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3−3 ゾンビは時には進化する




 マリーとの素敵なひと時を終えた瞬間。


──マリー・オスカーへの【腐界の王】の第1級接触が確認されました

──マリー・オスカーとの間に『腐界の絆』が結ばれました

──【腐界の王】の力によりマリー・オスカーのアップグレードが可能です

──進化先は『ヒューマンインテリジェントゾンビ』か『ヒューマンアサシンゾンビ』になります


 僕の頭の中にそんな音声が流れる。


「……お、例の機械音声が何か言ってるな。腐界の王に腐界の絆、ねー……そういえば、僕のステータスに【腐界の王】って称号が増えてたんだっけ。なんかすごそうな名前に聞こえるわけだけど、何かいいことあったりするのかな? ……しかしマリーの進化ねえー。インテリジェントなゾンビってことは賢くなるってことかな……?」


──肯定します。ヒューマン種であった際と同様の知的行動が可能になります


「へえへえ……って返事くれるんだ、この脳内音声。じゃあ、アサシンゾンビは?」


──ヒューマン種であった際の特殊技能が使用可能になります


「なるほどねー。ちなみに進化しなかった場合はどうなるの?」


──フレッシュゾンビの形態をしばらくの間は保ち、規定時間の経過後にファルメントゾンビへと移行します。進化はいつでも可能ですし、ファルメントゾンビからのスケルトン化など別系統の進化ルートも存在しています。


「なるほど、ファルメント、って腐るってことね……それはなしだな。せっかくのこんな美少女ゾンビを腐らせてスケルトンにしちゃうなんてもったいなさすぎる。うーん、どうしよっかな、この世界で過ごすのに話相手が欲しいところではあるんだけど……」

「ゔぁー……」


 僕は目の前で天上を見つめつづけているマリーに視線を落とす。


「んー……やっぱり今は話し相手よりも、僕の身の安全を保つ方が優先だよな。彼女の生きていた時のスキルが使えるってかなりすごそうだし……じゃあアサシンゾンビに進化させてくれる?」


──『ヒューマンアサシンゾンビ』が選択されました。

──マリー・オスカーのアップグレードを実行します

──アップグレードには5時間が必要です


 アップグレードがはじまったのか、それまで「ゔぁーゔぁー」言っていたマリーが急に静かになる。


 僕はぴくりとも動かないマリーの身体を抱えたまま、そのまま静かな夜を過ごしたのだった。




 ♢   ♢   ♢




 翌日。


 僕は村を目指して空き家を出る。


 一人……ではなく、マリーと共にだ。


「いい天気だねー」

「ゔぁー」

「こんな天気だと、こう身体の芯から力が出てくるよねっ、マリーも調子いい?」

「ゔぁーゔぁー」

「そう。マリーはゾンビでアサシンなのに太陽の光が好きなんだねー」

「ゔぁーっ!」

「はは、ごめんごめん、冗談だよ。マリーが本当に好きなのは……薄暗い室内でするアレの方だもんねっ」

「…………ゔぁー」


 ……そんな可愛そうな人を見るような目で見ないで欲しい。


 決してひとりで寂しかったところにマリーっていう連れができて嬉しいから独り言を続けている……ってわけではないのだ。


 『腐界の絆』っていうものの影響なのか、彼女が進化したことによる影響なのか……「ゔぁーゔぁー」って言ってるだけの彼女の言いたいことが、なんとなくわかるようになったのだ。


 しかも知能がさほど高いって感じではないけれど、アップグレード前とは違ってマリーは普通に意思疎通できるくらいの知能がある感じ。


「あ、あれは雑魚モンだね、マリー、頼むよ……」


 ついでにってわけではないけど……彼女は結構、いやかなり強い。


 僕の横を歩いていた彼女が軽やかにステップを踏み、森の木の上へと駆け上がる。


 そのままマリーは枝から枝へと飛び移り、モンスターの上方まで宙を駆け抜けると、モンスターの上から短剣を投げつける。


 《短剣投擲》《暗殺》のスキル効果の乗ったその短剣は、あっさりとモンスターの首裏を貫く。


 声をたてることなく崩れ落ちる狼型のモンスター。


──ブラッドウルフを撃破しました

──経験値を得ました


 路の反対側の木の枝に見事に着地を決めたマリーが、しゅるっと木を降り、たたたっと僕のもとへと走り寄ってくる。


「やっぱりすごいね、マリーの《暗殺》は……」


 敵の弱点を看破し確殺率を大幅に上昇させるスキルは、1対1戦闘におけるチートスキルと言っていい。そのスキルが自分に向けられることを想像すると、ぞっとしてしまうくらいだ。


 もっともそんなマリーは僕に褒めてほしそうに僕の周りをうろちょろしてしまうような、ヤバ可愛い存在なわけだけど。


「ゔぁーゔぁー……」

「うんうん、見直したっていうかさ……普通にマリーはすごいと思うよっ!」


 マリーの柔らかな黒髪をなでなでしてあげると、マリーが嬉しそうに身体を震わせる。


「ゔぁー!」


 見た目が可愛いゾンビなだけではなく、心強い護衛でもあるマリー。


 正直彼女はかなりラッキーな拾い物だった。


「これからもよろしく頼むね、マリー」

「ゔぁっ」


 そんな感じでマリーと心の距離を縮めながら歩く道中は、ほのぼのと平和なものだったのだけど──


「みゃーーーーーっっ、やめるのにゃぁっ、誰か助けるのにゃぁぁぁぁっ!!!」


 そんな平和な時間は長くは続かなかったのだ。






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