3−9 ゾンビを超えてララ村を目指せ
「よしっ、アキト今だっっ!! いけっっっ!!」
「はいっ!!」
囮の生きネズミを使い門の近くのゾンビがいなくなったタイミング──ガーランドさんが大声を張り上げる。
僕は教わった通りに手綱を動かし、馬車を前へと走らせる。散っていったゾンビがこちらを振り返ってくるけどもう遅い。
僕を乗せた馬車は既にララ村に向かう街道へとスタートを切っている。
ゾンビの一部は僕の乗る馬車を追いかけてきているけど、その動きは馬車よりもずっと遅い。
「アキトお兄さーんっ、気をつけるのにゃーっっ! 絶対無事で帰ってくるのにゃーっ!!」
「ああっ! ナーニャも、気をつけてねーっっ!!」
外壁の上から声をかけてくるナーニャに手を振り返し、僕はロロ村を後にしたのだった。
「ふう、たまにゾンビとかモンスターはいるけどさ、まあのどかな田舎道だよねえ……」
ガタガタと馬車を走らせながら、僕は周囲を見回す。
教わっていた通りに手綱を掴んでいるだけで、馬車はまっすぐに街道を走り続けてくれる。
馬車の操作に関して僕が教わったのは、馬車を止める合図と動かす合図だけ。ララ村との行き来だけに使われている賢い馬だから、僕が何かを指示しなくても勝手にララ村までたどり着くはず……とのことだ。
ちなみに、僕がどうして馬車で移動しているのかというと、ララ村に生き残りがいた場合にロロ村までまとめて連れて帰ってくるため。
僕の身に危険がありそうな場合は、馬車は諦めてしまっていいと言われているのだけど……ま、そんなことが起こらないのが一番だよね。
さて、村から十分に離れたわけだし……
「……マリー、いる?」
「ゔぁー」
「──うぉぁっ! マリー、こんな近くにいたのっ?」
マリーはいつのまにか荷馬車の上に腰掛けて足をぷらぷらと揺らしている。
『忠臣』って言葉の似合うマリーのことだし側にいるんだろうと思ってはいたけど、まさかこんな近くにいたとは……《気配遮断》ってスキルは思っていた以上に高性能なようだ。
「しばらく一人にさせちゃってごめんね、マリー」
「ゔぁー……ゔぁーゔぁー……」
「えっ、ずっと僕の側にいたって、それまじでっ? 村の中でもってこと?」
「ゔぁー……ゔぁ」
「あの雌猫としていたところも見ていた……って、え、ナーニャとのあのときにも、あそこにいたってことっ!?」
さすがはエリート暗殺者……と言うべきか。まさかあの狭い部屋の中に紛れ込んでいて、僕にもナーニャにも気づかれないで隠れ通していただなんて。
別にマリーが僕の本妻ってわけでもないんだけど……なんだか若干浮気場面を発見されたかのような、後ろめたい気分になってしまう。
っていうかむしろ本妻感があるのはルーナの方か。彼女のことも気楽に呼び出してあげたいところではあるんだけど、万が一のことを考えると最強ゾンビであるルーナの召喚は最後の切り札として取っておきたいってのが本音だ。
「ゔぁーゔぁー……」
「わ、わかったよ。僕だってマリーとはしたいし、落ち着けるところがあったらね、さすがにちょっと馬車の上じゃあれだからさ……ほら、それよりこっちに降りておいでよ。隣に座ろ」
自分も僕とイチャイチャしたいとか可愛いことを言ってくるマリーだったけど、さすがに馬車での移動中にそんなことをしているわけにもいかない。
そのかわりってわけじゃないけど、隣におりてきたマリーのひんやりとした手と手のひらを合わせ、恋人繋ぎでぎゅっと彼女の手のひらを握る。
「ララ村までは馬車で2時間くらいで到着するってことだったけど、それまでの間よろしくね……」
「ゔぁー……ゔぁっ、ゔぁっ」
こてっと首を僕の肩に寄りかからせる美少女ゾンビを横に、僕たちはのんびりと馬車旅を続けていくのだった。








