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3−5 ゾンビ世界を猫に聞く




「にゃー、お兄さんのおかげでほんと助かったのにゃぁ……うちはナーニャ・キャティーにゃ。見ての通り猫人族で、行商を生業にしているのにゃ」


 ガタガタと街道を走る馬車の上、ニコニコと語りかけてくるのは先ほど助けた美少女……猫獣人のナーニャだ。


「うん、君が無事でよかったよ。僕はアキト・ヒラヤマ。何をしているかっていうと、うーん……冒険者、なのかな……一応?」

「なんじゃそりゃにゃ。まあいいのにゃ。お兄さんが何をしてる人だって、私の命の恩人であることには変わりないのにゃ」


 ぴこぴこと猫耳を動かしながら、ナーニャがそんなことを言ってくる。


「そう……それでなんだってナーニャはゾンビなんかに襲われてたの?」

「んにゃ……お兄さんも知っての通り、10日前くらいから世界では大量のゾンビが生まれているのにゃ」

「へえ、そうだったんだねっ! ……僕って昨日まで長いことダンジョンに潜ってたからさ、そのあたりのことってよく知らないんだよ」

「にゃのかっ!? それにゃら、お兄さんには最初から説明していくのにゃ……」


 ナーニャは何かを思い出すように宙を見つめた後で、10日前から起こり始めたということを語り始める。


「……うちがゾンビを初めて見たのは、11日前に行商で訪れていたミーレルの街だったにゃ」


 ミーレル……って確か神聖皇国第二の都市の名前だったよね。


 かなり発展した都市だったはずだけど、そんな場所でもゾンビが出たってことか。


「うちは宿でのんびりしてたんにゃけど……夕暮れに外が騒がしいことに気づいたのにゃ。それで、外を覗いてみたら……街の中にゾンビがいっぱいいたのにゃ。最初は通りの一般人とかが襲われて倒されちゃってたのにゃけど、ゾンビたちは少しずつ冒険者とか領兵とかに倒されていったのにゃ……」

「へえ……じゃあゾンビはそんなに強くなかったんだ?」

「んにゃー、ほとんどのゾンビは弱かったみたいにゃ。だけど、ゾンビの中には強いやつもいたし、《スキル》のようなものを使うやつらだっていたのにゃ……だから、街にも結構な被害が出たのにゃ。ゾンビが湧き出してきたのは墓地のあたりだったから、死んだ人間が呪われてゾンビになってしまったんじゃないか、って言われてるにゃ。実際最近亡くなったばかりのS級冒険者のゾンビが確認されているし、生前ほどじゃないにしてもめちゃくちゃ強かったって話だにゃ」


 なるほど。ゾンビの素体になった人間の技能次第で、ゾンビの強さが変わるってことか。


 言われてみればマリーもアサシンゾンビになった今ほどではないにしても、最初からだいぶ強かったもんね。


 僕が相手だったからなんの効果もなかっただけで……彼女を一般の街に解き放ったりしたら、かなりの被害が出ていたことだろう。


「それは大変だったんだろうね……それで、そのS級のゾンビは倒せたの?」

「んにゃ……S級冒険者ゾンビは暴れるだけ暴れてから街から去っていったらしいにゃ……消息はつかめてないから賞金首ゾンビになってるらしいにゃ」

「へえ……ただむやみに人を襲うだけじゃないんだ……?」


 ゾンビにも何かしらの意志はあるってことなのかな……? 


 それともそのS級冒険者ゾンビだけが特別な存在だったのか……

 

「にゃ……それで、一番大変だったのは、そのゾンビが感染するってことなのにゃ……噛まれたりひっかかれたりすると、その人もゾンビになってしまうことがあるのにゃ。避難した街の人たちの中からゾンビが現れて、そこからまたゾンビになっちゃう人が出てきたのにゃ。うちがミーレルの街を出る時にはある程度落ち着いていたのにゃけど……とても恐ろしいことだにゃ」


