちたワイバーンはぴくりとも動くことはなかった。
すでに警戒心を解いたのか、マリーは教会の屋根の上に座ったままのんびりとしている。
「それじゃ、僕は生存者を救出しにいくとしますか……カレンさんの姪っ子さんが生きているといいんだけどねえ……」
僕は教会の扉についた円形のドアノッカーを掴み……コンコンっと丁寧にノックの音を響かせたのだった。