 ゾンビの攻撃を完全無効化できる僕には関係のない話だけど、普通の人には死活問題だよね。


 死ななくても攻撃を軽くくらっただけでゾンビになってしまうんだから。


 前世でもそういう感じのゾンビ感染大爆発的な小説って流行ってたよね……


「それは、そうだろうね……でも、なんでそんな危険な状況でナーニャは行商を続けてるの? 街中のゾンビは駆逐されて、ミーレルの街は安全になったんでしょ?」

「にゃー、ミーレルにいさえすればしばらくは安全だった、ってのは確かにゃ。だけど、この騒動は商売人としてのチャンスでもあったのにゃ。すぐにミーレルから食料品なんかが品薄になる可能性が高かったのにゃ……」


 なるほど。それはそうか。大都市にはある程度災害用の備蓄はあるものだろうけど、それも少しずつ品薄になっていくことは間違いない。どの程度でこの事態が収まるか次第ではあるだろうけれど、ナーニャのこれを商機と捉える考え方ははそう悪いものには思えなかった。


「ロロ村の方はゾンビが少ないって情報があってこっちを目指してたのにゃけど……でも、護衛に雇ってた冒険者たちが、どこかでゾンビ因子を貰っちゃってたみたいで、さっき襲われる直前にゾンビになってしまったのにゃ」

「ああ……さっきのゾンビたちって、元々護衛の冒険者だったんだ?」


 つまり、ゾンビに噛まれたからって必ずしもすぐにゾンビになるわけじゃないってことか。そうするとゾンビを世界から完全に駆逐するのって、かなり困難なことなのかもしれないな。


「にゃぁ、突然あいつらがゾンビに変貌して……怖かったにゃぁ……」


 ぷるぷると猫耳と身体を震わせる猫耳美少女。


 なんだかとても可哀想な感じなので、僕はぽんぽんと彼女の頭をなでてあげる。


「ふ、ふにゃぁっ……」


 そのままワシャワシャと彼女の頭を撫でていると、コテンと身体を僕にあずけてくるナーニャ。


 身体の起伏は薄めだけど、彼女の身体はふにゃっと柔らかくて気持ちいい。


 ほんとに猫みたいな身体をしている。


「ふにゃ、にゃにゃぁっ……にゃぁっ……」


 彼女は特に抵抗することなく撫でられているので……実はずっと狙っていた彼女の猫耳に手をつけてみる。


 そのまま猫耳を手のひらで撫で回すと、ふかふかの柔らかい毛並みがめちゃくちゃ気持ちいい。


 しゅるっ、ふにっ、しゅるっ、と猫耳を撫でていると、猫耳娘の身体がくるくると小さく丸まっていく。


「にゃ、にゃうぅんっ、にゃぅぅぅっ、にゃぁあっ……はっっ!? って、お兄さん、にゃっ、にゃにをしてるのにゃぁっっ!!」

「にゃにって……なんかナーニャが落ち込んでるみたいだから、慰めてあげようかと思って……」

「な、慰めるって、猫人族の耳は、そういうのにゃにゃいのにゃっっ! 敏感にゃのにゃっ! ……で、でも、お兄さんににゃらっ、ちょっとくらいにゃら……」


 なんだか最後にぼそぼそ言ってたのは聞こえなかったけど、どうやら彼女の猫耳は普通の猫の猫耳とは違う器官ってことのようだ。


「そう、それはごめんね。ちょっと僕ってこの世界の常識に疎いところがあってさ……」

「い、いいのにゃ……お兄さんは命を助けてくれた恩があるのにゃし……でも、そういうのは、こんなお外じゃなくて、お部屋で二人だけの時にするのにゃ……」

 

 顔を真赤にしてそんなことを言ってくる猫耳娘がかなり可愛い件。


 うーん……なんとかして彼女と別れる前に一度ご対戦を願いたいところだ。

 

 そんな邪なことを考えていた僕の前……


「にゃっ! ロロ村が見えてきたにゃっ……」


 ナーニャが前方を指差す。


 そこには確かに村のようなものがあって、それ自体は良かったんだけど……


「おー、ほんとだ……ってあれ? ゾンビ?」

「……ほんとなのにゃー……村の周りがゾンビだらけだにゃぁ……」


 僕たちが到着したロロ村の外壁は、ゾンビの群れに囲まれていたのだった。






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